家を売却するなら納得のいく価格で、できるだけ早く売りたいと思うのが当然です。一方で、家の売却は一生に何度もあるようなことではないため、何から手をつければいいのか不安を感じる人も多いのではないでしょうか。
そのような不安を解消し、売却を成功に導くためには、家の売却についての基本的な知識をつけて臨むことが重要です。この記事では、売却の基本的な流れから、家を高く売るための具体的な戦略、必要な費用や税金まで、徹底的に解説していきます。
自宅売却の方法と流れとは?自宅を早く・高く売る方法と売れないときの対処法

記事の目次
なぜ家を売却するのか?
家を売却する理由は人それぞれですが、主な動機としては以下のものが挙げられます。
住み替え
家族構成やライフスタイルの変化に伴い、住み替えを検討する人は少なくありません。
例えば、結婚、出産、子どもの独立、親との同居などで、「部屋数が必要になった」、または「広い家が不要になった」というケースや、転勤・転職などによって引っ越さなければならないケースなどがあります。
現状に合う最適な家へ移り住むために、今住んでいる家を売却する場合は、住んでいる家の売却を新居の購入と同時進行で進めることが多く、売却と購入のタイミングが重要になります。
住み替えとは?売り先行・買い先行の流れやメリット・デメリット、住み替えの注意点を解説

相続
親や親族から家を相続したものの、自分は住まないという場合、相続後の管理の手間や維持費、固定資産税などの負担を避けたいなどの目的で、売却するというケースもあります。
相続人が複数いる場合には、遺産分割協議で売却について合意形成が必要です。
家の相続や遺産分割の手続きの流れや期限、注意点や家を放置するリスクについて解説

離婚
離婚に際し、財産分与のために家を売却し、売却益を分け合うケースもあります。このケースの売却は、住宅ローンの残債があるか、名義人は誰か、売却のタイミングはどうするかなど、確認しなければならないことが多く、感情的な問題も絡むため、早めの準備と冷静な話し合いが肝心です。
離婚時に家を売却する際の住宅ローン、共有名義、連帯債務などケース別に解説!

資産整理
不要な資産を整理するために、家を売却する人もいます。老後資金の確保、ほかの投資への資金転換など、目的はさまざまですが、不動産の維持コストや固定資産税が負担になっているような場合は、早めの売却が合理的です。

家を売却する流れ
家の売却は、一般的に以下の流れで進行します。
1.売却の目的と希望条件を整理
なぜ売却するのか、いつまでに売却したいのかなど、目的や希望条件を整理しましょう。同時に、不動産売却に関する情報収集も行っていきます。
2.査定依頼と不動産会社選び
複数の会社に査定を依頼し、不動産会社を比較検討しましょう。
3.媒介契約の締結
査定額や提案内容に納得できる不動産会社と媒介契約を締結します。
4.売却活動の開始
購入希望者を探すための販売活動をスタートします。
5.内覧の実施
購入希望者が実際に家を見学する内覧に対応します。
6.購入申込と価格交渉
購入申込が入ったら、売却価格や引き渡し時期などの条件交渉を行います。
7.不動産売買契約の締結
条件が合意できたら、売主と買主の間で不動産売買契約を締結します。
8.決済と引き渡し
残代金の受領と同時に、買主へ家の鍵や書類などを引き渡します。
9.確定申告
家の売却で利益が出た場合、翌年に確定申告を行い、譲渡所得税を納める必要があります。
全体の流れを把握した上で、着実に各ステップを進めていきましょう。
家を売る方法
家を売却する方法は、主に仲介、買取、個人売買と3つの種類があります。この記事では主に仲介のケースを紹介していきますが、ここでは、仲介、買取、個人売買それぞれの特徴を見ていきましょう。

