不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

【確定申告に必要】マンション売却時の減価償却費の計算方法!耐用年数は何年?

【確定申告に必要】マンション売却時の減価償却費の計算方法と耐用年数

不動産を売却して売却益が出た場合や、不動産を貸し出して賃料収入を得た場合などは、所得税の課税対象になります。このため、課税額を算出して確定申告する必要がありますが、申告の際に用いるのが減価償却費です。
減価償却費は、耐用年数をもとに、所定の計算式にあてはめて計算します。今回は、減価償却費の計算方法と耐用年数の考え方についてご紹介します。

記事の目次

そもそも、減価償却とは?

減価償却とは、年月の経過や日々の使用によって年々価値が減少していくような固定資産を取得した際に用いる会計処理法のことです。ここでいう固定資産とは、取得に10万円以上かかったものを指します。不動産や自動車はもちろん、金額によってはスマートフォンやパソコンも対象になります。
減価償却の狙いは、事業経営を適正にとらえることにあります。このため、取得にかかった費用を一度に経費として計上するのではなく、取得費用を固定資産の耐用年数(寿命)で割って、一年に一定額ずつ「減価償却費」として計上していくわけです。
なお、マンションの場合、減価償却の対象になるのは建物部分で、土地は含まれません。建物は時間の経過や使用によって劣化するため価値が下がる一方、土地は劣化しないという考え方がベースになっているからです。

マンションの減価償却イメージ

不動産物件の減価償却費は、売却時の利益計算や投資物件運用時の節税に必要

冒頭で触れたように、不動産に関する減価償却費は、売却して売却益が出た際や、賃貸運用している際に計上する必要があります。以下では、個人の場合を対象に、どのようなケースで算出する必要があるのかを紹介します。

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【売却】自宅でも、売却益が出た際は減価償却費の算出が必要

例えば、所有しているマンションが取得時より高く売れた場合、この売却益のことを「譲渡所得」といいます。事業として運用していたマンションを売って譲渡所得が出た場合はもちろん、自身や家族が居住していたマンションを売って譲渡所得が生じた場合も所得税の課税対象になり、確定申告する必要があります。
譲渡所得は、以下のような数式で求めます。

●譲渡所得の求め方

譲渡所得=(売却額)-(取得時の費用-建物の減価償却費相当額+売却時の費用)

数式内の「取得時の費用」は、マンションの購入代金をはじめ、登録免許税や不動産取得税、仲介手数料などになります。また、「売却時の費用」は、仲介手数料や印紙税などです。
マンションの建物部分は、取得時から売却時までの間に価値が下がっていると見なされるため、取得時の費用から減価償却分を差し引く必要があるのです。

なお、自宅を売却して譲渡所得が発生しても、最大3000万円まで控除できる「3000万円特別控除」を適用できます。ただし、買い替えで次の住まいの購入のためにローンを組む場合、3000万円特別控除を利用していると、住宅ローン控除を使えません。どちらが有利なのか、シミュレーションしてから選択しましょう。

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売却査定する

【賃貸運用】減価償却費は、賃料収入から差し引ける経費となる

自身は別の場所に住みつつ、購入した分譲マンションを賃貸運用するような場合、月々の賃料収入は所得税の課税対象になります。
ただし、確定申告時には、賃借人が退去した際のクリーニング費用や、仲介会社に管理を委託している場合の管理費などの経費を賃料収入から差し引くことができます。そして、マンションの建物部分の減価償却費も、経費として計上できます。
経費が多いほど収入が減るので、それだけ税額を減らせるわけです。また、減価償却費の算出法を押さえておけば、年間の収支バランスを予測しやすくなります。売却時期の見極めや節税対策など、戦略的な運用にもつながるわけです。

マンションの減価償却のイメージ

(写真/PIXTA)

まずは、建物部分の金額を算出してみよう

既に触れたとおり、取得費から差し引く必要があるのは建物部分のみの減価償却費相当額になります。マンションの物件価格は、建物価格と区分所有分の土地価格の合計額ですから、減価償却費や譲渡所得を算出するためには、購入時の建物と土地の価格配分がどうなっていたか調べる必要があります。
新築マンションや、法人が売主の中古マンションを購入した場合は、売買契約書などに建物代金と土地代金が明記されているケースが大半です。また、新築マンションの場合は物件価格に消費税が上乗せされますが、消費税がかかっているのは建物部分のみです。このため、消費税額を購入時の消費税率で割れば、建物部分の税抜き価格を算出できます。なお、消費税も取得費に含めることができます。
さらに、建物価格と土地価格の比率に合わせて、購入時の諸費用も建物取得分と土地取得分に分けます。

