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老後の住み替え、マンションと一戸建てでは何が違う? 後悔しない「終の棲家」選び

老後の住み替え、マンションと一戸建てでは何が違う? 後悔しない「終の棲家」選び

年齢によって体力も変われば、生活スタイルも変わります。30歳にとってベストな家が、80歳でもそのままベストな家とは限りません。60歳、70歳、80歳、100歳……この先の暮らしを考えて「ついのすみか」を後悔なく選ぶなら、マンションがいいのか、一戸建てがいいのか?自身も60歳を超え、『人生100年時代』を考え始めた生活経済ジャーナリストのいちのせかつみさんと一緒に考えてみました。

記事の目次

注文住宅の二次取得者層の半数以上は60代に住んでいる

国土交通省の「2023年度(令和5年度)住宅市場動向調査報告書」によると、不動産の二次取得者の中で、注文住宅(建て替え除く)や分譲集合住宅、中古一戸建てや中古集合住宅などに住んでいる層は60歳以上が一番多いというデータがある。

また、注文住宅の二次取得者層は半数以上が60代であることから、老後の住み替えの選択肢としては、注文住宅(建て替え除く)が最も多い。そのほか、半数近い分譲集合住宅・中古一戸建て住宅、中古集合住宅が選ばれていることが分かる。

世帯の年齢 二次取得者

老後に暮らすならどっち? マンションと一戸建て、それぞれのメリット・デメリットを検証

老後の暮らしのクオリティは、若い頃以上に「住環境」の影響を受けます。体力が衰えると少しの段差が危険になったり、駅や都心ではなく病院へのアクセスが大切になったり、建物や庭のメンテナンスも難しくなっていきます。子どもの独立や定年後には、住まいのダウンサイジングを考えたり、資産として残すことを考えることもあるでしょう。まずは、マンションと一戸建ての「特に老後に影響が大きい」メリット・デメリットを確認しておきましょう。

老後をマンションで暮らすメリット・デメリットは?

◎メリット

  • 比較的立地のいい場所が多いので、運転免許証を返納しても買い物・通院等で困らない
  • ワンフロア&バリアフリー生活が送れるので安心
  • 外回りや庭などのメンテナンスを自分でやらなくていい
  • ひとり暮らしでも、少なくとも管理人との交流がある
  • 天災被害や設備の故障などがあっても自己負担の割合が少ない
  • 断熱性が高い&冷暖房効率がいいので、ヒートショックの心配が少ない

×デメリット

  • 修繕積立金管理費、駐車場代をいつまでも払い続けないといけない
  • 修繕積立金、管理費、駐車場代が増額される場合がある
  • 子どもや孫が帰省しても泊めてあげられる部屋がない

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老後を一戸建てで暮らすメリット・デメリット

◎メリット

  • 修繕積立金、管理費、駐車場代などのランニングコストが不要
  • 自分たちが必要と思うメンテナンスだけを行えばよい
  • ガーデニングや家庭菜園、ペットとの時間が楽しめる
  • 生活スタイルに合わせたリフォームがしやすい
  • 土地を資産として残しやすい
  • 子どもや孫が大勢で帰省しても対応できる広さがある

×デメリット

  • 外回りや庭などのメンテナンスを自分でやらないといけない
  • 郊外の場合は、運転免許証返納後に買い物・通院等で困る可能性がある
  • 特に2階建てや3階建ての場合は、段差のある生活が難しくなる
  • 断熱性が低く、部屋ごとの温度差が大きいとヒートショックが心配
  • 天災被害や設備の故障などがあったときは、多額の修理費を自己負担する必要が出てくる

マンションも一戸建ても、物件によって立地や広さ、性能は違うので、上記の内容はあくまでもひとつの傾向に過ぎません。デメリットとされる項目でも、自分たちの暮らし方に関係なければ問題なし。例えば「コンパクトにまとまっているから暮らしやすい」と思うか、「狭いから子どもや孫を呼べない」と思うかによって、どちらが良いかは変わってきます。また、一戸建てでも、駅やバス停に近く、買い物施設や病院がそろっているなら、老後もアクセスの問題なく暮らせるはずです。

