親が住んでいたマンションや戸建などの不動産を相続した子が、その家を売るケースは少なくない。そのときの税金はどうなるのだろうか。
親の家を相続して売るときにかかる税金は?
子が住んでいた住宅なら各種の特例が受けられる
相続によって取得した家を売る場合、子がその家を自宅(自身が保有する住宅)として居住していたか、居住していなかったかによって税金に違いが出る。どちらの場合も売却によって発生した譲渡所得(詳しくは「不動産売却にかかる税金」を参照)に対して所得税・復興特別所得税と住民税が課税されるが、子が自宅として居住していた場合は「居住用財産」とみなされ、以下の特例の対象となる。
- 3000万円の特別控除の特例
- 10年超所有の場合の軽減税率の特例
- 特定の居住用財産の買換え特例
- マイホームの買換えの場合の譲渡損失の繰越控除
- 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
一方、子がその住宅に居住していなかった場合は上記の特例は受けられず、原則として譲渡所得への所得税・復興特別所得税と住民税がそのまま課税される。
なお、親の自宅だった空き家を相続した場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から3000万円を控除できる特例がある。詳しくは「親の家を売るときの税金の特例」を参照してほしい。
取得費は親が買ったときの代金などから計算
不動産を売ったときの譲渡所得は、土地や、マンションや戸建などの建物を売った金額からもともとの取得費と、譲渡費用(「売却時の譲渡費用とは」を参照)を差し引いて計算する。親から相続した住宅を売る場合は、取得費については親がその住宅を買い入れたときの購入代金や購入手数料などから計算することになる。
住宅を相続したときに子が支払った登記費用や不動産取得税などがあれば、その金額も取得費に含まれる。なお、取得費がわからないときなどには、売った金額の5%を取得費とすることができる(詳しくは「取得費の計算方法」を参照)が、この場合には子が支払った登記費用などは取得費に含めることができない。
住宅の所有期間は親が取得した日からカウントする
譲渡所得への課税は売った不動産の所有期間が5年以内なら短期譲渡、5年超なら長期譲渡となり、それぞれ税率が異なる(こちらも詳しくは「不動産売却にかかる税金」を参照)。
親から相続した住宅の取得時期は、親がその住宅を取得した時期をそのまま引き継ぐことができる。つまり、親が住宅を取得した日から、相続した子が売却した年の1月1日までの所有期間で長期か短期かを判定するわけだ。
支払った相続税は取得費に加算できる
相続開始から3年10カ月以内に売ることが要件
親から相続した不動産などを売却した場合に、相続したときの相続税のうち一定額を取得費に加算できる場合がある。これを「取得費加算の特例」という。
不動産を売ったときの取得費が大きいほど譲渡所得が小さくなるので、課税額が軽くなるメリットがある。この取得費加算の特例を受けるための要件は以下のとおりだ。
(1)相続などにより財産を取得した人であること
(2)その財産を取得した人に相続税が課税されていること
(3)その財産を、相続開始の日の翌日から3年10カ月以内に売却していること
売却した住宅に対応する相続税額を加算できる
親から相続した土地・建物を売却したときに取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で求められる。
相続税額×売却した土地・建物の課税価格 ÷(相続した財産の合計の課税価格+債務控除額)
つまり、支払った相続税のうち売却した土地・建物に対応する税額分を取得費に加算できるという意味だ。なお、2014年12月31日以前に相続した土地を売却した場合については、売却した土地だけでなく相続したすべての土地に対応する相続税額を取得費に加算することができる。
小規模宅地等の特例を受けると加算額が小さくなる
なお、親の自宅だった住宅を相続するときに、「小規模宅地等の特例」を利用できる場合がある。この特例はその住宅の土地の評価額が330m2の部分まで20%に減額されるというもの。相続税は財産の評価額に基づいて税額が計算されるので、特例を受けると相続税が大幅に軽くなるケースが多い。
この小規模宅地等の特例を受けるためには、相続した子が被相続人である親と同居しており、相続開始のときから相続税の申告期限(10カ月以内)まで引き続きその住宅に住み、かつその土地を所有していることが原則だ。
親と同居せずに経済的に独立している子がこの特例を受けるには、以下のすべてを満たす必要がある。
(1)被相続人である親に配偶者がいないこと
(2)ほかに親と同居していた親族がいないこと
(3)相続開始前3年以内にその子またはその子の配偶者が所有する住宅に住んだことがないこと
(4)その土地を相続税の申告期限まで所有していること
この小規模宅地等の特例を受けると相続税が軽くなるメリットがあるが、取得費に加算できる相続税も少なくなる点に注意が必要だ。したがって、親から相続した住宅を売却する予定があるなら、小規模宅地等の特例で相続税を減らすほうがトクか、小規模宅地等の特例は受けずに売却時に取得費加算の特例を受けたほうがトクか、考慮する必要がある。
●監修
税理士法人タクトコンサルティング
構成・取材・文/大森広司
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住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
資産税コンサルティングの草分けとして、長年にわたり、個人の相続・譲渡や贈与など、法人の事業承継、組織再編、M&Aなど、個人・法人の資産税に関わるコンサルティングを手がけている。