仲介:不動産会社に任せて安心
仲介とは、不動産会社が売主と買主の間に入り、売買契約の成立をサポートする売却方法です。不動産会社は物件を査定し、販売活動、内覧対応、契約書の作成、引き渡しまで、家の売却の一連のプロセスを代行してくれます 。
仲介のメリットは、不動産会社が持つネットワークや販売ノウハウを活用できるため、幅広く購入希望者にアプローチでき、市場価格ないしはそれ以上の高値で購入してくれる人を見つけやすくなるという点です。また、売却活動のほとんどを不動産会社に任せられるため、売主の手間が少なく済むというのも魅力です。専門知識を持つ不動産会社が、売主と買主の間に入るため、契約内容の不備やトラブルのリスクも低減することができます 。
一方で、仲介のデメリットは不動産会社に成功報酬として仲介手数料を支払う必要があるという点です。また、次に紹介する買取に比べると、購入希望者を見つけるプロセスが必要になるため、ある程度、売却には期間が必要になります。
仲介のメリット
- 市場価格で売れる可能性が高い
- プロのサポートで売却活動を進められる
- 売主の手間が少ない
仲介のデメリット
- 仲介手数料がかかる
- 買取よりも売却に時間がかかる
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買取:早く現金化したいなら
買取とは、不動産会社が直接売主から家を買い取る方法です。
買取のメリットは購入希望者を探す期間が不要になり、現金化が早いという点です。また、買主が不動産会社ということで、内覧対応なども不要で、仲介手数料もかかりません。
さらに、通常、個人間の売買では、引き渡し後に物件の不具合が見つかった場合に売主が責任を負う「契約不適合責任」がありますが、買取の場合は免除する契約条件になることが一般的です。
しかし、買取の場合は仲介のケースよりも、売却価格が低くなる傾向があるという点には留意しておきましょう。不動産会社は買い取った物件をリフォームして再販するため、その費用や利益も見込んだ価格での買取りとなります。
買取のメリット
- 短期間で売却できる
- 仲介手数料が不要
- 内覧対応が不要
- 契約不適合責任が免除されるケースが多い
買取のデメリット
- 売却価格が市場価格より低くなる可能性が高い
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個人売買:自分で売るメリットとリスク
個人売買とは、不動産会社を介さずに売主自身が買主を見つけ、直接売買契約を行う方法です。
個人売買であれば不動産会社を介さないため、仲介手数料を支払う必要がありません。また、売主と買主が直接交渉するため、価格や条件を柔軟に設定できます。 ただし、個人売買の場合は不動産売買に関する法律などの専門知識がないと、契約不適合責任や金銭のやり取りに関するトラブルが発生しやすい点には注意が必要です。また、購入希望者探しから、物件の案内、価格交渉、契約書の作成、引き渡しまで、すべてを自分で行う必要があるため、仲介や買取よりも圧倒的に売主の負担は大きくなります。
さらに、特に注意すべきなのは、個人売買で買主が住宅ローンを利用する場合です。金融機関から融資を受ける際には重要事項説明書の交付が必要であり、この説明は宅地建物取引士(宅建士)しか行えません。そのため、ローンを組む買主の場合、完全に宅建士を介さずに取引を進めるのは現実的に困難です。結果として、現金購入者を探せない場合は、結局不動産会社などを介することになり、仲介手数料が発生するケースが多くなるというデメリットがあります。
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個人売買のメリット
- 仲介手数料が不要
- 価格や条件設定の自由度が高い
個人売買のデメリット
- 専門知識が必要
- 手間がかかる
- トラブルのリスクが高い
- 現金購入者を探せないと、宅建士を介す必要がある
家を売るベストなタイミングは?
家は売却する時期によって、価格や売却にかかる期間が変動する可能性があります。

