
結論から言うと、借地権は売却できます。この記事では、借地権を売却する際の「借地権価格」や「借地権の譲渡承諾料」の相場をはじめ、借地権付き土地や借地権付き建物の売却方法を解説します。
記事の目次
借地権は大きく分けて「地上権」と「土地賃借権」の2つ
「借地権」は、言葉の表すとおり、土地を借りてその上に建物を建てて使用する権利です。土地を貸し「借地権」を持った他人が建物を所有し使用している場合は、地主は「底地権」のみを持つことになります。「底地権」とは、一般には借地権の負担の付いた土地の所有権と説明できるでしょう。
借地権付き土地の場合、地主は自らの都合で土地を使用できないなどの制限があり、法的に借地権は大きく保護されています。

借地権は、「地上権」と「土地賃借権」の2種類に分けられます。
この2つは、法的に大きくその性格が異なりますので、よく理解しておくことが必要です。
■地上権
「土地賃借権」と同様、土地を借りて利用できる権利ですが、民法で規定される「物権(ぶっけん)」の一つ。物権とは、「物を直接的かつ排他的に支配する権利」とされ、誰に対しても主張できる権利。借地権者が希望する場合、「底地権者」は「地上権」の登記に応じなければならない。地上権を売却したり、地上権に抵当権を設定することも可能。
■土地賃借権
民法で「債権(さいけん)」とされる土地を借りて利用できる権利。地主との契約上得た権利で、「土地を借りる人が地主に対して、地代を対価として土地を貸すことを請求しうる権利」と説明される。
| 地上権 | 土地賃借権 | |
|---|---|---|
| 権利の種類 | 物権 | 債権 |
| 権利の譲渡(売却)等 | 可能 | 地主の承諾が必要 |
| 建物の売却・契約更新以降の建て替え | ||
| 建物への抵当権の設定 | 可能(※) |
「借地借家法」と「旧法借地権」の違い
借地借家法とは、土地を使用する権利のうち建物の所有を目的とする「地上権」と「土地賃借権」の存続期間や効力などについて定めた法律です。つまり「借地権」とは、借地借家法で定められた、建物の所有を目的とする「地上権」と「土地の賃借権」のことを指すのです。
この法律は1992年8月1日に施行され、それ以降に借地権の契約をした場合は、「普通借地権」が適用されます。
一方、借地借家法の施行より前、つまり1992年7月31日以前に借地権の契約をした場合は、「旧法借地権」が適用されます。
これらの違いは、契約時期によって借地権の存続期間や更新条件が異なる点にあります(下表)。
| 当初の期間 | 更新後の期間 | |
|---|---|---|
| 30年以上(※) | 最初の更新 | 2回目以降の更新 |
| 20年以上 | 10年以上 | |
| 期間の定め(※) | 当初の期間 | 更新後の期間 | |
|---|---|---|---|
| RC造・重量鉄骨造等 | 有り | 30年以上 | 30年以上 |
| 無し・30年未満 | 60年 | 30年 | |
| 木造等 | 有り | 20年以上 | 20年以上 |
| 無し・30年未満 | 30年 | 20年 |
借地借家法には「普通借地権」と「定期借地権」がある
借地借家法では、更新によって借り続けることができる「普通借地権」と、契約期間の更新がない「定期借地権」があります。
さらに定期借地権には「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付き借地権」の3種類があります。
普通借地権は、契約期間の終了時、借地権者から地主に「建物の買い取り請求」ができます。これに対し、「一般定期借地権」は、契約時に建物の買い取り請求はしないと約束します。このため借地権者は、契約期間の終了までに建物を解体し、更地にして土地の所有者に返還しなければなりません。
一方、一般定期借地権は、権利の存続期間が50年以上と長いのが大きな特徴で、借地権付きマンションなどで利用されています。
