
転勤やライフステージの変化、相続などで誰も住まなくなったマンションを、売るほうがいいのか貸すほうがいいのか。
一般的には、まとまった金額が欲しいのであれば売却。定期的な収入が欲しいなら賃貸がおすすめです。
ただし、「貸す」場合と「売る」場合は、それぞれ必要な手続きやダンドリが異なり、必要となる費用や納める税金も異なるため、様々な観点から判断することが大切です。
売る、貸すにあたってのポイントを比べてみて、自分のライフプランにどちらがピッタリか考えてみましょう。
記事の目次
マンションを売るか買うかはどっちがいい?
まとまった金額が欲しいなら売却、定期的に収入が欲しいなら賃貸
住まないマンションをどうするか迷ったときに、自分のライフプランを見直してみると決断に一歩近づくことができます。
お金の面では、
・今、まとまった売却益を得ておきたい → 売却
・今後、定期的に収入が欲しい → 賃貸
の2択となりますが、「投資として考えるなら、賃貸にもリスクがあることを忘れないでください」と岡本さん。
「まず空室のリスクがありますし、マンションが古くなることで賃貸料も下落していきます。未来の売り時も完全には予測できませんし、事故や災害が起こることさえあります。生活費に余裕がある人がリスクを承知の上、ポートフォリオに組み込むのならいいと思います」(岡本さん)。

将来住む予定があるなら賃貸
ライフプランにおいて、今後そのマンションに住む予定があるなら、やはり賃貸の選択になります。「賃貸にしたあと事情が変わって売却したいとなったとき、賃貸借契約中だと1~2割程度売却価格が低くなる点に注意してください。普通借家契約では売却を理由に賃借人に退去してもらうことはできません。住む予定があらかじめ決まっているのなら、定期借家契約で貸すことがセオリーです」と岡本さん。
マンションを「売る」と「貸す」のメリット・デメリットは?
マンションに住まない事情は買い替え、転勤、遺産相続、それぞれだと思いますが、マンションの資産価値を見直すいい機会にもなります。
空き家のままではもったいないし、住まなくても管理費や修繕費などはかかり続けます。「売る」か「貸すか」、まずメリットとデメリットを整理してみましょう。
「売る」のメリット・デメリットは?
■メリット
・まとまった金額を受け取ることができる(お金)
・管理費、修繕積立金、固定資産税など固定費の支払いがなくなる(お金)
・所有に関する手間がなくなる(手間)
■デメリット
・売却損のリスク(お金)
・売却行為に手間がかかる(手間)
「貸す」のメリット・デメリットは?
■メリット
・定期的に家賃収入を得ることができる(お金)
■デメリット
・管理費、修繕積立金、固定資産税など固定費の支払いがある(お金)
・空室のリスクがある(お金)
売るか貸すかは「お金」「手間」「ライフプラン」で考える
メリットとデメリットを整理してみると、売るか貸すかは、「お金」と「手間」の問題に集約することができそうです。
そしてもう1点、追加して考えておきたいのが「ライフプラン」。不動産コンサルタントの岡本郁雄(おかもと・いくお)さんによると「不動産から得られる利益と賃貸管理の手間をどう考えるか、ライフプランにより向き不向きがあります」。
「お金」「手間」「ライフプラン」の3つのポイントで、マンションを「売る」か「貸す」かを比較してみることにします。
【お金】「売る」ケースのお金、確認したい項目は?