季節:高く売れるのはいつ?
家が高く売れやすいのは、家の需要が高まるシーズンです。
一般的に、2月から3月は転勤や進学・入学のタイミングで、引越しを検討する人が増える時期になるため、新年度からの新生活をはじめるにあたり、家の需要が高まります。
また、9月頃も夏休みが明け、年末に向けて新居を探しはじめる人が増える傾向にあり、年末調整を意識して、年内に住宅ローン控除の適用を受けたいと考える人もいます。
一方で、ゴールデンウィークやお盆期間などの長期休暇中は、レジャーや旅行の予定がある人が多く、内覧希望者が減りやすくなる時期です。年末年始も不動産会社が休業に入ることが多く、売却活動が停滞しやすくなる傾向にあります。ただし、これらの傾向はあくまで一般的なものであり、物件の条件や市場の状況によっても変動すると考えておきましょう。
家の需要が高まる時期:2月から3月、9月頃
売却活動が停滞しがちな時期:ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始
築年数は関係ある?
家の築年数は、売却価格に大きな影響を与える要素の1つです。
一般的に、築年数が新しいほど高く売れやすい傾向にあり、築10年以内の物件は比較的高値が期待できます。
築10年~20年ほどの物件も、メンテナンス次第でまだまだ十分住める物件として需要がありますが、この位の築年数になると、周辺の築浅物件や新築物件との価格差を考慮した戦略が必要になります。
築20年以上の場合になると、大規模なリフォームやリノベーションを前提とした購入者が多くなります。建物については老朽化が進んでいるため、価格は下がる傾向にありますが、立地が良い場合などは十分に需要があります。インスペクションを実施して、建物の状態を明確にすると、買主の不安を軽減することにつながるでしょう。
さらに、築30年以上のものになると、建物自体の価値はほとんどなく、土地の価格での取引となるケースが多くなります。解体費用やリノベーション費用を考慮した価格設定が必要になる可能性を考えておきましょう。
築年数が古い物件ほど、リフォームや修繕の必要性、インスペクションの実施など、売却前の準備や売却戦略がより重要になります。
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家を高く売るための準備
家を売る目的や方法、タイミングなどについて解説してきましたが、ここからは家を高く売るために不可欠な、事前の準備について確認していきましょう。
必要書類の準備
売却活動を開始する前に、必要な書類をきちんと準備しておくことが、スムーズな売却につながります。
まず、不動産会社との媒介契約の段階で準備しておくといい書類としては以下が挙げられます。
- 登記済権利証または登記識別情報(家の所有権を証明する書類)
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 固定資産税納税通知書
- 間取図や、おおよその築年数、構造、土地の形状がわかる資料
など
これらの書類は媒介契約の時点で完璧にそろっている必要はありませんが、査定の精度を高め、販売活動をスムーズに開始するために、準備しておくと安心です。
次に、買主が見つかり、いよいよ売買契約を締結し、決済という段階になると、法的に必要な書類が多数あります。
- 登記済権利証または登記識別情報(家の所有権を証明する書類)
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 住民票
- 印鑑証明書
- 実印
- 固定資産税納税通知書
- 建築確認済証、検査済証(適法に建築されたことを証明する書類)
- 設計図書、修繕履歴
- 地積測量図、境界確認書(土地・一戸建ての場合)
- 管理規約、長期修繕計画書、重要事項調査報告書など(マンションの場合)
- 住宅ローン残高証明書(住宅ローンが残っている場合)
など
必要な書類がきちんとそろっていない場合、発行に時間がかかるものもあります。事前に不動産会社と連携し、準備を進めていくようにしましょう。
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リフォームや修繕の必要性と費用対効果
家を売却する準備として、リフォームや修繕を行うべきかどうか、悩む人も多いでしょう。費用をかけてリフォームしても、必ずしもその分の費用を売却価格に上乗せできるとは限りません。特に間取り変更を伴うような大規模リフォームや外壁塗装などは、費用が高額になる一方、売却価格に全額反映できるとは限りません。さらに、そのような大胆なリフォームは買主の好みに合わず、かえって売却の妨げになるリスクもあります。
リフォームや修繕を行う場合、多くの買主が受け入れやすい、シンプルで清潔感のある状態を目指すのが安心です。
例えばキッチン、浴室、トイレなどの老朽化が著しく、清潔感がなかったり、機能的に問題がある場合は、部分的な修繕や交換を検討する価値はあります。また、壁や床に目立つ汚れや傷があったり、生活に不可欠な設備が故障している場合は、内覧時の印象を大きく損なう可能性もあるので、修繕や交換などを検討してもよいでしょう。
清潔感のなさなどは、リフォームまでしなくても、ハウスクリーニングで十分なケースもあるため、不動産会社に相談し、どの程度のリフォームや修繕が売却に効果的か、アドバイスをもらうのが賢明です。
家の売却前のリフォームは不要?費用を回収できるケース・できないケース