事業用には「事業用定期借地権」
「事業用定期借地権」は、店舗や事務所など事業用の建物の建築を目的に土地を借りる場合の定期借地権です。
一般定期借地権との違いは存続期間にあります。事業用定期借地権の場合、10年以上50年未満の範囲で契約が結ばれます(2008年1月1日以降の存続期間)。存続期間が最短10年と短いのは、出店退店の頻度の高い小売業の店舗などに用いられることを想定しているためです。
「建物譲渡特約付き借地権」では、期限後に地主が建物を買い取る
「建物譲渡特約付き借地権」は、「借地権設定後30年以上を経過した日に、借地上の建物を地主が相当の対価で買い取る」と約束した定期借地権です。
一定の期間経過後、地主が建物を買い取ることにより、借地契約は終了します。この時点で、それまでの借地権者や建物の賃借人で建物の使用を継続している人が請求すれば、借家として家賃を支払って住み続けることができます。
借地権は売却できる
借地権は売却できます。前述の通り「地上権」と「土地賃借権」の2つがあり、このうち地上権については、原則として地主の承諾がなくても売却が可能です。一方、土地賃借権を売却するためには、地主の承諾を受けなくてはなりません。 その際、承諾の対価として「名義書換料(名義変更料・承諾料)」を払うのが一般的です。名義書換料の相場は「借地権価格」の5~15%程度。ただし、地主への承諾の依頼と併せて「土地賃貸借契約」の変更を行う場合などは、金額が増額されることもあります。

名義書換料の基準となる「借地権価格」の相場は?
借地権価格は、「実勢価格」に「借地権割合」をかけて算出します。実勢価格は、不動産の取引市場で実際に取引される土地(更地)の価格のことです。
土地の実勢価格を調べるなら、まずは、SUUMOなどインターネットの情報サイトを利用して、自分が売りたい土地と似た条件の土地の売り出し価格をチェックしましょう。一括見積サイトの無料査定を利用するのも一手です。
このほか、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、不動産取引価格情報や成約情報をマップ検索することができます。
借地権割合は、土地の相続税評価額を算出する基準となる数値で、国税庁の「路線価図」で住所地ごとに10%単位で割合が定められています。一般的な住宅地の売買では、土地の相場価格に60%~70%の借地権割合を乗じて求められます。
| 住宅地の場合 | 実勢価格の60%~70% |
|---|---|
| 商業地の場合 | 実勢価格の70%~90% |
借地権の売却方法
地主に売却する
借地権の売却で一般的によく行われているのが、地主に買い取ってもらう方法です。地主にとっては、借地権を買い取ることで、借地権の負担の付いていない土地となるので、土地の資産価値が格段に上がります。完全な所有権として売却もできますし、より望ましい条件で新たに土地を貸すこともできます。地主にとってメリットが大きい取引と言えます。
ただし、もともと土地を貸して地代収入を得る前提で、地主側に借地権を買い急ぐ必要がない場合などは、買い取りを断られたり、借地権の売却額が第三者に売却するより低くなることもあります。
第三者に売却する
第三者に借地権を売却する場合、買主が個人、不動産会社を問わず、地主の承諾が必要になります。
地主から売却の承諾を得る際には、名義書換料の額や、売却後の地代、借地権の存続期間の変更など、詳細な条件について交渉することもあります。また、地主の承諾を前提に売却を進めることには、大きなリスクも伴います。このように、地主とのトラブルを避け、承諾を得て円満に売却を進めるためには、経験とノウハウが必要です。
底地と併せて第三者へ売却する
地主と交渉して合意が取れれば、地主と協力して、借地権の負担の付いていない土地として第三者に売却することができます。借地権の負担の付いていない完全な所有権として売るほうが高く売れる点がメリットです。
