全部事項証明書は、登記事項証明書のうち不動産登記に関するもので、不動産の登記記録に記載された事項を網羅的に証明する公的書類です。所有者や抵当権の有無など取引に欠かせない内容が記されています。かつて登記簿謄本と呼ばれていたものにあたり、不動産売却では必ずチェックされる重要書類です。
この記事では、千代田法務会計事務所の司法書士・清水歩さん監修のもと、全部事項証明書の意味や登記事項証明書・登記簿謄本との呼称の違い、取得方法、不動産売却のどの場面で使われるのかを分かりやすく解説します。

記事の目次
全部事項証明書とは?
全部事項証明書とは、不動産の登記記録を確認するために利用される公的な書類です。不動産取引の場面で重要な役割を担っており、売買契約や登記手続きの際に必ずチェックされます。
まずは、全部事項証明書がどのような内容が記載されているのか整理してみましょう。
全部事項証明書の定義
全部事項証明書には、不動産の基本情報に加え、権利関係の詳細も記録されています。
例えば、所在地や地積・床面積といった物理的なデータに加え、所有者の変遷や、抵当権・根抵当権(継続的な取引を担保する権利)といった担保権の設定状況まで確認することができます。
つまり、全部事項証明書を見れば、登記記録上における所有者や権利の変動経緯を含めて、不動産の性質や権利関係を網羅的に把握できるようになっています。
閉鎖登記簿に記録された過去の情報までは含まれませんが、現行の登記記録に基づく範囲で権利関係を確認するための基礎資料といえるでしょう。
登記簿謄本との違い
登記簿謄本は、不動産登記が紙の台帳(簿冊)で管理されていた時代に交付されていた「登記簿の写し」を指す呼び方です。その後、登記記録が1988年(昭和63年)以降から順次電算化され、電子システムで管理されるようになりました。こうしたシステム化に伴い、現在は「登記事項証明書」という名称で運用されています。
登記事項証明書にはいくつかの種類がありますが、その中で不動産の登記記録に記載された事項を網羅的に証明するのが全部事項証明書であり、旧来の登記簿謄本に相当するものです。
ただし、登記簿が紙で管理されていた時代の「閉鎖登記簿」に関する情報は含まれないため、過去のすべての履歴が記載されているわけではありません。
土地や建物の登記事項証明書(不動産登記簿謄本)の読み方は?取得方法や確認すべきポイントをわかりやすく解説!
登記事項証明書の種類と全部事項証明書の位置づけ
登記事項証明書は、不動産の登記記録を公的に証明する書類の総称で、内容や用途に応じていくつかの種類があります。代表的なものは次の4つです。
1.全部事項証明書
登記記録に記載されている事項を網羅的に証明するもので、所有者の変遷や抵当権・根抵当権などの設定状況も確認できます。
ただし、登記簿が紙で管理されていた時代の閉鎖登記簿に関する情報は含まれないため、過去のすべての履歴が確認できるわけではありません。
不動産取引では最も多く利用される種類で、旧来の登記簿謄本に相当します。
2.現在事項証明書
現在効力を持っている登記事項のみを証明するものです。過去の権利変動は省略されるため、内容は簡潔になります。
3.一部事項証明書
登記記録の一部に絞って証明するものです。例えば、共有不動産において、特定の共有者の持分に関する登記事項だけを確認したい場合などに用いられます。
4.閉鎖事項証明書
すでに閉鎖された登記簿の記録を証明するものです。地番の変更や建物の取り壊し後など、現在は使われていない登記簿を確認したい場合に利用されます。
このように、登記事項証明書は目的によって複数の種類に分かれていますが、「全部事項証明書」は所有者や権利関係の履歴まで含まれているため、登記事項証明書の中でも最も詳細なタイプといえます。
また、登記事項証明書には「所有者事項証明書」という、所有者の住所・氏名・持分のみを記載した証明書も存在しますが、一般の不動産取引では利用されることはほとんどありません。
不動産売却で全部事項証明書が指定される理由
不動産売却では、登記事項証明書の中でも全部事項証明書が用いられるのが一般的です。なぜなら、売却に必要な調査や契約の際に、現在の情報だけでなく、過去の権利関係まで確認できるという特徴があるからです。
例えば、「現在の登記上の所有者」「抵当権などの設定」「差し押さえなどの制限」「相続や売買といった権利の変遷」といった点を把握するために活用されます。
現在事項証明書や一部事項証明書でも必要最低限の情報を確認することは可能ですが、売買契約や重要事項説明に使うには情報が限定的で、取引の安全性を担保しきれません。そのため、より詳細で包括的な情報を得られる全部事項証明書が用いられます。
全部事項証明書が使われる場面
不動産売却の流れの中で、全部事項証明書はさまざまな場面で必要とされます。売主が直接取得するケースは少ないものの、不動産会社や司法書士が取引の安全性を確保するために必ず活用します。ここでは、売却のステップごとに、どのように利用されるのかを見ていきましょう。
媒介契約後の調査・広告準備
売却を不動産会社に依頼し、媒介契約を締結すると、最初に行われるのが「物件調査」ですが、この調査の基礎資料として用いられるのが全部事項証明書(または「登記情報提供サービス」で閲覧できる登記情報※)です。
不動産会社は証明書をもとに、「登記簿上の所有者が誰か」「権利関係がどうなっているか」「面積や地目など登記内容はどうなっているか」といった点を確認します。
なお、この証明書は不動産会社が媒介業務の一環として取得するのが一般的で、売主が自ら用意する必要はありません。
また、この段階で確認した情報は販売資料(広告)にも反映されます。買主に提供する物件概要書やインターネット掲載情報の信頼性を高めるためにも、全部事項証明書の内容が欠かせません。
売買契約・重要事項説明
買主が見つかり、売買契約を結ぶ段階では、全部事項証明書が契約内容を裏付ける資料として活用されます。
宅地建物取引業法に基づき、不動産会社は契約前に「重要事項説明」を行いますが、その際に登記上の所有者や権利関係を確認する根拠となるのがこの証明書です。買主にとっても「所有者は誰か」「差し押さえなどの制限がないか」といった点を確認する重要な手掛かりになります。
契約書の物件表示欄に記載される所在地や地積、権利関係の記載内容も、全部事項証明書に基づいて作成されます。