インスペクション
インスペクション(建物状況調査)とは、建築士の資格を持つ検査員が、第三者的な立場で、建物の劣化状況や欠陥の有無などを診断する住宅診断のことです。
不動産会社は、売買の仲介を行う場合、売主と買主に対してインスペクションについての説明と、希望者に対してはあっせんをする義務がありますが、実際にインスペクションを行うかどうかの判断は、売主・買主に委ねられます。
売却前に売主がインスペクションを行うメリットとしては、買主にとって、大きな安心材料になるという点です。売主にとっても、売却前に建物の問題点を発見し、修繕しておくことで、引き渡し後に、買主から契約不適合責任を追及されるリスクを減らすことができます。
さらに、インスペクションの結果に基づいた根拠のある価格設定がしやすくなるので、無駄な値引きや過剰な修繕投資を避けることもできるでしょう。
インスペクションのメリット
- 買主にとって安心材料になる
- 契約不適合責任を追及されるリスクを軽減できる
- 根拠のある価格設定がしやすくなる
しかし、インスペクションには数万円~十数万円程度の費用がかかります。また、インスペクションの結果、家の問題点が発覚する可能性もあり、その場合は修繕費用が発生したり、売却価格に影響したりすることもあります。
インスペクションのデメリット
- 費用がかかる
- 問題点が発覚すると修繕費用などが必要になる
- 調査結果によっては売却価格に影響する
このような注意点はあるものの、インスペクションは買主の安心感を高め、トラブルを未然に防ぐために有効です。特に築年数が古い物件や、構造上の問題が懸念される物件の場合は、積極的に検討しましょう。
インスペクションとは?不動産売買で知っておきたいメリット・費用・検査内容
失敗しない不動産会社の選び方と査定のポイント
家の売却を成功させるためには、さまざまな準備に加え、信頼できる不動産会社を見つけることがとても重要です。不動産会社の選び方と、査定のポイントについても解説していきます。
一括査定サイトの活用と注意点
複数の不動産会社に査定を依頼する際に便利なのが、一括査定サイトです。
一括査定サイトで査定を依頼すると、一度の情報入力で、複数の不動産会社に査定依頼ができます。効率が良く、各社の査定額や提案内容を比較検討しやすいのが魅力です。
しかし、複数社に一括で依頼するため、査定依頼後、電話やメールなどが集中し、対応に手間がかかる可能性もあります。
一括査定サイトは不動産会社探しの最初の1歩としてとても有効なツールですが、契約を取るために、高額な査定額を提示する会社も中には存在するため、査定額だけで判断せず、担当者の質や提案内容なども総合的に判断することが大切です。
不動産一括査定サイトとは?利用のメリットやサイトの選び方を解説
査定の種類とその違い
売却前に必ず行う、家の査定ですが、不動産会社の査定には、大きく分けて「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。
机上査定とは
机上査定(簡易査定)は、物件の所在地、広さ、築年数などの情報をもとに、過去の取引事例や周辺相場データからおおよその査定額を算出する方法です。実際の物件は見ずに、データ上で査定を行うため、スピーディーに査定額を知ることができます。物件の状態や個別要因が考慮されないため、実際に売却できる価格とはギャップが生じることもありますが、大まかな相場を把握したい場合に役立ちます。
簡易査定とは?メリット・デメリットや流れ、依頼時の注意点を解説
訪問査定とは
訪問査定は、不動産会社の担当者が実際に物件を訪問し、物件の個別要因も細かく考慮して、査定額を算出する方法です。机上査定よりも、精度の高い査定額を得ることが可能です。
担当者が物件を訪問するための日程調整や立ち会いなどが必要になり、机上査定よりも時間はかかりますが、より正確な査定額を知ることができ、担当者から直接、売却戦略やアドバイスを聞くこともできます。
なお、本格的に売却を検討する場合は、机上査定だけでなく、訪問査定も依頼する必要があります。
| 机上査定 | 訪問査定 | |
|---|---|---|
| メリット |
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| デメリット |
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マンション売却査定で高く査定される10のポイント|査定の流れ、事前準備、注意点も解説
信頼できる不動産会社や担当者の見極め方
机上査定や訪問査定を通して、売却のパートナーとなる不動産会社を選ぶことになりますが、信頼できる会社を見極めるためには、「査定根拠を説明できるか」、「対応が迅速・丁寧か」、「提案内容が具体的か」、「口コミや実績が良いか」といったポイントを押さえておきましょう。
まず、査定額については、査定額が高いだけでなく、その根拠を具体的に説明してくれるかが肝心です。周辺の類似物件の取引事例や、売却する物件の強み・弱みをきちんと分析しているかなどがポイントです。さらに、質問や依頼に対するレスポンスが迅速で丁寧かなど、連絡の頻度や対応の質も重要です。
また、提案される売却戦略についても、物件の特性を踏まえ、具体的な広告活動やターゲット層なども明確に提案してくれる会社が安心です。
これらのポイントは複数の不動産会社と面談し、総合的に判断することが大事ですが、検討の際には、口コミやその会社の実績など、不動産ポータルサイトやホームページなどにある情報も参考にしてみましょう。
【自宅売却】失敗しない不動産会社選びと査定・媒介契約のポイント