資金に余裕があれば地主から底地を買い取って、完全な所有権として売却するのも一つの方法です。ただし、地主にとって財産の処分となるため、交渉のハードルは高いとも言えます。

等価交換をして売却する
ある程度土地の広さがある場合、地主の持つ底地権の一部と借地権の一部を等価で交換し、それぞれが完全な所有権を持つ形にして売却する方法があります。
交換によって土地の一部は権利を失いますが、所有権を得た土地の資産価値は高くなります。交換比率など交渉も多く、測量や分筆登記など費用もかかりますが、完全な所有権となった土地は売りやすくなります。
借地権を売却する際の流れ
ここからは、借地権を売却する際の流れを詳しく解説します。借地権付き土地に建てた「建物(借地権付き建物)」の売却の場合も同じ流れになります。
1.査定依頼
動産査定とは、所有する不動産がいくらくらいで売れるかを不動産会社に依頼して査定してもらうこと。まずはインターネットなどで査定価格を提示してもらう「簡易査定」を頼みましょう。
不動産会社からメールで査定結果の連絡が来たら、「借地権付き土地の仲介実績がどの程度あるのか」を必ず確認。地主への売却なども考えている場合は、地主との交渉経験があるかも聞いてみるとよいでしょう。
インターネットの一括査定やSUUMOサイトを基に不動産会社の候補を複数ピックアップしたら、メールなどのやり取りを通して3~4社程度に候補を絞り、訪問査定を依頼します。
訪問査定の際には、土地の公図や建物の建築確認済証など物件の内容が分かる資料に加え、借地権設定の契約書(土地賃貸借契約書等)を用意しておきましょう。
不動産査定についてもっと詳しく→
【基礎からわかる】不動産査定の流れや費用、相場の計算方法 - 【SUUMO】住まいの売却ガイド
2.不動産会社に仲介を依頼する
訪問査定を経て、依頼する不動産会社の絞り込みができたら、不動産会社と媒介契約を結びます。
媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれルールが異なります。
借地権の売却では、地主との交渉と窓口を依頼するケースも多いため、専任媒介契約または専属専任媒介契約を選ぶのが一般的です。
媒介契約についてもっと詳しく→
不動産売買の媒介契約とは?一般媒介契約と専任媒介契約、専属専任媒介契約の違いと選び方、メリットデメリットを解説
3.地主と条件を調整し譲渡承諾を得る
地主への借地権の譲渡(売却)承諾の依頼を自分で行うのは、かなり難しいことです。売却の承諾に伴い「名義書換料」の金額を決めるなど、さまざまな交渉事があるからです。
このため、地主への交渉の窓口は、不動産会社に交渉の窓口を任せるのがベスト。専門知識を基に分かりやすく説明ができ、公平な立場から話し合いを進められる会社であれば、借主と地主の両者が納得できる形での交渉が期待できます。
なお、地主への承諾の依頼や交渉のタイミングは、売却方法や、借地権契約の内容、借地権の残存期間など諸条件によって異なります。条件によっては、借地権の購入希望者が見つかってから地主に依頼・交渉することもあります。

4.売却活動をする
媒介契約を結んだ後は、不動産会社による販売活動がスタートします。専任媒介契約の場合は媒介契約の翌日から7日以内(休業日は除く)、専属専任媒介契約は同じく5日以内に指定流通機構(レインズ)に登録され、公的な不動産流通マーケットに物件情報が公開されます。
また、第三者に売却する場合は、SUUMOなどの物件情報提供サイトや不動産会社独自のネットワークを利用するなど、不動産会社による売却活動が進められます。
販売情報を見た購入希望者から問い合わせが来たら、建物や土地を実際に見学する「内覧」となります。内覧時の第一印象が購入意欲に大きな影響を与えるため、家は清潔な状態で保ちましょう。
物件の売り出し価格は、査定額を基に売主の希望も踏まえて決定します。しかし、販売活動を進めるなかで購入希望者が見つかりにくい場合や、購入希望者からの価格交渉によって、値下げするケースもあります。
