不動産を売却するときには、まず不動産会社に依頼して物件がいくらで売れるかを査定してもらうことになる。ここでは査定がどのように行われるかを見ていこう。
不動産価格はどのように査定されるのか
対象物件や目的によって査定方法が異なる
不動産価格の査定にはいくつかの方法があるが、代表的なものを以下に挙げる。
●取引事例比較法
査定する不動産と条件が似ている物件の成約事例を探し、売買された時期や立地条件の違い、物件の個別性などを比較して価格を査定する方法。
●原価法
建物について現時点で新築した場合の価格から、築年に応じた減価修正を行って価格を求める方法。
●収益還元法
賃貸用不動産などが将来生み出すと期待される収益から価格を割り出す方法。1年間の収益を利回り(還元利回り)で割る「直接還元法」と、一定の投資期間から得られる収益と一定期間後の物件価格を予測して合計する「DCF法」がある。
個人の住宅売却では取引事例比較法や原価法を用いる
項目ごとに点数をつけて評点の合計を計算する
個人が所有する住宅を売却する場合は取引事例比較法や原価法によって査定されるのが一般的だ。ここでは取引事例比較法について少し詳しく解説しよう。
取引事例比較法ではまず、査定する物件と似たような条件の成約事例を探すことからスタートする。最寄駅からの距離や、広さ・間取り、築年数などが似た物件をピックアップするのだ。
次に、査定する物件(査定物件)と比較する物件(事例物件)それぞれについて、項目ごとに点数をつけて合計の評点を計算する。項目とは交通の便や立地条件、住戸位置(マンションの場合)などだ。
計算式に当てはめて査定価格を算出する
査定物件と事例物件の評点が出たら、以下の式に当てはめて査定価格を算出する。
例えばマンションの査定物件と事例物件の条件が以下の場合、査定価格を算出すると次のようになる。
ここで「流通性比率」とは、その物件が売りやすいか売りにくいかという流通性の度合いを示す比率のことだ。標準的な物件なら1.00として、例えば面積が広くて売りにくい場合はマイナス、逆に供給が少ない地域で売りやすい場合はプラスと設定する。
不動産会社によって査定価格が異なるのにはワケがある
比較する物件の選び方で価格が変わる
上記のような査定価格の算出方法は、不動産流通推進センターという公益財団法人が「価格査定マニュアル」で定めており、これを利用する不動産会社が多い。大手不動産会社は独自のマニュアルを作成することもあるが、その場合もこの価格査定マニュアルに準拠しているケースがほとんどだ。
価格査定マニュアルはパソコンのソフトに組み込まれており、不動産会社が査定条件を入力すると自動で計算される。このように書くと、あたかもどこの不動産会社が査定しても結果が変わらないかのように思えるかもしれないが、実際には不動産会社によって査定額は異なる。その理由について、フリーダムリンクの永田博宣さんは次のように教えてくれた。
「査定の対象と比較する事例物件をどのように選ぶかによって、査定価格は変わってきます。例えばマンションの場合、同じマンション内で最近の成約事例があれば、どの不動産会社もその事例と比較するはずなのでさほど査定価格に差は出ないでしょう。しかし周辺の『似た条件の』マンションから選ぶ場合は、最終的には担当者の判断によって左右されるものなのです」
査定価格は不動産会社の事情によっても左右される
不動産会社によって査定価格に差が出るのは、比較する事例物件の違いによる理由だけではない。不動産会社側の“事情”によっても変わるという。
「インターネットで複数の会社に査定を依頼する場合などは、なるべく高く売りたい売主に選んでもらうため、高めに査定するケースが見られます。一方、新築マンションに買い替えるために指定された不動産会社などが査定する場合は、確実に売却できるよう『堅め』の査定をするのが通常です」(永田さん)
つまり売却を希望する人がどのように査定を依頼するかによって、査定価格が左右されることがある。さらに、不動産会社の戦略によっても価格に差が出るのだ。
「高めに査定した不動産会社に依頼すれば、売るのに時間がかかることもあります。逆に低めに査定した不動産会社に依頼すると早く売れる可能性がありますが、もう少し高く売れるチャンスを失うことになるかもしれません」(永田さん)
査定価格はあくまで目安であり、その価格で売れる保証はないことを知っておこう。
不動産売却マニュアル
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住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う