売却したマンションや戸建などが契約内容と異なっていた場合には売主は契約不適合責任を負わなければならない場合がある。売買契約のなかでも重要なポイントなのでしっかり理解しておこう。
売主が負わなければならない契約不適合責任とは
契約の内容に適合しない場合は責任を負う
不動産を売却したあとで、その不動産や取引内容に契約と異なる点が見つかったら、原則として売主は契約不適合責任を負わなければならない。具体的には雨漏りやシロアリ被害といった物件の欠陥や、面積・数量の不足などだ。
売主が負わなければならない契約不適合責任は、物件を補修したり損害賠償に応じたりすることだ。売主が補修や代金の減額、損害賠償などに応じなかったり、欠陥が重大で補修しても住めないような場合は、契約の解除を求められることもある。
責任を負う期間は引き渡しから2~3カ月が一般的
民法の原則では、買主が不適合の事実を知ってから1年以内に申し出れば、売主は契約不適合責任を負わなければならないとしている。しかし建物の欠陥はそれがもともとあったものなのか、経年劣化によるものなのか、判別が難しい場合が多い。民法の原則どおりだと引き渡しから何年経っていても、買主が気づけば賠償などを請求できることになり、売主に過大な責任を負わせることになってしまう。
そこで個人が売主の場合の売買契約では、売主が契約不適合責任を負う期間を2~3カ月程度に定めるケースがほとんどだ。なお、売主が不動産会社の場合は、宅地建物取引業法により契約不適合責任を通知する期間を引渡しから2年以上としなければならない。
売主の過大な負担を保険でカバー
契約不適合責任を問わない契約もある
たとえ2~3カ月でも、その間に欠陥が発覚したら、売主は大きな負担を負うことになる。そのため、売主と買主の合意により、売主の契約不適合責任を問わないとして契約を交わすケースもある。だがその場合は欠陥が発覚した場合の負担を買主が負うことになり、不安に思う場合もあるだろう。
欠陥が見つかったら保険金が支払われる
そこで売主の契約不適合責任を保険でカバーできるようにしたのが「既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ)」だ。これは住宅瑕疵担保責任保険法人が扱う保険商品で、売主(買主からのケースもある)が検査機関に検査を依頼することにより、契約不適合責任に伴う負担が保険金で支払われるというもの。
保険の対象となるのは住宅の柱や壁などの「構造耐力上主要な部分」や窓や屋根などの「雨水の浸入を防止する部分」などで、保険期間は5年間または1年間となる。保険金の支払い対象となる費用は、補修費用や調査費用、転居・仮住まい費用などで、支払限度額は500万円または1000万円だ。
不動産会社独自の保証サービスもある
引き渡しから2年間の補修費用を保証
また、不動産会社によっては独自に保証サービスを扱っているケースもある。これは建物に不具合が見つかった場合に、引き渡しから一定期間は補修費用を不動産会社が負担するものだ。
保証サービスの詳細は不動産会社によって異なるが、保証期間は2年のケースが多い。引き渡しから3カ月程度は売主の契約不適合責任を保証し、その後の期間は買主の補修費用負担のリスクを保証する形となる。保証の限度額は200万~500万円程度が一般的だ。
不動産を売却するときは、こうした保険商品や保証サービスの活用を検討してもいいだろう。
●監修
明海大学不動産学部教授・中村喜久夫さん
宅建試験の人気テキスト「スッキリわかる宅建士」の著者。賃貸不動産経営管理士試験の5問免除講習や宅建士法定講習の講師も務める。YouTube「中村喜久夫チャンネル」で講義動画も公開中。 不動産鑑定士。(公財)日本賃貸住宅管理協会監事。
構成・取材・文/大森広司
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住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う