住み替えを考えているけれど、今の家はいくらで売れるんだろう?
そんなことが気になったときに使えるのが不動産一括査定サービスです。一度の入力で複数の会社から査定結果を出してもらえるので、売却額のおおよその目安がつきます。本当に売るのか、それとも売らずに賃貸に出したほうがいいのか、決めかねている場合も査定の結果によって決めていくことができます。複数の査定結果を比較することで信頼できる不動産会社に出会えることも、一括査定サービスをオススメするポイントです。一括査定のポイントを不動産コンサルタントの岡本郁雄さんに聞きました。
記事の目次
不動産の売却を考え始めたとき、まずやることは?
信頼できる不動産会社を探す
昨今では一般個人同士で物を売買することも普通になってきましたが、不動産に関しては個人間売買はなじみにくいと言われています。不動産は高額な上に、個別の条件がそれぞれ違う「世界に一つだけの商品」なので売り値をつけにくく、また、その利用や売買にもさまざまな法律や税金がかかわります。隣地でも面している道路が違うだけで全く価格が違う、ということはよくあること。そのため、不動産売買においては不動産会社に間を取り持ってもらう=仲介をしてもらうことが一般的です。
売却を考え始めたらまず、大切な資産を任せられる、信頼できる不動産会社を探すことがスタートになります。
査定価格を比較し、適正な売値をつける
不動産の価格は「一物一価」、複数の不動産会社に売却を依頼する場合も同一価格で売り出すことがルールです。不動産は立地、形状、建物などの条件でひとつひとつが異なり、それに伴って価格も違ってきます。早く売却できると安心ですが、安値での売却は当然避けたいところです。一方、高すぎる価格をつけてしまうといつまでも買い手がつかないまま売れ残り、値下げを繰り返してしまうこともありえます。
愛着ある住まいに適正な価格をつけることは難しいのですが、複数の会社から査定を受けることで納得の価格をつけることができます。
例えば、3社に一括査定を依頼して次のような結果だったとします。
A社 3100万円
B社 2880万円
C社 2800万円
この例では、適正な売却価格は3100万円~2800万円の範囲内で、おおよそ2900万円前後が目安と想定されます。さらにA社B社C社それぞれから示された査定の根拠と照らし合わせながら、いくらで売るかを決めることができます。
不動産会社探しと査定依頼を同時にできるのが一括査定サイト
身近に売却相談ができる不動産会社を思い当たらないなら、一括査定サイトで査定依頼をしてみることをオススメします。
一括査定サイトは1回の情報入力で複数の会社の対応と査定額を比べられるため、売却活動をスムーズにスタートできます。1社ごとの電話相談や訪問相談は時間がかかる上に、予備知識がないまま最初に相談した会社と売却依頼の契約を結んでしまうことも。他の会社への変更は一定期間が必要ですので、同時に複数の不動産会社を比較した中から決定することが望ましいといえます。
一括査定サイトなら、不動産売却に自信を持つ会社のみがエントリーしている点も、安心して利用できるポイントです。
不動産一括査定サイトで、売却が得意な不動産会社を探そう
不動産会社にはそれぞれ専門分野がある
不動産会社と一口に言っても、全ての不動産会社が売却を得意としているわけではありません。不動産業は、オフィスビルなどの商業施設を除いた住宅分野だけでも複数に分けることができます。大きく分類すると、新築マンションや新築一戸建ての販売専門のデベロッパー、注文住宅を主に扱うハウスメーカーや工務店、個人の中古住宅と土地の売買を主に扱う仲介会社、個人から中古住宅を仕入れて再販売する買取再販会社、賃貸専門の賃貸仲介会社となります。社名だけでは専門分野が分かりにくいのですが、扱っている物件を店頭やホームページで見てみれば簡単に見分けることができます。
■主な不動産会社の種類
・デベロッパー、新築分譲会社
専門分野:新築マンション、まとまった規模の新築一戸建て・土地の分譲販売
不動産広告上での主な取引態様:売主
・ハウスメーカー、工務店
専門分野:1棟~数棟規模の新築一戸建ての建築と販売
不動産広告上での主な取引態様:売主
・販売会社
専門分野:新築マンション、新築一戸建て、土地の販売を売主会社から請け負う
不動産広告上での主な取引態様:販売代理、仲介
・仲介会社
専門分野:個人、法人の不動産売買を仲介する
不動産広告上での主な取引態様:仲介
・買取再販会社
専門分野:中古物件を買い取り、リフォームして販売する