査定価格と家を高く売るための売出価格の考え方
不動産会社から提示される査定価格は、あくまで目安です。家をできるだけ高く売るためには、提示された査定価格も踏まえつつ、売出価格をどのように設定するかが重要になります。
査定額は目安
不動産会社が提示する査定額は、過去の取引事例や市場の動向、物件の状態などを総合的に判断して算出された「このくらいの価格なら売れるだろう」という予想の価格です。つまり、査定額は売出価格を設定する際の基準にはなりますが、実際にその価格で売れることを保証するものではありません。
最終的な売出価格を決定する際には、売主自身の希望や売却期間、市場の状況などを考慮する必要があります。
近隣相場の調べ方
査定額に加え、売出価格を決める上で非常に重要になるのは近隣の不動産相場です。同じような条件の物件の売出価格や成約価格を調べることで、自分の家がどれくらいの価格で売れる可能性があるのかを具体的に把握することができます。
例えば、「SUUMO」などの不動産ポータルサイトで、近隣エリアの類似物件を検索すると、実際に売りに出されている物件の売出価格を知ることができます。
また、売出価格は、実際に成約した価格よりは高めの価格になっている傾向があるため、成約価格を調べたい場合は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」や国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営する「レインズマーケットインフォメーション」などで、過去の取引事例を調べることも可能です。
不動産会社も地域の市場動向や過去の取引事例の情報を持っているため、担当者に具体的な相場情報や成約事例などを聞いてみるのもよいでしょう。
不動産売却の「相場」の調べ方。インターネットで調べるときの注意点/不動産売却マニュアル#3
売出価格の決め方
売出価格は、査定額や近隣相場などに、売主の希望なども加味して決定します。販売活動をはじめてから、内覧の申し込み状況などを見て、調整することも少なくありません。
少し時間をかけても高く売りたいという場合は、売出価格を相場よりも高めに設定するケースもありますし、反対に、早く売りたいという場合は、相場に合わせた価格か、やや低めに設定すると早期売却につながりやすくなります。
成約に至るまでに、買主からの価格交渉があるのは一般的なので、売出価格はある程度の交渉の余地を残した価格設定にしておくと、最終的な成約に至りやすくなります。
売り出し価格の決め方。査定額、相場、ローン残債などのポイントを解説/不動産売却マニュアル#5
価格を少し高めに設定する戦略
時間をかけても高値で売りたい場合は、希望に合わせて、相場に少し上乗せした価格で売り出すことも可能です。もし、その価格でも購入したいという買主が現れれば、希望通りの高値で売却することができます。また、売出価格を高めに設定しておくと、買主から価格交渉があった際も、ある程度希望価格に近い価格で売却できる可能性が高くなります。
ただし、相場からかけ離れた価格設定にしてしまうと、内覧が入りにくくなるというリスクがあります。購入希望者が現れにくくなると、売却活動が長期化する恐れがあり、売れ残りの印象を持たれてしまいかねません。そのような印象がつくと、さらに売れにくくなるといった悪循環に陥ることもあるので注意しましょう。
売出価格を高く設定する場合は、売却期間の目標を決め、ある程度の値下げも覚悟しておきましょう。不動産会社とも相談し、市場の状況をよく見極めて判断するのが大切です。

家の売却ステップごとのポイント
家の売却は、媒介契約から引き渡しまで、いくつかのステップを踏んで進行します。それぞれのステップで知っておくべきポイントを見ていきましょう。
媒介契約の種類と特徴
不動産会社に売却を依頼する際には、媒介契約を締結します。媒介契約には「専属専任媒介契約」、「専任媒介契約」、「一般媒介契約」の3種類があり、それぞれ特徴が異なります。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約は1社の不動産会社に売却を依頼する契約です。ほかの不動産会社に重ねて依頼することはできません。また、売主自身で買主を見つける自己発見取引もできません。不動産会社は、契約締結後5営業日以内にレインズ(※)に登録し、1週間に1回以上、売主に対して販売状況を報告する義務があります。
専属専任媒介契約は1社に任せるため、担当者との連携が密になりやすく、不動産会社も売却に力を入れてくれる傾向があります。一方で、複数の不動産会社を比較しながら売却を進められないため、売却活動の範囲が限定される可能性もあります。
※レインズ(REINS)とは、Real Estate Information Network Systemの略称で、不動産会社が物件情報を登録し、共有するためのネットワークシステム
専任媒介契約
専任媒介契約も1社の不動産会社のみに売却を依頼する契約です。専属専任媒介契約の場合と同様に、ほかの不動産会社に重ねて依頼することはできませんが、自己発見取引は可能です。不動産会社は、契約締結後7営業日以内にレインズに登録し、2週間に1回以上、売主に対し販売状況を報告する義務があります。
専任媒介契約の場合も、複数社を比較しながら売却活動を進めることはできませんが、専属専任媒介契約と同様に、不動産会社は売却に力を入れてくれる傾向があります。また、売主自身でも買主を探せる自由度がある点もポイントです。
一般媒介契約
一般媒介契約は複数の不動産会社に同時に売却を依頼できる契約で、自己発見取引も可能です。不動産会社には、レインズへの登録義務や、売主への販売状況報告義務はありません。
複数の不動産会社が競い合うため、より広く、多くの購入希望者を見つけられる可能性はありますが、専属専任や専任媒介契約の場合ほど、各不動産会社が売却活動に力を入れない可能性があります。また、報告義務がないため、売却状況を売主自身で積極的に確認することも必要になります。

