不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

【ひな型つき】不動産の売買契約書とは? 記載事項や見るべきポイント、印紙税についても解説

【ひな型つき】不動産の売買契約書とは? 記載事項や見るべきポイント、印紙税についても解説

不動産売買契約書は、不動産取引をするうえで最も重要な書類です。売主、買主双方が合意した事項を書面に残すことで、無用なトラブルを回避できます。ただ、不動産の売買契約書には、見慣れない言葉や難しい表現が並んでいることから、正しく理解するのは難しいものです。そこで本記事では、不動産売買契約書に記載されている内容や見るべきポイントについて解説します。

記事の目次

不動産の売買契約書とは?

不動産の売買契約書とは、売主と買主の間で不動産の売買取引をするときに交わされる書面です。契約は、取引する者同士の口約束でも成立します。民法では「契約は法律行為であり、総則の意思表示の規定が適用される」(第555条)と明記されているからです。
しかし、売主と買主との間で合意形成した内容を記録として残しておかなければ、「言った」「言わない」で揉めるリスクは高いものと考えられます。

売買契約書の役割

不動産の売買契約書には、契約上のトラブルを未然に防ぎ、万一トラブルが発生してしまったときには双方の合意事項を証明する役割があります。不動産は高額な資産であるため、トラブルが発生したときの代償は大きく、売買契約書への署名・捺印をもって契約成立とする重要性は高いといえるでしょう。

不動産会社が不動産売買取引を仲介する場合、不動産会社は宅地建物取引業法で契約の内容を示した書面(37条書面)を交付することが義務付けられています。

不動産売買契約書と土地売買契約書の違い

「不動産売買契約書」と「土地売買契約書」は、取引の対象が異なります。不動産売買契約書の対象は、土地と建物です。一戸建てやマンションがこれに該当します。一方、土地売買契約書の対象は、土地のみです。対象が異なる以外に、書面の内容に大きな違いはありません。

重要事項説明書との違い

売買契約時に交付され、売主、買主が署名・捺印する書面の1つとして「重要事項説明書」があります。売買契約書には取引に関する取り決めが記載されている一方、重要事項証明書には取引される不動産の重要事項が記載されています。重要事項証明書の交付もまた、宅地建物取引業法によって不動産会社に義務付けられています。

売買契約書のイメージ

(画像/PIXTA)

不動産売買契約書を作成する流れ

  • 物件調査
  • 契約内容の合意形成
  • 重要事項説明の読み合わせ
  • 契約内容の確認
  • 収入印紙の貼付
  • 宅地建物取引士の署名・捺印
  • 売主・買主の署名・捺印

先に該当の不動産について物件調査を行い、契約内容に合意してから書面を交わす流れです。

不動産の売買契約書には印紙税が課される

不動産の売買契約書は、印紙税法で定められた印紙税の課税文書に該当します。不動産売買契約書を作成する売主、買主には印紙税が課されます。

印紙税とは

印紙税とは、経済取引に伴って作成する契約書や領収書などに課される税金です。納税義務者は不動産売買契約書などの作成者ですが、物理的に契約書を作った人ではなく、文書に記載された作成名義人が作成者に該当します。

課税文書の作成者は、課税文書に収入印紙を貼付することで印紙税を納付します。不動産売買契約書の場合は、売主と買主それぞれに売買契約書を作成するため、2通分の印紙が必要になります。その費用は売主と買主で折半することが一般的です。

貼付した印紙は、課税文書と印紙の彩紋とにかけて判明に印紙を消さなければなりません。一般的には売主と買主の実印によって割印されますが、消印の方法は署名でも問題ありません。

印紙税額

印紙税額

(出典:国税庁)<図版作成/ささきめい>

印紙税額は、売買契約金額によって上記のように異なります。たとえば、契約金額が3000万円の場合は、売買契約書に2万円の収入印紙を貼付しなければなりません。ただし、2024年3月31日までに作成される不動産売買契約書は、表右の軽減税率が適用されます。

電子契約には印紙税が課されない

2022年5月から、不動産売買契約書の電子化が可能となりました。取引相手が遠方にいたり、病気や怪我で外出できなかったりする場合も、Web上で電子契約ができます。印紙税法では、課税文書は「用紙などに課税事項を記載したもの(第44条)」と定められているため、電子文書は課税文書に該当しません。よって、電子契約では印紙税が課されません。

【ひな型つき】不動産の売買契約書の記載事項

印紙税額

(出典:全国宅地建物取引業協会連合会

全国宅地建物取引業協会連合会による不動産売買契約書の雛形は、上記のとおりです。不動産会社が交付する不動産の売買契約書(37条書面)には、宅地建物取引業法で次に掲げる事項を記載しなければならないと定められています。

当事者の氏名および住所
売買契約を締結する売主・買主の氏名と住所を記載します。

売買物件の表示
売買される物件の住所や地番、その他、場所や建物を特定するための必要な表示をします。また、取引する不動産が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分の状況について双方が確認した事項を記載しなければなりません。

