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離婚時に家を売却する際の住宅ローン、共有名義、連帯債務などケース別に解説!

家を所有している状態で夫婦が離婚した場合、家はどのように処分すればよいのでしょうか。家を売却するケースや一方がそのまま住み続けるケースなど、夫婦によって離婚後の選択は異なります。住宅ローン残債の有無によっても、とるべき選択は変わってくるでしょう。
今回は、離婚を考えている人に向けて、離婚後の住宅ローン状況と売却方法をケース別に紹介するとともに、家を売却する時の注意点などについても解説します。

新築離婚(マイホーム離婚)するときの財産分与、名義、住宅ローンのベストな選択 

離婚時に住宅ローンが残っている家を売却する方法。共有名義、連帯債務などケース別に解説

記事の目次

離婚を考えたときに確認すべき家のこと

離婚を考えているなら、まず「住宅の名義」「住宅ローンの名義」「住宅ローンの残高」「現在の住宅の価格」の4つを確認しておきましょう。これらの情報があれば、離婚時に家をどう処分するのかを建設的に話し合えます。

1.住宅の名義

持ち家を自宅として住んでいた夫婦が離婚することになったら、自宅をどうするかが大きな問題になります。
そのまま夫婦のどちらかが住み続ける場合もありますが、自宅を売却して夫婦関係を清算しようというケースも多いでしょう。

住んでいた住宅を売却する場合、確認すべきことがいくつかあります。
その一つが住宅の名義です。

住宅の名義には、一人で所有する単独名義と、夫婦2人など複数で所有する共有名義があります。
単独名義の場合は所有者が一人なのでその人の判断で自由に売却することが可能です。

これに対し共有名義の場合は共有する名義人全員の同意がなければ住宅を売却することはできません。
離婚する夫婦の同意があって初めて、自宅を売却することができるのです。

離婚する夫婦が自宅の売却に悩むイメージ

(写真/PIXTA)

2.住宅ローンの名義

自宅に住宅ローンが残っている場合は、住宅ローンの名義も確認が必要になります。
住宅ローンの名義とは、誰が住宅ローンを借りているのかということです。

夫婦が共働きではない場合は、働いて収入のある人が単独で住宅ローンを借りているはずです。
共働き夫婦の場合の住宅ローンの借り方には、「連帯保証」「連帯債務」「ペアローン」の3つのパターンがあります。

連帯保証とは、夫婦のどちらか一人の名義で住宅ローンを借りて、もう一方が連帯保証を負う借り方です。
例えば夫が正社員で妻がパート社員など、夫婦の収入に大きな差がある場合などには、連帯保証で住宅ローンを借りるケースがよく見られます。

連帯保証では、住宅ローンの返済義務はまず借りている人自身が負います。
しかし借りている人がなんらかの理由で返済できなくなった場合は、連帯保証人が返済義務を負わなければなりません。

これに対し連帯債務は住宅ローンを借りた人と同等の返済義務を、もう一方の連帯債務者も負う借り方です。
住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して取り扱う【フラット35】では、夫婦が収入を合算して借り入れるときに連帯債務の契約になります。

連帯債務は夫婦が共同で住宅ローンを借りている形です。
したがって夫婦の一方が返済できるかどうかにかかわらず、もう一方にも返済義務が生じることになります。

このほか夫婦がそれぞれ住宅ローンを借りる形がペアローンです。
ペアローンはほとんどの金融機関が対応しており、夫婦で同じ金融機関から借り入れる形になります。

ペアローンで返済義務を負うのはまず借りた人ですが、もう一方も連帯保証人になるケースが多いので、その場合は借りた人が返済できない場合は肩代わりしなければなりません。

住宅の名義と住宅ローンの名義は直接連動しませんが、住宅ローンの借入分は借りた人の出資額となるので、その分の名義は借りた人の名義にする必要があります。
もし住宅ローンを借りておらず、自己資金からの出資もしていない人が住宅の名義を持っていると、出資した人からの贈与と見なされるので注意してください。

ちなみに連帯保証では住宅ローン控除が受けられるのは借りた人だけですが、連帯債務とペアローンは夫婦ともに控除を受けられます。
また連帯保証では借りた人が亡くなると団体信用生命保険(団信)の保険金でローンの全額が完済されますが、ペアローンでは亡くなった人が借りた分しか完済されません。

