
大切な資産である住まいを売却したとき、買主から最初に受け取るのが手付金です。
手付金の相場は売買価格の5~10%が相場ですが、法律上は20%まで設定することが可能です。
手付金は単なる売買の意思確認ではなく、契約完了まで重要なポジションを持つお金であり、返還が生じた時にはそれに充てたり、引き渡し時までに何事もなければ購入価格の残額に充てられることが多いです。
個人が売主になる場合においての、手付金の相場や契約上の役割にスポットを当てて解説します。
記事の目次
不動産売却の手付金とは
手付金の目的は、売買成立の証とトラブル防止
不動産売却時において、売買代金は一気に受け取るのではなく、先に手付金として一部を買主から受け取り、引き渡し時に残金を受け取ることが慣習となっています。手付金の性質は契約内容により多少異なりますが、主に3つの目的があるとされています。
(1)証約手付
売買契約の成立を、契約書とともに手付金の支払いで明確にします
(2)解約手付
売主からの解除なら手付金倍返し、買主からの解除なら手付金放棄と、双方に契約の解除権を認めます
(3)違約手付
契約での取り決め(債務)を実行しなかった際に、違約金として没収される対象になります
不動産の取引にあっては解約手付性質を有しており、双方が解除を行うことができます。手付解除ができるのは、相手方が履行に着手するまでとされていますが、多くはトラブルを防ぐため手付解除ができる期間を記載します。
不動産コンサルタントの岡本さんによると「手付金の授受があり期間に定めがあれば双方の契約リスクを限定することが可能で、無用なトラブルを防ぐことができます」。

内金・申込金とはどう違う?
「手付金」は民法に規定されているお金。売買において「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる」(557条)と解約手付としての目的を推定して規定しています。
「内金」「申込金」は耳にすることがありますが、「手付金」と異なり法律に規定はなく、商慣習で使われている表現です。
「内金」は、注文住宅の建築を請け負う建築会社が施主から手付金を受け取ったあと合意の上、中間金としてさらに施主から受け取るお金。手付金と違い、放棄や倍返しで契約を解除する法的根拠はありません。
「申込金」は「申込証拠金」とも言われ、新築物件の分譲購入や賃貸の申込者の意思を表すもの。分譲の場合は、売主の会社または代理の会社が受け取り、契約時に手付金に充当することが一般的です。賃貸では、不動産会社がオーナーに代わって一時的に預かるため返金でのトラブルが多く、あまり推奨されていません。
いずれにしろ中古住宅の売買契約では、法的根拠のある「手付金」ではない「内金」「申込金」を設定することはほとんどありません。
手付金の相場は?
法律上は売主が不動産会社なら20%が上限。個人なら上限はなし
手付金の金額は、買主と合意ができれば自由に決められます。極端なことを言えばゼロでもいいですし、契約時に全額支払ってもらっても構いません。
ただし、売主が不動産会社である場合には、消費者保護を目的として、手付金の上限は売買価格の20%と宅地建物取引業法で制限されています。
相場は売買価格の5%
個人が売主の住宅は中古物件の取引になることがほとんど。「中古物件に対する手付金相場は、売買価格の5%くらいだと思います」と岡本さん。「手付金は高過ぎず低過ぎない金額を、買主と売主の合意で決定します。高すぎるともしもの解約時のペナルティが多すぎてしまいますし、安すぎると契約が不安定になります。買主が契約を手付解除した場合の機会損失なども踏まえ、売主にとっては安過ぎない金額を設定することは重要です」例えば売買代金2000万円場合、手付金5%は100万円です。「買主の手元資金に余裕がないこともあるので、高額取引でなければ5%~10%で設定するのが一般的です」(岡本さん)。
多くの場合手付金の金額は、買主が購入意思を売主に伝える不動産購入申込書に、予定額を記入して提出します。「売買価格に対して低いと感じる場合は、事情を聞きつつ契約までの過程で増やすよう、不動産仲介会社を通じて交渉してもらいましょう」
「ちなみに新築物件は、10%で設定する不動産会社が多い。新築マンションは、契約から建物完成、引き渡しまで半年~1年程度かかるのも普通。中古取引に比べると決済までの期間が長期になるので、解約リスクを抑える狙いもあります」(岡本さん)

手付金を受け取るタイミングは?
