不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

不動産売却で損をした時に使える税金の特例。譲渡損失の繰越控除を解説/不動産売却マニュアル#26

不動産売却で損をした時に使える税金の特例。譲渡損失の繰越控除を解説/不動産売却マニュアル#26

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マンションや土地、戸建などの不動産を売却したときに、必ずしもトクできるとは限らない。その不動産を買ったときよりも値下がりしてソンしてしまうこともある。でも、そんなときに税金でソンを取り戻せる制度もあるので覚えておこう。

売って損したらその他の所得と相殺できる

売った年から最長4年間の所得税・住民税等が軽減される

不動産を売却したときの譲渡所得(詳しくは「不動産売却にかかる税金」を参照)がプラスの場合は所得税・復興特別所得税と住民税が課税される。一方、譲渡所得がマイナスの場合は売ってソンをしたことになるので、「譲渡損失」が出たことになる。

譲渡損失には所得税や住民税が当然かからないが、それだけでなく売った年のその他所得と相殺して所得税や住民税を減らすことができる。これを「損益通算」という。

さらに売った年の所得よりも譲渡損失のほうが大きく、相殺し切れない場合は、翌年以降の所得からも繰り越して差し引ける「繰越控除」を利用できる場合がある。これが「譲渡損失の繰越控除」と呼ばれる特例だ。この特例は売った年の翌年から最長3年間の所得まで繰り越して控除できるので、売った年と合わせて最長4年間の所得税等や住民税がゼロになったり軽減されたりする。

買い替えのときに利用できる譲渡損失の繰越控除

譲渡損失の繰越控除には2つのタイプがある。一つ目は自宅を買い替えるときに利用できるタイプで、これを「マイホームの買換えの場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」という。この特例を利用するには以下の要件を満たす必要がある。

所有期間が5年を超える自宅を売ること

この特例が利用できるのは、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるマイホームを売却した場合だ。マイホームとは自宅のことなので、自分が住んでいるか、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却することが要件になる。

また、この特例には期限があり、2023年12月31日までの売却が対象だ。

敷地面積が500m2以内の部分まで

敷地面積が500m2を超える場合は、500m2を超える部分の譲渡損失の金額は繰越控除の対象とはならない。

合計所得金額が3000万円以内

合計所得金額が3000万円を超える場合は、その年は繰越控除を受けられない。

買い替え先の新居にも要件がある

買替え先の新居についても、以下の要件を満たす必要がある。

  • 旧自宅を売却した年の前年の1月1日から翌年の12月31日までに取得すること
  • 取得した年の翌年12月31日までに入居するか、入居する見込みであること
  • 家屋の床面積が50m2以上であること
  • 返済期間10年以上の住宅ローンを借りて取得すること

所得600万円、譲渡損失2000万円なら3年間は課税ゼロ

例えば給与収入が800万円で所得が600万円の人が自宅を買い替えて2000万円の譲渡損失が発生した場合、特例により所得税と住民税の課税は次のようになる(所得は4年間変わらないものと仮定)。

売って損した時に利用できる税金の特例とは

住宅ローン控除との併用は可能

この特例は、自宅を売却した年の前年と前々年に次の特例を利用していると適用されない。

  • 所有期間10年超の場合の軽減税率の特例
  • 3000万円特別控除
  • 買換え特例

また、売却した年の3年前以内に別の自宅でこの特例や、次に述べる特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例を受けている場合も、適用されないので注意が必要だ。

なお、この特例と住宅ローン控除は併用ができる。ただし住宅ローン控除は課税対象となる所得があることが前提なので、譲渡損失の繰越控除で所得がゼロになった年は住宅ローン控除が適用されない。

上記の例では4年目に400万円の課税所得が発生した年から住宅ローン控除が適用される。その時点で買い替え先の新居に住んで4年目なら、住宅ローン控除の対象期間13年のうち実際に適用されるのは10年間ということになる。

買い替えなくても利用できる譲渡損失の繰越控除

譲渡損失の繰越控除の特例には買い替えなくても利用できるタイプがある。それが「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」だ。

所有期間や所得の要件は買い替えの場合と同じ

この特例の対象となるのは所有期間5年超の自宅で、合計所得3000万円以下の年だけなどの適用要件は買い替えの場合の譲渡損失の繰越控除の特例とほぼ同じだ(敷地面積500m2以下の部分のみという要件はない)。

売却の前日に売却住宅に住宅ローン残高があること

買い替えの場合の特例と大きく異なるのは、以下の点だ。

  • 買い替えなくても、賃貸住宅や実家に引越してもよい
  • 売却した自宅について、売却の前日に返済期間10年以上の住宅ローンの残高があること
  • 自宅の売却価格がその住宅ローン残高を下回っていること

住宅ローン残高から売却価格を差し引いた額が特例の限度額

また、この特例で損益通算と繰越控除の対象となる譲渡損失は、売却した前日の住宅ローン残高から売却価格を差し引いた額が限度額となる。

例えば取得費と譲渡費用の合計が3000万円のマンションを2100万円で売却した場合、本来の譲渡損失は差額の900万円だが、売却時の住宅ローン残高が2200万円だったとすると、特例の対象となる限度額はローン残高と売却価格の差額の100万円になる。これを計算式で表すと以下のとおりだ。

譲渡損失の金額:
取得費と譲渡費用の合計3000万円-売却価格2100万円=900万円

特例対象の限度額:
住宅ローン残高2200万円-売却価格2100万円=100万円

特例に必要な手続きは?

売却した翌年と繰越控除を受ける年に確定申告が必要

この譲渡損失の繰越控除の特例を利用する場合、買い替えの場合でもそうでない場合でも、売却した翌年に確定申告する必要がある。また2年目以降に繰越控除を受ける場合も、損失申告用の確定申告書を税務署に提出する手続きが必要だ。

●監修
税理士法人タクトコンサルティング

構成・取材・文/大森広司

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不動産売却マニュアル

●構成・取材・文/大森広司
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
●監修/税理士法人タクトコンサルティング
資産税コンサルティングの草分けとして、長年にわたり、個人の相続・譲渡や贈与など、法人の事業承継、組織再編、M&Aなど、個人・法人の資産税に関わるコンサルティングを手がけている。
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