
相手が許せないから少しでも多くのお金を自分のものにしたい、離婚後の生活が心配、など様々な理由で離婚時に「財産を隠したい」と思う人がいます。しかし財産を隠すことは不法行為に当たり、隠された側から損害賠償請求をされることもあります。今回の記事では、離婚時の財産分与における「財産隠し」について解説します。
記事の目次
離婚の財産分与における財産隠しは合法なのか
刑事上の責任は問えないが、民事上は不法行為の可能性
結論からいうと、離婚時の財産分与で預貯金などの財産を隠すことで刑事上の責任は問えません。
また、巧妙に隠された財産を見つけるのは難しいというのも実情です。
ただ、本来、財産分与とは当事者双方が財産をすべて公開することが大前提です。お互いが隠したままでは適切な財産分与ができないからです。
その趣旨からすると犯罪ではないのかと思うかもしれませんが、日本では、「親族相盗例」という刑法上の規定があります。これは親族間で発生した一部の犯罪行為(または未遂行為)については刑罰を免除するというものです。これによって財産隠しで刑事上の責任は問えないということになります。
とはいえ、民法709条「不法行為」に該当する可能性があります。
■第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
財産を隠されたことについて民事訴訟を起こす場合は、財産分与請求に加え損害賠償を請求できることがあるということも覚えておきましょう。

財産隠しをされやすい財産の種類
財産隠しをされやすい財産を考えるには、財産分与に該当する財産の種類とはなにかを理解する必要があります。
端的にいうと、財産分与の対象財産とは、「結婚(婚姻)期間中に夫婦で協力して築いた共有財産」です。つまり結婚(婚姻)期間中に稼いだ、購入したものなどが対象になります。例えば夫が働きに出て稼いだ収入も、妻が家事などで財産形成に寄与した場合は分与の対象になるのです。
また、夫婦どちらか一方の名義で登録された資産も共有財産とみなされることがあります。例えば、結婚(婚姻)期間中にどちらかの名義で取得した車や預金口座も共有財産とされ、財産分与の対象となります。さらに解約返戻金が発生するのであれば、生命保険や学資保険も対象になります。
財産分与では結婚(婚姻)期間中にどのような資産が形成・獲得されたかを把握することが重要になります。イコール財産隠しに成功してしまう財産になるので、財産隠しを疑うなら、しっかり対象の財産の種類を把握しておきましょう。
一方、独身時代の預貯金や財産、保険、実家から相続した財産は分与の対象外となります。
| 財産分与対象の財産例 | 財産分与対象にならない財産例 |
|---|---|
| 結婚中に稼いだ現金、預貯金 | 結婚前から持っていた現金・預貯金 |
| 結婚中に取得した不動産 | 結婚前に購入した家財・不動産 |
| 結婚中に取得した株式 | 結婚前から加入している保険 |
| 結婚中に取得した投資信託 | 相続によって取得した財産 |
| 結婚中に入った生命保険、年金保険、学資保険など | 生前贈与によって親から譲り受けた財産 |
| 結婚中に行った各種積立て | 結婚前に作った借金、住宅ローンの返済分 |
| 結婚中に受け取った退職金 | 結婚前に受け取った退職金 |
財産隠しのリスクをきちんと把握しよう
財産隠しには多大なリスクが伴います。財産隠しには、どのようなリスクがあるのでしょうか。財産隠しを行う側の視点から解説します。
離婚協議への影響
もし財産隠しが発覚した場合、先述した通り罪に問えないとはいえ、民事上の不法行為を行ったということで、相手方からの信頼は失墜し、離婚協議などに影響が出ることがあります。特に子どもがいる夫婦の離婚の場合、財産分与とは別に、養育費はいくらにするか、子どもとの面会交流の回数やタイミングなどを協議して決めていきます。信頼をなくせば、当然こうした協議に悪影響が出ることが考えられます。
弁護士からの委任契約が解消される
さらに弁護士などに依頼して財産分与を進める場合、その弁護士からの信頼もなくなり、最悪、委任契約が解消されるリスクもあります。
離婚時に財産隠しをされた場合の財産分与請求
離婚時に財産隠しをされた場合、どのような対応があるのでしょうか。財産隠しをされた側の視点から解説します。
離婚から2年以内は財産分与の請求が可能
財産分与の請求は、離婚から2年以内まで可能です。離婚時は隠し通せたとしても、2年以内に財産が見つかると請求され、財産分与をやり直すケースもあります。
こうした財産分与について合意できない場合には、財産分与請求の調停を申立てることができます。調停は複雑な手続きや調停員からの質問への回答などの知識が必要になることがあるため、事前に弁護士に相談すると対処法が分かり、スムーズに進むでしょう。

民事上の不法行為で損害賠償請求ができる可能性がある
先述の通り、財産隠しは民事上の不法行為に該当する可能性があります。もし相手方に不利益(損害)をもたらす行為とみなされる場合、民事訴訟を起こし、財産分与請求とは別に、損害賠償請求ができる場合があります。
ちなみにこの不法行為の損害賠償請求は、損害を知った時点から3年間権利を行使できます。離婚から3年ではなく、隠し財産が発覚したときを起点とすることがポイントです。
離婚時の財産分与で財産隠しが成功してしまう6つのポイント
巧妙に隠された財産を見つけるのはとても難しいことです。そこで、財産隠しが成功しやすくなってしまう代表的な6つのポイントを紹介します。見破るためのポイントをチェックして、適正な財産分与を実現しましょう。
現金を自宅で保管する
銀行に預金しておくのではなく、現金を引き出して自宅に隠しておく方法です。
タンス預金やへそくりという古典的なやり方ですが、隠し場所さえ突き止められなければ隠し通せてしまうのが発見を難しくさせてしまいます。また、預貯金は取引履歴で足取りが分かりますが、現金は引き出した後の動きを追跡できないことも多々あります。
ただし、多額の出金記録がある場合は現金隠しを疑う大きなポイントなので、記録のチェックが大切になるといえるでしょう。

