土地の評価額である「路線価」や「公示地価」、「実勢価格」といった言葉は耳にしても、それぞれの意味や誰が決めているのかは分からないという方は案外多いかもしれません。この記事では、路線価など土地の評価額やその見かた、税率を調べる際の計算方法などをご紹介します。
記事の目次
路線価(相続税路線価)とは
路線価は、相続税や贈与税算定の基準になる
路線価は国税庁が全国の土地について公表する「道路(路線)に面する宅地 1m2あたりの評価額」です。相続税路線価ともいわれるとおり、相続税や贈与税を算定する際には、この路線価が土地価格の基準になります。
また、路線価は相続税や贈与税だけでなく、固定資産税の算定にも利用されます。 固定資産税路線価は、市町村が税務上の公平性を保つため、路線価を参考に独自に評価額を定めたものです。
ただし、全ての土地に固定資産税路線価が設定されているわけではなく、路線価が設定されていない地域や、評価が難しい土地については、他の評価方法が用いられることもあります。
路線価の調べ方
路線価は、国税庁のWebサイト内にある「財産評価基準書 路線価図」で調べることができます。この路線価図は独自の表記を採用していて、路線価は地図上に「1m2あたりの土地評価額(1000円単位)+借地権割合(A~Gの記号)」で表されます。
項目 | 説明 | 計算例 |
---|---|---|
土地の評価額(1m2あたり) | 数字部分 x 1000円 | 970 x 1000円 = 97万円 |
借地権割合 | A~Gの記号で表示 | C = 70% |
所有権がある場合の評価額 | 土地の評価額のみ | 97万円 |
借地権がある場合の評価額 | 土地の評価額 x 借地権割合 | 97万円 x 0.7 = 67万9000円 |
A | B | C | D | E | F | G |
---|---|---|---|---|---|---|
90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
- 土地の所有者なら、1m2あたり97万円で評価される
- 借地権を持っている人なら、1m2あたり67万9000円で評価される
ということになります。
土地の相続税を路線価から計算する方法とは
相続税評価額の算定方式は2通りある
路線価から相続税を計算するには、まずその土地の「相続税評価額」を算定しなければなりません。土地の相続税評価額を算定する方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2通りがあります。この2つの方式は、その土地(の前面道路)に対して国税庁が路線価を公表しているかどうかで使い分けられます。一般的に、市街地は路線価が公表されていることが多く、「路線価方式」が用いられます。
例として、路線価「970C」と表記されている10m2の更地の場合で考えてみましょう。
- 1m2あたりの評価額:97万円
- 面積:10m2
- 相続税評価額 = 97万円/m2 × 10m2 = 970万円
- 1m2あたりの評価額:97万円
- 面積:10m2
- 借地権割合:70% (C)
- 相続税評価額 = 97万円/m2 × 10m2 × 0.7 = 679万円
ただし、この計算方法には土地ごとの個別評価が反映されていませんので、実際には奥行価格補正率表や不整形地補正率表などで調整計算されます。
路線価がない地域の相続税評価額計算法とは
路線価がない地域の相続税評価額は、国税庁のWebサイト内にある「財産評価基準書評価倍率表」を用いて「倍率方式」で計算します。
まずあらかじめ、 都税事務所や市(区)役所または町村役場で、その土地の「固定資産税評価額」を確認しておきます。
次に、評価倍率表の「町(丁目)又は大字名」欄からその土地の住所を探し、「適用地域名」欄で、「倍率地域(路線価がない地域)」であることを確認します。
「借地権割合」欄で、借地権の場合の評価割合を確認し、「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」欄の「宅地」、「田」、「畑」、「山林」、「原野」、「牧場」、「池沼」の中からその土地の用途にあたる欄の倍率を確認します。 これを「相続税評価額=固定資産税評価額×その土地の用途にあたる欄の倍率」の式に当てはめて算出します。
土地以外の相続税額を算定するには
相続税評価額は、あくまで「相続する土地に対する評価額」です。相続税を算出するには、他の相続遺産も含めて計算しなければなりません。まずは「遺産総額=土地の相続税評価額+他の相続遺産の額」を算出しましょう。
次に「基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)」を算出します。算出した2つの金額を比べ、遺産総額が基礎控除額を超えなければ、そもそも相続税はかかりませんし、申告も必要ありません。遺産総額が基礎控除額を超える場合は「課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額」に応じた税率で相続税を払うことになります。 法定相続分に基づいて課税遺産総額から各相続人の課税額を算出し、国税庁が提供している以下の速算表をもとに、税率や控除額を反映していきましょう。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
土地の評価額は5種類ある。路線価と他の評価額との違いは?
