山林も不動産にあたることから固定資産税が課されますが、宅地などと比べて評価額が低く、税額がゼロになるケースもあります。ただし、管理の手間や相続時の税負担、売却の難しさといった注意点もあります。
この記事では、山林の固定資産税の仕組みや非課税になる条件、相続・売却時のポイントまで詳しく解説します。

記事の目次
山林も固定資産税の課税対象
固定資産税とは、毎年1月1日時点で土地や建物などの不動産を所有している人に課される地方税です。市町村(東京23区は東京都)が課税し、その地域の財源として活用されます。
固定資産税がかかる土地の地目は、田、畑、宅地、鉱泉地(温泉など)、池沼、山林、牧場、原野、雑種地の9種類です。地目が「山林」と登記されている土地も含まれます。
ただし、山林は宅地などと比べて用途や流通性が限られるため、評価額や税額は比較的低く抑えられているのが一般的です。

山林の固定資産税の計算方法
山林に限らず、固定資産税は以下の計算式で求められます。
固定資産税額 = 固定資産税課税標準額 × 税率(通常1.4%)
「固定資産税課税標準額」は市区町村が土地や建物の評価額をもとに定めるもので、実際の売買価格とは異なります。税率は多くの自治体で1.4%に設定されていますが、条例により1.4%を上限に変更されることもあります。
山林の固定資産税課税標準額は少額
固定資産税課税標準額は、土地の利用価値や流通性などをもとに市区町村が評価します。一般的には、公示価格の約70%程度が目安とされますが、山林には公示価格自体が設定されていないケースも多く、評価額は低くなりがちです。
とくに以下のような山林は固定資産税課税標準額が低く、税額も低い傾向にあります。
- 山間部などの都市から離れている山林
- 収益目的で利用されていない(放置されている)山林
- 道路やインフラが未整備な場所にある山林
一方で、以下のような条件が重なると固定資産税課税標準額が高くなり、税額が一気に上がる可能性があります。
- 都市部や住宅地に隣接しており、宅地転用が視野に入る山林
- 市街化区域内の山林
- 敷地内に建物や付属施設がある山林
- 伐採・搬出の利便性が高い(林道が整備されているなど)
山林の固定資産税課税標準額を調べる方法
所有する山林の固定資産税課税標準額は、以下の方法で確認できます。いずれも自身で確認可能な方法です。
課税明細書で確認する
毎年春ごろに届く「固定資産税・都市計画税納税通知書」に同封されている課税明細書を見るのが、最も手軽な確認方法です。納税通知書には、土地の所在地や評価額、課税標準額、税額などが記載されています。

固定資産税評価証明書を取得する
固定資産税評価証明書は、市区町村の税務課で発行してもらえる書類で、課税標準額や地目などが確認できます。本人確認書類を持参すれば、窓口や郵送での取得が可能です。遠方に住んでいる場合などは郵送による請求が便利です。
固定資産課税台帳を閲覧する
固定資産課税台帳(名寄帳)は、自治体の税務課で閲覧できる公的な帳簿で、所有する不動産ごとの課税情報を確認できます。ただし、閲覧できるのは原則として土地の所有者または関係者に限られます。
山林の固定資産税がゼロになるケース
山林は固定資産税の課税対象ですが、条件によってはゼロになることがあります。これは「非課税」になるのではなく、あくまで「税額がゼロ」という扱いです。主に以下の2つのケースが該当します。
固定資産税課税標準額が30万円未満の山林
固定資産税には「免税点」と呼ばれる基準があり、多くの自治体では土地について課税標準額が30万円未満であれば税額は発生しません。このため、小規模で利用価値が低く、評価額がごくわずかな山林は、実質的に課税されないことも少なくありません。
ただし、固定資産税課税標準額は、同一人が同一市区町村内で所有しているすべての土地の合計額で判定されるため、個々の山林が30万円未満であっても、合算して30万円を超えれば課税対象になります。また、山林だけでなく、宅地や畑、原野など他の地目の土地も含めて合算されるため、複数の不動産を所有している場合は課税されるケースもあります。
保安林に指定されている
山林が「保安林」に指定されている場合も、固定資産税がかからないケースがあります。保安林とは、土砂災害の防止や減災など、公益的な目的のために指定された森林を指します。森林法によって保有林の伐採や開発は制限されており、地方税法の規定により固定資産税は非課税とされています。
なお、保安林に指定されているかどうかは、登記簿には記載されていないため、森林組合や自治体の担当部署などでの確認が必要です。

