不動産売買契約や建設工事請負契約などでは、契約当事者が契約書に収入印紙を貼って納税する義務があります。印紙税額は文書の種類や契約内容によって異なり、未納や過少納税の場合には未納額の3倍のペナルティが課せられるため、正しく理解して確実に納税しなければなりません。
この記事では、印紙税がかかる場合とかからない場合の違いや税額の調べ方、購入・納税方法・税額を誤った場合の対応方法などについてご紹介します。これから不動産売買をされる方はぜひ参考にしてください。
記事の目次
印紙税と収入印紙とは?まずは基本を知ろう
印紙税とは
印紙税とは、金銭授受を伴う所有物の譲渡やサービスの契約に関する書面、金銭の受領を証する書面など、「文書」に対して課税される税金のことです。印紙税は状況・内容・金額に応じて税額を計算し、定められた方法によって納税します。
契約書のような「文書」に課税する税額には、定額のものと、取り交わす契約内容および約定・受領金額によって変動するものがあります。
印紙税の納税義務者とは
印紙税は文書を作成した時点で納税義務が発生し、文書を使用する契約当事者が納税義務者とみなされます。当事者が複数いる売買契約などでは、当事者が連帯して納税する義務を負います。つまり、当事者の誰かがその売買契約書に関する印紙税を全額負担すれば問題ありません。しかし、売主と買主がいる売買契約の場合は、当事者が各々保有する契約書の印紙税は 各々が負担し納税するのが一般的です。
収入印紙とは
収入印紙とは、印紙税や手数料などを支払うために政府が発行した、切手のような形状をした証票です。印紙税は現金納付でなく、収入印紙を購入して文書に貼付し消印をすれば納税したことになります。
不動産売買における収入印紙の貼付が必要な文書
不動産の売買や注文住宅を建築する場合には、その取引のなかで収入印紙を貼付して納税すべき文書がいくつかあります。
不動産売買契約書
不動産売買契約書とは、不動産を売買する際に売主と買主との間で取り交わす契約文書です。不動産の商慣習上は、売主も買主も自分が保有する不動産売買契約書に貼付する収入印紙代を負担して納税します。不動産売買契約書は印紙税法上では「第1号の1文書」に分類され、不動産売買契約書に記載された売買金額に応じて印紙税額が決まります。
建設工事請負契約書
建設工事請負契約書とは、注文者(委託者)が報酬と引き換えに建物を完成させる業務を請負人(受託者)に発注し、請負人がその業務を受注する契約で、印紙税法上では「第2号文書」に分類されます。具体的には、注文住宅を建築する際に住宅メーカーや工務店などと取り交わす契約書や、リフォームの際にリフォーム会社と取り交わす契約書などが該当します。建設工事請負契約書も不動産売買契約書と同様に、契約当事者の各々が契約金額によって決まった収入印紙代を負担し、契約書に貼付して納税します。
金銭消費貸借契約書(ローン契約書)
金銭消費貸借契約書とは、借主(債務者)が貸主(債権者)からお金を借りて、利息を含んだ分割金額を一定期間ごとに返済することを約束した契約です。不動産の売買に関するところでは住宅ローンの契約がこれにあたります。住宅ローンを借りてマイホームを購入する場合には、必ず金融機関と金銭消費貸借契約を結んで融資を受けます。金銭消費貸借契約書は印紙税法上では「第1号の3文書」に分類され、契約書に記載されたローンの借入金額に応じて印紙税額が決まります。
その他(領収書など)
領収書とは金銭を受領したことを証するために受領者が発行する書面で、印紙税法上は「第17号の1・2文書」に分類され、受領金額に応じて印紙税額が決まります。不動産売買でよくある領収書としては「仲介手数料」「司法書士報酬」「リフォームやハウスクリーニング費用」などがあります。なお、印紙税額を判断する際の受領金額とは、「税抜価格5万円、消費税5000円」のように消費税額等を区分して記載している場合には、消費税を含まない税抜本体金額です。また、すべての領収書が印紙税の課税対象になるのではなく、事業者ではない個人・非営利団体・非営利法人が発行する領収書は非課税です。
収入印紙を貼らなくてよい文書もある
契約の締結や物品の授受があっても、印紙税が課税されず収入印紙を貼らなくてもよい場合があります。
電子契約文書
印紙税は紙で作成した現物の文書に対して課税する税金であるため、電子データの状態で残されていて実体のない文書に対して印紙税は課税されません。たとえば、電子契約システムやPDF形式の契約書を電子メールなどでやり取りし、締結した委託契約書のような場合には、課税文書の作成にはあたらないため印紙税は不課税です。ただし、現状の印紙税法では電子契約が不課税と明文化されているわけではなく、電子契約の普及に伴って今後法改正が行われる可能性もあるためご注意ください。