不動産広告上での主な取引態様:売主
・賃貸仲介会社
専門分野:個人、法人の賃貸を仲介する
不動産広告上での主な取引態様:仲介
専門分野で分けると上記のようになりますが、仲介会社が新築マンションの販売、中古物件の買取、賃貸の仲介など複数の事業を行うことも一般的です。
売却は不動産「仲介」会社に依頼しよう
上記のように、不動産会社にはそれぞれ専門分野があります。新築マンションや新築一戸建ての分譲会社は、通常は仲介をメインの業務としていません。個人が売却を考えるときは、さまざまな要望を持つ購入希望者との間をマッチングする「仲介」の存在が必要です。スムーズな売却をするためには、物件査定や販売のノウハウも持っている不動産仲介会社に依頼することがセオリーです。
不動産査定は無料
売却価格査定には、通常、料金はかかりません。支払いの発生は売買契約が成立したときと法律で規定されていて、売買契約が成立したら仲介手数料を成功報酬として不動産会社に支払います。価格査定のためには調査資料の取り寄せやデータ作成が必要になりますが、その分の費用を査定時に請求されることはありません。
ただし、遠い物件に出張査定を依頼するなど、特別な依頼については実費を支払うことになります。そういった場合は、事前に誰が旅費を支払うのか取り決めておくべきで、もし不動産会社が無断で査定に出向いたとしても旅費を支払う義務はありません。
査定には簡易査定(机上査定)と訪問査定がある
売却金額の査定には、簡易査定と訪問査定の2種類があります。
簡易査定は、所有者が伝えた物件情報を元に、周辺の取引事例などと比較して概算で提示される査定です。
訪問査定は、現地に出向き土地や建物の現況も確認して出される査定です。
簡易査定は、いくらで売れるのか感触を知りたいといった場合など、不動産売却の最初のステップです。
次から売却初心者のための、査定の流れを説明していきます。
不動産一括査定から売却活動までの流れ
不動産の一括査定から、売却活動の開始までは以下のような流れとなります。
不動産一括査定サイトで簡易査定(机上査定)を依頼する
↓(※2~3日中)
不動産会社ごとに、簡易査定結果がメールや電話で通知される
↓
複数社に訪問査定を依頼する
↓(※通常は1週間ほど)
訪問査定の結果通知 不動産会社の査定結果を比較検討する
↓
売却を依頼する不動産会社を選ぶ
↓
信頼できる不動産会社と媒介契約を結ぶ
↓
売却活動の開始
不動産一括査定サイトで簡易査定(机上査定)を依頼する
簡易査定は、机上査定とも呼ばれています。最大のメリットは手軽なことです。今や、パソコンやスマートフォンの情報入力だけで査定を依頼することは普通のこととなりました。ここではさらに手軽さをアップする、不動産一括査定サイトの利用をオススメします。
ホームページに売却査定コーナーを設けている不動産会社もありますが、一括査定サイトも使うことで、複数の会社に一度に査定を依頼することができます。知らなかった不動産会社を査定依頼候補として発見できるのも特徴です。全国展開している会社のほか、地域密着型の会社、マンションを中心に扱う会社、賃貸部門がある会社、税金の相談に乗ってくれる会社、など違うタイプの会社から思わぬ提案を受けることもあるでしょう。
簡易査定を依頼する会社の数に制限はありませんので、相場価格の目安がつきやすいよう複数社を選択することをオススメします。
簡易査定のメリット・デメリットは、それぞれどのようなものなのでしょうか。
■簡易査定のメリット
・簡単な情報の提供・入力だけで査定してもらえる
・査定結果を比較的早く受け取れる
・売却価格の目安がつく
・売却を迷っている段階でも気兼ねなく査定依頼できる
・一括査定サイトを使えば、複数の会社に同時に依頼できて手間と時間が省ける
・複数の会社を比較することで、相性のいい会社と出会える
・無料
■簡易査定のデメリット
・現地確認をしていないため、正確な査定ができないことがある
・担当者と直接会えない不安がある
・情報補足のために何度も問い合わせが来ることがある
・意図せず不動産会社から電話が来ることがある
不動産会社担当者と直接会わないことは手軽な半面、人物像がぼんやりして対応しにくく感じるかもしれません。不動産コンサルタントの岡本郁雄さんによると「会社のホームページでスタッフの顔写真やプロフィールを公開している会社がありますので、確認してみてください。こうした会社は同業者から見ても信頼感があり、宅地建物取引士の有資格者が多いとわかれば安心感が高まります」。