連帯保証でも団信に加入していた人が亡くなれば保険金が支払われますが、加入していない人が亡くなってもローンは残ります。
ただし、少し保険料の高い夫婦連生型の団信に加入すれば、夫婦のどちらが死亡しても保険金が支払われます。

離婚時のペアローン(共有名義)の注意点とは?連帯保証・連帯債務との違い、財産分与などについて解説

共働き夫婦の住宅ローンの借り方による違い
  連帯保証 連帯債務 ペアローン
ローンの名義 借りた人一人の名義 夫婦二人の名義 夫婦それぞれの名義
返済義務 借りた人が返済できない場合は連帯保証人が負う 夫婦二人とも同等に負う 借りた人が返済できない場合は連帯保証人が負う
住宅名義との関係 借入分は借りた人の名義 夫婦二人の名義(収入に応じて按分するケースが一般的) 夫婦二人の名義(借りた額に応じて按分)
住宅ローン控除 借りた人のみ受けられる 夫婦二人で受けられる 夫婦二人で受けられる
団信 借りた人が死亡したときのみ保険金が支払われる 保険に加入した人が死亡したときに保険金が支払われる 死亡した人が借りていたローンのみ保険金が支払われる

3.住宅ローンの残高

住宅ローンが今いくら残っているのか、残高も確認しましょう。
離婚するときに自宅を売却して清算しようと思っても、売却価格が住宅ローンの残高を下回っていると売却代金で住宅ローンを全額完済することができません。

住宅ローンの残高は金融機関から送られてくる償還表(返済予定表)を見ればわかります。
償還表には月々の返済額とその元金と利息の内訳、融資残高が記載されているので、現在の月の融資残高の欄を見ればいいのです。

住宅ローンの残高は金利によって変わります。
固定金利で借りている場合は最初に借りたときの償還表が変わることはありませんが、変動金利の場合は6カ月ごとに金利が見直されるケースがほとんどです。

そのため、変動金利の場合の償還表は6カ月分しか記載されておらず、6カ月ごとに金融機関から送られてくることになっています。
もし手元に最新の償還表がない場合は、金融機関に問い合わせてみてください。

元利償還表イメージ

(写真/PIXTA)

4.現在の住宅の価格

現在の住宅ローン残高がわかったら、続いて現在の住宅の価格を調べます。
売却価格で住宅ローンを完済できるかどうかは、その住宅がいくらで売れるかで決まるからです。

自宅の売却価格を調べるには、まずSUUMOなどの住宅情報サイトを利用して自分で情報収集することから始めます。
自宅の周辺で広さや間取り、築年数などが似たような物件がいくらで売りに出されているかを調べれば、売却価格のおおまかな相場がわかるでしょう。

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より正確な売却価格を知るには、不動産会社に価格査定を依頼する必要があります。
不動産会社にメールや電話などで自宅の条件を伝え、簡易査定を受けるのです。

簡易査定は駅からの距離や広さ、築年数などのデータに基づく机上の金額なので、不動産会社によって大きな差が出ることもあります。
査定は無料で受けられるので1社だけでなく、複数の不動産会社に依頼して比較するようにしましょう。不動産の一括査定サービスを利用すれば、複数の不動産会社に一度に査定依頼できます。一社ずつ査定依頼する手間を省けるためおすすめです。

通常の売却活動であれば簡易査定から不動産会社を絞り、実際に物件を見に来てもらって詳細査定(現地査定)をしてもらいます。
ただし実際の売却活動がまだ先であれば、ひとまず簡易査定だけでもかまいません。

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住宅ローン残債と現在の住宅の価格を調べよう

 

【ケース別】離婚時の住宅ローン状況別の対処法

離婚時の住宅ローンの状況によって、家を売却する際の対応は変わってきます。以下6つのケース別に、それぞれの対処法をみていきましょう。

・アンダーローン(住宅ローン残高が自宅の売却額を下回る)の場合
・オーバーローン(住宅ローン残高が自宅の売却価格を上回る)の場合
・単独名義(連帯保証)の場合
・共有名義(連帯債務)の場合
・共有名義(ペアローン)の場合
・売却せず、どちらかが住み続ける場合

アンダーローン(住宅ローン残高が自宅の売却額を下回る)の場合

離婚するときに自宅を売却する場合、住宅ローンの残高と自宅の売却額との関係によってその方法が大きく異なってきます。

まず住宅ローン残高が自宅の売却額を下回る「アンダーローン」の場合は、自宅を売却することで住宅ローンを完済することができます。
したがってアンダーローンの場合は自宅を売却し、手元に残ったお金を夫婦で分ける「財産分与」とするケースが一般的です。

