不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

不動産買取とは?仲介との違いや業者の選び方、買取の流れやメリットデメリットを解説

不動産買取とは?仲介との違いや業者の選び方、買取の流れやメリットデメリットを解説

不動産を売却する手法には、仲介と買取の2種類が存在します。一般的によく知られるのは仲介ですが、買取は仲介と比べて早く、手間なく売却できるうえに仲介手数料も不要など、多くのメリットがあります。その一方で、買取価格は仲介で売却したときと比べて下がってしまうのが一般的です。

本記事では、不動産買取と仲介の違いやメリットデメリット、具体的な売却の流れや注意点などを解説します。

記事の目次

不動産買取とは

不動産買取は、所有者が不動産会社に直接物件を売却する方法です。不動産会社の仲介を通さないため、迅速な取引が実現します。一方で、買取価格は市場価格より低くなることが多いため「手間をかけたくない」「急いで売却したい」という方に適している売却方法といえるでしょう。

不動産会社によって、買取の対象となる物件種別やエリアなどは異なります。また、買取価格も不動産会社によるため、詳細を確認したうえで査定額を比較することが大切です。

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不動産買取には2種類ある

不動産買取には「即時買取」と「買取保証」の2種類があり、それぞれ売却の流れやメリット・デメリットが異なります。不動産買取を選択肢のひとつに加えるのであれば、双方の特徴を把握しておきましょう。

即時買取

即時買取は、不動産会社が買主となって対象の不動産をすぐさま買取する方法です。不動産会社自身が物件を買取するため、新たな買主を探すための宣伝、販売活動を展開する必要がなく、売主は迅速に土地や建物を売却できます。

即時買取であれば、1カ月以内で売却できるケースも珍しくありません。不動産会社によっては、最短3日~1週間程度で売却できる可能性もあります。そのため、即時買取は「とにかくすぐにでも不動産を売却して現金化したい」と考える方に適した手法です。

ただ、多くのケースで買取価格が市場価格より2~3割程度低くなる(※地域による)ため、注意が必要です。実際にどれくらいの価格で買取してもらえるかは、売却する不動産会社によって異なるため、複数社に査定を依頼するなど工夫しましょう。

買取保証

買取保証は、売りたい物件の買い手が見つからなかった際に、不動産会社が買い取ることを保証する仕組みです。期間を設けるケースがほとんどで、「3カ月以内に買い手が見つからなければ当社が1000万円で買取します」といった具合に契約を交わします。

定めた期間中は不動産会社が一般の買主を探してくれるため、高く売れる可能性があります。また、一般的な仲介では、いつまでたっても買主が見つからないといった事態に陥るケースがあるものの、買取保証であればそのような心配はありません。

デメリットは、現金化までに一定の時間を要することです。例えば買主を探す期間を3カ月として契約を交わした場合、買主が見つからない限り、3カ月間は待たなければなりません。そこまで売却を急いでいないものの、確実に手放したいと考える方に適した方法です。

不動産買取と仲介の違い

不動産を売却する際には、不動産会社に仲介してもらって販売活動をするのが一般的ですが、仲介と買取にはどのような違いがあるのでしょうか?

不動産買取と仲介の違いイメージ

仲介との比較

仲介による売却は市場価格で売れることに期待できるものの、不特定多数に向けて物件情報を拡散することからスタートするため、売れるまでには一定の期間がかかります。また、購入希望者が現れても、そこから双方が納得するまで金額などの売買条件を細かく調整する必要があり、交渉が決裂する可能性もゼロではありません。

売主は売れるまで内見対応をしなければならず、物件を引き渡すまでには時間だけでなく手間も要します。加えて、仲介をしてくれた不動産会社には「売却金額×3%+6万円+消費税」が上限の仲介手数料を支払う必要があります。

不動産を買い取ってくれる不動産会社は、買い取った不動産を改修したうえで再販し、利益を出すことを目的としています。このため、買取価格は相場の7〜8割程度になってしまうのが一般的ですが、買取可否の判断がスムーズで、資金調達も個人の買主と比べると圧倒的に早いという利点があります。また、仲介にはあたらないことから、仲介手数料も不要です。

買取と仲介、自分に合っているのはどっち?