売買代金と支払い方法、支払い時期
売買代金は、手付金と残代金に分けて買主から売主に支払うのが一般的です。契約書には、売買代金および手付金の金額に加え、残代金の支払い方法と支払い時期を記載します。

不動産の引き渡しの時期
売主から買主に不動産が引き渡される時期を記載します。不動産は、残代金決済時に引き渡されるのが一般的です。

移転登記の申請時期
不動産の所有権を売主から買主に移転する申請時期を記載します。

売買代金以外の金銭の授受がある場合の金額と授受の時期、目的
不動産売買時には売買代金以外に、固定資産税やマンションの管理費、修繕積立金などの精算金も授受されるのが一般的です。その金額および授受の時期、目的を記載します。

契約解除条件
契約が解除となる条件があれば記載します。たとえば、買主のローン審査が通らなかった場合などがこれに該当します。

損害賠償額の予定・違約金の定め
損害賠償額の予定とは、契約する当事者に債務不履行が生じたときの損害賠償額をあらかじめ決めておくことを指します。賠償額の予定に合意している場合、または違約金に関する定めがあればその内容を記載します。

ローンのあっせんが成立しないときの措置
買主がローンのあっせんを受けるときは、ローンが成立しない場合の措置を記載します。

不可抗力による損害の負担の定め
天災など不可抗力による損害が生じた場合の負担に関する定めがあるときに、その内容を記載します。

契約不適合責任
契約内容と適合していない欠陥や不備などがあった場合の担保責任や責任の履行に関する保証保険契約の締結、その他の措置について定めがあるときに記載します。

公租・公課分担
固定資産税や都市計画税の負担について定めがあるときに記載します。

不動産業者のイメージ

(画像/PIXTA)

不動産売買契約の流れ

不動産売買契約当日の流れは、次のとおりです。必要に応じて、契約日より前に不動産会社から売買契約書や重要事項説明書の写しなどをもらって目を通しておくと、安心して売買契約に臨めるでしょう。

重要事項説明書の読み合わせ

売買契約の前に、宅地建物取引士から物件の重要事項の説明があります。宅建業法上、重要事項説明書の読み合わせは買主に対してのみ行われれば問題ありませんが、売主、買主同席のもと、売買契約の締結前に読み合わせが実施されるのが一般的です。

売買契約書の確認

続いて、売買契約書に記載されている内容を売主、買主双方で確認します。金額や日付など、合意した事項に相違がないか最終確認をしましょう。

売買契約書への署名・捺印

売買契約書の内容に問題がなければ、売主、買主双方が署名・捺印をします。収入印紙もこのとき貼付し、双方が割印(消印)をします。

手付金の授受

続いて、売買契約書に記載された金額の手付金を買主から売主に渡します。手付金は、現金で支払われるのが一般的です。

残代金決済・引き渡しまでの流れ

手付金の授受までが、売買契約当日の流れです。一般的に、手付金を除いた残代金の決済と物件の引き渡しは、売買契約から1〜2カ月後に行われます。これは、売買契約後に買主がローンの本審査を受けることが多いためです。売主は物件を引き渡す日までに不動産を空室にし、ライフラインなどの解約も済ませておく必要があります。

不動産売買契約で事前に準備するべきもの

不動産売買契約までに売主、買主が準備しておくべきものは、次のとおりです。

売主が準備するべきもの

必要なもの 用途・詳細
本人確認書類 所有者本人であることを証明するため
登記済証または登記識別情報通知 本人確認書類とあわせて所有者本人であることを証明するため
実印 不動産売買契約書に押印するため
印鑑証明書 実印であることを証明するため
収入印紙 売買契約書に貼付するため。不動産会社が用意していることもある
仲介手数料 不動産会社に支払う手数料。売買契約時に半金、引き渡し時に半金を支払うのが一般的

買主が準備するべきもの

必要なもの 用途・詳細
本人確認書類 買主本人であることを証明するため
実印 不動産売買契約書に押印するため
印鑑証明書 実印であることを証明するため
収入印紙 売買契約書に貼付するため。不動産会社が用意していることもある
仲介手数料 不動産会社に支払う手数料。売買契約時に半金、引き渡し時に半金を支払うのが一般的
手付金 売買代金の10%前後が一般的

不動産売買契約で必ず見ておくべきポイント

不動産売買契約書に記載されている事項は全てくまなくチェックすべきですが、次の5つの事項に関しては必ず見ておくようにしましょう。内容を理解するのが難しい項目も含まれているため、自分が理解できるまで不動産会社の担当者に確認することも大切です。

売買される物件の詳細

売買の対象となる不動産の所在や面積が誤っていると、不動産売買契約そのものの有効性が保たれません。登記簿情報と比較し、相違がないか契約前に改めて確認しましょう。

代金の支払いや引き渡しの時期

売買代金は、契約時と引き渡し時に分けて授受されるのが一般的です。売買契約から残代金決済・物件引き渡しまでの期間は1〜2カ月が一般的ですが、売主や買主の都合によりこの期間が短くなったり、長くなったりすることもあります。また「引き渡し猶予」の特約がついている可能性もあるため、注意が必要です。