また、電話番号の記入欄は必須となっていることが多いですが、メールで連絡してほしい場合や電話の希望時間帯がある場合は備考欄などに記入しておきましょう。
複数社に訪問査定を依頼する
簡易査定で売却価格のイメージができたら、訪問査定を依頼しましょう。不動産の価格は建物の傷み具合やちょっとした立地条件でも大きく変わります。「特に土地は、形状・道路との位置関係で価格振れ幅が大きく、現地の確認がないままの査定は困難です」と岡本さん。
複数の訪問査定により、査定の精度もアップします。
訪問査定をスムーズに実施するために、事前に必要な資料を尋ねておき、当日手元にそろえておきましょう。
■訪問査定までにそろえておきたい資料
・登記済証または登記識別情報
・土地の測量図
・購入したときの販売資料
・住宅ローン返済表
など
■訪問査定のメリット
・現地確認により正確な査定ができる
・査定価格につながる要素について質問できる
・不動産の活用や税金などについて質問できる
・売却活動にあたってのセールスポイントを確認できる
・不動産会社の担当者と直接会って相性を確かめられる
■訪問査定のデメリット
・時間がかかる
・遠方の場合、交通費などの費用がかかる
訪問査定は土地や建物の状態を確認するだけではなく、不動産のプロに無料でアドバイスを受ける絶好の機会でもあります。売却予定の土地や建物について、疑問があれば確認しておくとよいでしょう。「例えば、郊外エリアの広すぎる土地は購入希望が限られ査定が低くなることがあります。ですが、道路状況や測量状況で土地分割が可能と判断できたら、分割後に売却する方法もあります。こうした土地の状況を把握することで査定価格も変わってきます」(岡本さん)
不動産会社の査定結果を比較検討する
複数社に訪問査定を受けたら、その結果を比較します。一番高い金額が適正価格とは必ずしも言い切れないため、必ず査定価格の理由を確認しましょう。会社ごとに違う価格で売り出すことはできないので、根拠に納得できた査定額を基準に売却価格を決定しましょう。
売却を依頼する不動産会社を選ぶ
訪問査定を依頼した会社のうち、どこの会社に売却を依頼するかを決定します。売却が完了するまで何度もやりとりをすることになりますから、ぜひ訪問査定で相性のいい会社に出会ってください。相性のいい会社がいくつかあったら、一般媒介契約というかたちで複数の会社に依頼することもできます。
信頼できる不動産会社と媒介契約を結ぶ
不動産会社と媒介契約を結ぶことによって、正式な売却活動がスタートします。「売却完了後に満足するためには、売却金額だけではなく間に立つ不動産会社との信頼関係がより重要です」と岡本さん。3種類ある媒介契約の大まかな違いを理解して、信頼できる不動産会社と契約を結びましょう。
媒介契約の主な違いは契約できる会社の数と、自分が探した買主と直接取引ができるかどうか、の2点です。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
---|---|---|---|
契約社数 | 複数可能 | 1社のみ | 1社のみ |
売主自らが探した相手との直接取引 | ○ | ○ | × |
契約の有効期間 | 法令上の制限はないが、行政指導では3カ月以内 | 3カ月以内 | 3カ月以内 |
指定流通機構 レインズへの登録 | 任意 | 契約締結翌日から7日以内※ | 契約締結翌日から5日以内※ |
業務の報告義務 | 任意 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
「専任」「専属専任」を契約したら、その期間内に別の会社と媒介契約を結ぶことはできません。「一般」では別の会社と結ぶことはできますが、多くの場合どこの会社と契約しているか明示する約束をします。
複数の会社に売却活動をしてもらいたい場合は「一般媒介」を選択します。各社に競って売却活動をしてもらえる期待が持てますが、業務報告の義務がなく会社それぞれに対応が必要ですのでコントロールの手間がかかります。また、不動産会社から見ると、「一般媒介」は自社で売却できるとは限らないので、積極的な販売活動をしない可能性もあります。販売費用をかけて売却活動をしても、その間に他社が売却してしまった場合は、仲介手数料は自社に入らず、かけた費用も無駄になるからです。