買取に向いているケース 仲介に向いているケース
  • 急いで売却したい
  • 築古など条件が悪い不動産
  • 周囲に気づかれないように売りたい
  • できる限り高く売りたい
  • 時間的余裕がある
  • 築浅など魅力的な不動産

早く、手間をかけずに売却でき、不動産会社は改修を前提に買い取るという特徴から、買取に向いているのは「売却に焦っている人」や「条件の悪い不動産」です。販売活動が不要ということから「近隣の方に気づかれないように売りたい」という方も買取に向いていると考えられます。

一方、仲介に向いているのは、買取に向いているケースとは逆の人や不動産です。「時間をかけてでも高く売りたい人」や築浅、好立地など「条件が良い不動産」は、買取より高く売れる可能性が高い仲介が適しているでしょう。

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不動産買取の手続きと流れ

不動産買取の手続きは、次の6ステップで進みます。

  1. 不動産査定に必要な書類を準備する
  2. 買取サービスのある不動産会社に買取査定を依頼する
  3. 机上査定(簡易査定)で買取価格が提示される
  4. 訪問査定(詳細査定)で買取価格が提示される
  5. 買取の条件に納得したら売買契約を締結する
  6. 売買代金の決済と不動産の引き渡し

1つずつ詳しく見ていきましょう。

1.不動産の査定に必要な書類を準備する

まずは、買取査定に必要な次のような書類を準備しましょう。

書類 どんな書類? マンション 一戸建て
本人確認書類 運転免許証やマイナンバーカードなど
売買契約書・工事請負契約書 不動産を取得したときの契約書
登記事項証明書・登記簿謄本 不動産の所有者などが記載された書面
建築確認通知書 建築確認が済んでいることを証明する書面 -
測量図 土地の形状や面積が記された書面 -
建物図面・間取図 間取りや配管の位置などが記載された書面
壁芯面積がわかる書類 販売時のパンフレットやチラシなど -
ローン残高証明書など ローン残高がわかる証明書
リフォーム履歴がわかる書類 工事請負契約書など
固定資産税納税通知書 固定資産税の納税額や口座振替の日付がわかる書面
管理規約・使用細則 マンションの管理・使用などに関するルールが記載されいてる書面 -

売買契約書や登記事項書面、測量図、建物図面は、多くの場合、購入時の契約書ファイルなどにまとめて保管しているものです。見当たらなかったとしても査定ができないということはありませんので、その旨を不動産会社に伝えて判断を仰ぎましょう。ローン残高証明書は、毎年、金融機関から送付されてくる書類です。借入後、繰り上げ返済をしていなければ返済予定表でもローン残債が確認できます。

2.買取サービスのある不動産会社に買取査定を依頼する

すべての不動産会社が、買取に対応しているわけではありませんので、ホームページなどのサービス紹介をチェックしてみましょう。

査定依頼のポイントは、1社だけでなく複数社に依頼すること。買取価格は不動産会社によって異なるため、少しでも高く売却するには複数社の査定額を比較することが大切です。

3.机上査定(簡易査定)で買取価格が提示される

不動産の査定は「机上査定(簡易査定)」と「訪問査定(詳細査定)」の2種類です。机上査定(簡易査定)は、その名のとおり机上でできる簡易的な査定です。訪問査定(詳細査定)と比べると精度は落ちますが、買取価格の目安を把握したり、不動産会社の対応力を比較したりすることができます。

机上査定の段階では、本人確認書類などを用意する必要はありません。建物や土地の面積、築年数、間取りなどを伝えるために必要な以下の書類を用意して臨みましょう。

4.訪問査定(詳細査定)で買取価格が提示される

本格的に売却を検討している場合は、訪問査定(詳細査定)を依頼する必要があります。机上査定である程度ふるいにかけ、感触の良かった不動産会社のみに訪問査定を依頼するのも良いでしょう。