購入者が自宅を見学しに来る!「内覧」についてもっと詳しく→
不動産売却時の内見(内覧)のコツとは? 家を高く売る方法、家が売れる分かれ目を売却のプロが解説 - 【SUUMO】住まいの売却ガイド
5.売買契約を締結する
購入希望者が見つかり、売買価格や引き渡し時期などの売買条件に合意できれば、いよいよ売買契約です。
借地権の売買契約時には、売主は以下の書類を用意します。
(1)借地権譲渡承諾書(「売却を承諾した旨」を地主が記載した文書)
(2)登記済権利証(または登記識別情報)
(3)固定資産税評価証明書(または固定資産税納税通知書)
(4)物件内容や状況が分かる書類(不動産会社がまとめるケースが多い)
(5)本人確認書類
(6)実印と印鑑証明
(1)の「借地権譲渡承諾書」は、借地権譲渡(売却)に関する地主との合意内容をまとめた文書のことです。不動産会社が原案を作成し、地主に署名捺印してもらいます。
しかし、諸事情により売買契約前に地主から正式な「借地権譲渡承諾書」が得られないこともあります。
この場合は、「売却を承諾した旨」を地主が記載した文書を用意すると共に、「所定の期日までに借地権譲渡承諾書」が得られない場合は契約を白紙にする」という特約を結ぶのが一般的です。
(2)~(5)の書類は、訪問査定や媒介契約の時点で用意して、不動産会社に提示するのが一般的。これを基に不動産会社が「売買契約書」と、(4)の「物件内容や状況が分かる書類」などをまとめます。物件の種類や契約内容によっては他に必要なケースもあるので、早めに不動産会社に確認しておきましょう。

売買契約時には、買主から手付金を受け取りますが、仲介手数料や名義書換料など支払うお金も大きいので、早めに準備しておきましょう。
受け取るお金
- 手付金-売買契約では、売主は買主から成約価格の5%~10%の手付金を受け取ります。
支払うお金
- 契約印紙税-契約書に添付するお金。契約金額によって異なりますが一般的には数万円程度です。
- 仲介手数料-不動産会社には仲介手数料の半額を支払います。売却価格が400万円超えの場合、仲介手数料の上限額は「(売却価格×3%+6万円)+消費税」となります。
- 名義書換料(承諾料・名義変更料)―地主から「借地権譲渡承諾書」を受け取る際に支払います。借地権価格の5%~10%程度が目安です。
6.借地権を引き渡す
地主から「借地権譲渡承諾書」の受け取りを経て、正式に売買契約が成立します。
その後、売買契約で定めた残金決済・引き渡しの日に、買主から残金の支払いを受け、借地権(借地権付き土地・借地権付き建物)を引き渡します。
借地権付き建物で、借地権が土地賃借権の場合は、建物の「所有権移転登記」が行われます。
借地権をスムーズに売却するコツ
借地権付き土地や建物をスムーズに売却するコツを3つ紹介します。中でも一番のポイントは、不動産会社選びです。そこで、借地権の売却を信頼して任せられる不動産会社の探し方、選び方も解説します。
購入に利用できるローンについて調べておく
借地権付き土地や建物の購入希望者を早く見つけるためには、売却活動の前に、融資可能なローンを調べておくことが重要です。住宅購入の際には住宅ローンを利用するのが一般的です。しかし、借地権付き土地や建物の場合、住宅ローンを利用できる物件が少ないからです。
借地でも融資可能なローンを見つける最も簡単な方法は、不動産会社に頼んで調べてもらうことです。不動産会社を絞り込む際には、これから売る予定の借地権付き物件に「利用可能なローンを購入者に紹介できるかどうか」も聞いておきましょう。

更新時期を避けて売却する
借地契約の更新時期が迫っている借地は購入者が見つかりにくく、売却価格の値下げをしないと売れないことがあります。購入者から見ると、「購入してすぐに、契約更新しなくてはならない」物件は、更新料の支払いなど負担が大きいためです。
借地権付き土地や建物の場合、売り急ぐ事情がないのであれば、売り出し時期のタイミングも不動産会社に相談することをおすすめします。