クレジットカードを利用した領収書
クレジットカード決済は、購入時点でお金を渡さずに商品やサービスを受け取る「信用取引」に該当するため、クレジット決済による領収書は不課税とされます。実店舗でクレジット決済した際に便宜上は領収書が発行されますが印紙税法上は不課税扱いです。
ただし、クレジット決済による領収書であっても但し書きとして「クレジット決済である旨」が書かれていない領収書は課税文書になるため注意が必要です。
また、アプリを使った二次元コードやバーコード決済でもクレジットカードを介しての支払いならクレジット決済と同様の扱いですが、デビットカードは銀行口座から即時支払われるため課税対象になるなど、決済方法によって異なる点にご注意ください。
印紙税額は税額一覧表から調べられる。不動産売買契約書などには軽減措置も
ここまでは課税対象の文書について解説しましたが、ここからは実際に印紙税額の調べ方をご紹介します。なお、印紙税法の原則で定められている課税額から時限的な軽減措置として税額が緩和されている場合があります。また、2016年4月1日以降に発生した自然災害で被災した建物の代替建物を取得するための売買や建築工事に関する文書は非課税です。
印紙税額の計算方法
印紙税額は、印紙税法で定められた下記の分類と税額一覧表の金額から判断しますが、軽減措置がある場合にはその規定を優先して適用します。
- 第1号文書:不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書など
- 第2号文書:建設工事請負契約書など
それぞれの税額の計算方法について解説します。
不動産売買契約書の場合
不動産売買契約書に関する印紙税額は、契約書に記載された売買金額を下表に当てはめて算出します。なお、2024年3月31日までに作成した契約書については、下表の「軽減税率」が適用されます。
契約金額 | 軽減税率※ | 本則税率 |
---|---|---|
1万円以上、10万円以下のもの | 200円 | 200円 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 | |
50万円を超え100万円以下のもの | 500円 | 1000円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 1000円 | 2000円 |
500万円を超え1000万円以下のもの | 5000円 | 1万円 |
1000万円を超え5000万円以下のもの | 1万円 | 2万円 |
5000万円を超え1億円以下のもの | 3万円 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 6万円 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 16万円 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 32万円 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 48万円 | 60万円 |
引用:国税庁「不動産譲渡契約書」及び「建設工事請負契約書」の印紙税の軽減措置の延長について
工事請負契約書の場合
建設工事請負契約書に関する印紙税額は、契約書に記載された請負金額を下表に当てはめて算出します。なお、2024年3月31日までに作成した契約書については、下表の「軽減税率」が適用されます。
契約金額 | 軽減税率※ | 本則税率 |
---|---|---|
1万円以上、100万円以下 | 200円 | 200円 |
100万円を超え200万円以下のもの | 400円 | |
200万円を超え300万円以下のもの | 500円 | 1000円 |
300万円を超え500万円以下のもの | 1000円 | 2000円 |
500万円を超え1000万円以下のもの | 5000円 | 1万円 |
1000万円を超え5000万円以下のもの | 1万円 | 2万円 |