どの媒介契約を選ぶかは、売主の希望や物件の特性によって異なるため、不動産会社と話し合い、納得のいくものを選びましょう。
不動産売買の媒介契約とは?一般媒介契約と専任媒介契約、専属専任媒介契約の違いと選び方、メリットデメリットを解説
販売活動の流れと広告戦略
媒介契約締結後、不動産会社はまずレインズに物件を登録し、ほかの不動産会社も物件情報を共有できるようにします。
さらに、物件を広く周知するために、「SUUMO」などの不動産ポータルサイトや、不動産会社の自社のホームページに物件情報を掲載したり、物件周辺エリアにチラシを配布したりしていきます。
また、場合によっては、予約なしで自由に見学できるように物件を開放する「オープンハウス」をして、多くの購入希望者に物件を見てもらう機会を設けたりすることもあります。 このような広告活動を通じて、より多くの購入希望者の目に触れるように工夫をしていきますが、広告活動においては、広く周知するという視点に加え、確度の高い購入検討者に、効果的な情報を届けることが大切です。広告に掲載される情報や写真の質は内覧の申し込みや問い合わせの数を大きく左右するポイントになるため、売主は広告の内容をよく確認し、必要に応じて修正を依頼するようにしましょう。
内覧対応のコツ
購入希望者が実際に物件を見学する「内覧」は、売却成功の重要なカギを握ります。内覧時には良い印象を与えることが大事です。
まず、第一印象を良くするために不可欠なのは整理整頓と清掃です。特に水回りや玄関、窓など、汚れが目立つ場所は念入りに掃除し、生活感が強くでるようなものは片付けるようにしましょう。
また、明るく清潔な印象を与えるために、できるだけ照明は点灯し、カーテンを開けて自然光を取り入れ、換気をするというのも効果的です。
内覧時の対応は不動産会社の担当者に任せれば問題ありませんが、売主が同席する場合は、清潔感のある身なりを心がけ、質問されたことには丁寧に回答できるよう、準備しておきましょう。

価格交渉と契約締結の注意点
購入希望者から購入申込が入ると、価格や条件の交渉がはじまります。
価格交渉は専門知識と経験が必要になるため、感情的にならず、不動産会社に任せて客観的に進めてもらうのが賢明ですが、あらかじめ、この価格なら売っても良いという最低ラインを設定しておくと、交渉もスムーズです。最低ラインを下回る場合は、売却を断る勇気も時に必要です。
また、この段階では価格のほかに、引き渡し時期や契約不適合責任の範囲、残置物の扱いなども交渉の対象となります。
契約締結前には、重要事項説明書や契約書の内容を確認し、不明な点は必ず質問して、納得した上で契約に臨みましょう。
引き渡しのポイント
売買契約が締結されたら、いよいよ残代金の受領と物件の引き渡しです。買主から残代金が支払われたことを確認後、鍵や各種書類などを引き渡します。
引き渡しまでには売主は引っ越しを完了させ、電気・ガス・水道などのライフラインの解約手続きも忘れずに行いましょう。
新居探しと引っ越しのスケジュール管理
住み替えの場合、売却と同時に新居探しも進める必要があります。
特に買い替えの場合は、売却と購入のタイミングをどうするのが良いかは多くの人が頭を悩ませるポイントです。
先に家を売却し、資金を確保してから新居を探す「売り先行」は資金計画が立てやすい半面、新居が決まるまで仮住まいが必要になる可能性があります。
一方、先に新居を見つけて契約し、その後現在の家を売却する「買い先行」の場合は、仮住まいが不要になりますが、住宅ローンが二重になる期間が生じたり、売却を急がなければならなくなるリスクがあります。
どちらの方式を選ぶにしても、売却と購入、そして引っ越し全体のスケジュールを計画的に管理することが重要です。不動産会社としっかり連携を取り、無理のない計画を立てましょう。
家の買い替えタイミング。売り先行・買い先行それぞれのポイントと注意点/不動産売却マニュアル#28