いちのせかつみさんから一言アドバイス

『老後』と聞いたときに何歳をイメージしますか?ひと昔前なら、『老後=定年後』だったかもしれません。しかし、近頃では70歳まで働くことが一般的になってきました。『人生100年時代』ともいわれています。とはいえ、80歳の暮らしのイメージはできても、100歳の暮らしはまだイメージできないかもしれませんね。これからは100歳を自宅で迎える時代になる可能性も大きいのです。『100歳になったときにどんな1日を送っているか』をイメージして、住まいをどうするか考えておきたいですね」(生活経済ジャーナリスト いちのせかつみさん)

老後を思い浮かべる男性

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(番外編)老後も賃貸に住み続ける場合のメリット・デメリットは?

賃貸で暮らすメリットは、何よりも「暮らしに合わなくなったらすぐに引っ越せる身軽さ」です。アクセスに問題が出てきたら、その時点で、より自分たちに合った家に住み替えることができます。ただし、賃貸の場合は家賃のほかにも更新の際に更新料がかかります。また、家賃保証は保証会社にお金を払うことで確保できても、高齢になるほど身元保証人が求められたり、賃貸契約の更新を断られたりする場合があることも覚悟しておきましょう。

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マンション⇔一戸建て、老後の住み替えで後悔しやすいのはどんな点?

例えば、マンションなら鍵ひとつで外出できても、一戸建てなら何カ所も戸締りしないといけない、など、マンションなら当たり前にできていたことが、一戸建てではできなかったりします。逆もまたしかり。老後に住み替える物件を探すときに気を付けたい点と、チェックが甘いとどんな点で後悔するのか、考えてみました。

1)老後の住み替えで後悔したポイント1 建物について

  • 耐久性「予想より早くメンテナンスが必要になり、コストがかかってしまった」
  • バリアフリー性「家の中はバリアフリーでも、入るまでに小さな段差がたくさんある」
  • メンテナンス性「外回りなど、自分で手入れしないといけない場所が増えた」
  • 断熱保温性「断熱性が低く、冷暖房が効かない。ヒートショックが心配」
  • 広さ「住まいをダウンサイジングしたら、収納が足りなかった」
  • リフォームのしやすさ「手すりを付けようと思っても簡単に付けられない構造だった」
  • セキュリティー「鍵が必要な場所が多すぎて、外出が面倒になった」

2)老後の住み替えで後悔したポイント2 立地・環境について

  • 買い物施設へのアクセス「徒歩で行ける買い物施設が少ない」「途中に坂が多い」
  • 病院へのアクセス「いつも激混みの病院ばかり」「検査ができる大きな病院まで遠い」
  • 高齢者サービスの充実度「デイサービスを利用しようと思っても数が少なく選べない」
  • 騒音、空気環境「深夜や早朝にバイクの爆音がして眠れない」「朝早く活動していると苦情が来た」

3)老後の住み替えで後悔したポイント3 コミュニティについて

  • 今までのコミュニティとのつながり「今まで仲良くしていた友達と別れて寂しい」
  • 近隣住民の同年代の割合「周囲に若い世帯が多く、自分たちだけ浮いている」
  • 子ども世帯との距離感「子どもたちの家から遠くなり、何かと不便に」

4)老後の住み替えで後悔したポイント4 お金について

  • 管理費などの住居費「自治会費が高額だった」「修繕積立金の一時金を要求された」
  • 固定資産税などの税金「人気の都心エリアに引っ越したら、税金が高くなった」
  • 火災保険や地震保険「水害が起こりやすい地域らしく、保険料が高い」
  • 水道光熱費「水道代が高いエリアだった」「広くなった分光熱費がかかる」
  • メンテナンス費「中古に住み替えたところ、ちょこちょこ修繕が必要になった」