借地権売買に強い不動産会社を選ぶ
借地権付き土地や建物の売却は、地主との交渉や購入者が利用可能なローンの紹介など、借地売買の経験や専門的な知識がないと、進めることができない取引だと言えます。このため、スムーズな売却を成功させるには、経験豊富で信頼できる不動産会社選びが大きなポイントとなります。
借地権売買に強い不動産会社の特徴
借地権売買の経験や専門知識が豊富な不動産会社には、次のような特徴があります。
- 社内に借地権取引専門の部署や、専門家によるチームがある
- 借地権に詳しい弁護士と提携している
信頼できる不動産会社の選び方
借地権売買の経験や知識が多くても信頼して売却を任せられるかどうかは別の話。信頼できる不動産会社を選ぶ方法の一つは、「売主の質問に丁寧にわかりやすく答えられるか」。そのためには、借地権の売却方法や売却の流れについての以下のような質問や、借地権売却の希望や不安などを遠慮なくぶつけてみることをおすすめします。
- 借地権付き土地や建物の仲介経験はどの程度あるか。
- 地主への売却や借地と底地を併せての売却などの仲介経験があるか。
- 自分のケースでは、どんな売却方法がよいか。
- 地主にはどのタイミングで、どんな交渉をすればいいのか(地主に売却の交渉をする場合の売却価格、第三者に売却する場合の名義書換料や借地権契約の条件変更等に関する交渉など)。
- 第三者に売却する場合の売却活動の計画や融資可能なローンについて。
丁寧に分かりやすく答えてくれるなら、信頼して売却を任せられる不動産会社であることが期待できます。また、こういった具体的な質問や相談にどう答えてくれるかで、借地権売買の仲介実績や専門知識が豊富な不動産会社かどうかを見極めることもできるでしょう。
借地権付き建物の「建物」は売却できる?
これまで借地権の売却について解説してきましたが、借地権付き建物の「建物」だけ売却することはできるのでしょうか?答えはNOです。「建物」だけを切り売りすることは現実的には難しいと言えます。
借地上の建物を売る場合、当然に建物だけでなく土地の「借地権」もセットで売却するものと考えられます。買主にとっては、建物だけ買っても、建物が立つ土地を使えなければ意味がないからです。
このため、「借地権付き建物」を売る場合も、借地権の売却と同じように、地主の承諾が必要になります。その際に「名義書換料」を支払うのも同じです。
「借地権付き建物」の売却では建物の所有者が借地権者であるかどうかも重要視されます。借地権者が建物の登記をしていれば、所有権が証明できます。

借地権付き建物の場合、「土地賃借権」のケースが大半なので、売却前に地主の承諾が必要な点はしっかり覚えておきましょう。また、借地権が「地上権」の場合でも、売却方法によっては、地主の協力を得たほうが有利になることもあります。
借地権付き建物のメリットとは
借地権付き建物の売却や購入にあたっては、メリットとデメリットを把握しておくことも大切です。
まずは、所有権の土地よりも安く購入できるなど、借地権付き建物のメリットをまとめましょう。
所有権に比べてお手ごろな物件として売り出せる
借地権付き建物は、土地代が安価であることが最大のメリットです。
土地の所有権が付いた一戸建ての場合、土地代と建物代を合わせた価格になりますが、借地権付き建物の場合は、土地代は所有権に比べると低価格で取引されます。したがって、建物代を含めた総額でも低価格となり、購入者にとっては地代がかかるものの入手しやすい物件として売り出すことができます。

「借地権付き住宅のメリット」についてもっと詳しく→
借地権付き住宅とは?買うよりお得?メリットと注意点を解説 | 住まいのお役立ち記事 (suumo.jp)
土地に対する税金が課税されない
土地の所有者に毎年課税される「固定資産税」と「都市計画税」は、地主に課税されるため、借地権者は負担しなくてすみます。ただし、建物の所有者には建物分の固定資産税・都市計画税が課税されます。借地権付き建物を購入するときにかかる不動産取得税なども借地権者が納税します。