「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」は信頼できる不動産会社1社のみと契約を結ぶときに選択する契約です。どちらも1社のみを選んで結ぶ契約ですが、自分が直接発見した相手と取引する可能性があるときは「専任媒介契約」を選びましょう。1社でも物件情報を抱え込まず広く告知して売却を進めるように、国が定めた流通機構(レインズ)へ物件情報を登録することと、売主への業務報告義務が規定されているので安定した売却活動ができます。他社に売却されるリスクがないので、不動産会社が積極的に販売活動を行うことが期待できます。ただし、1社としか契約ができないため、その会社の力量次第で売却時期や金額が左右されることがあります。
自分が発見した相手と直接取引する自己発見取引の可能性が高いときは、「一般媒介」「専任媒介」を選択します。自己発見取引では仲介手数料を不動産会社に支払う必要がありません。「専属専任媒介契約」では自己発見取引は認められず、その場合でも仲介手数料を支払います。
契約書面では、仲介手数料の支払いについても確認します。不動産会社に支払う仲介手数料の金額は、売買価格の3%+6万円+消費税と、上限金額が法律で決まっていて媒介契約による差はありません。成功報酬ですので、支払うのは買主との売買契約時と物件の引き渡し時です。
訪問査定を依頼する不動産会社の選び方
訪問査定の会社は複数社に依頼しよう
訪問査定を依頼する会社を選ぶとき、簡易査定で最高額を出した会社にこだわることはありません。メールや電話でのやりとりで、納得できる根拠を提示してくれた会社を選択します。 依頼する数は担当者との相性もありますので、少し面倒ですが、複数の会社に訪問査定してもらえるようスケジューリングしてみましょう。「売却したい物件と近しい物件を多く扱っている地元密着の会社ならエリア特性に通じた査定が期待できます。マンション販売に実績がある会社、公団物件の売買を中心に扱っている会社、事業用物件に強い会社、物件特性に合わせた仲介会社の選択をすることもオススメです」(岡本さん)
各社の特徴を見極めるため、訪問は同時ではなく1社ごとに来てもらうのがベターです。
最初の訪問査定に満足した場合、その場で媒介契約までしたくなりますが、先に1社と契約してしまうと他社との契約が困難になります。全社の訪問査定を受けてから、媒介契約する会社を決めること。せっかくですから、不動産のプロにたくさんアドバイスをしてもらう機会にしましょう。
訪問査定時に買取を提案してくれる会社も。仲介との違いは?
不動産売買で、売主と買主の間に不動産会社が間を取り持つ取引が「仲介」。「買取」は、売主から不動産会社が直接購入する取引です。個人の売主にとっての大きな違いは、「仲介」では不動産会社に仲介手数料を支払う必要があり、「買取」は仲介手数料を支払う必要がないことです。
一方、売主は仲介手数料を支払わなくていい半面、「買取」査定価格は「仲介」の査定価格より2~3割低くなることが多いようです。買取再販会社は中古物件にリフォームを施したあと再販売して利益を得るため、相場より安く購入することが一般的な傾向です。
「買取」は個人ではなく会社による仕入れ購入なので、住宅ローン審査を待つ時間が不要で、早く確実に現金化できることが最大のメリットです。また、リフォームすることが前提なので室内の汚れや設備の不具合にも寛容ですが、より高額で売却したいなら「買取」査定だけではなく、「仲介」査定もしてもらって比較しましょう。多くの場合仲介会社も買取再販会社も、「仲介」「買取」両方の査定を出してくれます。
■買取と仲介の比較
[売却価格の傾向]
買取・・・相場価格の7割~8割(リフォームして再販するケースが多い)
仲介・・・相場価格
[売却スピード]
買取・・・速い(契約から売却金の支払いまでスムーズ)
仲介・・・時間がかかることがある(契約内容、引き渡し時期に個々の条件がある)(購入者の住宅ローン審査に時間がかかる)
[仲介手数料]
買取・・・不要
仲介・・・必要(売却価格の3%+6万円+消費税を上限とした額を仲介会社に支払う)
[建物、設備の不具合への対応]
買取・・・寛容な場合が多い(リフォームを前提にしているケースが多い)
仲介・・・厳しく評価される(個人のマイホーム検討時は理想の住まいを求める傾向にある)
物件購入サイトの情報も参考にする
訪問査定の依頼や媒介契約を結ぶタイミングで、不動産会社を選びきれないとき、SUUMOのような不動産ポータルサイトの物件情報も参考にしてみましょう。