仲介による売却査定額は、あくまでその不動産会社が一定期間内に売れるだろうと推測する金額にすぎませんが、訪問査定による査定額は買取価格とほぼイコールです。金額を含めた売買条件に納得できない場合は交渉し、できる限り良い条件を引き出しましょう。

5.買取の条件に納得したら売買契約を締結する

価格と条件に合意したら、不動産会社と売買契約を締結します。査定から売買契約までの 手続きは迅速で、多くの場合、数日以内に完了します。売買契約の場では、売買契約書に双方が署名・捺印し、売買代金の一部として手付金(取引慣例では物件価格の5~10%)を受け取ります。

契約に際してとくに確認しておくべきなのは、契約解除の方法と契約不履行による違約金の額です。

■手付解除とは
契約書に記された期限までは、1.買主は支払った手付金を放棄する2.売主は受け取った手付金の倍額を支払うことで、契約を解除できるという規定。

■違約金
売主買主の一方の契約違反(債務不履行)によって、契約が解除になった場合、相手方に支払うべき違約金。

■不動産売買契約に用意するもの
  • 契約書収入印紙代(契約金額による)
  • 本人確認書類
  • 実印
  • 印鑑証明書(3カ月以内に取得したもの)
  • 手付金の領収書

6.売買代金の決済と不動産の引き渡し

すでに受領済みの手付金を除いた残りの売買代金を受け取り、決済の完了を確認します。その後、司法書士が代理人として所有権移転登記の申請を行います。このとき、住宅ローンの残債がある場合は、受領した代金から全額返済し、抵当権抹消登記も併せて行います。

■決済・所有権移転登記に用意するもの
  • 住民票
  • 実印
  • 印鑑証明書(3カ月以内に取得したもの)
  • 売買代金領収書(手付金を除く残代金分)
  • 固定資産税の負担分にかかる領収書
  • 所有権移転登記にかかる費用(ローンが残っている場合は抵当権抹消登記費用も)

不動産買取のメリットとデメリット

続いて、不動産買取のメリット・デメリットを整理していきましょう。

不動産の買取のメリット

  • 仲介と比べて売却期間が短い
  • 内見対応が不要
  • 仲介手数料不要
  • 近所の方に知られずに売却できる
  • 契約不適合責任が免責となることが多い
  • 築古・事故物件・立地が悪いなど条件が悪い物件でも売りやすい

買取においては、不動産会社がビジネスライクに購入の可否を判断するため、仲介で売る場合と比べて早く、手間をかけずに売却できます。居住中の物件を仲介で売るには、内見対応が不可欠です。一時的とはいえ、週末や連休の度に家の隅々まできれいにして内見者を迎え入れるのは、なかなか骨の折れる作業。一方、買取の場合は、内見者が度々来ることもなく、販売活動もしないため、近所の方に知られずに売却することも可能です。

また「契約不適合責任」が免責となるケースも多いというのも買取の大きなメリットでしょう。契約不適合責任とは、契約後に契約内容と適合していない欠陥や不具合が発覚した場合、修繕などの対応をしなければならないという売主の責任です。先述のとおり、不動産会社は改修前提で不動産を買い取るため、多くの場合、劣化や不具合などの「現状」を気にしません。だからこそ、築古物件など条件や見栄えが悪い物件であっても、買い取ってもらいやすいということもあります。

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不動産の買取のデメリット

  • 仲介で売るより安くなる

買取のデメリットは、買取価格が仲介で売る場合と比べて安くなってしまうことです。一概にはいえませんが、買取価格は相場の7〜8割程度になるのが一般的です。したがって「少しでも高く売りたい」という方には、やはり仲介による売却をおすすめします。仲介による売却でも、相場から1割ほど価格を下げると早く売れる可能性は高まります。「早く売らなければならないけど高く売ることにも挑戦したい」という場合は、冒頭で紹介した「買取保証」という選択肢もあります。

仲介のデメリットイメージ

不動産買取を成功させるためのポイント

不動産買取は仲介と比べて手間なく、早く売却できることがメリットです。買取価格は相場より安くなってしまうというデメリットはありますが、買取価格は不動産会社によって異なります。複数社を比較し、高額で買い取ってくれる不動産会社を見つけ出すことが不動産買取を成功させるうえでのポイントです。