家の売却にかかる費用と税金
家の売却ステップについて把握できたら、次は売却にかかるお金についても理解を進めていきましょう。
家を売却する際には、さまざまな費用や税金が発生しますが、これらを事前に把握しておくことで、手元に残る金額を把握でき、資金計画を立てやすくなります。
仲介手数料や登記費用などの諸経費
売却費用の大部分を占めるのは、不動産会社に支払う成功報酬である仲介手数料です。 仲介手数料は売買価格によって上限額が決められていて、不動産会社の多くは上限額で手数料を設定しています。例えば、400万円以上の物件の場合は「売買価格×3%+6万円+消費税」が上限額となるので、3000万円の物件を売却する場合の仲介手数料は、105万6000円となります。
不動産売却時にかかる仲介手数料とは?計算方法や上限額について解説
仲介手数料のほか、売却にかかる費用の例としては、印紙税、登記費用、引越し費用などに加え、必要に応じてハウスクリーニング・リフォーム費用、測量費用、廃棄物処分費など、さまざまなものがあります。
諸費用については事前に不動産会社に確認し、資金計画に含めておきましょう。
家の売却にかかる費用の例
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登記費用
- 引越し費用
- ハウスクリーニング・リフォーム費用
- 測量費用
- 廃棄物処分費用
など
不動産売却にかかる諸費用とは。仲介手数料、印紙税、登記費用など解説/不動産売却マニュアル#27
譲渡所得税と控除や軽減税率
家を売却して利益が出た場合、「譲渡所得」には所得税と住民税が課税されます。この所得税と住民税を総称したのが譲渡所得税です。
譲渡所得税の計算方法
まず、譲渡所得は売却価格から取得費と譲渡費用の合計を差し引いたものです。単純に家を売却して買主から得た金額ではありません。
この、売却価格から差し引く取得費とは、売却した家の購入にかかった費用(家の購入代金や購入時の仲介手数料、設備費や改良費等で、減価償却費を差し引いたもの)で、譲渡費用は、家の売却にかかった費用(売却時の仲介手数料や印紙税等)です。
また、譲渡所得については、一定の要件を満たすと特別控除が適用される場合がありますが、特別控除については後述します。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得税は譲渡所得がプラスになった場合に課税されますが、その税率は、所有期間によって異なります。所有期間が5年を超える場合(長期譲渡所得)は所得税15%、住民税5%で合計20%、所有期間が5年以下の場合(短期譲渡所得)は所得税30%+住民税9%で合計39%となります。なお、2037年までは所得税に対して、2.1%の復興特別所得税が加わります。
| 所得税 | 住民税 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 30% | 9% | 39% |
| 長期譲渡所得 | 15% | 5% | 20% |
3000万円の特別控除
前述したように、譲渡所得には特別控除の特例があり、マイホーム(居住用財産)を売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3000万円まで控除できます。この控除を適用すれば、譲渡所得が3000万円以下であれば税金がかかりません。

3000万円特別控除と住宅ローン控除。マイホーム売却の賢い選択とは?
【自宅売却の税金対策】3000万円特別控除とは?要件や必要書類を解説
マイホームを売った時の軽減税率の特例
3000万円特別控除を適用しても、まだ譲渡所得が残る場合、所有期間が10年超のマイホームであれば、譲渡所得の6000万円以下の部分について、通常の長期譲渡所得の税率(所得税15%、住民税5%)よりも低い税率(所得税10%、住民税4%)が適用される特例があり、この特例は、3000万円特別控除と併用することができます。

確定申告の流れ
家を売却して利益が出た場合、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告が必要です。譲渡所得税の特例を適用する場合も、確定申告を行うことで適用されます。
確定申告の際は、売買契約書、取得時の契約書、仲介手数料の領収書、登記費用などの領収書、住民票、源泉徴収票など、さまざまな書類が必要になるため、しっかりと準備しましょう。確定申告書を作成し、作成した確定申告書を管轄の税務署へ提出しますが、e-Taxを利用することも可能です。
税金の計算は複雑になることが多いため、不安な場合は税務署の窓口や税理士に相談するのが安心です。
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不動産売却後の確定申告の流れ。申請時期や必要書類、手続きを解説/不動産売却マニュアル#21
ケース別・家を売るときの注意点
家の売却は、それぞれの状況によって、特に注意したいポイントがあります。ここでは、よくあるケース別の注意点を見ていきましょう。
ローンが残っている家を売る場合
住宅ローンが残っている家を売却する場合、売却価格でローンを完済できるかどうかが重要なポイントになります。
売却価格がローン残債を上回る「アンダーローン」の場合は、売却益でローンを完済し、残った資金を手元に残すことができます。一方、売却価格がローン残債を下回る「オーバーローン」の場合、売却益だけではローンを完済できません。
自己資金を充当するか、住み替えローン※などを組んで差額を補う必要があります。
ローンが残っている場合は、早めに金融機関や不動産会社に相談し、具体的な資金計画を立てましょう。
※新しく購入する家のローンに、現在の家の残債をあわせて借り入れできるローン