●物件価格5000万円・消費税額260万円(購入時税率8%)・諸費用200万円だった場合

建物価格 :260万円÷0.08=3250万円(消費税込み3510万円)
建物取得諸費用 :3510万円÷5000万円×200万円=140万4000円
建物取得費計 :3510万円+140万4000円=3650万4000円

土地価格 :5000万円-3510万円=1490万円(消費税はかからない)
土地取得諸費用 :1490万円÷5000万円×200万円=59万6000円
土地取得費計 :1490万円+59万6000円=1549万6000円

なお、個人間で非事業用の中古マンションを売買する場合、物件価格には消費税がかからないため、消費税額から逆算することができません。この場合、不動産鑑定士に建物と土地の価格を鑑定してもらうのが確実ですが、依頼すると費用がかかってしまうため、以下のような方法でも算出できます。
・国土交通省が毎年度末に発表する公示地価から、マンションの所在地に近い地点の地価を調べる
・マンション近隣の取引事例をもとに算出(不動産仲介会社に調べてもらう)
・固定資産税通知書に付属している課税明細書を調べ、建物価格を0.7で割る(一般的に、公示地価の7割程度の評価になっていることが多いため)
・国土交通省が公開している標準的建築価額をもとに建物価格を算出する

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購入代金以外に取得費用として加算できるもの

譲渡所得の算出法の部分でも触れましたが、マンションの購入代金以外にも、取得費に含められるものがあります。以下で、主なものを紹介します。

費用項目 内容
購入時にかかった税金 売買契約書やローンの契約書に貼る収入印紙代(印紙税)、所有権保存登記時にかかる登録免許税、不動産取得税など
仲介手数料 中古マンションの購入時に、不動産仲介会社を利用した場合に支払う費用
住宅ローンの利子 住宅ローンの実行(=引き渡し)から入居までにかかった利子
リノベーション費用 マンションの価値向上や耐久性の強化につながるようなリノベーションの場合(単純な修理や原状回復程度の費用などは該当しないこともある)

購入代金以外に取得費に計上できるもの

減価償却費の数式は、マンションの購入時期によって異なる

固定資産の減価償却費の計算方法には、「定額法」「定率法」の2種類があります。
定額法は、取得時の費用を耐用年数で割って、毎年同じ額を減価償却費として計上する方法。
定率法は、取得時の費用から減価償却費として計上してきた累計額を引いた残高に、毎年一定の償却率をかけて算出する方法です。このため、取得後、一定期間内の減価償却費は定額法よりも高額で、年を追うごとに低くなっていきます。つまり、定額法より定率法のほうが、減価償却のペースが速くなるわけです。
マンションの減価償却費については、かつては定額法・定率法を自由に選択できました。しかし、法改正により、1998年4月以降に購入したマンションについては定額法しか適用できないことになっています。このため、記事内では定額法の計算式のみ紹介します。

●定額法の計算式

減価償却費=取得時の費用×定額法の償却率

減価償却費算出の際は、税制で定められた「償却率」という数値を用います。償却率の設定は、法改正で変わっていますので、マンションの取得年月日に応じた値で計算してください。電子政府のサイト内「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第七から第十一を参考にするといいでしょう。
また、償却率は対象の固定資産の耐用年数によっても変わります。耐用年数については、本記事後半部分で解説します。

マンションをどのように使っていたかによっても計算法が異なる

同じマンションでも、自身や家族の居住用(=非事業用)に使っていたか、賃貸しや事務所・店舗など(=事業用)に使っていたかによって減価償却費の算出方法が異なります。以下で、非事業用と事業用に分けて解説します。