買取価格が高い不動産会社を選ぶ

仲介による売却の査定額は、その金額で売れることが保証されているものではありません。言ってみれば「この金額で売れると思います」という予想額です。一方、買取における査定額は、買主となる不動産会社が「その金額で買い取ります」と断言する価格であることから、少しでも高い査定額を出してくれる不動産会社を見つけることが大切です。

「大手不動産会社は買取価格が高い」「地場の不動産会社は買い取ってくれない」といった傾向はありません。査定依頼する不動産会社を選定する際は、買取実績や評判もチェックし、必ず複数社に査定を依頼して比較しましょう。

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価格交渉の方法に注意する

買取価格は、交渉によって上がる可能性もあります。しかし、強気な姿勢で交渉しすぎると、価格以外の条件が悪くなったり、買取を謝絶されるおそれもあるため注意が必要です。価格交渉の材料にしやすいのは、他社の買取査定額です。納得できる条件で売却するためにも、複数のオファーを比較することが重要だといえるしょう。

売却のタイミングを見極める

買取価格は相場より落ちるとはいえ、査定の基軸となるのは相場価格です。相場価格は基本的に築年数が浅いほど高いですが、価値が落ちていくスピードは一定ではありません。立地や物件の条件によって差異はあるものの、マンションは築20年以降、戸建ては築25年以降の下落率が高くなる傾向にあります。一定の築年数を超えると下落率は小さくなりますが、近年は中古住宅の平均築年数も20〜25年であるため、これくらいの築年数で手放せると需要を見込みやすいといえるでしょう。

築年数別 中古住宅 平均価格

中古マンションは平米単価、中古戸建ては平均価格。「新規登録物件」とは新規に売り出された物件のこと(出典:東日本不動産流通機構「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2023年)」)

また、季節的なことでいうと「新生活が始まる前の2〜3月が最も不動産が高く売れる」ともいわれていますが、これは一般の方に向けて売却する場合です。不動産会社は買い取った不動産を改修して再販することを目的としているため、価格や買い取りの動きに影響するのは主に不動産の需要と市況です。

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不動産買取のよくあるトラブルと注意点

不動産買取では、トラブルが発生するケースも少なくありません。 どのようなトラブルに見舞われるおそれがあるのか、事前に把握しておけば回避が可能です。

物件の相場価格を知らない

物件の相場価格を把握できていないと、不当に安い価格で買い叩かれてしまうおそれがあります。安く仕入れて高く売るのはビジネスの基本です。不動産会社も、できることなら安く買取したいと考えているため、相場価格を知らない顧客と判断されてしまうと安い価格で買取されかねません。

このような事態を回避すべく、事前に相場はリサーチしておきましょう。まずは不動産情報サイトで、売りたい物件があるエリアの売り出し中の物件を探してみましょう。そして似たような条件の物件がどの程度の価格で売り出されているのかを確認すれば、ある程度の相場は把握できます。ただし、売り出し価格と実際に成約に至る価格には一定の差があります。実際の成約事例を知りたい場合は、不動産流通機構が運営する「レインズ・マーケット・インフォメーション」というサイトで見られます。しかし、物件の詳細な場所などはわからないようになっているため、参考程度に見てみるとよいでしょう。

また、査定は複数社に依頼するのが基本です。一社のみでは、提示された金額が適正なのかどうか判断できません。比較対象がないため、もしかすると相場よりはるかに低い金額を提示されているおそれもあります。査定は複数社へ依頼し、内容を比較しつつ検討しましょう。

悪徳業者を選択してしまう

悪徳業者に不動産買取を依頼してしまい、被害を受けるケースが考えられます。残念なことにすべての不動産会社が善良とは限らず、不動産取引に絡み悪質な行為を働こうとする業者は存在します。このような悪徳業者に依頼しないよう、手口や詐欺の事例を把握しておきましょう。 よくある手口としては、最初に魅力的な買取金額をほのめかし、あとから理由をつけて大幅な値下げを行うケースが挙げられます。