マンションの売却金額はいくらか
「マンションを売却する場合、住宅ローンの完済が必須になります。売却価格から諸経費を引いた額がローンの残債より少なくなりそうなときは、手元資金で完済できるのか確認してみてください」と岡本さん。
マンションがいくらで売却できるかは、近くで販売されている中古マンション情報をSUUMO等で検索してみることでおおよその見当をつけることができます。 さらに具体的な売却価格を知りたいときは、一括査定サービスを利用してみましょう。
SUUMO 一括査定はパソコン、スマホからの不動産情報を入力するだけで査定結果を受け取ることができます。複数社の査定額を比較することで、現実味のある売却価格がわかります。同時に賃料査定をしてくれる会社もありますので、気軽に依頼してみてください。

マンション売却にかかるコスト
売却価格の目安がついたら、まずは売却にかかるコストを想定してみましょう。マンション売却には諸々の費用がかかりますが、多くの場合は現金で支払う必要があります。 かかる費用には、主に以下のようなものがあります。
(1)仲介手数料
売却を依頼した不動産会社に、売買価格の3%+6万円+消費税を上限とする金額を支払います
(2)売買契約書の印紙代
売買契約書に貼る印紙代は売買価格により変わります。1000円~6万円です
(3)譲渡所得への税金
売却価格から取得費用(不動産購入費・売却にかかった費用)を引いた金額を譲渡所得といい、課税対象になります。3000万円までの譲渡所得には税金がかからない、など条件により特例もあります
(4)住宅ローン一括返済手数料
住宅ローンが残っている場合、売却時に一括返済が前提となります。一括返済には手数料が設定されている場合がありますので、銀行との契約書やHPで確認を。住宅ローン残高は、銀行から送付されている返済計画予定表で確認できます
(5)抵当権抹消登記費用
住宅ローンを完済して登記の抵当権を抹消する費用は、売主の負担です。司法書士に払う報酬料も含め1万~3万円程度が相場です
税金については「不動産売却にかかる税金(所得税など)は?」「不動産売却で節税できるポイント」、売却にかかる費用は「売却にかかる費用を知ろう」を参照してください。
このほか、売却に備えてリフォームやハウスクリーニングを行う場合はその費用を準備する必要があります。また住み替えを同時に行う場合は引越し費用も忘れずに用意しましょう。
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マンション売却でかからなくなる費用
マンションを売却する際には費用がかかりますが、マンションを所有しなくなることで、かからなくなる費用があります。
(1)固定資産税・都市計画税
マンションの固定資産税・都市計画税の支払いがなくなります。1月1日時点の所有者に毎年課税されるので、買主と日割りで精算することが一般的です。
(2)売って損したときの所得税・住民税
マンションの売却金額が、そのマンションの購入時の金額と売却にかかった費用の合計を上回った場合、譲渡所得がマイナスになったとして、他の所得と通算して所得税・住民税を減らせる場合があります。 さらに「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」の条件に当てはまれば、最長で4年間所得税・住民税の支払いがなくなるケースがあります。
(3)マンションの管理費・修繕積立金
毎月の管理費、修繕積立金の支払いが不要になります。売買の引渡し日に、買主と日割りで精算します。
税金については「売って損したときに使える税金の特例」を参照してください。
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【お金】「貸す」ケースのお金は、賃貸収入とコストのバランスを確認しよう
家賃収入はいくらになるか
マンションの主な家賃収入は、
毎月:賃料+管理費(共益費)
2年ごと:契約更新料
になります。
「賃料は『○カ月分』で計算する収入と支払いのベースになります。例えば、不動産会社に払う仲介手数料は、家賃の1カ月+消費税が上限です。賃借人から受け取る契約更新料も賃料〇カ月分で計算します。賃料は高く設定すれば月々の家賃収入が増えますが、高すぎれば借り手に敬遠されます。一方で、リーズナブルに設定すると貸しやすく空室期間を短くできます。月額の賃料と管理費の割合は、地域の事情に詳しい不動産会社にアドバイスしてもらいましょう」(岡本さん)
(1)賃料
毎月いくらで貸せるのか、貸したいマンションの近隣にある類似物件の家賃をSUUMO等で検索してみることで想定することができます。より具体的な賃料を知りたいときは、物件を多く扱っている不動産会社に査定を依頼してみましょう。
(2)管理費(共益費)・礼金・契約更新料
管理費(共益費)、礼金、契約更新料は、マーケットと地域の慣習により異なります。
なお、契約時に借主から受け取る敷金(保証金)は一時預かり金なので、収入とはなりません。

マンションを貸すとき、はじめにかかるコスト