また、借地権は、贈与税・相続税の課税対象となります。相続税の場合は、国税庁の「路線価」による更地の評価額に対して、地域ごとに決まられた「借地権割合」を乗じた金額が借地権の評価となり、税額が決定します。
借地権付き建物のデメリットとは
借地権付き建物は、土地所有権に比べて土地代が安価であるなどのメリットがあります。一方、毎月地代を支払うほか、売却はもちろん建物の建て替えの際も地主の承諾が必要などの制限があります。
借地権の購入や売却の際には、デメリットもきちんと把握しておくことが大切です。
毎月、地代(借地料)を支払う必要がある
借地の場合、毎月地主に「地代」を支払わなければなりません。地代は土地の使用料です。
店舗やオフィスなどの場合、固定資産税年額や得られる収益から地代を算出する方法がありますが、住宅の場合は、物件ごとに算出基準が異なります。借地権を購入する際には、地代をどのように算出しているのか確認しておくとよいでしょう。
また、地代は借りている期間中一定とは限りません。周辺の土地の固定資産税額や売買価格などの上昇を理由に、地主から地代の値上げを要求される場合もあります。
借地で家を建てた場合、初期費用は購入に比べて安くなりますが、長期にわたって地代の支払いが発生するため、そのコストも併せて検討しておく必要があります。
契約更新後に家を建て替える場合は地主の承諾が必要
借地契約を更新した後に家の建て替えを行う場合は、地主の承諾を得る必要があります。その際には、「名義書換料」を支払うのが一般的です。

担保としての価値が低く、ローンの審査に通りにくい
借地権付き建物を購入して建て替えをする際には、住宅ローンを利用する場合も多くあります。しかし、土地が借地で、建物の建築費用だけをローンで賄おうとした場合、融資を受けられない可能性もあります。
通常、金融機関はローンの担保として、土地や建物に抵当権を設定しますが、土地の借地権が「土地賃貸借権」の場合、抵当権を設定できないためです。一方、借地権が「地上権」の場合は抵当権の設定が可能なため、比較的ローンが利用しやすいと言えます。

借地権は売却だけでなく相続も可能
借地権は地主から対価をもって設定された権利ですので財産です。相続時には、相続財産として評価されます。
また、契約そのものは相続により自動的に承継されますので、相続人はそのまま土地を使用できます。承諾料や更新料、名義書換料といった支払いも発生しません。
契約書そのものの書き換えは不要ですが、相続人が決定したらそのことを地主に伝えなくてはなりません。
また、借地権上の建物の所有権登記を相続人名義にすることが必要です。
「借地権の相続」についてもっと詳しく→
借地権割合とは?調べ方は?借りている土地の相続を考えるときに理解しておきたいポイント - 【SUUMO】住まいの売却ガイド
「借地権」と「借地権付き建物」にまつわるトラブル事例集
最後に、借地権に関する3つのトラブル事例を紹介します。地主が借地権の売却を承諾してくれなかったケースをはじめ、契約解除や地代の値上げの請求に関する事例です。いずれも、専門家に相談してトラブルは無事解決。借地権の問題には、弁護士などの豊富な経験と知識を持つ専門家に相談するのがベストだと言えます。

【実例1】長年住んでいない家と土地の明け渡しを、地主から要求された
Aさんは公務員として定年まで働き、現在はリタイアしています。彼は古い住宅街の借地に立つ住宅を所有していますが、実際には別のマンションに住んでおり、滅多にその住宅に行くことはありません。ある日、地主から「家を使っていないなら、更地にして明け渡してほしい」と言われました。しかし、Aさんはその住宅街が気に入っており、友人も多いため、将来また住むことを考えていました。