また、しつこく電話をかけてくる、契約を急かすといった行動も悪徳業者の特徴です。 悪徳業者の被害に遭わないよう、信頼できる業者か事前に確認しましょう。公式ホームページなどで企業情報をチェックし、いつから営業しているのか、宅建免許を取得しているのかなどを確認します。併せて、インターネット上での評判もチェックしましょう。悪質な行為を繰り返している業者であれば、インターネット上に悪評が書き込まれているケースがあります。

ローンが完済できない

買取に限ったことではありませんが、不動産を手放すときには住宅ローンを完済する必要があります。査定時点で住宅ローンが残っていても問題ありませんが、引き渡しまでにローンを完済し、抵当権を抹消しなければなりません。対価を得てもローンが完済できない場合は、自己資金や他の借り入れで充当し、確実に完済する必要があります。

複数社に査定依頼し、結果が出そろった段階で住宅ローンが完済できそうか判断できるはずです。買取金額では返済できそうになく、自己資金もない場合は、仲介による売却も検討しましょう。仲介によって売却してもローンが完済できない場合は、売らないという選択を検討しなければなりません。

買取を断られる

築古など条件が悪い不動産は買取に向いているものの、どのような不動産でも買い取ってもらえるわけではありません。不動産会社は、買い取った不動産を修繕したり改修したりして、再販することで利益を出します。どう改修しても再販できない、あるいは採算が取れないと判断すれば、買い取ることはありません。

とはいえ、すべての不動産会社が同様の買取基準を持っているわけでもありません。再建築不可物件を積極的に買い取っている不動産会社もあれば、空き家の買取専門としている不動産会社もあります。1社に断られたら買い取ってもらえないというわけではありません。そういった意味でも、複数の不動産会社に査定依頼することが大切といえるでしょう。

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【よくあるケース紹介】売主のこんな事情。不動産買取と仲介、どっちを選ぶ?

不動産買取か仲介での売却か迷ったとき、売主のさまざまな事情に合わせて検討する必要があります。ここでは、さまざまな売主の事情に応じたケースを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

ケース1「時間がかかってもいいから、希望額で高く売りたい」‐仲介

■60代Aさん夫婦の状況と要望
老後を見据え、長く住んできた一戸建てから、バリアフリーでコンパクトなマンションに住み替えたAさん夫婦。新居のマンションはすでに購入して、転居も済んでいる。現在は資金的余裕があるものの、老後のためにも一戸建てを少しでも高く売りたいと考えている。

■Aさんのケースは「仲介」がおすすめ!
  • 時間をかけられる:Aさんはすでに新居を購入し、転居済みです。住み替えというと「今の住まいを売らなければ買えない」というケースが多いですが、50代、60代は資金力がある方も少なくありません。Aさん夫婦は売却に時間もかけられるようなので、あえて買取を選ぶ必要はないと考えられます。
  • 高く売りたい:「老後のために少しでも高く売りたい」というご希望からも、買取より仲介が適しているといえるでしょう。買取は、早く売れるという利点はあるものの、金額は相場の7〜8割ほどになってしまうのが一般的です。Aさんのように早く売る必要もなく、高く売りたいと希望する場合は、仲介で売却することをおすすめします。

ケース2「新居が決まっているからできるだけ早く売りたい」‐買取

■40代Bさん夫婦の状況と要望
子どもの進学のタイミングに合わせて、郊外の一戸建てから都心のマンションへの住み替えを決意。新居となるマンションはすでに契約済みで、ローンの審査も通っている。しかし、頭金の一部に現在の家の売却資金を充てる予定のため、できるだけ早く確実に売却したい。

■Bさんのケースは「買取」がおすすめ!
  • 時間的制約がある:子どもの進学時期が迫っており、新居の引き渡し日も決まっているため、売却を急ぐ必要があります。新居の頭金に売却資金を充てる予定ということから、新居の引き渡し前に今の住まいの引き渡しを終える必要があります。買取なら数日〜数週間程度で契約から引き渡すことも可能なため、Bさんのケースでは買取が適していると考えられます。
  • 手続きの簡便さ:子育てなど日々の暮らしだけでなく、新居の購入や引っ越しの準備で忙しい中、売却にかける時間と労力を最小限に抑えたいところ。買取なら、内見の対応や複数の購入希望者との交渉が不要なため、手続きの簡便さからも買取向きのケースといえるでしょう。