ネット銀行などメインとは違う銀行で管理する
メインバンクとは別の金融機関で口座を開設し、資金を保管する方法です。特にネット銀行は実店舗と通帳がないうえに、名義人以外が情報を確認するのは困難です。
ただし、キャッシュカードは郵送されることがあるので、郵便物のチェックが財産隠しを見破るポイントになります。また、まったく所縁のない遠隔地の地方銀行などで口座を開設するやり方もありますので注意が必要です。
共働きで生計を立てている夫婦の場合、毎月の生活に必要な一定の金額を家計の口座などにまとめ、残りの給料はお互いの自由に使えるようしていることも多いです。
当然、財産として貯めていても把握しにくく、隠されていることにさえ気がつかないことも。定期的にお互いの給与や財産情報の共有をルール化することなどが大切です。
銀行や郵便局の貸金庫を利用する
現金や預金通帳を自宅に保管するのではなく、貸金庫に保管するのも財産隠しに成功している人が行う手口のひとつです。貸金庫とは、銀行などの金融機関が一定の料金で備え付けの金庫を貸し出すサービスです。財産隠しだけでなく、自宅への窃盗や自然災害が起きても財産を守れるメリットがあります。
基本的には口座を開設していている銀行のサービスを利用することが多いのがポイント。また、通帳やネットバンキングの取引履歴に「貸金庫」と記載があることで確認できる場合があります。

親族や子どもの名義を利用する
本人ではなく、親族や知人、子どもの名義の口座に預金する方法です。
預金通帳自体は相手方が所有するため、配偶者が残高を確認するのは困難となります。また、少額を長い期間かけて引き出し、現金で振り込んでいる場合などは、口座の取引記録にも残らないので、共有財産として認定されるかも難しいケースがあります。
ただし、銀行振込で預金を移していた場合には、配偶者名義の通帳に知らない口座への送金履歴がないかどうか確認することで発見できる場合もあります。
現金を別の物に換える
現金や預貯金ではなく、現金以外の形に換えて保管する方法です。
例えば
- 金の延べ棒や指輪、ネックレスなどの貴金属
- 有価証券
- 土地などの不動産登記簿
- 自動車
- 時計
です。小さいものなどは増えても分かりにくいですし、預貯金額で財産分与をすれば、現金以外に形を変えた財産を手元に残しやすくなります。急に見知らぬ書類が増えたなど普段の生活でおかしなところがあったら調べておいてもいいかもしれません。
隠し財産の痕跡を残さない
財産隠しを成功させる人は、相手に知られないよう痕跡をしっかり消している場合が多く見られます。メールの履歴を削除する、自宅では郵便物を開封しない、家のパソコンではネット銀行にログインしないなど痕跡をなるべく残さないよう心掛けて暮らしています。
また、仮に隠し財産を疑われた場合でも認めないことがほとんどです。
相手が財産隠しを認めない場合、まずは弁護士に相談することがおすすめです。銀行や証券会社などに必要な情報を開示請求できる弁護士会照会制度が使えることがあります。また調査嘱託という制度を利用することも考えられます。これは、裁判所を通じて勤務先や金融機関などに情報を照会、開示させる制度です。

隠し持っている投資用不動産と財産分与の関係性
夫、妻に内緒で投資用不動産を購入している場合、財産分与とはどう関係してくるのでしょう。財産分与は、結婚(婚姻)期間に築いた財産は共有財産となる、という基本的な考え方があります。つまり、この場合、投資用物件を購入したタイミングが重要になります。
内緒で購入した投資用マンションは財産分与の対象?
財産隠しが可能な財産は動産が一般的ですが、投資用不動産を夫や妻に内緒で購入するケースもあります。
前述の通り、結婚前に購入した不動産であれば、投資用だろうと居住用だろうと特有財産として財産分与の対象外となります。
ただし、結婚(婚姻)期間中に購入した投資用不動産であれば、存在が離婚時に発覚した場合、共有財産として財産分与の対象になります。
秘密裏に購入したもの、また、たとえ自身単独の名義で購入したものであっても、変わらず共有財産となります。
また、夫婦の一方が専業主婦(夫)という場合でも、夫婦の協力関係のもと給与で物件を購入したとみなされれば共有の財産となるので、離婚時(財産分与時)に売却するならば、その価格を1/2で折半することになります。
離婚時の財産分与は、共有財産の把握が大切です。ただ、巧妙に隠されることで適正な財産分与ができなくなることがあります。罪に問われなくとも不法行為なので、隠して得をしたいという人は多くいると思いますが、発覚した時のリスクをしっかり考えましょう。
また財産隠しを見破るには専門的な知識やアドバイスが必要なことがあります。
弁護士事務所などプロの力を借りることも視野に入れて進めていきましょう。
●取材/文 山口俊介
●取材協力/原田綜合法律事務所 代表弁護士 原田 和幸さん