早く高く売るためには、広く買主を探す活動が必要です。売却が得意な会社であれば、通常からポータルサイト、チラシ、店頭広告などで積極的に買主を募集しています。ポータルサイトならパソコンやスマートフォンで条件を絞って検索できるので、エリアで物件情報を多く掲載している会社に注目してみましょう。丁寧な広告を心がけているかどうかをチェックすることができます。物件の魅力を写した写真とともに的確なセールスポイントが記載されていれば、自分の不動産の売却も任せたくなるものです。
また査定を受けた後もポータルサイトに掲載されている物件との価格差を質問してみると、不動産会社の地域精通度を推し量るヒントになります。
不動産一括査定サービスのよくある疑問
訪問査定の前にリフォームやハウスクリーニングをすべきか
不動産会社の訪問査定を受ける前に、リフォームやハウスクリーニングをする必要はまったくありません。築年数が古くなって汚れが目立つ室内に他人に入られるのは気がひけるものですが、不動産会社の担当者には見慣れた現場です。客観的に状態を判断できるので、むしろそのままの状態で見てもらうほうが的確な査定につながります。
売却活動に合わせてリフォームやハウスクリーニングをするかどうかについては、訪問査定の場で相談しましょう。最近は中古物件を好きなスタイルにリフォームしたい、DIYしたい、という層も増えていますので、リフォーム済み物件がかえって検討対象から外されることもあります。特に立地のいい高額の物件は、こだわりのリフォームを考える購入希望が多いため、リフォームしないまま売却することが多い傾向にあるそうです。 「ただし、閉まらないドアの蝶番を直すなど簡単にできる修繕はしたほうが良いです。丁寧に住んでいる印象を持ってもらえると、見学できない箇所についても安心してもらえます」(岡本さん)
中古一戸建てについては、耐震性能や床下のシロアリ有無など外から見えない部分を気にする購入希望者も多く存在します。資格を持った建築士に『ホーム・インスペクション』診断を受けて、リフォームするかどうか判断するのもいいでしょう。リフォームしない場合は診断を契約内容に反映できるので、引渡し後のトラブルが少なくなります。
ハウスクリーニングについては「見学者にいい印象を持ってもらえますし、数万円の費用でできるのでオススメです。居住中の場合はできるだけ綺麗に掃除、片付けをしましょう」と岡本さん。 見学者の内覧では、収納の中も見せてほしいと言われることがしばしば。見せられるよう整理しておきたいものです。
不動産査定書でチェックすべきポイントは?
不動産査定書では、査定金額と同時に、査定依頼した物件を何と比較しどう評価しているのかにも目を向けて見ましょう。売却情報はレインズやSUUMOなどポータルサイトにほぼ登録されているため、売出時の価格は比較的容易に手に入ります。
しかし、一番知りたい「実際の成約価格」の情報は、個人では入手しにくいのが実情です。「地元で実績のある不動産会社であれば、多くの成約価格を把握しています。この価格では売れなかった、などの情報も合わせた上での査定には信頼が置けます。ぜひ地元での取り扱い実績を聞いてみましょう」と岡本さん。
また、「査定は、どういう相手に売るか、買主の想定によっても上下します。古家付きの広い土地なら更地後に分割して売却する方法もあります。仲介会社の販売提案書にも目を通しましょう。作成した販売図面を見せてもらうことで、担当者に物件の魅力をきちんと伝える熱意があるかどうか判断することもできます」(岡本さん)。
売主としては高い価格で売却したいわけですが、「マーケットの動きが価格に大きく影響する場合があります。大規模な新築マンションの入居が一斉に始まると、買い替えのため周辺の中古マンションの売却が増えて値段が下がることがままあります。買い替えでは住み替え時期と売却時期は変更しにくいのですが、そういったマーケットの見立ても査定書に入っていると頼りになりますね」(岡本さん)。
簡易査定だけでも媒介契約はできる?
結論から先に言うと、媒介契約は可能です。「売却事例が豊富なマンションは、同じ建物内の売買事例と階層、広さなどを比較してある程度容易に適正な査定額を出すことができますので、売主が納得できれば媒介契約ができると思います」と岡本さん。
ただし、「不動産会社が売買仲介を行う場合は、本人確認する責務がありますので、通常は対面で媒介契約を結びます」(岡本さん)。
「やはり、高額になることが一般的な不動産取引は、現状を正確に確認してもらっておいたほうがトラブルを回避できます。相続物件で売主が現地を見ていないようなケースでは、しっかりと不動産会社に現地調査をしてもらったほうが安心です」と岡本さん。
匿名で一括査定をすることは可能?
