不動産を売却するには、さまざまな書類が必要になります。書類を要するタイミングは、販売活動を任せる仲介会社との「媒介契約時」、仲介会社の「販売活動中」、買主と結ぶ「売買契約時」、売買契約に記載した期日に実施する「引き渡し時」の4つに大別できます。
この記事では、どのタイミングでどのような書類が必要になるのかをご紹介します。
売却に必要な書類の種類や必要になるタイミング、取得する方法
不動産の売却時に必要となる書類について、必要度合いや必要になるタイミングとともに紹介します。
また、用途や入手方法についても解説します。
なかには、すでに持っているはずの書類もありますし、手配してから入手できるまで時間を要するものもあります。
自身の場合はどうなのかを思い起こしながら読んでみてください。
【チェックリスト】不動産売却の必要書類
不動産書類で必要な書類は、以下の一覧表のとおり全17種類あります。詳細は以下で解説しますが、まずはすでに持っているはずの書類が手元にあるかどうかを確認してみましょう。
必要度合い | 書類種別 | 必要となるタイミング |
---|---|---|
必須 | 登記済権利証 | 媒介契約時・売買契約時・引き渡し時 |
必須 | 身分証明書 | 媒介契約時・売買契約時・引き渡し時 |
必須 | 間取図 | 媒介契約時 |
必須 | 建築確認済証・検査済証(一戸建ての場合) | 媒介契約時 |
必須 | 地積測量図・境界確認書(土地の場合) | 媒介契約から引き渡しまでの間 |
あればベター | 新築購入時のパンフレットやチラシ広告 | 媒介契約時 |
あればベター | 建築設計図書・工事記録書 | 媒介契約時 |
あればベター | 耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書 | 媒介契約時 |
あればベター | 地盤調査報告書・住宅性能評価書・既存住宅性能評価書 | 媒介契約時 |
場合による | ローン残高証明書 | 媒介契約時 |
必須 | 管理規約・使用細則(マンションの場合) | 販売中 |
必須 | 重要事項にかかわる調査報告書 | 販売中 |
必須 | 固定資産税・都市計画税納税通知書 | 販売中 |
必須 | 実印と印鑑証明 | 売買契約時・引き渡し時 |
必須 | 固定資産評価証明書 | 売買契約時・引き渡し時 |
場合による | 住民票の写しもしくは戸籍付表 | 引き渡し時 |
必須 | 銀行口座種類・通帳 | 引き渡し時 |
登記済権利証/登記識別情報【必須/媒介契約時・売買契約時・引き渡し時】
登記済権利証/登記識別情報の用途は?
所有権取得の登記が完了すると法務局から発行される書類で、「権利証」とも呼ばれます。
仲介会社と媒介契約を結ぶ際、販売活動の依頼主が間違いなく不動産の所有者であることを確認するために提示を求められます。同様の目的で、売買契約時にも買主に提示します。
また、無事に売却できた際には、不動産の所有者を売主から買主に変更する移転登記が必要になります。
不動産の引き渡し時には移転登記を代行してもらう司法書士に登記済証を渡すことになります。
なお、法改正によって、2005年3月7日以降は、登記済権利証に代わって「登記識別情報」が導入されています。
登記名義人には12桁の符号が記された通知書が送付され、この符号から本人確認ができるようになりました。
つまり、書面ではなく符号を提示するだけで済みます。
登記済権利証/登記識別情報はどうやって入手する?
登記済証や登記識別情報は、売却にあたって改めて入手するものではなく、不動産の所有登記をした時点で受け取っているはずのものです。
万一、紛失してしまった場合は、登記所に事情を説明して「事前通知」を送付してもらう手段や司法書士などの資格者代理人に本人確認を行ってもらう手段などがあります。 販売活動を依頼する不動産会社に相談してみましょう。
身分証明書【必須/媒介契約時・売買契約時・引き渡し時】
身分証明書の用途は?
媒介契約時は不動産会社に、売買契約時は買主に、引き渡し時は移転登記を依頼する司法書士に、契約者または依頼者本人である証明として提示します。
運転免許証や健康保険証、マイナンバーカードなど、一般的に身分証明書として認められているものを用意しましょう。
間取図【必須/媒介契約時】
間取図の用途は?
仲介会社が不動産の販売活動をする際は、WEBサイトや住宅情報誌、チラシなどに物件情報を掲載して広く購入希望者を募ります。
この際、どのような間取りなのかも公開しなければ、購入希望者の関心を集めることができません。
取引や契約に不可欠というわけではありませんが、実質的には必須となります。
また、一戸建ての場合は、土地の形状が分かる図面も用意しましょう。
間取図はどうやって入手する?
基本的には、不動産の取得時に入手しているはずですが、紛失してしまった場合は仲介会社に相談してみましょう。
マンションの場合は、リノベーションなどで間取り変更していない限りは、管理会社でも保有していることが大半です。
一戸建ての場合、建築した工務店やハウスメーカーが現存していれば、保管してもらえている可能性もありますが、古い家だと入手が困難なケースもあります。現況から簡易な間取図を作成してもらうなど、対策が必要になります。
建築確認済証・検査済証(一戸建ての場合)【必須/媒介契約時】
建築確認済証・検査済証の用途は?