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相続した家を売る場合
相続した家を売却するためには、被相続人(亡くなった人)から相続人へ所有権を移転する相続登記が必要になります。
また、相続した家の売却の場合、納めた相続税額の一部を、譲渡所得の計算における取得費に加算できる特例があり、この特例を適用することで、譲渡所得を減らし、税金を抑えることができます。さらに、相続した空き家を一定の要件を満たして売却した場合は譲渡所得から3000万円を控除できる特例もありますが、2027年の年末まで、かつ、相続から3年後の年末までに売るといった適用期限などの条件もあるため、対象になりそうな場合は早めに税務署や税理士に相談するのがおすすめです。
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離婚による財産分与の場合
離婚によって家を売却し、財産分与を行う場合は、まず、名義確認と住宅ローン残債の整理が重要です。
夫妻どちらか一方の単独名義であれば比較的手続き等はシンプルですが、夫妻の共有名義の場合は、さまざまなステップで双方の手続きや合意が必要になります。また、売却益で住宅ローンを完済できない場合、共有名義の場合は夫妻両方に返済義務が残ります。離婚後も共同で返済していくのか、どちらか一方が引き取るのかなど、取り決めが必要です。
アンダーローンの場合も売却益をどのように分与するかを夫妻間で合意する必要がありますが、感情的になりやすい問題のため、冷静な話し合いが必要になり、弁護士などの専門家を交えて進めるケースもあります。
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古い家の場合
古い家の売却の際は、買主が安心して住めるように、老朽化した部分や機能的に問題がある箇所のリフォームや修繕が必要となる場合がありますが、大規模なリフォームは費用対効果も考えて、慎重に検討しましょう。
また、古い家ほど、引き渡し後に雨漏りやシロアリ被害などの不具合が見つかるリスクが高くなるため、売却前にインスペクションを実施し、建物の状態を明確にすることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
認知症の親が持っている家の場合
認知症の親が所有する家の売却は、親の判断能力が低下している場合は、成年後見制度の利用を検討する必要があります。
成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が不十分な人の財産を保護するための制度で、家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人が選任されると、その成年後見人が本人に代わって売却手続きを行うことができます。
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家の売却Q&A
最後に、家の売却に関してよくある疑問について、Q&Aで見ていきましょう。

Q:売却期間はどのくらい?
A:一般的には、売却活動を開始してから引き渡しが完了するまで、3カ月~半年程度が目安とされています。
ただし、家の売却期間は、物件の種類や立地、価格設定、市場の状況など、さまざまな要因によって異なるため、1カ月以内に売れることもあれば、1年以上かかることもあります。
Q:売れない場合はどうする?
A:売れない原因に合わせて、価格や販売戦略の見直し、物件の改善などを検討する必要があります。どうしても早く売却したい場合は、不動産会社による買取も選択肢の1つです。
なお、売れない原因の1つとして、不動産会社と信頼関係をうまく築けていない場合は、別の不動産会社への変更も視野に入れたいところですが、専任媒介や専属専任媒介の場合は契約期間が終了してからとなります。一般媒介契約であれば自由に複数の会社に依頼することが可能です。
Q:不動産会社なしで売ることはできる?
A:不動産会社を介さずに個人で家を売買することは可能ですが、個人売買には多くのリスクがあります。
不動産売買に関する専門知識がないと、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。個人間では解決が難しい問題が発生するリスクを考えると、基本的には不動産会社に仲介を依頼するのが安心です。
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Q:引き渡し後に不具合が見つかった場合はどうなる?
A:原則として契約不適合責任を負うことになります。
中古物件の売買では契約不適合責任は避けられないリスクですが、売却前に適切に情報開示をして、不動産売買契約書に、契約不適合責任の期間や範囲を明記することで、トラブルのリスクを軽減できます。事前のインスペクションも有益です。
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【まとめ】 売却の知識を持って、信頼できるパートナーと売却に臨むのが成功の秘訣
家を高く・早く売却するためには、知識を持ち、戦略的に進めることが重要です。また、専門的な知識と知見を持つ、信頼できる不動産会社を見つけることも売却の成功のカギを握るポイントになります。複数の不動産会社に相談し、査定額だけでなく、担当者の対応や提案力を比較検討して売却のパートナーを見つけ、家の売却を進めていきましょう。
構成・取材・文/島田美那子


