不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

家の買い替えタイミング。売り先行・買い先行それぞれのポイントと注意点/不動産売却マニュアル#28

家の買い替えタイミング。売り先行・買い先行それぞれのポイントと注意点/不動産売却マニュアル#28

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自宅を買いかえる場合、現在住んでいるマンションや戸建など自宅の売却と、買いかえ先の住まいの購入を進めなければならない。「売り」と「買い」をどのようなタイミングで進めていけばいいのだろうか。

「売り」と「買い」を同時に進めることは可能か

売却も購入もかなりの手間がかかる

買いかえでは売却と購入の両方の手順を踏むことになる。それぞれどのようなプロセスがあるのかをざっくり示すと、以下のとおりだ(詳しくは「不動産売却の流れを知ろう」を参照)。

【売却】
(1)複数の不動産会社に自宅を査定してもらう
(2)売却を依頼する不動産会社を決め、媒介契約を結ぶ
(3)査定価格を参考に売り出し価格を決め、売りに出す
(4)購入検討者に自宅を内見してもらう
(5)反応が思わしくなければ必要に応じて価格などを見直す
(6)購入希望者が現れたら価格や引き渡し時期を交渉する
(7)交渉がまとまったら売買契約を交わす
(8)買主から購入代金を受け取り、登記手続きをして物件を引き渡す

【購入】
(1)物件情報のなかから希望に合う住宅を探す
(2)購入したい物件が見つかったら購入を申し込み、仲介物件の場合は不動産会社と媒介契約を結ぶ
(3)売主と価格や引き渡し時期などの条件を交渉する(主に仲介物件の場合)
(4)金融機関に住宅ローンの事前審査を申し込む
(4)交渉がまとまったら売買契約を交わす
(5)金融機関に住宅ローンの本審査を申し込む
(6)金融機関の審査が通ったら住宅ローン契約(金銭消費貸借契約)を結ぶ
(7)金融機関から住宅ローンの融資を受けて売主に購入代金を支払い、物件の引き渡しを受けて登記手続きをする

売却と購入の同時進行は難しい

自宅の買い替えで「売り」と「買い」を同時並行的に進められれば効率がいいと思われるが、タイミングを合わせるのは難しい。それにどちらも上記のように手間のかかる作業なので、両方いっぺんに進めるのは物理的にもたいへんそうだ。

そのため、買いかえでは「売り」と「買い」のどちらかを先に進めるケースが一般的となる。売りが先の場合を「売り先行」、買いが先の場合を「買い先行」などと呼んで区別することが多い。

売り先行・買い先行それぞれのメリットとデメリットは?

売り先行は資金計画が明確だが仮住まいが必要

売り先行とは、住んでいる自宅をまず売却し、売れてから買い替え先の住まいを買うパターンだ。メリットとしては資金計画が明確で安心感があることが挙げられる。たいていのケースでは売却して手元に残ったお金を自己資金の一部に充てて、買い替え先の住まいを購入するからだ。自己資金がいくらなのかはっきりしてから買うので、資金計画に不確定な要素が少なくなる。

逆に売り先行の場合のデメリットは、仮住まいが発生することだ。自宅を先に売ってしまうので、住む場所を確保するため一時的に賃貸住宅などに住まわなければならなくなる。賃貸住宅を探すときの仲介手数料や礼金、仮住まい中の家賃、引越し費用などを負担しなければならない。

買い先行はじっくり買えるが二重ローンがネック

一方、買い先行は買い替え先の物件の購入を先に済ませ、あとから旧居の売却を進めるパターンだ。メリットとしては購入に時間をかけられることだ。また仮住まいも必要ない。

だが、買い先行には二重ローンの発生という大きなデメリットがある。買い替え先の住宅を購入して入居してから、旧居を売却して買主に引き渡すまでは、旧居と新居の住宅ローンを二重で返済しなければならない。それに二重ローンは金融機関の審査が通らなかったり、通っても融資額を減らされたりする可能性もあるだろう。

高く売って安く買うためのタイミングとは

売り先行か買い先行かは相場の動きにもよる

また、売り先行がトクか買い先行がトクかは、そのときの不動産相場の動きにも左右される。というのも相場の動きには波があり、上昇基調なのか下落基調なのかによっても状況が異なるからだ(詳しくは「不動産売却の相場の調べ方」を参照)。

仮に相場が上昇基調であれば、買い先行のほうが物件価格の安いときに買って、高くなってから売れる可能性がある。逆に下落基調のときに売り先行にすれば、相場が高い時期に売って安くなってから買えるだろう。

とはいえ、相場の動きを正確に予測することはプロでも難しい。都合よく「高く売って、安く買う」ことができるかどうかは、自己責任で判断することになるので念のため。

売り先行と買い先行はどちらが多いのか

買い先行は売主が不動産会社の場合が多い

このように売り先行と買い先行にはそれぞれメリットとデメリットがあるが、実際にはどちらのケースが多いのか。売買の実情に詳しいフリーダムリンクの永田博宣さんに伺った。

「買い先行は新築マンションへの買い替えなど、購入する物件の売主が不動産会社の場合が多いでしょう。この場合はまず新築マンションの売買契約を結びます。売却に関しては売主が指定する仲介会社に専任媒介契約か専属専任媒介契約で売却を依頼するケースも少なくありません」

「買い替え特約」や「買い取り保証」が付く場合も

新築マンションなどに買い替えるときは、売買契約時に「買い替えが成立しなければ売買契約を白紙に戻す」という旨の「買い替え特約」を付けることもできる。また指定会社と媒介契約を結ぶときは、売れなかった場合は査定価格より低い価格で仲介会社が買い取る「買い取り保証」を付けるケースもあるという(詳しくは「売買契約書のポイントを確認しよう」を参照)。

個人が売主の物件への買いかえは仮住まい前提で売り先行

一方、個人が売主の中古物件に買いかえる場合は、上記のような買い先行は難しい。

「二重ローンが可能であれば買い先行でもいいのですが、そうしたケースは多くはありません。いったん仮住まいすることを前提に売り先行で売却し、その後に買い替え先の住宅を探すことになるでしょう」(永田さん)

買いが先か売りが先かは、購入する物件や資金計画などによって変わるので、不動産会社とも相談しながら進めるのが賢明だろう。

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不動産売却マニュアル

●構成・取材・文/大森広司
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
●お話を伺った方 フリーダムリンク・永田博宣さん 相続・不動産のコンサルティングを手がけるフリーダムリンク代表取締役。不動産の売主をサポートする「不動産適正売却研究所」を主宰。ファイナンシャル・プランナー CFP(R)認定者
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