家を売却する際、使っていた家具や家電、日用品など、不要なものがたくさん残ってしまうことがあります。これを残置物といいます。ここでは、残置物の意味や具体的な内容、売却時のリスク、さらには残置物の処分方法について、弁護士の横山宗祐さんに監修いただきながら、詳しく紹介します。

記事の目次
「残置物」とは?
そもそも「残置物」とは何でしょうか。その読み方から具体的な例まで確認しておきましょう。
残置物の定義
「残置物」は「ざんちぶつ」と読みます。実は正確な定義はありません。しかし、一般的に不動産売買においては、売却した土地や建物内に売主が残していった家具や家電、生活用品、ゴミといった「買主にとっては不要な、売主の私物全般」を指します。
原則として、残置物の所有権は売主にあり、売主は引き渡しまでにすべての私物や不要物を撤去して買主に引き渡すのが基本です。
さらに、残置物は売主の「動産」にあたり、不動産の買主は残置物を勝手に処分することができません。
ただし、詳しくは後述しますが、売買契約書などに残置物の種類や状態、そして処分に関する責任と費用負担を明確に記すことで買主などが引き続き使用したり、処分することができます。
残置物の具体例
残置物の具体例は家具や家電、生活雑貨・日用品、屋外のものなどがあります。
| 残置物の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 家具 | ソファ、ベッド、タンス、ダイニングテーブル、本棚、食器棚など |
| 家電 | 冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ、乾燥機など |
| 生活雑貨・日用品 | 衣類、食器、調理器具、段ボール、掃除用具、ゴミなど |
| 屋外のもの | 物置、植木鉢、プランター、自転車、タイヤなど |
| 地中埋設物 | 古い建物の基礎やコンクリートガラ(建築物などを解体した際に発生するコンクリートの破片やかけら)、瓦など |
注意したいのが「地中埋設物」です。これは庭などの地中に埋められている古い瓦や、昔の基礎に使っていたコンクリートの破片、鉄筋、さらにタイヤや缶、ビンといった家庭ゴミなどです。
例えば相続した家など、売主が地中に埋められていることを知らなかった場合でも、地中埋設物の責任は売主にあります。売却後に発見された場合、土地の品質が契約内容に適合していないとみなされ、買主から履行の追完(売主の責任と費用で埋設物を撤去する)を求められたり、撤去費用相当額に売買代金の減額や損害賠償を請求されます。
そのため、相続物件など、売主も土地の状況を把握しきれていない場合は、後のトラブルを防ぐために、「地中埋設物に関する特約」を結ぶとよいでしょう。
「地中埋設物に関する特約」とは、「地中埋設物が発見されても、売主はその撤去・損害賠償の責任を一切負わない」旨を記した特約です。ただし、この場合は買主との合意が必要です。また、地中埋設物の存在を故意に隠した場合は、特約自体が無効となります。




付帯設備は残置物には当たらない
一方、「付帯設備」は残置物には当たりません。付帯設備とは、建物に付属しており、その建物の機能を発揮・維持するために一体となって使われる設備や機器のことです。下記は主な付帯設備です。
| 付帯設備の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 水まわり・給湯関係 | システムキッチン、給湯器、浴槽、シャワー、洗面台、トイレなど |
| 空調・換気関係 | 埋め込み式のエアコン、換気扇、24時間換気システム、床暖房など |
| 電気・照明関係 | 配電盤、インターフォン、火災報知器、ダウンライト(埋め込み照明)、テレビアンテナ、太陽光発電システム、蓄電池など |
| 建具・そのほか | 網戸、雨戸、シャッター、造り付けの下駄箱、床下収納など |
| 庭まわり | 庭石、灯籠など |
不動産売買の際、売却物件に残していく付帯設備は、設備の状態を正確に告知するための「付帯設備表」に記載して売却時に提示することが一般的です。
この付帯設備表には、後のトラブルを防ぐために、設備のメーカー名や品番、購入年、故障歴や不具合があるのなら、なるべく詳しく故障や不具合内容がわかるようにしておくとよいでしょう。例えば換気扇なら「作動時に異音がする」とか、網戸なら「スムーズに動かない」といった具合です。
さらに太陽光発電システムの場合、売電契約に引き継ぎ条件やメーカー保証の残期間、発電実績など、買主が引き続きスムーズに使えるように、詳細な情報を記載しておくようにしましょう。
なお、太陽光発電システムや蓄電池、古い給湯器などは、買主によっては「不要」と思われる場合もあります。しかし、これらは基本的に「付帯設備」になるので、不動産の売買が成立した後に、不要であれば買主が処分します。ただし、買主からすれば処分費用や手間がかかるため、売却価格に影響する可能性があります。