建築確認済証は、工事前の計画が法律に適合していることを証明する書類で、検査済証は工事の途中や完了時の検査で法律に適合していることを証明する書類です。
売却しようとしている一戸建てが、建築基準法にのっとって建てられているかどうかは、買い手の付きやすさや売却価格に大きく影響しますから、媒介契約時に仲介会社から提示を求められます。
建築確認済証・検査済証はどうやって入手する?
対象の一戸建てを新築物件として購入している場合には、取得時に入手しているはずです。
紛失してしまった場合や、中古として購入していてもともと入手していないという場合は、再発行してもらえません。
その代わり、管轄の役所に申請すれば、建築確認申請時の内容と概要が記載された「建築計画概要書」や、台帳に記載されている内容を証明する「建築確認台帳記載事項証明書」を有料で発行してもらえます。 売却時には、これらを建築確認済証や検査済証の代わりにできます。
地積測量図・境界確認書(土地の場合)【必須/媒介契約から引き渡しまでの間】
地積測量図・境界確認書の用途は?
土地の面積や隣接する他の土地や道路との境界の位置を証明する書類で、隣地トラブルを未然に防ぐ安心材料として必須となります。
媒介契約を結ぶ時点から用意してあるのがベストですが、代々引き継いできた土地などでは、そもそも測量自体が実施されていないケースや、実施時期が古いために精度が低くて現況にそぐわないケースが少なくありません。
このような場合は新たに測量することになりますが、書類が整うまでには数カ月かかります。
このため、おおよその数値で販売活動を開始し、並行して測量作業を進めることもあります。
地積測量図・境界確認書はどうやって入手する?
売却しようと考えている土地が購入したものなら、基本的に購入時に入手しているはずです。
紛失している場合でも、地積測量図が作成されている場合は法務局に保管されているので取得できます。
ただし、境界確認書は、隣接するすべての土地所有者と境界線について合意したことを証明する書類で、公的に保管されているわけではありません。
過去に測量していても、紛失してしまうと、測量した会社が分からない限り再入手できず、改めて測量が必要になります。
新築販売時のパンフレットやチラシ広告【あればベター/媒介契約時】
新築販売時のパンフレットやチラシ広告の用途は?
マンションや一戸建てを新築して販売する際にデベロッパーやハウスメーカーが作成した資料は、物件の魅力を最大限にアピールする工夫が盛り込まれています。
必須ではありませんが、手元に残っていれば、仲介会社に渡しておくと販売活動を展開する際、参考にしてもらえます。
建築設計図書・工事記録書【あればベター/媒介契約時】
建築設計図書・工事記録書の用途は?
建築設計図書とは、工事のための図面と仕様書のことを指し、工事記録書とは、文字どおり工事の実施内容を記録した書類のことです。
必須ではありませんが、特に一戸建ての場合は、これらがあると買い手にとって安心材料になります。
また、買い手側が間取り変更をともなうリフォームなどを検討する際にも有用です。
耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書【あればベター/媒介契約時】
耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書の用途は?
2000年代に発覚した耐震偽装問題は大きな社会問題に発展しました。
また、アスベストを使用している建物を解体するには相応の対策を施すことが法律で義務付けられていますが、昨今でも報道で違反が取り沙汰されることがあります。
必須ではありませんが、これらの報告書があれば、信頼性のアピールにつながります。
地盤調査報告書・住宅性能評価書・既存住宅性能評価書【あればベター/媒介契約時】
地盤調査報告書・住宅性能評価書・既存住宅性能評価書の用途は?
地盤の強度を調査した報告書や、国が定めた基準に沿って第三者が作成した評価書があれば、やはり買い手にとって安心材料になります。
売却する上で必ず用意しなければいけないわけではありませんが、手元にある場合は、仲介会社に提示して販売活動に活かしてもらいましょう。
ローン償還表【場合による/媒介契約時】
ローン償還表の用途は?
融資を受けている金融機関から定期的に送られてくるのが、ローン償還表(返済予定表)です。
売却しようとしている不動産のローンが残っていて、かつ売却金額が残債より下回りそうな場合、確認のために仲介会社から求められることがあります。
基本的に、抵当権がどうなっているのかは登記簿謄本で確認できるので、要求されてから提示すればいいでしょう。
管理規約・使用細則(マンションの場合)【必須/販売中】
管理規約・使用細則の用途は?
マンションの場合、共用部の使い方などのルールが、管理規約や使用細則として書面にまとめられています。
購入希望者が希望する暮らし方を実現できるか判断する上で必要となるため、仲介会社と媒介契約を結んだら、できるだけ早いタイミングで提示しましょう。
なお、手元に見当たらなくても、マンションの管理会社が保有しているので、仲介会社が手配してくれます。
重要事項にかかわる調査報告書(マンションの場合)【必須/販売中】
重要事項にかかわる調査報告書の用途は?