財産分与とは、離婚をした二人のうちどちらかがもう一方に対して財産の分与を請求できる制度のことです。
財産分与には以下の3つのタイプがあり、清算的財産分与が一般的とされています。

財産分与の種類
清算的財産分与 夫婦が共同で形成した財産を公平に分配する
扶養的財産分与 離婚後に元配偶者が困窮する場合の生活保障
慰謝料的財産分与 離婚の原因をつくったことへの損害賠償

自宅が夫婦いずれか一方の名義になっていても、実際には夫婦の協力によって取得されたものであれば財産分与の対象になります。
もし離婚後に夫の収入で住宅を購入し夫の単独名義になっていたとしても、妻が家事などを分担して夫を支えていた場合は、夫婦の共同財産として財産分与の対象となるでしょう。

財産をどのように分けるかは、公平性を基本に生活保障や損害賠償の要素も考慮しながら話し合いで決めることになります。
話し合いで解決できないときは、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることが可能です。
家庭裁判所の審判では、夫婦の財産を2分の1ずつ分けるように命じられるケースが多いようです。

財産分与のタイミングは必ずしも離婚と同時でなくてもかまいません。
ただし、家庭裁判所への申し立ては離婚から2年以内が期限となるので注意が必要です。

オーバーローン(住宅ローン残高が自宅の売却価格を上回る)の場合

今の住宅ローン残高が、不動産会社への査定依頼などで判明した自宅の売却価格を上回る状態が「オーバーローン」です。
オーバーローンの状態では自宅を売却してもその代金で住宅ローンを完済できないので、金融機関が設定した抵当権を抹消できず、売却することができません。

ただし売却価格と住宅ローン残高との差額がさほど大きくなければ、差額分を預貯金などで繰り上げ返済すればローンを完済できるので、売却も可能です。
この場合は預貯金を切り崩しても売却後の住み替えなどに支障が出ないかどうかなどを、慎重に検討する必要があるでしょう。

オーバーローンとは?不動産売却時のリスク、アンダーローンとの違い、メリット・デメリット 

住宅売却のイメージ

(写真/PIXTA)

単独名義(連帯保証)の場合

自宅の名義が夫婦どちらか一方の単独名義だった場合は、基本的に名義をもつ人の判断で売却することが可能です。
ただし前述したように名義のない配偶者にも財産分与の権利があると考えられるので、自宅を売却して住宅ローンを完済し、残った代金については二人でどのように分けるかを決める必要があります。

また自宅が単独名義のケースでも、住宅ローンは連帯保証としている場合が少なくありません。
住宅ローンの残債が売却価格を下回るアンダーローンであれば売却すればローンを完済できますが、残債が売却価格を上回るオーバーローンで売却できない場合は注意が必要です。

というのも、住宅ローンが残っている場合は連帯保証人による保証も残るからです。
例えば夫の単独名義で妻が住宅ローンの連帯保証人になっている場合では、自宅を売却せず妻だけが住み続けるケースが考えられます。

この場合、ローンの返済は基本的に夫が続ける場合が少なくないでしょう。
しかしなんらかの理由で夫のローン返済が滞ってしまうと、金融機関から妻に対して返済を求められることになるのです。

離婚問題のイメージ

(写真/PIXTA)

共有名義(連帯債務)の場合

自宅が夫婦の共有名義になっていた場合は、売却するときに名義人全員、つまり夫婦の合意が必要になります。
自宅を売却して清算することに合意できれば、あとは売却して住宅ローンが完済できるかどうかの問題になるわけです。

もし住宅ローンの残高が売却価格を上回るオーバーローンの状態であれば、売却できずにどちらか一方が住み続けるケースも少なくないでしょう。
この場合、住宅ローンが連帯債務であれば、住まなくなった一方にも住宅ローンの返済義務が残ることになります。

連帯債務では夫も妻も同等に返済義務を負う形になります。
もし妻が自宅に住み続け、夫がローン返済に協力的でなかった場合、金融機関は妻に夫の分のローンも返済するよう求めることが可能です。
この場合は連帯保証とは異なり、妻が「まず夫に返済するよう催促してほしい」と主張することができないので注意が必要です。