自身や家族が住んでいたマンションを売却した場合の減価償却費の計算式

●非事業用マンションの減価償却費

減価償却費=取得時の費用×0.9×償却率×経過年数

【取得時の費用】
取得時の費用には、物件価格のうちの建物分の金額のほか、不動産仲介会社に支払う仲介手数料や登録免許税、不動産取得税などの合計になります。

【償却率】
償却率は、購入年月日に応じて先に紹介した国税庁の公表データから引用しましょう。以降でも触れますが、非事業用の場合、事業用の償却率を1.5倍します。

【経過年数】
数式末尾の「経過年数」は、物件の築年数ではなく自身が所有した期間のことです。「○カ月」単位は、6カ月以上なら1年と見なし、6カ月未満なら切り捨てます。例えば、所有期間が10年6カ月なら経過年数は11年になりますし、10年5カ月なら経過年数は10年になります。

賃貸運用または事務所や店舗として使っていたマンションの減価償却費の計算式

●2007年3月までに取得した事業用マンションの減価償却費

減価償却費=取得時の費用×0.9×償却率×事業用に使用した月数の累計÷12

●2007年4月以降に取得した事業用マンションの減価償却費

減価償却費=取得時の費用×償却率×事業用に使用した月数の累計÷12

【取得時の費用】
非事業用同様、取得時の費用には購入金額のほかに仲介手数料や登録免許税、不動産取得税なども含められます。ただし、購入金額以外の費用を事業経費として計上している場合は、ここに含めません。

【償却率】
購入年月日によって数式自体が少し違いますが、適用する償却率も異なります。2007年3月までに取得したマンションなら旧定額法の償却率を、2007年4月以降に取得したマンションなら新定額法の償却率をあてはめます。

【事業用に使用した月数】
文字どおり、事業用に使用した期間を月単位でカウントしてあてはめます。

※2007年4月から2016年3月までに取得した事業用のマンションについては、電気設備や給排水設備、ガス設備などの「建物附属設備」に対して、定率法を選択することができました。ただし、定率法を適用するには、建物部分の取得金額のうち、設備類の金額がいくらになるか明示する必要がありました。通常、分譲マンション1住戸単位では、住戸内設備の金額の内訳までは調べきれません。事実上、集合住宅を棟単位で新築・所有するような事業者向けの仕組みだったわけです。さらに、2016年4月以降に取得した事業用のマンションについては、建物と設備を分けて計上することも選択可能になりました。ただし、分ける場合でも、計算法はいずれも定額法のみです。

マンションの減価償却費を計算するイメージ

(写真/PIXTA)

マンションの耐用年数の調べ方

耐用年数とは、固定資産が何年間使用に耐えうるかを示す年数、つまり寿命のことです。ただし、実際に何年間使用できるかは、種類や使い方によって変わってくるため、取得時には予測できません。そこで日本の税法では、減価償却資産の種類や用途によって耐用年数の基準を定めています。
この基準を「法定耐用年数」といい、マンションの減価償却費を算出する際に使用します。ただし、ひと口に法定耐用年数といっても、建物の構造や用途、自身の居住用なのかどうかで数値が変わってきます。以下で、違いが出る要素について紹介します。

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建物の構造

耐震性や耐火性などによって、建物の寿命は変わってきます。このため、構造によって法定耐用年数も違います。マンションの場合は、基本的に鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)か鉄筋コンクリート造(RC造)になります。所有物件の構造が分からない場合は、管理会社などに問い合わせてみましょう。

建物の用途

建物が同じだったとしても、オフィスとして使っているのか、住まいとして使っているのかなど、用途によって利用時間や傷み方が違います。このため法定耐用年数も、ホテル用や飲食店用、倉庫用など、建物の用途別に細かく分類されています。

非事業用か事業用か

上で紹介した減価償却費の計算法と同様に、自身や家族の住まいとして使っているのか(=非事業用)、賃貸しや事務所・店舗として使っているのか(=事業用)で耐用年数が変わります。
非事業用の耐用年数は、事業用の耐用年数の1.5倍(小数点以下は切り捨て)になります。耐用年数が長くなれば、それだけマンションの取得費用の下がり方が鈍化します。つまり、事業用に比べて譲渡所得が少なくなり、これにともなって所得税も軽減されます。住まいの売却は、営利目的の事業とは性質が異なる点に配慮されているわけです。