ケース3「絶対にご近所に知られず売りたい」‐買取

■50代Cさんの状況と要望
単身で暮らすCさんは、長年住んでいた実家を相続して住み続けてきた。しかし、転職が決まったことから、遠方へ引っ越すことを考えている。地域との繋がりが強く、売却の噂が広まることでさまざまな憶測を呼ぶことを懸念しており、近所の人々に気づかれることなく売却したいと考えている。

■Cさんのケースは「買取」がおすすめ!
  • 広告を出す必要がない:買取は不動産会社が直接購入するため、物件の広告を出す必要がありません。仲介による売却であっても、広告を一切出さないという選択もできますが、この売り方だと売却までに相当の時間を要すると推測されます。空き家になっている時間が長ければ、それこそさまざまな憶測を呼ぶおそれもあります。
  • 内見対応不要:広告を出さなかったとしても、購入を検討している人は必ず現地を見たいと考えます。仲介による売却では内見対応が不可欠であり、物件の中を見せることを拒んだとしても、現地を見に来る希望者はいるものと考えられます。買取なら内見者が何人も来るということはないため、売却中に近隣の方に勘づかれるリスクも低いといえるでしょう。

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【よくあるケース紹介】物件のこんな事情。買取と仲介どっちを選ぶ?

買取に向いているか仲介に向いているかは、売主の意向や状況だけでなく「物件の事情」にもよります。

ケース1「条件のいいマンションを希望価格で売却したい」‐仲介

■30代Dさんの状況と要望
投資家のDさんは、結婚に際して収益物件として所有していた都心・駅前・築浅の区分マンションを売却したいと考えている。収益物件を所有していることから新居の住宅ローンの仮審査が通らず、急ぎ売却したい。しかし、ローンがかなり残っており、結婚で何かと費用がかかることから、少しでも高く売却する必要がある。

■Dさんのケースは「仲介」がおすすめ!
  • 好条件の物件なら仲介でも早期売却に期待できる:新居購入のため急ぎ売却したいということですが、都心・駅前・築浅という好条件の物件なら、仲介でも早期売却に期待できることから、買取を選択する必要はないと考えられます。
  • できる限り高く売りたいなら買取は避けるべき:一定のローン残債があり、結婚も控えているということから、自己資金を充当してローンを完済することは避けたいはずです。できる限り高く売りたい場合は、買取ではなく仲介が適しています。

ケース2「個性的な一戸建て住宅の付加価値を評価してほしい」‐仲介

■50代Eさん夫婦の状況と要望
Eさん夫婦が20年ほど暮らす家は、デザイン事務所に設計を依頼したこだわりの一戸建て。非常に気に入っていたものの、子どもたちが独立して夫婦2人には広すぎるため、マンションへの買い替えを検討している。できれば、こだわったデザインや間取りを気に入ってくれる人に買ってもらいたい。

■Eさん夫婦のケースは「仲介」がおすすめ!
  • 「個性」を評価してくれるのは一般消費者:不動産会社は、多くの人に評価される不動産を買い取り、多くの人に評価される改修をして再販したいと考えています。そのため、奇抜なデザインや間取りはマイナス評価となり、買取価格が落ちる可能性があります。一方、幅広い需要には期待できないとしても、デザイン性の高い住宅を好む人からすれば、Eさん夫婦の住まいはお宝物件です。特徴的な物件は、販売方法を工夫して“刺さる人”に見つけてもらったほうが、好条件で売れる可能性が高いと考えられます。

ケース3「立地はいいが古いマンションを希望価格で売却したい」‐仲介

■60代Fさん夫婦の状況と要望
都心駅前の築50年のマンションに暮らすFさん夫婦。いわゆる熟年離婚をするため、マンションを売ってお互い実家で暮らすことになったが「旧耐震基準のマンションは売りにくい」と聞き、売却方法に悩んでいる。