決済・所有権移転登記
売買代金の決済と同時に行われるのが、買主への所有権移転登記です。この最終段階でも、全部事項証明書が重要な役割を果たします。
決済当日は司法書士が立ち会い、前日または当日など、直前の登記情報を確認します。登記名義人が契約時から変更されていないか、固定資産税などによる差し押さえが新たに入っていないかなどを最終チェックするためです。
実務では、法務局で紙の証明書を請求するよりも、「登記情報提供サービス」(オンライン)を通じて最新情報を取得するケースが一般的で、契約から決済までの間に権利関係に変動がなかったことを確認したうえで、所有権移転登記を申請します。
全部事項証明書の取得方法
全部事項証明書は、法務局を通じて誰でも請求できます。取得方法は主に「窓口」「オンライン」「郵送」の3通りです。
それぞれの方法について、手続きの流れや手数料の違いを順に見ていきましょう。
法務局窓口での取得方法
全部事項証明書は全国の登記所や法務局証明サービスセンターの窓口で直接請求ができ、その場で交付を受けることができます。窓口での取得は、即日で証明書を受け取りたい場合に便利ですが、手続きが可能なのは平日の開庁時間内に限られます。
窓口で取得する場合の手続きの流れは次のとおりです。
1.申請書の記入
窓口備え付けの「登記事項証明書(登記簿謄本・抄本)交付申請書」に、不動産の物件の地番または家屋番号を記入します。登記記録上の地番や家屋番号は、登記完了証や登記済証(権利証)、登記識別情報通知書などで確認できますが、法務局や市区町村役場で照会することも可能です。
2.手数料の納付
全部事項証明書1通あたり、600円の手数料を収入印紙で納付します。印紙は法務局の窓口や売店で購入できます。
3.証明書の受け取り
申請後、その場で交付を受けられます。
オンラインでの請求方法
法務省が運営する「登記・供託オンライン申請システム」を利用すれば、パソコンから請求の手続きを行うことができます。オンライン請求は、法務局の窓口に行く必要がなく、祝日・年末年始を除く平日8時30分から21時までの時間帯で手続きが可能です。窓口請求よりも手数料が安く、自宅にいながら申請から受け取りまで完結できる点がメリットです。
オンラインでの手続きの流れは次のとおりです。
1.利用者情報(申請者情報)の登録
はじめて利用する場合は、システム上で申請者情報の登録を行います。氏名や住所、連絡先、パスワードなどを入力して利用者IDを取得します。
2.不動産情報と証明書の指定
「登記事項証明書(土地・建物)/地図・図面証明書」を選び、請求したい不動産の地番または家屋番号など必要事項を入力します。
3.手数料の支払いと受け取り方法の選択
手数料は交付方法によって異なり、法務局窓口で交付を受ける場合は1通あたり490円、郵送で交付を受ける場合は1通あたり520円です。支払いは、インターネットバンキングやATM、クレジットカードなどで行います。