マンションを貸し出すときにも費用がかかります。汚れや傷みが目立つ場合は、リフォームをどうするかが悩みどころです。
(1)仲介手数料
法律上で不動産会社が受け取る仲介手数料の上限は、貸主・賃借人双方からの合計で家賃1カ月分+消費税です。貸主が不動産会社に特別な依頼(広告、出張など)をした場合は実費を支払うケースがあります
(2)ハウスクリーニング、リフォーム費用
いくらまでリフォーム費用をかけるべきかは、家賃収入とのバランスになります。不動産会社への賃料査定とともに相談してみましょう。ハウスクリーニングは数万円程度で依頼できます
(3)住宅ローンから賃貸用ローンへの借り換え費用
転勤など特別な場合を除いて、住宅ローンが残っている間は金融機関の承諾なく貸すことはできません。「投資用ローンに借り換えて住宅ローンを一括返済することで、賃貸が可能になります。そのときは借り換え費用がかかり、金利も住宅ローンより数倍高くなります。また、投資用ローンのまま本人が住むことはできないのも要注意。再び住むことになって住宅ローンに借り換えると、さらに借り換え費用がかさみます」(岡本さん)
貸し出し中のコストを確認する
マンションを貸し出している間の出費を確認しましょう。税金は個別の条件でかなり異なるので、不動産会社や税理士に試算してもらうと安心です。 なお、「家賃収入を経費が上回ると所得税・住民税が減るので『賃貸経営は減税メリットがある』という言い方をする場合がありますが、赤字になっているということを単純にメリットとは言えません」と岡本さん。 「減税メリットは、あくまで家賃以外の収入がある場合のみで、その収入の所得税・住民税の範囲内です。税金が少なくなるという側面にとらわれず、貸し出すからにはなるべく多くの収入を得て黒字を保てるようにするほうが当然トクです」(岡本さん)
(1)固定資産税・都市計画税
居住時と同じ税率で毎年課税されます。金額は、3年ごとに見直しがあります。
(2)所得税・住民税
会社員の場合、家賃収入への税金は給与所得と合算した総所得金額に対する税率で計算されます。建物などの減価償却分は経費として計上できますが、所得が増えたら所得税と住民税も増えることになります。「特に年収の高い人は税率も高いので、期待するほどの収入増加にならないことがあります」(岡本さん)。
税金での減価償却についての記事も参考にしてください。
(3)管理費・修繕積立金
マンションの管理費・修繕積立金は賃貸中も継続して支払います。
(4)賃貸の管理業務委託費
家賃督促などの管理を不動産会社に委託する場合は、不動産会社に委託費を支払います。委託する内容によって金額は変わりますが、賃料の5%程度が相場と言われています。
(5)保険料
自然災害や火災のリスクに備えての保険も必須です。
(6)ローン返済
住宅ローン(転勤時の一時賃貸)または投資用ローンを借りている間は、返済が続きます。
(7)修繕費
エアコンや給湯器など付帯設備の交換や修理代が発生します。耐久年数で想定してみましょう。
(8)空室時の家賃負担
空室になる可能性も見込んで、収支計画を立てる必要があります。
「売る」と「貸す」のお金のポイントは?
「売る」とまとまった金額を受け取ることができ、「貸す」と定期的な収入になります。当面貸して賃貸収入を得、将来マンション価格が上がったときに売りたいと考えるのも自然ですが、「マンションはモノですので、時間がたつと当然古くなり価値が落ちて行きます。将来の値上がりへの期待にはリスクがあることを知っておいてください」(岡本さん)。
【手間】マンションを売る場合の手間とダンドリは?
不動産会社に仲介を依頼する
マンションの売却は、不動産会社との媒介契約で本格的にスタートします。売却力と専門知識を兼ね備えた不動産会社を探すには、複数の不動産会社にまとめて査定依頼ができるネットの売却一括査定の利用が便利です。高い査定価格を出した会社ではなく、納得いく理由を示した会社を選びましょう。
売却一括査定サービスでの簡易査定は、メールや電話のやりとりになりますが、その後の現地での訪問査定で担当者との相性も確認できます。

販売活動を行う
媒介契約を結んだあと、不動産会社は広告や顧客リストを通じて販売活動を開始します。問い合わせ対応も不動産会社が代行してくれますが、随時報告をもらうようにしましょう。問い合わせが少なければ追加の対応を検討してもらい、早期の売却を目指しましょう。
契約、引渡し
売却の相手が決まったら契約内容とスケジュールを交渉します。住み替えの場合は、引き渡し前に新居に移れるように計画しましょう。マンションの傷み具合も契約までに再確認し、重要事項説明書に盛り込んでトラブルを防ぎます。売買代金は、契約時に手付金として一部を受け取り、引き渡し時に残金を受け取ることが一般的です。
マンションを売る場合の詳細については「マンション売却の流れと、早く・高く売るためのコツ」を参考にしてください。
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【手間】「貸す」は「売る」より手間がかかる?