なお共有名義の住宅を売却した場合、通常は名義の持ち分に応じて売却代金を按分します。
しかし離婚の場合は財産分与の意味合いが生じるため、持ち分に関係なく2分の1ずつ按分するなど話し合いによって決めることができます。

ちなみに離婚時の財産分与で持ち分を超える売却代金を受け取った場合でも、通常は贈与税はかかりません。
ただし以下の場合は贈与税がかかるので注意してください。

離婚時の財産分与でも贈与税がかかるケース

(1)分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多すぎる場合
(2)離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合

共有名義(ペアローン)の場合

自宅が夫婦の共有名義で、住宅ローンがペアローンの場合はどうでしょう。
この場合、夫婦の合意があれば売却が可能で、ローン残高が売却価格を下回るアンダーローンであれば売却して清算することもさほど問題ありません。

ローン残高が売却価格を上回るオーバーローンで売却が難しい場合は、夫婦のどちらが住み続けるにせよ住宅ローンの返済が続くことは連帯債務と同様です。
ペアローンの場合、それぞれの住宅ローンの返済義務は借りている人がそれぞれ負うことになります。

ただしペアローンの場合は配偶者が連帯保証人になっているケースが多くなります。
その場合、借りている人の返済が滞った場合は配偶者が返済義務を負うことになるリスクがあるので注意が必要です。

離婚時のペアローン(共有名義)の注意点とは? 連帯保証・連帯債務との違い、財産分与などについて解説

離婚問題のイメージ

(写真/PIXTA)

売却せず、どちらかが住み続ける場合

住宅ローンが残っている自宅を売却せずに住み続ける場合、住宅ローンの名義人が住むのか、あるいは非名義人が住むのかによってメリット・デメリットが異なります。

まず住宅ローンを借りている名義人が住み続ける場合は、離婚前と変わらず住んでいる人がローンを返済し続ければよいので特に手続きは不要です。
ただし、配偶者が非名義人であっても連帯保証人になっているケースが多いため、名義人の返済が滞った場合は連帯保証人に返済義務が生じてしまいます。

そうしたリスクを避けるには連帯保証人の変更を金融機関に申し出る方法が考えられますが、実際には金融機関が変更を認めないケースも少なくないようです。

一方、非名義人が住み続ける場合は、居住していない名義人が住宅ローンを返済することになりますが、金融機関がそれを認めてくれない場合も考えられます。
その場合は住宅ローンを事業用ローンなどに借り換えるか、名義人を変更する方法が考えられますが、いずれも実際には難しいでしょう。

また非名義人が住み続けて名義人が住宅ローンを返済することができたとしても、名義人の返済が滞った場合は非名義人が返済を肩代わりするか、もしくは立ち退きを迫られることになりかねません。

離婚の話し合いのイメージ

(写真/PIXTA)

家の売却は離婚前・離婚後、どちらのタイミングでやるべき?

家の売却と離婚のタイミングは夫婦によって異なります。離婚前に売却するケースと離婚後に売却するケースのメリット・デメリットをそれぞれ解説しますので、自分に合ったほうを選択しましょう。

離婚前に売却するケース

離婚後に相手と連絡を取りたくない場合は、離婚前の売却がおすすめです。家の売却手続きが完了するまでには数ヵ月ほどかかり、その間は適宜連絡を取り合う必要があります。連絡の過程で新たなトラブルが発生する可能性もあるため、離婚後のトラブルを避けたいなら、離婚前に売却の手続きをすべて済ませておきましょう。
ただし、離婚前に売却するケースでは、早く売却を済ませたいからと売却の条件を妥協してしまう可能性があります。売却を慎重に行ないたい方は、離婚後に売却するほうが向いているでしょう。

離婚後に売却するケース

離婚してから家を売却する場合は、手続きにしっかりと時間をかけられるため、希望に近い形で売却できる可能性が高まります。とはいえ、手続きのために、離婚後も連絡を取り合わなければなりません。相手との話し合いが問題なくできるのであれば、離婚後の売却がおすすめです。

離婚時に住宅を売却するときの注意点

養育費の負担と住宅ローン返済

未成年の子どもがいる夫婦の離婚では、養育費の負担が問題となります。
さらに住宅ローンの返済が残っている場合は、返済負担との兼ね合いも考慮する必要があります。

子どもが住む住宅の住宅ローン返済は、養育費には含まれないのが通常です。
しかし離婚したいずれか一方が住宅ローン返済と養育費の両方を支払うのは過重な負担となる場合が多いため、調整が必要になります。