郵送での請求方法
全部事項証明書は、法務局に郵送で請求することも可能です。これは、オンラインで請求して郵送で受け取る方法とは異なり、交付請求書と手数料分の収入印紙などを郵送で法務局に送付する手続きです。郵送請求は、窓口請求やオンライン請求に比べて交付までに日数がかかるため、証明書が必要な期日に余裕をもって手続きを進めると安心です。
郵送での手続きの流れは次のとおりです。
1.申請書の作成
法務局のウェブサイトから「登記事項証明書(登記簿謄本・抄本)交付申請書」をダウンロードし、必要事項を記入します。
2.手数料の納付
郵送請求の手数料は1通あたり600円です。収入印紙を購入し、申請書に貼付して納付します。
3.返信用封筒の同封
返信用の切手と返送先の宛先を記載した封筒、またはメモを同封します。
4.送付先の確認と郵送
不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)宛に郵送します。宛先は法務局の公式サイトで確認できます。

登記事項証明書の取り方。オンライン・法務局での取得方法を解説
交付方法別のメリット・デメリット比較
窓口・オンライン・郵送、どの方法でも、取得できる証明書の内容は同じですが、手間や費用、交付までの早さが異なります。
まず、窓口請求は申請後すぐに交付を受けられるのが利点です。急ぎの場合に便利ですが、平日の開庁時間内しか手続きできず、法務局まで出向く必要があります。
オンライン請求は、自宅から申請でき、手数料もやや安く済みます。夜間(21時まで)も利用できますが、利用者登録やパソコン環境が必要です。また、交付申請書を郵送する郵送請求の場合も法務局に行かずに書面で手続きを完結できる方法ですが、ほかの請求方法と比べると、交付までに時間がかかります。
なお、現在、法務局ではオンラインまたは郵送による請求を推奨しています。
| 方法 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|
| 法務局窓口 |
|
|
| オンライン請求 |
|
|
| 郵送請求 (交付申請書を郵送する場合) |
|
|
全部事項証明書の構成と読み方
全部事項証明書には、不動産に関するさまざまな情報が体系的に記載されています。
内容は大きく「表題部」「権利部(甲区)」「権利部(乙区)」の3つに分かれ、それぞれが不動産の性質や所有者、権利関係を示しています。
はじめて見ると難しく感じるかもしれませんが、基本的な構成を理解しておくと、どこに何が書かれているかが一目で分かります。
ここでは、法務省が公開している登記事項証明書の見本をもとに、土地・建物・マンションそれぞれのケースに分けて、見方のポイントを整理していきます。
表題部に書かれていること
「表題部」は、登記記録の最初の部分で、不動産そのものの基本情報が記載されています。
土地や建物が「どこにあり」「どんな種類の不動産なのか」を示す部分です。
土地の場合は、所在地(地番)や地目(宅地・田・畑など)、地積(面積)が記載されています。

※画像は全部事項証明書(土地)見本画像を元に加工して作成(出典:法務省ウェブサイト)
建物の場合は、所在・家屋番号・種類(居宅・共同住宅など)・構造・床面積といった情報が並びます。

※画像は全部事項証明書(建物)見本画像を元に加工して作成(出典:法務省ウェブサイト)
マンションのような区分所有建物では、「一棟全体」と「専有部分」のそれぞれに表題部があり、専有部分には家屋番号や専有部の床面積、敷地権の割合などが記載されます。