■Fさん夫婦のケースは「仲介」がおすすめ!
  • 都心駅前なら築古物件でも高い需要に期待できる:築古物件は総じて買取に向いていますが、都心駅前など極めて立地が良い物件は別です。旧耐震基準であっても、少々、劣化が目立ったとしても普遍的な需要があるため、仲介で売却したほうが希望価格に近い金額で売れる可能性が高いと考えられます。
  • ある程度時間もかけられる:離婚となると「一刻も早く売却したい」と考えるご夫婦もいますが、Fさん夫婦の場合はお互い実家に帰るということなので、売却を焦る必要もないでしょう。時間がかけられるのであれば、なおさら買取を選択する必要はありません。

ケース4「再建築不可の土地に建つ一戸建てを売りたい」‐買取

■70代Gさん夫婦の状況と要望
都市部の古い住宅地に40年以上住んでいるDさん夫婦は、高齢者施設への入居を考えている。Dさん夫婦の家は狭小道路に面しており、現行の建築基準法では建て替えができない「再建築不可」の物件。売却を検討してはいるものの、このような特殊な条件下での売却に不安を感じている。

■Gさんのケースは「買取」がおすすめ!
  • 特殊な物件条件:再建築不可物件は、取得費用を抑えたい若年層や投資家などの需要に期待できるものの、総じて売りにくい物件です。40年以上暮らしているということから大規模なリノベーションを要することも予測されるため、リノベーションのノウハウも豊富な不動産会社への売却が適していると考えられます。
  • 迅速な売却:再建築不可物件は仲介にまったく向いていないということはありませんが、Gさん夫婦は高齢者施設への入居を控えているため、長く売れないような事態は避けたいはずです。売れない間はストレスもかかることから、ご年齢やご状況、不動産の条件を相対的に判断すると、買取に向いているといえるでしょう。

ケース5「借地に立つ一戸建てを売りたい」‐借地に強い不動産会社に相談

■65歳Hさんの状況と要望
Eさんは、都市近郊の借地に立つ一戸建てに住んでいるが、足腰も弱くなり、一戸建てでの生活が困難になってきたことから、都内のコンパクトマンションに転居したいと考え始めた。しかし、借地権付き建物をどのように売ればいいかわからず、新居を検討することもできずにいる。

■Hさんのケースは「借地に強い不動産会社に相談する」のがおすすめ!
  • 借地権付き建物の買取は低廉な価格になってしまうおそれがある:売却資金が新居の購入費用や老後資金になると想定すると、できる限り高く売りたいという要望もあるはずです。借地権付き建物を買い取ってくれる不動産会社もありますが、数は少なく、買取価格は一般的な所有権のある土地に立つ物件と比べてさらに安価になってしまう可能性があります。
  • 地主に買い取ってもらえる可能性もある:借地権付き建物は、底地を所有している地主が買取に応じてくれるケースもあります。地主が借地権付き建物を買い取れば、その土地の資産価値が上がり、活用方法も広がります。場合によっては、底地と借地権の等価交換によって、Eさんが一部の土地の所有権を得られる可能性もあります。所有権としてから売却することで、借地権付き土地のまま売るより高く売れる可能性もあります。借地の場所、残存期間、広さなどによっても適切な判断は異なることから、借地に強い不動産会社に相談するのが賢明な判断でしょう。

不動産買取のよくある疑問

最後に、不動産買取でよくある疑問と回答をまとめました。

査定は無料?どの時点で費用がかかる?

買取査定は、基本的にどの不動産会社でも無料です。買取では仲介手数料もかからないため、取引を通して不動産会社に費用を支払うことはありません。ただし、売買契約書に貼付する印紙税(電子契約の場合は非課税)や抵当権抹消費用などは売主自身が負担する必要があります。

買取価格は交渉できる?

交渉は可能ですが、価格を上げてくれるという保証はありません。交渉しやすくするためにも、査定依頼は複数社にすることが大切です。

住宅ローンが残っていても買取してもらえる?