売買契約時に手付金、引渡し時に残金を受け取る
不動産を売却する際に手付金を受け取るのは、基本的には売買契約締結と同時のタイミングになります。手付金の目的は売買代金の一部ではなく、解約などの場合に備えるものなので当然のように売買代金に充当できるわけではありません。ですが、契約がスムーズに進んだ時は、その後の金銭授受の手間を省くため売買代金に充当する、と契約書に定めることがほとんどです。売却代金から手付金を差し引いた残金は、引き渡し時に受け取ります。
手付金は現金で受け取る
売買契約時に受け取る手付金は、一般的に現金または小切手での受け取りになります。
売買契約と同時に、売主は媒介契約に基づいて仲介手数料の一部または全額を不動産会社に支払います。便宜上受け取った手付金(現金)から不動産会社に支払うことが一般的です。
<売買契約時に売主が受け取るお金>
手付金
<売買契約時に売主が支払うお金>
仲介手数料
売買契約書の印紙代
売主が契約を解除できるのはいつまで?
「相手方が契約の履行に着手」するまでなら解除できる
契約を解除できるのは、民法は「相手方が契約の履行に着手」するまでと定めていますが、「履行の着手日」がわかりにくいため、一般的には手付解除期日を決めて契約書に記載します。v 「相手方が契約の履行に着手」するとは、例えば買主(相手方)が契約締結後に中間金や残金を用意して支払ったタイミングです。ですが、中間金の設定は不動産売買ではあまりなく、残金の支払いも通常は引き渡しと同時です。引き渡しまで契約が不安定な状態が続くのは好ましくありません。
岡本さんによると「手付解除期日は、契約日から10日~2週間後ぐらいが一般的」とのことです。なお法律的には、相手方の履行の着手がなくても、一定期間が経過したら手付け解約ができなくなると解されるのが通例です。手付解期日時までの期限が短い場合は、その期間内に「相手方が履行に着手」したと評価される事情が発生することが少ないものの、一定期間の経過により、手付解除の権利行使が認められなくなることがあります。
手付金の受領以降は「手付金倍返し」で解除
手付金を受け取ったら、売主からの契約解除は「手付金倍返し」で可能になります。手付金を無利息で買主に返還し、さらに手付金と同額を買主に提供します。提供とは、返還の申し出だけではなく実際に相手方に支払うこととされています。
手付解除期日をすぎたら違約金も
では、手付解除ができる期日を過ぎてからの契約解除はできるのでしょうか。不動産売買契約書では、相手方が債務の履行を怠ったときに契約解除の申し出と違約金の請求ができる、と定めることが一般的です。売主から一方的に契約解除をすることはできませんが、買主に債務不履行、例えば住宅ローンの不申請、残金の未払いなどがあったときに契約解除と違約金の請求ができます。
「違約金額は売買代金の10%程度で設定することが多いです」と岡本さん。既に受け取っている手付金額を違約金額が上回る場合は、その差額分をさらに支払ってもらうことになります。
逆に、売主側に債務不履行、例えば引渡しができないなどの事情ができたときは、買主から契約解除の申し出と違約金の請求を求められることになります。売主が違約金を支払うとしても自己都合だけで契約解除ができるわけではなく、選択権がある買主との合意の上で契約解除になります。
なお、違約金は民法上「違約金は、賠償額の予定と推定する」(420条第3項)とされていて、発生した損害の大小にかかわらず決めた金額で賠償額を支払うこととしています。これを「損害賠償額の予定」といいます。ただし違約金を「損害賠償額の予定」ではなく「違約罰」として定めることもあり、損害に対しては賠償責任が生じ、さらに違約金として約束した金額を支払う、とすることもあります。
買主が契約を解除できるのはいつまで?