5000万円を超え1億円以下のもの | 3万円 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 6万円 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 16万円 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 32万円 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 48万円 | 60万円 |
引用:国税庁「不動産譲渡契約書」及び「建設工事請負契約書」の印紙税の軽減措置の延長について
金銭消費貸借契約(ローン契約)の場合
金銭消費貸借契約書に関する印紙税額は、契約書に記載されたローン借入金額で判断します。前述の不動産売買契約書と同じ第1号文書になるため、たとえばローン借入金額が6000万円なら印紙税額は6万円になります。詳細は前述の表をご参照ください。ただし、金銭消費貸借契約書の場合には、「軽減税率」の適用はないためご注意ください。
印紙税の軽減税率とは
印紙税の軽減税率とは、特にマイホームの購入など生活基盤を安定させる大衆的な経済活動において、印紙税の負担を軽減して不動産を購入しやすいようにと定められた、租税特別措置法の時限措置です。
1997年に始まった印紙税の軽減措置は2014年に税率をさらに軽減して延長され、期間満了後に何度か適用期間を延長しながら現在に至ります。なお、現行の軽減措置は2024年3月31日までに作成した文書に適用するとして継続しています。
ちなみに、軽減措置の適用税額を超えた額の収入印紙を契約書に誤って貼ってしまった場合には、所轄税務署長に対して印紙税の過誤納を申請し、還付を受けることができます。 また、軽減措置に該当するかどうかや、税額が分からない場合には、最寄りの税務署(電話相談センター)へお問い合わせください。
収入印紙の購入場所と方法
収入印紙は一般的に郵便局・法務局・役所・コンビニエンスストア・金券ショップで購入でき、場合によっては認定された商店やたばこ店に置いてあることもあります。ただしコンビニでは200円のみの取り扱いなど、どの購入窓口でも常に全種類の収入印紙がそろっているわけではないため、高額の収入印紙が必要な場合は郵便局や法務局で購入するのがよいでしょう。
収入印紙の貼り方や消印方法
収入印紙は、一般的には契約書の条項が記載された最初の面で文書のタイトルの左上余白など、目立つ位置に貼ります。収入印紙の貼り方は総額が把握できるように一箇所に固めて貼ればよく、所定金額になるまで2枚や3枚など複数枚貼っても構いません。ただし印紙税納税の要件として消印は必要とされ、印紙と文書にかかるよう押印もしくは署名が必要です。
もしも収入印紙に線やチェックしかされていない場合には納税したことにはならず、印紙税法違反でペナルティが課せられるため、消印は確実に行いましょう。
収入印紙を貼り忘れた場合のペナルティ
収入印紙の貼り忘れがある場合には、過怠税(かたいぜい)として所定の税額の3倍(所定の税額プラス2倍で計3倍)を納税しなければなりません。また、消印の不備がある場合には、印紙の額面金額と同額の過怠税が発生します。
収入印紙の交換や還付方法
収入印紙を購入した直後であっても収入印紙を返品して現金に換えることはできません。
ただし返金ではなく他の収入印紙への交換であれば、未使用もしくは明らかに課税対象ではない書類に貼付している場合に限り、1枚につき5円の交換手数料を郵便局の通常窓口で支払えば可能です。また、要件以上の過大額の貼付や非課税文書への貼付、一度貼ったものの使う見込みがなくなった場合などで還付が認められる場合があります。税務署へ還付を申請する際は、貼付部分だけを切り取ったり用紙から剥がしたりせず、そのままの状態で税務署に持ち込んでご相談ください。
まとめ
不動産を売買する際に、不動産売買契約書や建設工事請負契約書、金銭消費貸借契約書には収入印紙を貼って印紙税を納税しなければなりません。契約時に貼付する収入印紙は、契約前に適切な額面の収入印紙をご購入ください。電子文書やアプリ決済は、現在は原則不課税ですが、課税対象になる例外があることと今後課税対象になる可能性もあるため注意が必要です。
まとめ
- 不動産売買契約書・建設工事請負契約書・金銭消費貸借契約書には契約金額に応じた収入印紙を貼って印紙税を納税する
- 個人が購入した収入印紙は返金(収入印紙から現金への交換)や転売が禁止されているため、契約日の直前など収入印紙の使用が確定した時期に購入する
- 収入印紙の貼り忘れがあると、未納税額の3倍の過怠税(かたいぜい)がかかるため注意が必要
取材・文/ライトアップ