物件を引き渡すときまでに住宅ローンを完済できれば、問題なく買い取ってもらえます。売却後もローン残債が残る場合は、貯蓄などで補填しましょう。

壊れた設備、見栄えが良くないところは直しておく必要がある?

買取では、一般的に売却前の修繕や改修は不要です。不動産会社は買い取った不動産を修繕したり、改修したりして魅力を上げて再販します。費用をかけて修繕・改修をしても、無駄になってしまうおそれがあります。

隣地との境界が不明のままでも、買取ってもらえる?

不動産会社次第としか言いようがありません。境界トラブルの解決に長けている不動産会社であれば買い取ってくれる可能性はありますが、一般的な不動産会社には難しいと思われます。買い取ってくれる不動産会社が見つかるかどうかは、境界が不明な理由によるところも大きいでしょう。隣地が再三の交渉に応じてくれない場合と隣地の所有者が不明な場合では、後者のほうが不在者財産管理人選任の申し立てなど取れる選択肢があることから、買い取ってもらいやすいかもしれません。いずれにせよ、資産性のあるエリアであれば買い取ってもらえる不動産会社は見つかりやすいものと考えられます。

隣の屋根がこちらの土地に越境していても買い取ってもらえる?

越境についても、買取の可否は不動産会社や状況次第としか言えません。越境があっても隣地所有者との間で越境物の事実確認と撤去条件など合意ができていて、その旨の覚書があれば、買い取ってもらえる不動産会社は見つかりやすいと考えられます。一方で、隣地と揉めていて境界トラブルもあるような場合は、不動産会社であっても買取を躊躇する要因となり得ます。

古い建物で空き家の不動産。買取してもらうため建物の解体の必要は?

エリア、築年数、状態問わず、査定前に建物を解体することは避けましょう。住宅が建つ土地は「住宅用地の特例」によって固定資産税や都市計画税が軽減されている状態です。建物を解体すると、土地の固定資産税などが跳ね上がってしまいます。

■住宅用地の特例
  固定資産税課税標準額 都市計画税課税標準額
小規模住宅用地(200m2以下の部分) 1/6 1/3
一般住宅用地(200m2超の部分) 1/3 2/3

また、建物が古くても、買い取った不動産会社は修繕や改修をして再販する可能性もあります。更地にすれば必ずしも資産価値が上がるというわけではないため、まずは不動産会社の見解を聞いてみましょう。解体が必要であっても、解体時期を引き渡し直前とすることで固定資産税増額の影響を最小限に抑えられます。

亡くなった親名義の実家を買い取ってもらうことは可能?

不動産は「所有者」しか売却することはできません。所有者とは、登記簿謄本に載っている名義人です。亡くなった親御さんの名義のままであれば、まずは相続登記によって所有者をご自身にする必要があります。2024年4月から、相続登記は義務化されています。正当な理由なく、相続したことを知った日から3年以内に相続登記しなかった場合は、10万円以下の過料が課される可能性があるためご注意ください。

高齢の親が持つ不動産。子どもの私が代わって売却手続きはできる?

所有者に売却の意思があり、法的効力のある委任状によって代理人に選定されている場合は売却手続きをすることができます。一方で、認知症などにより意思能力が十分であると判断されない場合は、委任状も無効になってしまいます。この場合は成年後見制度を利用する必要がありますが、たとえ成年後見人であっても、被後見人の自宅の処分は「被後見人の不利益にあたる」として認められない可能性があります。

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まとめ

不動産買取の場合、仲介での売却に比べると売却価格は低くなります。一方、売却にかかる時間が短くて済む、売りにくい物件も買い取ってもらえる場合があるなど、メリットもあります。

買取と仲介のメリットデメリットを比較した上で、自分たちの事情にあった売却方法を選ぶことが、満足できる売却につながります。まずは複数の不動産会社に査定を依頼して、信頼できる不動産会社を見つけましょう。

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(写真/PIXTA)

イラスト/のりメッコ

●構成・取材・文/コハマジュンイチ
●取材・文/亀梨奈美(real wave)
●監修/大森広司さん
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
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