ローン特約により手付金を返す場合も
買主が契約を解除できるのも、手付解除期日まで。手付解除期日を設けていない場合は、「売主が契約の履行に着手するまで」です。売主の契約の履行の着手とは、例えば引き渡しに向けて引越し準備を始めたような場合です。
ただし、買主が住宅ローンの利用を予定している場合は、売買契約書に住宅ローン特約(融資利用の特約)を定めることが一般的。融資未承認の場合の契約解除期日を設けて、その期日までにローン審査が通らなかったら、買主から契約を解除できます。既に売主が受け取った手付金は、無利息で返還します。
融資未承認の場合の契約解除期日は、売買契約から1カ月程度の期日を設定することが多いようです。
「事情にもよりますが、確実に融資承認がおりる期間で設定するのが良いでしょう。ほとんどの場合は、売買契約前に買主から金融機関に事前審査を打診しますが、売買契約後の本審査がまれに長引くことがあるのです。期日までに融資承認がおりないとなったとき、買主と売主双方に契約継続の意思があるなら再度期日を調整することはできます。ですが、特に売主にとってはせっかくの買い手を逃すことにもなりかねないので、期間が短すぎることはないか、融資申し込み額は適当か、不動産仲介会社に調整をお願いしてもいいと思います」(岡本さん)
買主からの解除は「手付金放棄」となる
住宅ローン特約での解除以外の、手付解除期日までの買主からの契約解除は、売主に支払い済の手付金を放棄することで解除可能となります。
期日以降の契約違反解除は、「手付金放棄+差額の支払い」となる
手付解除期日を過ぎてからは、買主からも一方的に解除はできません。
買主事由で契約解除となった場合は、買主は手付金を放棄し違約金との差額を支払います。
なお、不動産会社が売主の場合は、債務不履行を理由とする契約解除の損害賠償額は、売買代金の20%までと宅地建物取引業法で決められています。この制度は一般消費者である買主を保護するための規定なので、不動産会社が個人の売主から買い取る場合には、適用はありません。
契約不適合があった場合は通知期間内に通知
売買契約書には、引き渡し後に「契約不適合責任の通知期間」を設けることも一般的です。契約不適合とは、雨漏りや広さ不足など、取引した物件が契約の内容に適合しないこと。契約不適合があった場合の修理や損害賠償、契約解除の詳細については契約書に記載します。通知期間内に、買主が売主に通知することが必須です。
手付金以外に売却にかかるお金
仲介手数料、抵当権抹消費用など支払うお金もある
売主は、契約日に手付金を、引き渡し日に売買代金の残金を受け取りますが、一方で支払うお金もあります。
・仲介手数料
不動産仲介会社に売買価格の3%+6万円+消費税を上限とした額を支払います(売買価格400万円超の場合)。媒介契約の内容によりますが契約日に半金を、引き渡し日には残金を支払うことが一般的です。
・売買契約書の印紙代
契約書は同じものを2通用意して、売主と買主それぞれが保管します。印紙代は売買代金で異なり、1000万円超~5000万円以下では1万円です。
・抵当権抹消費用
住宅ローンが残っていた場合、登記の抵当権を抹消してからの売買になります。司法書士に支払う報酬も含めて1万円~3万円程度が相場です。
・測量費
土地測量図が古い場合は、ほとんどの場合最新の測量図を求められます。測量図作成費用は数十万円になることもあります。
もらった手付金は留保
売買契約当日は、手付金を受け取り、一般的には仲介手数料の半金と印紙代を支払います。手付金を現金で受け取るので、その現金で支払うことが現実的ですが、手元には手付金額を留保しておきましょう。契約解除により買主に返還することがあり得るお金です。
売却時にかかるお金については、下記の記事を参照してください。
スピーディーにお金を受け取りたい場合は、「買取」に
「買取」での売却はスピード速く確実
なるべく早く売却代金を受け取りたい場合は、不動産会社に直接売る「買取」を検討してみましょう。購入用の事業資金があらかじめ準備されているため、個人購入のようなローン特約での契約解除がありません。査定してもらった金額ですぐ売却できるので交渉期間が短く、支払いについても売主のスケジュールに合わせてもらいやすいでしょう。リフォームして再販売することが多いので、室内の汚れや傷みについても寛容です。また、仲介手数料の支払いもありません。
ただし、売却価格は個人との取引より2割程度安くなると言われています。売却一括査定サービスを利用して、相場価格と買取価格とを比較の上、より自分のニーズに合う方を選ぶことをオススメします。

まとめ
- 手付金には意思を明確にする「証約手付」以外に「解約手付」「違約手付」の意味がある
- 手付解除期日までの売主事由の契約解除は手付倍返し、買主事由の契約解除は手付放棄
- 手付金額は高すぎず安すぎず設定して、無用のトラブルを防ごう
イラスト/石山好宏
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平成16年(2004年)弁護士登録。令和4年(2022年)より日本弁護士連合会 司法制度調査会委員。また、令和6年(2024年)より東京弁護士会法制委員会委員長を務める。民事・家事事件全般、会社法務全般と幅広い案件を手がけている。現在「BACeLL法律会計事務所」に所属。
ファイナンシャルプランナーCFP®、経済産業省登録中小企業診断士、宅地建物取引士、公認 不動産コンサルティングマスター。神戸大学卒業後、30年以上不動産関連の仕事に携わる。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、講演、執筆、メディアへの出演など幅広く活躍中。首都圏中心に延べ3000件以上のマンションのモデルルームや現場を見ておりマーケットにも精通している。
ファイナンシャルプランナーCFP®、経済産業省登録中小企業診断士、宅地建物取引士、公認 不動産コンサルティングマスター。神戸大学卒業後、30年以上不動産関連の仕事に携わる。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、講演、執筆、メディアへの出演など幅広く活躍中。首都圏中心に延べ3000件以上のマンションのモデルルームや現場を見ておりマーケットにも精通している。