※画像は全部事項証明書(区分所有建物)見本画像を元に加工して作成(出典:法務省ウェブサイト)
権利部(甲区)に書かれていること
「権利部(甲区)」には、不動産の所有権に関する情報が記載されています。甲区は「誰がこの不動産を所有しているのか」を示す部分です。
ここでは、登記の目的(所有権の保存・移転など)や、登記の受付日、原因(売買・相続など)、所有者の住所・氏名が順に記載されています。
所有権が移転するたびに新しい記録が追加され、相続などで登記が複数回にわたって行われている場合や共有者がいる場合などの例外を除き、基本的には現在の所有者が登記簿の最下段に記載されています。

土地や建物の全部事項証明書の甲区には、その不動産の所有者と所有権移転の経緯が記録されます。
※画像は全部事項証明書(土地)見本画像を元に加工して作成(出典:法務省ウェブサイト)

マンションのような区分所有建物の場合、専有部分と敷地権(土地の持分)は一体の登記になり、その区分所有建物の登記の目的や受付日、原因、所有者の住所・氏名などは権利部(甲部)に記載されます。なお、土地の敷地権や敷地権の割合などは敷地権の表題部にまとめられています。
※画像は全部事項証明書(建物)見本画像を元に加工して作成(出典:法務省ウェブサイト)
権利部(乙区)に書かれていること
「権利部(乙区)」には、所有権以外の権利関係が記載されています。例えば、抵当権・根抵当権・地上権(他人の土地を使用する権利)・差し押さえなどが挙げられます。
住宅ローンを利用した不動産には、金融機関の「抵当権設定登記」が記録されます。乙区を見ることで、どの金融機関が担保権を持っているか、またはすでに抹消されているかを確認できます。
なお、土地や建物、マンションいずれも基本的な記載形式は同じです。

所有権以外の権利関係は「権利部(乙区)」に記載されています。なお、見本画像のケースのように、権利部(乙区)の下に「共同担保目録番号」が付いている場合は、複数物件をまとめて担保にしているケースで、同じ抵当権が他の不動産にも設定されていることを意味します。
※画像は全部事項証明書(土地)見本画像を元に加工して作成(出典:法務省ウェブサイト)
全部事項証明書で分かること・分からないこと
全部事項証明書では、不動産の所在地や面積、所有者の履歴、抵当権などの登記上の権利関係を確認できます。ただし、全部事項証明書の内容は登記上の事実を示すだけで、権利外のトラブルなどまでは反映されるものではありません。
不動産売却の登記費用で売主の負担はいくら?登記の種類や必要書類、自分でできるのかも解説
よくある質問(FAQ)
ここからは、全部事項証明書について、よくある疑問を整理して解説します。

全部事項証明書は誰でも請求できる?
本人確認や利用目的の提示は不要で、誰でも請求可能です。物件を特定するために「住所ではなく地番(建物は家屋番号)」が必要になる点には注意が必要です。
マンションを売却する場合は土地と建物どちらの証明書が必要?
マンションは「専有部分+敷地権(土地の持分)」が一体の登記のため、通常は、区分所有建物の登記事項証明書を取得・確認すれば足ります。
なお、一戸建ての場合は、土地と建物がそれぞれ別の不動産として登記されているため、土地と建物、2通の全部事項証明書が必要です。
全部事項証明書に有効期限はある?
法的な有効期限はありません。 ただし記載は交付時点の内容になり、売買では「直近で交付されたもの」を使うのが通例です。
登記情報提供サービスの印刷は証明書の代わりになる?
原則、代わりにはなりません。
登記情報提供サービスは、法務省が運営するオンライン閲覧システムで、登記簿の内容をパソコン上で確認できるものですが、公的な証明力はありません。
売買契約や登記申請などで正式に提出する場合は、法務局が交付する登記事項証明書(全部事項証明書など)が必要です。
【まとめ】全部事項証明書は不動産取引に欠かせない基礎資料
全部事項証明書は、不動産の登記内容を正確に示す公的な記録であり、売却の各段階で欠かせない書類です。不動産会社や司法書士が最新の証明書を取得し、登記内容と現況を照らし合わせて手続きを進めることで、安心・確実な取引が実現するということを理解しておきましょう。
監修/千代田法務会計事務所 司法書士・清水歩さん
構成・取材・文/島田美那子