マンションの管理費や修繕積立金の回収・運用状態、大規模修繕の実施状況などがまとめられた書類で、マンションの管理会社が作成します。
内容の多くは、仲介会社が買主に提示する重要事項説明書に記載しなければならないため、必須です。
ただし、実際には仲介会社が管理会社に直接手配してくれるので、売主が用意する必要はありません。
固定資産税納税・都市計画税納税通知書【必須/販売中】
固定資産税納税・都市計画税納税通知書の用途は?
日本国内で不動産を所有している人には、その不動産に応じた固定資産税と都市計画税が課税されます。
これらの税額が記載されたものが納税通知書で、毎年、1月1日時点の所有者に対して、春ころに役所から届けられます。
一般的に、不動産の売買では、引き渡し時期に応じて税額を売主と買主で按分します。
通知書は、それぞれの負担額を算出してもらうために仲介会社に提示する必要があります。
また、仲介会社は、算出した負担額を重要事項説明書に明記しなくてはならないので、媒介契約を結んだら早めに提示しましょう。
実印と印鑑証明【必須/売買契約時・引き渡し時】
実印と印鑑証明の用途は?
買主と売買契約を結ぶ際は、売買契約書に実印を押すことになります。また、引き渡し時には登記書類に実印を押します。
この際に使う印鑑が、間違いなく役所に印鑑登録したものであることを証明する書類が、印鑑証明です。売買契約時には買主に、引き渡し時には司法書士に渡します。
印鑑証明はどうやって入手する?
役所でも入手できますが、マイナンバーカードがあれば、コンビニやスーパーなどに設置されている証明書類の自動交付機能が付いた端末でも入手可能です。
有効期限は発行から3カ月なので、これを念頭に、売買契約を結ぶ日が確定してから手配しましょう。
固定資産評価証明書【必須/売買契約時・引き渡し時】
固定資産評価証明書の用途は?
役所が把握している不動産の評価額が記載された書類です。
売主から買主に不動産を引き渡すときには、司法書士に移転登記を依頼することになります。
そして、移転登記の際には登録免許税がかかりますが、その額を算出するため、売買契約時に必要となります。また、引き渡し時には司法書士に渡す必要もあります。
固定資産評価証明書はどうやって入手する?
役所で入手できますが、媒介契約書や売主の委任状があれば、仲介会社に入手を代行してもらうことも可能です。
どちらが手配するのか確認しておきましょう。
住民票の写しか戸籍附表【場合による/引き渡し時】
住民票の写しや戸籍附表の用途は?
売却する不動産を登記している住所と現住所が異なる場合、司法書士に所有者の移転登記をしてもらうために必要になります。
以前、売却予定の不動産に住んでいて、その後の引越しが1回だけという場合は、前の住所も記載される住民票の写しを用意します。
住民票の写しには現住所に移る直前の住所しか記載されないため、転勤などで複数回引越しを重ねている場合は、すべての住所履歴が掲載されている戸籍附表が必要になります。
住民票の写しや戸籍附表はどうやって入手する?
住民票の写しは印鑑証明と同様で、役所で入手できるほか、マイナンバーカードがあればコンビニやスーパーの端末でも入手できます。
戸籍附表の場合は、本籍が置いてある市区町村で申請する必要があります。
つまり、現在住んでいる市区町村が本籍地ではない場合、最寄りの役所に行っても入手できません。
本籍地が分からない場合は、住民票の写しで確認しましょう。
なお、現住所と本籍地が遠く離れている場合などは、郵送による請求・取得も可能です。
預金通帳(もしくは控え)【必須/引き渡し時】
預金通帳の用途は?
引き渡し時には、売却額から手付金を差し引いた残額を、指定した口座に振り込んでもらうことになります。
この際、振込先として提示する必要があるので、預金通帳もしくは、金融機関名や支店名、口座種別、口座番号の控えを用意して、複数人で突き合わせ、取り違えが起きないようにしましょう。
この記事は、2022年3月11日現在の情報です
【まとめ】媒介契約を結んだ時点で何が必要になるのか確認を
ここまで紹介してきたとおり、不動産売却に関する書類は、必須のものだけでも10種類以上あります。
手配してから取得できるまで時間を要するもの、あまり早く取得すると実際に必要な場面で効力を失う可能性があるものなど、「いつ手配するべきか」はそれぞれですし、仲介会社が代わりに手配してくれるものや自身で手配しなければならないものなど、「誰が手配するのか」も異なります。
販売活動を任せる仲介会社を選んで媒介契約を結んだら、できるだけ早めに役割分担や手配のタイミングを整理・確認し、スムーズな売却を心がけましょう。
東急リバブル 流通事業本部 都心・湾岸営業部
部長 森 憲一さん
イラスト/村林タカノブ