原則的に、手付金を除いた残代金の決済と物件の引き渡しは同日ですが、引き渡し猶予の特約がついていると、残代金決済から引き渡しまで猶予期間が設けられます。引き渡し猶予の特約がつけられる理由は、多くの場合、売主の住み替えです。

引き渡し猶予の特約を正しく理解していないと、売主、買主、いずれも引越しのタイミングが合わなくなってしまうことにもなりかねません。

危険負担について

売買契約後、天災など不可抗力な事象が要因で不動産を引き渡すことができなくなってしまった場合、買主は残代金を支払う必要があるのでしょうか?これは「危険負担」が売主、買主、どちらにあるかによって異なります。

民法では、危険負担について「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる(第536条1項)」とされています。ここでいう「債権者」とは、買主を指します。買主は、天災などにより不動産の引き渡しを受けられなくなってしまった場合、残代金の支払いを拒否することができるのです。

ただし、民法上の危険負担は任意規定であるため、売主、買主が合意すれば別の取り決めとすることができます。つまり、売買契約書に「危険負担は買主が負う」旨の記載があれば、引き渡しが受けられなくなったとしても、買主に残代金の支払い義務が残ります。

民法に準じて危険負担は売主が負うのか、あるいは買主が負う特約がついているのかは必ず確認しておきたいポイントです。

契約不適合責任の扱い

契約不適合責任に関する買主側の権利

<図版作成/ささきめい>

任意規定という点でもう1つ確認しておきたいポイントが「契約不適合責任」の扱いです。契約不適合責任とは、引き渡し後の不動産に契約に適合していない欠陥などが見られた場合に負わなければならない売主の責任です。契約不適合が見られた場合、買主は売主に対して次の5つの請求ができます。

  • 追完
  • 代金減額
  • 催告解除
  • 無催告解除
  • 損害賠償

ただし、契約不適合責任についても任意規定であるため、契約書に「売主の契約不適合責任を免責とする」旨の記載があれば、買主は契約不適合を追求することはできません。免責ではなく、契約不適合責任の期限が設けられるケースもあります。免責とされている場合は免責の対象範囲を、責任を負う期限がある場合はいつまで負うのかを必ず確認しましょう。

また、契約不適合責任の責任範囲は「契約に適合していない欠陥など」であることから、契約書に物件や設備の状況が正しく記載されているかどうか確認することも大切です。たとえば、引き渡し後に雨漏りが見られても、契約書に「雨漏りがある」と明記されていれば、売主は契約不適合責任によって追完や減額などを請求されることはありません。

特約事項など契約解除に関する内容について

不動産売買契約は、解除も可能です。もちろん、契約には法的拘束力があるため、どんな状況でも無条件に解除できるわけではありません。契約書には、解除できる条件や解除可能な期限が明記されています。

まず、手付金が「解約手付」であれば、当事者の都合などであっても、手付金の放棄、あるいは手付金の倍額の支払いで契約は解除できます。期日は原則的に「相手が契約履行に着手するまで」ですが、この表現は非常に曖昧なため「手付解除期日」が契約書に明記されているのが一般的です。

また、相手に契約違反があった場合も契約を解除できます。契約違反とは、たとえば「買主が売買代金を支払わない」「売主が物件を引き渡さない」ことなどが挙げられます。契約違反をした相手には、当事者の合意によって定められた違約金を請求できます。この違約金額については契約書に明記されています。

買主がローンを組んで不動産を購入する場合は「ローン特約」が明記されているはずです。この特約の適用によって売買契約が解除されるケースは少なくありません。ローン特約とは、買主が融資を受けられなかった場合に売買契約を白紙に戻せるというものです。ローン特約が有効な期間は「融資承認取得期日」と「契約解除期日」という形で契約書に明記されています。融資承認取得期日は金融機関から融資の承認を取得する期日、契約解除期日は融資が受けられなかった場合に契約解除ができる期日です。

「売買契約を締結すればもう安心」というわけではありません。相手に契約を解除されてしまったり、自身に契約を解除しなければならない事情ができたりする可能性もあるため、契約解除に関する内容については必ず確認しておきましょう。

不動産業者のイメージ

(画像/PIXTA)

まとめスーモくん

  • 不動産の売買契約書とは不動産の売買取引をするときに交わされる書面
  • 「危険負担」や「契約不適合責任」は任意規定のため、民法上の定めだけでなく売買契約書に明記されていることを確認しよう
  • 売買契約後に契約解除となる可能性はゼロではない。契約解除に関する項目もしっかり目を通しておこう

不動産売買契約書に書いてある内容は簡単ではありませんが、流し読みしたり、理解しないまま契約に臨んでしまったりすることのないよう、時間がかかったとしてもよく読み込んでおきましょう。わからないところは不動産会社の担当者に聞き、不明点がない状態で契約に臨むことが大切です。

 

編集:金指 歩(プレスラボ)、デザイン:ささきめい

●取材・文/亀梨奈美(real wave)
●監修/大森広司さん
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
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