残置物は誰が処分するのか?
不動産売買において残置物を処分する主体は、不動産の売却方法によって異なります。
仲介で売却する場合、残置物は売主が処分
売主と買主を不動産会社が「仲介」する場合、売主は物件の引き渡し時に残置物のない、いわゆる「空っぽ」の状態で引き渡すのが原則です。
その際、売買契約書には「残置物とは物件の売買契約に含まれない、売主が引き渡しまでに撤去しなければならない」という旨の、残置物に関する特約を記載するのが一般的です。
なお、「仲介」の場合は買主が引き渡し前に実際の物件を見に来ることがあります。その際に残置物がたくさんあると、汚いというマイナスイメージや、実際の空間よりも狭く感じやすくなります。
相続した家など、売主が普段から生活していない不動産を売却するのであれば、事前に残置物がないか確認し、買主が訪れる前にできるだけ整理や処分をしておいたほうがよいでしょう。
不動産会社が買取する場合、残置物は不動産会社が処分
上記の「仲介」に対し、不動産会社が不動産を買い取る場合、一般的に再販までスムーズに取引をしたい不動産会社が残置物を処分してくれます。そのため、売主は残置物の処理に頭を悩ませる必要がありません。
残置物の処分費用は、あらかじめ買取価格から差し引かれて提示されます。その際、売主が自ら処分するよりも、処分費用は高くなる、つまり買取価格が仲介の売却価格よりも低くなる可能性があります。
建物を解体して売却する場合、原則として残置物は売主が処分
建物を解体して更地で売却する場合でも、建物内の残置物は原則として売主が撤去しなければなりません。
ただし、解体業者に「残置物も合わせて処分してほしい」と依頼できるケースもあります。この場合も買取同様、売主が自ら処分するより、処分費用は高くなる可能性があります。

買主の希望で残置物を処分しない場合は?
壁掛けエアコンや物置のように、本来は残置物であり、売主が処分しなければならないものでも、買主が「そのまま残してほしい」と言ったものについては、下記のような手続きを行うことで物件に残しておくことができます。
買主との合意内容を売買契約書に明記する
「買主が引き取りたい」と希望するエアコンなどがある場合は、事前に書面で合意し、売買契約書に貼付する「付帯設備表」や、別途「残置物リスト」を作成して明記することが重要です。
例えばリビングにある壁掛けエアコンでいうと、まず付帯設備表に「その他の設備」などの欄を設け、そこに「リビングにある○○社製のエアコン1機」というように、設置場所、種類、数量を具体的に記載します。
さらに「買主希望により残置する」旨を明記します。
加えて、特定した残置物について、売主が責任を負わないことを明確にする特約を売買契約書に盛り込みます。
ありがちなのが「(買主)このエアコンは残してくれますか」「(売主)いいですよ」といった口約束で済ますことです。特に残すものが多いほど、いちいち書面に書くのは面倒なため口約束になりがちですが、後々のトラブルを防ぐために、必ず書面に残すようにしてください。


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残置物の放置で考えられるリスクとは?
残置物を放置したまま売却すると、どんなリスクがあるのか確認しておきましょう。
契約不履行のリスク
売買契約書には「残置物はすべて撤去して引き渡す」という条項が入ることが一般的です。逆に言えば、売買契約書に書かれているにもかかわらず、引き渡し時に残置物が放置されている場合は契約違反となり、損害賠償を請求される可能性があります。
買主との信頼関係の悪化
引き渡し時に残置物があると、買主は売主に対する不満や不信感を募らせかねません。そのため引き渡し後も、他のちょっとした不具合からトラブルが発生する可能性があります。
「例えば、引き渡し時に残置物がたくさん放置されていて、買主が売主に対してモヤモヤを抱いたとします。残置物については売主に連絡し、引き取ってもらいましたが、その後数カ月もしないうちに付帯設備である給湯器が故障。買主は「残置物を放置するような売主だから、きっと以前から壊れていたか、壊れる予兆があったに違いない」と思い、売主に修理費や損害賠償を請求する、といったトラブルが考えられます。
他にも残置物が放置されているというトラブルの後に、玄関や窓の鍵がかかりにくいとか、洗面台の排水の流れが悪いなど、ちょっとした不具合があると、売主に対する不満や不信感が大きくなります。
これは実際にあった話ですが、残置物がきっかけでまず買主が売主に対して不満を抱き、その後の建物の不具合でもめた際、売主が「それは私の責任ではない」などと強硬な態度を崩さなかったため、円満な解決までに相当の期間と費用を要したケースもあります(弁護士・横山宗祐さん)」。
要らぬ不信感を抱かれないためにも、残置物は必ず引き渡し前に処分するようにしましょう。