そこで、借地問題に詳しい弁護士に相談しました。弁護士からは「長年使っていないというだけでは契約解除の理由にならない」とのアドバイスを受けました。しかし、Aさんは地主と揉めたくない気持ちもあり、また将来の計画も未定だったため、柔軟に対応することにしました。
弁護士と相談の結果、Aさんは住宅を手放し、地主に「建物と借地権を買い取ってほしい」と要求しました。交渉は長引きましたが、最終的には地主が買い取ることで合意しました。Aさんはその現金とマンションの売却資金を使い、気に入った街で新しい一戸建てを購入することができました。地主も借地権を回収し、土地の資産価値が上がり、双方にとって良い結果となりました。

【実例2】地主から長年据え置かれていた地代の値上げを要求された
Bさんの家は親の代から借地に立っており、昭和30年(1950年)代からこの土地を借りています。地主も近所に住んでおり、Bさんと地主は地域の自治会で役員として活躍し、以前は気軽にあいさつを交わしていました。
しかし、地主が年金生活になり、「地代を値上げしてほしい」と要求してきました。Bさん夫妻も年金生活のため、住居費をこれ以上出せず、値上げを断りました。その結果、地主は地代を受け取らなくなり、関係が険悪になりました。
困ったBさんは、地代の不払いが理由で賃貸借契約を解除される恐れがあると考え、知り合いの弁護士に相談しました。弁護士のアドバイスにより、Bさんは地代を法務局に供託することにしました。供託とは、金銭や有価証券を供託所に預けることで、支払い義務を果たす手段です。これにより、Bさんは地代を支払ったとみなされ、債務不履行による不利益を避けることができました。
その後、弁護士を通じて地主と交渉し、Bさんはわずかながら地代の値上げに応じることにしました。新しい地代が決まると、地主との関係も回復し、朝のあいさつが戻ってきました。Bさんは、日ごろからの関係構築が問題解決に役立ったと考えています。また、供託という手段を迅速に取ったことで、問題を複雑化せずに済みました。
【実例3】家を売却したいと相談したら、地主から高額な名義書換料を要求された
会社員のCさんは、25年前に地主の所有する土地の上に立つ、借地権付きの戸建住宅を購入し、家族と一緒に暮らしていました。しかし、転勤の話が出て、家族で引越す必要が出てきました。そのため、Cさんは戸建住宅を借地権付きで第三者に売却することにしました。
Cさんは不動産会社に仲介を依頼し、買い手を探し始めました。地主に売却の話を持ち込むと、理解は示してくれましたが、売却を承諾するための「名義書換料」を要求されました。その金額は相場よりも高額で、Cさんは納得できませんでした。売り出し価格はすでに決まっており、高額な名義書換料を支払うと手元に残る金額が大幅に減ってしまうためです。
地主の承諾が得られないまま時間が過ぎ、転勤の日が近づいてきました。困ったCさんは、知り合いの弁護士に相談しました。弁護士のアドバイスを受け、Cさんは裁判所で「借地権譲渡に関して地主の承諾に代わる許可」を受けることにしました。これは借地非訟裁判と呼ばれ、裁判所が正当と思われる金額の譲渡承諾料と引き換えに許可を与えるものです。
裁判所が決めた譲渡承諾料の金額にCさんは納得し、建物と借地権の譲渡が無事にできるようになりました。
まとめ
- 借地権は大きく分けて「地上権」と「土地賃借権」があります
- 土地の「借地権」や「借地権付き建物」は売却できます
- 借地権が「土地賃借権」の場合、売却するためには「地主の承諾」が必要です。その際に「名義書換料の支払い」が必要となることも多いです
- 借地権の売却を成功させるコツは、借地権売買の取引経験が豊富な不動産会社に仲介を依頼することです
●監修
弁護士 佐々木康友さん
さいたま未来法律事務所の代表弁護士。大学では建築学科を専攻、行政機関で都市開発等の仕事に関わる。39歳で弁護士に転向。建築・不動産分野を中心に、関連分野として遺産相続・離婚・行政事件などにも力を入れている。
●取材・文/コハマジュンイチ、森島薫子
●イラスト/のりメッコ