この場合、例えば夫が養育費を負担するケースでは、夫による住宅ローン返済を減額するといった方法もあり得ます。
離婚した二人のどちらがどの程度負担するのか、住宅ローンの残高や子どもの年齢なども考慮して判断する必要があります。

養育費の負担を考えるイメージ

(写真/PIXTA)

財産分与と慰謝料は異なる

慰謝料とは、不法行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金です。相手方の不貞などが原因で離婚する場合、もう一方は不貞を行なった相手方に対して慰謝料を請求できます。財産分与と慰謝料は請求の目的が異なるため、それぞれ個別の請求が可能です。ただし、財産分与と慰謝料の協議は同時並行で行なわれることが多く、慰謝料を考慮して財産分与の金額を決定することもあります。離婚に際して慰謝料を請求する可能性がある場合は、そのほかの費用も併せてどのように請求するかよく考えておきましょう。

公正証書を活用する

離婚時に慰謝料や財産分与、養育費などの約束を交わすときは、具体的な金額を記載した離婚協議書を作成し、公正証書としておく必要があります。

公正証書とは公証役場で公証人に作成してもらう文書のことで、記載する金額に応じて手数料がかかります。
離婚協議書の場合は慰謝料・財産分与と養育費とで公正証書を分けて作成し、それぞれの金額に応じて手数料を支払うことになります。

公正証書作成の手数料
目的の価額 手数料
100万円以下 5000円
100万円超200万円以下 7000円
200万円超5000万円以下 1万1000円
500万円超1000万円以下 1万7000円
1000万円超3000万円以下 2万3000円
3000万円超5000万円以下 2万9000円
5000万円超1億円以下 4万3000円

公正証書を作成しておけば、相手側が約束を履行しなかった場合に裁判をせずに強制執行することが可能です。
仮に裁判になった場合でも、法的な拘束力をもつ文書として重要な証拠となるのです。

売却せず放置はトラブルの元

夫婦で住んでいた自宅を離婚後も売却せずに放置しておくことは、なにかとトラブルの元になります。

というのも、その住宅が夫婦の共有名義だった場合は、売却するときに両者の同意が必要になるからです。
数年後に売却しようと思っても、お互いに音信不通となっていた場合は連絡を取るのも困難になるかもしれません。

もし共有名義のまま売却せずに相続が発生すると、その住宅の名義が複数の相続人に引き継がれてさらに名義人が増えることも考えられます。
そうなると名義人全員の合意を取り付けて売却することがますます難しくなり、建物が老朽化して近隣に迷惑が及ぶ可能性も高まるでしょう。

そうした事態を未然に防ぐためにも、離婚時の自宅の処分は慎重に検討する必要があるのです。

売却せず放置はトラブルの元

離婚後の住宅ローンと住宅売却Q&A

最後に、離婚後の売却方法に関するよくある質問をまとめました。

住宅ローンの名義は変えられる?

自宅の住宅ローン残高が売却価格を上回るオーバーローン状態のため売却ができず、夫婦のどちらかが住み続ける場合、名義変更などをしたくなるケースが少なくないでしょう。

例えば夫が借りた住宅ローンを妻が連帯保証していた場合、夫の返済が滞ると妻に返済義務が生じるため、連帯保証人を変更できればリスクを回避できます。
また夫が単独名義で借りている住宅ローンを引き続き返済しようと思っても、自分が住んでいない住宅のローンは住宅ローンとして認めてもらえないケースでは、ローンの名義を妻に変更すれば問題を解決できそうです。

しかし、いずれの場合も住宅ローンの名義変更は金融機関が認めてくれないケースが多いようです。
ただし妻に住宅ローンを返済できるだけの十分な収入がある場合は例外的に名義変更が認められるケースもあるので、金融機関に相談してみるとよいでしょう。

離婚問題のイメージ

(写真/PIXTA)

住宅ローンの借り換えはできる?