原則的に、匿名での一括査定依頼はできません。 多くの一括査定サイトでは、名前とメールアドレス、電話番号、物件住所、間取りの記入が必要です。物件住所・間取りは簡易査定を行うための必須情報、名前・メールアドレス・電話番号は査定結果を通知するために必要です。簡易査定は無料ですが、簡易であっても、不動産会社には資料作成の手間がかかります。問い合わせ者からの正しい情報提供で価格査定をスタートして安全確実な取引に結びつける責任があり、必要に応じて追加情報の提供を求めることもあります。
不動産以外では匿名利用できるインターネットサービスは多いですが、不動産の売却査定に対しては、一括査定サイトも不動産会社ホームページ内の査定コーナーも、ほとんどの場合個人情報を記入して安全な取引につながるように企画されています。
個人情報の記入には抵抗がありますが、SUUMOの場合は、掲載している不動産会社と個人情報保護の契約をしています。
査定の結果はどれくらいで出る?
一括査定サイトでの簡易査定では、当日結果が出ることも。売却事例が多いマンションは特に、階層、広さ、向きで比較的容易に査定が可能です。サイトの運営会社から不動産会社へはタイムラグなく依頼が伝わる仕組みになっていて、査定結果は不動産会社から直接連絡がきます。訪問査定でもマンションの場合は早く査定を提示してくれます。訪問当日にデータなどを持参し、室内の状況も加えてその場で査定金額を出してくれる不動産会社も多いようです。
一戸建てや土地の査定はケースバイケースです。過去の取引事例が豊富なエリア内でその物件の形状と立地が特定できた場合は、当日に査定結果を受け取ることが可能です。類似の売却事例が少ない地域で、道路付けや形状が不明の場合は調査と情報収集のため、簡易査定でも3、4日程度かかります。
一括査定の申し込みから1週間以上たっても連絡がない場合は、サイトの問い合わせ先に連絡してみましょう。
一括査定で出た価格で売れる可能性はどのくらい?
「実績のある不動産会社の査定ならある程度は信頼できるでしょう」と岡本さん。
一括査定で出た価格と、実際売れる成約価格の差を事前に予測することはできませんが、複数の会社による査定額が類似しているケースはかなり的確だとも考えられます。
「査定額=売り出し価格というわけでもありません。価格が上がっているマーケットであれば、強気な価格設定でチャレンジする場合もあります。逆にマーケットが弱含みの場合は、価格設定に慎重になったほうが良いかもしれません。査定価格を参考にしながら売主の希望や状況を踏まえて仲介会社と打ち合わせましょう。高価格帯ほど査定価格と成約価格の差異は出やすいです。例えば査定価格が3000万円前後の中古マンションなどは、査定価格と成約価格の大きな乖離は出にくいと思います」(岡本さん)。
戸建てや土地は条件がマチマチで、一括査定の入力項目が不足していたら訪問査定時に大きく価格変更する場合もあるようです。
なお、売却物件への値引き交渉に対する対応も成約価格を左右する大切なポイントです。「購入を前提に値引き交渉が入ることもあります。この場合、反響や来場状況からの仲介会社のアドバイスを基に、応じるかどうか判断することになります。売却価格を決めるのは、あくまでも売主ですからもっと良い条件の申し込みを待つという選択もあります」(岡本さん)。
【画像で解説】不動産一括査定サイトの使い方
査定してもらいたい不動産の情報を入力する
では、実際に不動産一括査定はどのように申し込むのでしょうか。ここでは、SUUMOの売却 査定で記入の例を紹介します。
不動産情報の入力画面では、物件タイプ、所在地、物件の詳細を入力します。
手元に、不動産購入時の資料や登記簿謄本(登記事項証明書)を用意しておくとスムーズです。
物件の所在地:郵便番号を入力すれば、都道府県、市区郡、町名まで選択形式で入力完了できます
:字・丁目・番地名と、マンション名・号室を入力
物件の詳細:間取りを6つの中から選択
ワンルーム 1K /DK/ LDK 2K /DK/ LDK 3K /DK/ LDK 4K /DK/ LDK 5K以上
専有面積、築後年数を入力。資料を見ながら正確に記入したほうがベターですが、おおよそでもかまいません。
物件の所在地:郵便番号を入力すれば、都道府県、市区郡、町名まで選択形式で入力完了できます
:字・丁目・番地を入力
物件の詳細:一戸建ての間取りを6つの中から選択
ワンルーム 1K /DK/ LDK 2K /DK/ LDK 3K /DK/ LDK 4K /DK/ LDK 5K以上