処分費用が余計にかかる
残置物はあくまでも売主に所有権があります。そのため、買主が残置物を勝手に処分すると、売主が損害賠償を請求したり、売主が「個人的なものなので返してほしい」と主張するといったトラブルが発生しかねません。
そこで売買契約書には「残置物撤去の特約」を記載するのが一般的です。ここには、売主が残置物について一切の所有権を放棄すること、売主は引き渡し日までに残置物をすべて撤去し、完了しない場合は処分費用を負担することなどが記載されています。
そのため、万が一、引き渡し時に残置物がある場合は、残置物の所有権が買主に移り、その処分費用は売主が負担することになります。
残置物の撤去を買主側で行うことになった場合、その費用は売主に請求されますが、売主が自分で処分するよりも処分費用は高額になりやすいでしょう。
売却を成功させるための残置物の処分方法
売却後のトラブルを防ぐためにも、残置物は早めに処分することが重要です。ここでは具体的な処分方法について解説します。
自治体のごみ回収を利用する
各自治体のルールに従い、可燃ゴミ、不燃ゴミ、粗大ゴミとして指定の場所に出す方法です。家具などの粗大ゴミは事前に自治体に連絡し、有料の粗大ごみ処理券を購入・貼付して回収を依頼するか、地域のゴミ処理施設に直接持ち込む方法があります。
| メリット |
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|---|---|
| デメリット |
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不用品回収業者に依頼する
専門の不用品回収業者や残置物処理業者に依頼する方法です。業者が残置物の仕分け、搬出、運搬、処分までをすべて代行してくれます。産業廃棄物も法令に従って処理してくれます。
| メリット |
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|---|---|
| デメリット |
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リサイクルショップやフリマアプリで売却する
まだ価値がある家具や家電、衣類などはリサイクルショップに持ち込むか、出張買取を利用する方法があります。または、フリマアプリやネットオークションなどを利用して個人に売却することもできます。
| メリット |
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|---|---|
| デメリット |
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サイクル家電やパソコンは法律に準じて処分
特定の家電(テレビ、エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)は家電リサイクル法に、パソコンは資源有効利用促進法に基づき処分します。これらは自治体の粗大ごみとして処分できません。
それぞれ、以下の方法で処分します。
リサイクル家電(テレビ、エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)の場合
リサイクル家電の処分方法は大きくわけて2パターンあります。
- 買い替え店や購入店に引き取りを依頼する
新しい製品への買い替えや、対象家電の購入店が分かっている場合は、買い替え店や購入店に引き取りを依頼します。引き取りの際に、それぞれの家電に対応するリサイクル料を支払います。 - 郵便局でリサイクル券を購入し、指定引取場所へ自分で持ち込む
対象家電の購入店が分からない場合や、自分で処分したい場合は対象家電の品目、製造メーカー名、サイズを確認し、家電リサイクル券センターのウェブサイトや、郵便局に備え付けの料金表でリサイクル料金を調べます。その後、メーカーが指定する引き取り場所を確認してから、郵便局で家電リサイクル券を購入し、指定引取場所へ自分で持ち込みます。
自身での運搬が難しい場合、市区町村が案内している業者(一般廃棄物収集運搬許可業者)に回収を依頼することもできます。
パソコンの場合
「PCリサイクルマーク」のあるパソコンの場合、廃棄処分の費用を支払う必要はありません。各メーカー(またはパソコン3R推進協会)に回収を依頼します。回収方法については各メーカーのホームページなどで確認してください。
「PCリサイクルマーク」がない場合は、各メーカーのホームページなどで料金を確認し、指定された方法(郵便振替、クレジットカードなど)で支払います。
なおAppleのパソコンにはPCリサイクルマークがありませんが、これはAppleが独自のリサイクル回収方法を実施しているためです。詳しい回収方法についてはAppleのホームページなどで確認してください。
このようにPCリサイクルマークがない場合は、一度メーカーに問い合わせてみるとよいでしょう。
| メリット |
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|---|---|
| デメリット |
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ゴミ処分費が高騰している点に注意
近年はゴミの処分費用が高騰しています。環境省の「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について」によれば、ごみ処理事業にかかる総経費は、令和5年度(2023年)に2兆2912億円となり、国民1人当たりのごみ処理事業経費は1万8300円でした。いずれも過去最高の水準です。
一方で、ごみ総排出量は3897万トン(前年度比3.4%減)、1人1日当たりの排出量も851グラム(前年度比3.2%減)と、ごみの排出量自体は減少傾向にあります。にもかかわらず、処理費用が大幅に増加しているのが現状です。
ゴミの処分費用が高騰している主な要因は、ゴミ処理施設の老朽化に伴う整備や更新にかかる建設改良費の増加や、人件費・燃料費の高騰などにあります。
今後もごみ処理事業にかかる総経費は増加すると予想され、それに伴い、私たちのゴミの処分費用も上がると考えられます。
「残置物の処分費用なんて、たいしたことはないだろう」と考えず、ある程度予算を確保しておくなどの心構えが必要でしょう。

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まとめ
- 残置物(ざんちぶつ)とは、一般的に売却した土地や建物内に売主が残していった、買主にとって不要な売主の私物全般を指します
- 付帯設備(システムキッチン、給湯器、トイレ、埋め込み式エアコンなど、建物の機能維持に一体となって使われる設備)は残置物には当たりません
- 原則として、残置物の所有権は売主にあり、売主は引き渡しまでにすべての私物・不要物を撤去して買主に引き渡すのが基本です
- 残置物の撤去は売買契約書の特約に盛り込まれるのが一般的なため、放置すると契約違反となり、損害賠償を請求される可能性があります
- さらに残置物の放置は買主の不満や不信感を募らせ、引き渡し後の小さな不具合が大きなトラブルに発展する可能性があります