下のグラフは住み替えを考えている人が住み替え先として比較検討した住宅(複数回答)。住み替える人の多くは、「マンションならマンション」「一戸建てなら一戸建て」を希望している。このデータは高齢者に限らないが、住み替えを考える多くの人が次に住みたいのは、やはり「住み慣れた環境」のよう。長年一戸建てに暮らしてきた人が「老後はマンションの方が暮らしやすそうだから」というイメージでマンションに住み替える場合は、違いをしっかりと把握しておいた方が後悔は少なくて済みそうだ。

高齢者の住み替えで比較検討した住宅

令和5年度国土交通省 住宅局「住宅市場動向調査報告書」「住み替えに関する意思決定(1) 比較検討した住宅」より<画像作成/SUUMO編集部>
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いちのせかつみさんから一言アドバイス

「老後に住み替えるのは、圧倒的に『一戸建てからマンション』が多いです。夫婦で暮らしていても、いずれは高齢ひとり暮らしになります。一戸建てで高齢者がひとりで暮らすには限界があります。それは、一戸建ての方が『自分で決めないといけないことが多い』から。例えば、年をとると、ゴミの分別ひとつとっても難しくなってきますが、マンションなら管理人に頼ることもできます。家のメンテナンスにしても、誰かがスケジュールを決めて、勝手にやってくれるとありがたいもの。年をとってくると、ある程度管理された方が気楽なのです。そういった点でもマンションは若干有利。また、マンションに高齢者が増えてくると、高齢者向けのサービスを採り入れやすくなる、といったことも今後は期待できるようになるかもしれませんね」

昔は幼稚園バスの停留所になっていたマンションに、今はデイサービスの車が横付けするイラスト

60歳からの住まいは、老後資金とあわせて考えるべき

住宅の購入や住み替えは、本体価格以外にも多額の費用がかかります。「老後=これからの収入は年金のみ」と考えると、住み替えは手持ち資金を大きく減らすことになります。ただし、メンテナンス費や光熱費がかかる大きな家から小さな家に住み替えることでランニングコストが抑えられる、という考え方もできます。暮らし方だけでなく家計全体を見据えて、住み替えを考えていきましょう。

老後の資金プランはどうする?

総務省の家計調査報告によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)平均支出額は25万959円。うち住居費は1万6827円となっています。(家 計 調 査 報 告 家計収支編2023年(令和5年)平均結果の概要より)つまり、65歳以上の世帯では、家賃やローンの支払いがない場合がほとんどだということ。もし、平均的な生活をした上で、家賃やローン返済に6万円必要だとすると、毎月の支出は31万円に。赤字分は、手持ち資金から持ち出し続けることになります。

住環境のクオリティ以上に大切なのは、老後の生活費を確保すること。退職金や年金と、毎月の生活にかかるお金をあらかじめ把握しておきましょう。そこから子どもの結婚資金や住宅購入支援金、孫へのお小遣いなどの予算を確保すると、手元に残るお金は意外に少ないかもしれません。住み替え後に後悔しないために、今後のライフイベントから逆算して、無理のない資金計画を立てるようにしましょう。

「年をとるほど確実に医療費がかかります。病気やケガの治療費、検査・入院費、薬代が増えるだけでなく、例えば通院時にタクシーを使わないといけなくなる場合もあります。また、いずれは介護費用も必要になります。もし『今の家では生活できない』となったときにはどうしますか?病院に行くか、施設に入るか?80歳になったとき、100歳になったときには、今とは家計の収支内容が変わってくることも考えておきたいですね」(いちのせさん)

老後のマネープランを考えるイメージ

住み替えを考えたら、まずは今の家を査定して「資産」を計算

老後に生活スタイルが変わる以上、それに合わせて住まいを変えることには十分意味があります。住み替えを考えたら、まずは今の家を査定してみましょう。住宅ローンを完済していれば、売却代金をそのまま新しい家の購入資金として使えます。住宅ローンが残っていても、物件の売却代金が借入金を上回る場合は、残りを住み替え資金に充てられます。売却しても借入金が上回る場合は、退職金などで補う=手持ち資金が減ることになります。売却代金を少しでも増やすために、査定は複数の会社に依頼するようにしましょう。