山林は管理に手間がかかり相続税が高額になることも
山林の固定資産税は少額で済むことが多いものの、長期的に所有し続けるには相応のコストとリスクが伴います。
維持・管理の負担
山林を所有している限り、定期的な手入れが求められます。例えば、木の成長に応じた間伐や雑草の除去、害虫対策などを怠ると、荒廃が進み、隣地や周辺環境に悪影響を及ぼすおそれがあります。林道の整備や倒木の撤去なども必要になる場合があり、とくに遠方に住んでいる所有者にとっては大きな負担となります。
管理が行き届かない状態で事故が起これば、所有者が損害賠償責任を問われる可能性もあります。さらに、山林は土砂災害や山火事といった自然災害のリスクも高いため、森林保険などの加入も検討しておきたいところです。
手入れがされていない山林は買い手から敬遠され、売却もしにくい傾向にあります。資産としての価値を維持するためにも、最低限の管理を継続することが不可欠といえるでしょう。

山林の相続税評価
固定資産税評価額は、相続税評価額とイコールではありません。固定資産税が少額の山林も、相続税が高額になる可能性があるため注意が必要です。
山林は「純山林」「中間山林」「市街地山林」の3種類に分類され、それぞれ評価方法が異なります。「純山林」は山間部などにあり宅地転用の見込みがない山林で、固定資産税評価額に所定の倍率をかける「倍率方式」によって相続税評価額算出されます。
「中間山林」は、将来的に宅地として利用される可能性がある山林です。倍率方式で相続税評価額が算出される点は純山林と同じですが、純山林よりも倍率が高い傾向にあります。
「市街地山林」は、市街地にある山林を指します。市街地山林の評価方法は、倍率方式または「宅地比準方式」です。宅地比準方式とは、山林を宅地として評価し、宅地として造成する際に必要な費用を控除したうえで評価する方法です。山林のあるエリアの宅地評価が高い場合、造成費を控除したとしても想定以上の相続税が課されることがあります。
山林の売却・活用方法
山林を所有していても収益につながらず、管理負担だけが増すような場合には、売却を検討するのも選択肢のひとつです。ただし、山林は宅地やマンションのような一般的な不動産とは異なり、売却にあたっては特有のハードルがあります。
山林は売却しづらい不動産
山林は利用価値や需要が限られており、買い手がなかなか見つからないことも珍しくありません。とくに都市部から離れた場所や伐採や搬出に手間がかかる立地では、売却に長い時間を要することもあります。
また、山林は境界が不明確なまま相続されているケースも多く、売却時には現地調査や境界確定が必要になることがあります。相続登記が済んでいない場合には、まず名義変更から進めなければならず、それらの手続きが障壁となって売却が進まないこともあります。
専門の不動産会社への相談がスムーズな売却のカギ
山林の売却には専門知識が求められるため、すべての不動産会社が対応できるわけではありません。山林の取り扱い実績がある会社や山林売買に詳しい専門業者に相談することで、スムーズに売却が進む可能性が高まります。
不動産会社による査定は基本的に無料のため、複数社に依頼し、適正価格や売却戦略を比較検討するとよいでしょう。山林の現況や市場での需要を踏まえて、納得のいく売却方針を見つけることが大切です。
仲介手数料に注意
山林は宅地にも建物にもあたらないため、宅地建物取引業法の適用対象外です。仲介を依頼する際の手数料については、宅地・建物のように上限が法律で定められているわけではありません。
とはいえ、実際の取引では宅地・建物の売買と同様に「売買価格の3%+6万円(税別)」を上限とするのが一般的です。不動産会社と媒介契約を締結する前には仲介手数料の金額や計算方法を必ず確認し、不明な点があれば納得するまで説明を受けましょう。
山林の活用方法
売却以外にも、山林を有効活用することで相続税や贈与税対策につなげることも可能です。例えば、特定森林経営計画に定められている山林で林業を経営している場合、山林にかかる課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予され、林業を経営している相続人が亡くなると納税が猶予されている相続税の納付が免除される場合があります。
また、キャンプ場や太陽光発電設備、農園経営、資材置き場などとしての活用やこれらを目的とした事業者などへの貸し付けによって有効利用や収益化を図ることも可能です。ただし、活用には税務や法務の知識が必要となるため、税理士や森林組合などの専門家に相談しながら検討するのがおすすめです。
まとめ
山林の固定資産税は、評価額が低いため税額も少ない傾向にあります。課税標準額が免税点を下回れば、税額がゼロになることもありますが、ほかの土地と合算される場合は注意が必要です。
一方で、山林の管理や相続には手間やコストがかかり、容易に売却できないこともあります。正確な評価と専門家のアドバイスをもとに、利活用や相続税対策、売却などを検討しましょう。
●監修
植村会計事務所代表/税理士・公認会計士
植村拓真
大手監査法人勤務時に鉄道系不動産会社の会計監査を経験。監査法人独立後も不動産会社の予算管理や事業計画の策定に携わるほか、不動産投資家向けの税務顧問、節税アドバイス、申告代行業務なども担当。高い効率性・正確性を追求すべく、ITツールを駆使した税理士業務の運営を行う傍ら、各種セミナーや執筆協力なども行っている。
文/亀梨奈美(realwave)