住宅ローンの借り換えは通常、金利の高いローンから低金利のローンに金融機関ごと乗り換えるときに利用されます。
離婚するときも、夫の単独名義だった住宅ローンを借り換えて妻の単独名義にしたり、夫婦の連帯債務だったローンを借り換えて一方の単独名義にできればスッキリするでしょう。

離婚の際に住宅ローンの借り換えができるかどうかは、借り換え後の名義人に返済能力があるかどうかが重要になります。
例えば夫婦の連帯債務としていた住宅ローンを借り換える場合、十分な収入があれば妻の単独名義でローンを組むことも可能です。

離婚で家をどうする?売却・住み続ける・共有名義の選択肢と財産分与の注意点 

住宅ローンの返済に悩む女性のイメージ

(写真/PIXTA)

どうしても住宅ローンを完済できない場合は?

自宅を売却しても住宅ローンを完済できないものの、どうしても売却したいという場合は、「任意売却」という選択肢があります。

任意売却とは、住宅ローンが残った状態の住宅を、金融機関と合意のうえで売却する方法です。
売却できれば住宅に設定されていた金融機関の抵当権は抹消されますが、ローンについてはその後も無担保での返済が続くことになります。

任意売却は住宅ローンの返済が滞った場合の解決方法ですが、競売とは異なり立ち退きや売却を強制されるわけではありません。
また競売では市場価格より大幅に安く落札されてしまうケースが多いのですが、任意売却であれば不動産会社を通じて市場で売却されるので、通常の売却と変わらない価格で売れるメリットがあります。

任意売却とは?競売との違いやメリット・デメリット、手続きの流れを解説 

売却方法による「売却価格・プライバシー・売却後」の違い
  通常売却 任意売却 競売
売却価格 市場価格 市場価格 市場価格より大幅に安くなることが多い
プライバシー 秘密が守られる 秘密が守られる 裁判所やインターネットで情報が公告されてしまう
売却した後 住宅ローンの返済は残らない 残ったローンは返済が続く。自宅を賃借して住み続けられる場合もある 残ったローンは返済が続く。住宅は強制的に退去させられる場合もある

 

まとめ

  • 離婚時に住宅を売却するには、住宅や住宅ローンの名義、住宅ローン残高、現在の住宅の売却価格を事前に調べる必要がある。
  • 住宅ローン残高が売却価格を下回るアンダーローンの場合は、自宅を売却して財産分与する方法が一般的。
  • 住宅ローン残高が売却価格を上回るオーバーローンの場合、売却するには預貯金などを取り崩してローンを完済する必要がある。
  • 自宅を売却せずに住宅ローンの非名義人が住み続ける場合、相手方がローン返済を滞らせると立ち退かなければならないリスクがある。
  • 住宅ローンを完済できなくても、任意売却で自宅を売却する方法がある。
  • 慰謝料や財産分与、養育費などは離婚協議書を作成し、公正証書にしておくのが安心。

記事のおさらい

離婚で自宅を売る場合、まずは何をするべき?

住宅ローンが残っている自宅の場合は、住宅の名義、住宅ローンの名義、住宅ローンの残高、現在の住宅の価格の確認が必要です。

共有名義の自宅を売る場合の注意点は?

自宅が夫婦の共有名義の場合は、売却するときに名義人全員、つまり夫婦の合意が必要になります。売却に合意できれば、あとは売却してローン残債が完済できるかどうかの問題になります。

自宅を売っても住宅ローンを完済できない場合はどうする?

自宅を売却するためには、いったん住宅ローンを完済して金融機関が設定した抵当権を抹消する必要があります。そのため、売却予想額が残債の額を下回る場合は、その差額分を預貯金などで繰り上げ返済できるかどうかを検討しましょう。ただし、預貯金を減らすことで、住み替えなどに支障が出ないかどうかなどを、慎重に検討する必要があります。

養育費の負担があっても、住宅ローン返済の負担は変わらない?

どちらか一方が住宅ローン返済と養育費の両方を支払うのは過重な負担となる場合が多いため、調整が必要になります。離婚した二人のどちらがどの程度負担するのか、住宅ローンの残高や子どもの年齢なども考慮して判断し、公正証書を作成しておきましょう。

イラスト/石山好宏

●監修
蒲原茂明さん

野田総合法律事務所パートナー弁護士
不動産鑑定士 明海大学不動産学部非常勤講師

弁護士兼不動産鑑定士として不動産関連の法律業務を幅広く取り扱う。

●監修/税理士法人タクトコンサルティング
個人の相続・譲渡や贈与、法人の事業承継、組織再編、M&Aなど、個人・法人の資産税に関わるコンサルティングを手がけている。
●構成・取材・文/大森広司
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
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