土地面積、(一戸建て)建物延面積、(一戸建て)築後年数を入力。物件購入時の資料や登記事項証明書などを見ながら正確に記入したほうがベターですが、おおよそでもかまいません。
自分の情報を入力する
問い合わせ者の情報を入力します。
お名前:問い合わせ者の名前、読み仮名を入力 ご住所:前ページと同じ住所の場合は、「査定をする物件と同じ場合はチェックしてください。(住所入力が不要になります)」にチェックを入れます。異なるときは入力します。
ご連絡先:メールアドレス、電話番号を記入。査定結果を受け取るために必要な情報です。正確な査定のために不動産会社から問い合わせが来ることもあります。
お問い合わせ内容:まずは簡易査定をしてほしい、来店の予定をしたい、とにかく急いで売却したい、近所に知られずに売却したい、訪問査定をしてほしい、家族に知られずに売却したい、の項目の中から複数選択できます
査定を依頼したい不動産会社を選ぶ
不動産と自分の情報を入力すると、その物件の査定が可能な会社が表示されます。
表示されている会社から、査定を依頼したい会社をチェックしましょう。複数社選択しておくと査定価格が出たときにばらつきがあっても、適正価格が判断しやすくなります。同じ不動産会社の別店舗が表示されることがありますが、営業担当者との相性もありますので、同時選択してもかまいません。
希望の売却価格・時期などを入力する
この先は必須項目ではありませんが、希望があれば入力したほうがバラバラに各社に伝えるよりも査定がスムーズに進みます。入力が済んだら確認画面に進み、送信ボタンをクリックすれば査定依頼は完了です。 送信が終了したら、自動配信メールが届くので、査定をどこに依頼したかを再確認できます。
売却希望時期:できるだけ早く、3カ月以内、6カ月以内、1年以内、1年以降の5つから選択。
売却希望価格:住宅ローン残高が残っている場合はその金額を超えた売却をしたい、など希望があれば入力します。
その他ご要望など:「賃貸料の査定も欲しい」といった不動産の見立てのほか、連絡方法についての要望があれば入力しておきましょう。
簡易査定結果が届く
不動産会社に査定依頼が伝わり、不動産会社から簡易査定の結果が届きます。早ければ当日に、メールで査定結果が到着します。入力情報だけでは査定が難しい場合などには、メールや電話で連絡がある場合もあります。
万が一、7営業日内に査定結果が届かない場合は、送信ボタンを押した後に届くSUUMOからのメールの案内に従い、SUUMO問い合わせ先に連絡すれば、再度不動産会社に査定の連絡が入ります。
各会社からの査定結果が届き、売却価格のイメージができたら、訪問査定を依頼しましょう。訪問査定の申し込み以降は、各会社と直接メールや電話でやりとりをします。訪問査定の日時を打ち合わせる際には、査定時に必要な資料を尋ねて用意しておくとスムーズです。
不動産の一括査定で売却を成功させよう
各会社からの査定結果がそろったら、価格にばらつきがあったとしてもおおよその売却金額が想定できるはず。同じ条件で依頼できるので各会社の根拠を比較しやすいメリットがあります。次のステップとなる訪問査定を依頼する会社選びに役立ちます。不動産一括査定サイトを賢く利用して、大切な不動産の売却を成功させてください。
まとめ
- 不動産一括査定サイトは一度に複数の会社から査定を受け取れるので、査定の目安を付けやすく、信頼できる不動産会社に出会うきっかけにもなる
- 査定には簡易査定(机上査定)と訪問査定がある。まず簡易査定からスタートした場合も、現地の確認をする訪問査定で正確な査定を出してもらうことが必要
- 訪問査定価格の根拠や担当者との相性を重視して、信頼できる不動産会社に売却を任せよう
●取材協力・監修
不動産コンサルタント 岡本郁雄(おかもと いくお)さん
ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士、公認 不動産コンサルティングマスター。1989年にリクルート入社、不動産コンサルティング会社などを経て2004年に独立。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティングやコンサルティング、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。神戸大学工学部卒。
取材・文/池上香夜子 イラスト/タバタ画房