「今住んでいる家を担保にして資金を調達できる『リバース・モーゲージ』というシステムもありますが、利用できる家は限られます。よほど立地に恵まれた、優良な建物でなければ難しいでしょう。今の家の住宅ローンが残っていて住み替えを考える場合は、まずは今ローンを組んでいる銀行に相談してみてください。同じ銀行なら信頼を引き継ぐことができるので、新規にローンを組むよりもスムーズに利用できるはずです」(いちのせさん)

定年後でも住宅ローンを組める?注意点は?

住宅ローンは「完済時の上限年齢」と「借入時の上限年齢」が、銀行によってそれぞれ決められています。「完済時の上限年齢」は81歳未満の銀行が大半です。借入時の上限年齢は65歳以下がほとんどですが、71歳未満という銀行もあります。また、住宅金融支援機構から、「60歳からの住宅ローン」として「リ・バース60」という商品が登場。これは、「毎月の返済は利息のみで、元金は、借主の死亡時に相続人が一括返済するか、担保物件(住宅および土地)の売却で返済する」というもの。60歳を過ぎたからといって必ずしもローンが組めないわけではありませんが、利用にはさまざまな条件があります。返済年数に限りがある以上、利用する際は慎重に。後悔のない資金計画を組みたいですね。

「高齢者が住宅ローンを組むということは、返済期間が短くなる、ということ。そうなると、どうしても毎月返済額は高くなってしまいます。子どもがいるなら、「親子リレーローン」といって、親子でひとつの住宅ローンを契約し、親子2代にわたって返済する方法もあります。「リ・バース60」は物件を担保にするローンで、「親子リレーローン」は子どもにも負担してもらうローンです。どのローンも銀行によって利用条件が異なるので、利用する場合は必ず何行かに相談を。『どれだけ調べるか』が大切です」(いちのせさん)

高齢で住宅ローンを組むイメージ

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いちのせかつみさんから一言アドバイス

「病気になったときのために備えて保険に入りましょう」とよくいわれますが、これから備えないといけないのは「生き続けるリスク」に対してです。誰でも長生きしたいと思いますが、それはあくまでも「健康な状態で長生きすること」。退職後、定期収入がなくなってから20年生きるか、40年生きるか?長生きするほど当然お金がかかりますし、病院代や入院費、薬代も増えるでしょう。「あと何年分の生活費が必要になるか」は誰にも予測できないのです。「生き続ける」ことで発生するリスクも考えておきたいですね」

老後の心配をすればキリはありませんが、若いときから備えておくのは大切なこと。住み替えにはお金も体力も必要です。動きが取れなくなってから後悔することのないよう、「自分たちがどのような老後を送りたいと思っているか」をイメージして、早めに住環境を整えておいてもいいのではないでしょうか。

まとめスーモくん

  • 老後の暮らしにとって、マンション・一戸建てのどちらにもメリット・デメリットがある
  • 高齢になるほど、一般的にはマンションの方が暮らしやすい
  • 65歳を過ぎても利用できる住宅ローンはある
  • 住宅ローンを利用する場合、返済期間が短くなるので、毎月返済額は高くなる

●取材協力
いちのせかつみさん

いちのせかつみさん

市野瀬トータルコンサルタント代表者、株式会社 笑 代表取締役会長。ファイナンシャルプランナー。家計からみた人生設計の考え方に関する生活経済ジャーナリストとして、テレビやラジオに出演する一方、講演会やセミナー、執筆活動など多方面で活躍中。著書には、「株式ファンダメンタル分析」ほか多数、新聞や雑誌で「家計簿診断」を連載中

イラスト/松尾達

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●構成・取材・文/伊東美佳
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