主な減価償却資産の耐用年数・償却率一覧

国税庁サイト内の「耐用年数(建物/建物附属設備)」というページでは、構造や用途による耐用年数の一覧表が公開されています。ここで紹介されている耐用年数は事業用の場合なので、非事業用の耐用年数が必要な場合は1.5倍してください。計算の手間を省くため、以下に抜粋情報を用意してあります。
なお、償却率は2007年4月以降に取得した場合の定額法の数値を入れていますが、「1÷耐用年数」でも算出できます。

主な減価償却資産の耐用年数・償却率一覧

中古物件を取得した場合の耐用年数

新築物件を購入した場合は、上の表の耐用年数や償却率をそのまま計算式にあてはめられます。しかし、中古物件を購入した場合は、法定耐用年数と取引時点の築年数のどちらが大きいかで、算出法が異なります。以下に数式を示しておきます。

●築年数が法定耐用年数をオーバーしている場合の耐用年数の求め方

耐用年数=法定耐用年数×0.2

●築年数が法定耐用年数以内に収まっている場合の耐用年数の求め方

耐用年数=法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2

なお、取引する物件が非事業用だった場合は、建物の築年数に配慮する必要がありません。また、非事業用の償却率を調べるもとになる耐用年数は、事業用の耐用年数に1.5倍します。以下で、ケース別に解説・試算していきます。

【非事業用】築10年の鉄筋コンクリート造マンションを自身の居住用に取得した場合

●条件
建物部分の取得費(税金や手数料込み):2500万円
売却時の経過年数:9年8カ月
※取得時期は2007年4月以降

非事業用の場合は、新築・中古を問わず、上の表の耐用年数と償却率を適用します。つまり、売却時の耐用年数は70年で、償却率は0.015になります。先に紹介した非事業用の減価償却費の数式にあてはめると、 建物の取得費2500万円×0.9×償却率0.015×売却時の経過年数10年となり、減価償却費合計は337万5000円になります。

【事業用1】築25年の木骨モルタル造アパートを取得して賃貸運用した場合

●条件
建物部分の取得費(税金や手数料込み):1000万円
売却時までに賃貸事業に使用した累計月数:60カ月
※取得時期は2007年4月以降

耐用年数の一覧表では、木骨モルタル造の住宅の事業用耐用年数は20年です。この例では購入時点で築25年なので、築年数が法定耐用年数をオーバーしています。本節の冒頭で示した数式にあてはめると、 法定耐用年数20年×0.2で、この物件の耐用年数は4年になります(小数点以下の端数が出る場合は切り捨て)。耐用年数4年の固定資産の定額法償却率は0.250です。 各数値を事業用の減価償却費の数式にあてはめると、 取得時の費用1000万円×償却率0.250×事業用に使用した月数60カ月÷12となり、計算結果は1250万円で取得費用を上まわっています。このような場合、初年度から4年目までの減価償却費の合計が、取得時の費用と同じ1000万円になるまで償却でき、5年目以降の償却費はゼロになります。

【事業用2】築10年の鉄筋コンクリート造マンションを取得した場合

●条件
建物部分の取得費(税金や手数料込み):2500万円
売却時の経過年数:9年8カ月
※取得時期は2007年4月以降

同様に、先の一覧表を見ると、鉄筋コンクリート造の住宅の事業用耐用年数は47年です。築年数は10年ですから、法定耐用年数以内に収まっています。本節冒頭で示した数式にあてはめると、
法定耐用年数47年-売却時の経過年数10年+売却時の経過年数10年×0.2で、耐用年数は39年になります(小数点以下の数値がある場合は切り捨て)。耐用年数39年の固定資産の定額法償却率は0.026です。
各数値を事業用の減価償却費の計算式にあてはめると、
取得時の費用2500万円×償却率0.026×売却までに事業用に使用した累計月数116カ月÷12で、減価償却費の合計は628万3333円になります。

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まとめ

  • 減価償却費は、不動産の売却や運用で収益が出た際の税額の計算に必須。自宅を売却して売却益が出た際にも、必要な点に注意
  • 対象となる不動産が自身の居住用なのか、賃貸運用などの事業用なのかによって、計算法や用いる値が異なる
  • 事業用の中古物件の耐用年数は、築年が法定耐用年数をオーバーしているかどうかで算出法が異なる

イラスト/松尾達

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●取材協力・監修/税理士 高橋洋一さん
構成・取材・文/竹内太郎
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