不動産仲介会社を選ぶ
「貸す」ことは、賃貸借期間の管理があるため「売る」より手間がかかります。管理を委託するつもりなら、賃貸管理をしている不動産会社に賃借人募集も依頼するとスムーズです。
まず、どのような賃貸借契約が自分に合うかを整理しておきましょう。主な賃貸借契約の種類は3つ。
(1)普通借家契約(一般的な賃貸借契約)
2年ごとに契約更新する、最も普及している賃貸方法。更新時期が来ても、正当な事由がなければ貸主から更新を拒絶することができません。
(2)定期借家契約
契約期間を決めて契約、原則更新をしない方法。借りられる期間に限りがある分、賃料が安くなる傾向があります。「住宅ローンが残っている間は、賃貸に出すことは原則できません。ですが転勤となってしまい戻ったらまた住みたいようなとき、定期借家契約などを活用することで住宅ローンの一括返済をせずに賃貸できる場合があります。転勤が決まったら銀行に相談することが先決です」(岡本さん)
(3)サブリース契約
不動産会社とサブリースの賃貸借契約を交わし、その不動産会社が転貸する方法。空室時も保証賃料を受け取ることができますが、月々の家賃収入は少なくなります。保証賃料の値下げに関するトラブルもあるので、契約内容への十分な理解が必要です。
不動産会社それぞれに特徴がありますので、複数の会社に相談してぴったりの会社を選びましょう。(1)賃貸借契約(2)定期借家契約は不動産会社と媒介契約を結んで、賃借人の募集と契約をサポートしてもらう契約です。
賃借人募集を行う
賃借人の募集は貸主の引越し前からスタートできます。新入学、転勤シーズン前の1月~3月が賃貸マーケットの最盛期ですので、できればその期間に募集を開始し、3月末までに入居できるよう段取りしましょう。
契約、引き渡し
賃借人の最終決定を行うのは貸主自身です。 条件に合う賃借人が見つかったら、自らも契約書と重要事項説明書の内容を確認します。マンションの管理組合員という立場は継続するので、ゴミ出しや楽器演奏などの生活ルールもしっかりと賃借人に説明することが必要です。
賃借人とトラブルになりがちなのが原状回復と敷金の返却。賃借人が普通に暮らす上での原状回復費は、貸主の負担です。年数が経つことでの壁紙の剥がれ、カーペットの日焼けなどに対する修復を、賃借人に費用負担してもらうことはできません。引き渡し時の状態を双方で確認してから契約を結びましょう。
原状回復については、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 を参考にしてください。
賃貸管理を行う
貸している間の管理業務は不動産会社に委託すると手間が省けます。管理委託料は毎月かかりますが、家賃の入金管理、賃借人からの修理依頼やクレーム対応など、住んでいる場所と賃貸物件が離れている場合は特に、委託するメリットが大きいはずです。
「売る」と「貸す」の手間のポイントは?
手間の面で売却と賃貸と比べてみると、圧倒的に賃貸のほうが手間がかかります。 「賃貸に向いているのは、手間を手間と思わず賃貸経営を楽しめるタイプ、または管理会社に任せられるタイプ、この2タイプだと感じています」と岡本さん。「管理会社に委託しても多少のトラブルはあります。他人に貸すことがストレスになるようなら、賃貸にせず売却するほうが賢い選択です」
マンションを売るか買うかはライフプランから総合的に判断しよう
マンションに今後住む予定があるかどうか、いま一度ライフプランを見直してみましょう。「住む予定がないのなら、売却できるときに売却するほうがお金の面では確実です。ですが、住むかどうかわからないときは定期借家契約で貸しておいて、契約終了時期を考えるタイミングに見直すこともアリだと思います」(岡本さん)
マンションを貸すか売るか、「お金」「手間」「ライフプラン」それぞれのポイントで、自分にどちらが合うか、総合的に判断してみましょう。 プロの知識を借りたいときは売却一括査定を利用することもオススメ。相談することで考えがまとまるきっかけにもなります。

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まとめ
- マンションを売るか貸すかは、お金・手間の面でそれぞれメリット・デメリットがある。自分のライフプランも考えて選ぼう。
- 手間がかかるのは「貸す」。「貸す」ことに向いているのは手間を手間と思わないタイプか、管理会社に任せられるタイプの人。
- 将来また住む予定があるなら「貸す」を選択。定期借家契約により、契約終了時期で考え直す手もある。
イラスト/石山好宏
ファイナンシャルプランナーCFP®、経済産業省登録中小企業診断士、宅地建物取引士、公認 不動産コンサルティングマスター。神戸大学卒業後、30年以上不動産関連の仕事に携わる。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、講演、執筆、メディアへの出演など幅広く活躍中。首都圏中心に延べ3000件以上のマンションのモデルルームや現場を見ておりマーケットにも精通している。