土地は「一物五価」
路線価 | 実勢価格 | 公示価格 | 固定資産税評価額 | ||
---|---|---|---|---|---|
公示地価 | 基準地価 | ||||
調査主体 | 国税庁 | ー | 国土交通省 | 都道府県 | 市区町村(東京23区内は東京都) |
調査地点数 | 33万地点 | ー | 2万6000地点 | 2万2000地点 | 土地ごと |
調査時点 | 1月1日 | ー | 1月1日 | 7月1日 | 1月1日 |
活用方法 | 相続・贈与税の算定 | 土地取引 | 土地取引価格の基準 | 土地取引価格の基準 | 固定資産税等の課税 |
土地は1つの物件に対して5つの価格があり、これを指して「一物五価」といわれます。この「五価」の内訳は、上記の表に示した通り路線価、実勢価格、公示地価・基準地価(都道府県地価調査)、固定資産税評価額となっています。公示地価・基準地価を合わせ公示価格とし「一物四価」ということもあります。
5つの価格の特徴を比べてみよう
5つの価格にはそれぞれどのような特徴があるのでしょうか。まずここまで見てきた「路線価(相続税路線価)」は、担保評価にも利用されるなど使い道が広く、「公示価格(公示地価・基準地価)」も、地域の大まかな相場を知るには有効だといわれます。一方、「固定資産税評価額」は公示地価の約70%となり、いわゆる不動産売買の目安には向かないとされています。
では、不動産売買の際の目安となるのはどの価格なのでしょうか。それが「実勢価格」です。
不動産売買で重要なのは「実勢価格」
実勢価格とは、不動産が実際に取引される価格
実勢価格とは、「その不動産が実際に取引された価格」のことをいいます。取引実績がない不動産の場合は、取引価格の予想が実勢価格となります。
実勢価格は、行政が示した評価額や、それを用いて算出された価格のように、一覧表や計算式のみで求められるものではありません。さらに、土地が持つ個別の要素や売り主の個別の事情といった定性的なデータも用いて算出されます。
周辺の取引事例や公的データから算出することも
取引の実績がない不動産であっても「実勢価格」は算出されています。この場合、実勢価格は周辺の取引事例や公的データ(一物五価のうち、実勢価格以外の四価)から算出されます。つまり、取引の実績がない不動産の実勢価格=エリア相場といってよいでしょう。
他の地価とは一致しないことが多いので注意
実勢価格は、周辺の取引事例や個別の要素、個別の事情を反映させるといった特性から、一物五価に挙げられる他の地価とは価格が一致しないことも多いものです。一概に「地価」といっても、それがどの基準や手法で求められたものなのかは、注意しておく必要があります。
路線価から実勢価格を推測する目安と注意点
実勢価格のおおまかな目安は路線価÷0.8×1.1
先に説明したとおり、実勢価格は一覧表や計算式では正確に求めにくいものですが、あくまで「おおまかな目安」という程度であれば、路線価などから推測する方法も見られます。 公示地価を基準とした場合、路線価は公示地価の約80%、固定資産税評価額は公示地価の約70%といわれます。
つまり
「路線価=公示地価×0.8」
「固定資産税評価額=公示地価×0.7」
となります。
さらに実勢価格は公示地価の約110%といわれることが多いため、上記の計算式から
「実勢価格=路線価÷0.8×1.1」または「実勢価格=固定資産税評価額÷0.7×1.1」といった計算式で、実勢価格のおおまかな目安を求められることがわかります。
【注意点1】実勢価格はその不動産の個別条件で変動する
ただし、この計算式で求められるのはあくまで実勢価格の「目安」。取引実績がない場合に、相場として周辺エリアとざっくり比較する程度の用途と考えてください。実際には、その土地の個別の要素、個別の事情などで、実勢価格はさまざまに変動します。
個別の要素にはさまざまなものがありますが、主な例を挙げると「立地条件」、「日当たり」、「方角」、「建物がある場合はその築年数」など。また、住宅ローン返済が難しくなった際の任意売却など、売主が期限などの特別な条件があって売り出された場合は、周辺の実勢価格より低い価格で取引される場合もあります。
【注意点2】実勢価格の変動は早い
立地条件や日当たりなど、不動産の個別の要素はその不動産自体だけでなく、周囲の環境変化によっても変動していきます。もちろん、近隣の再開発など、環境変化の内容によって実勢価格が上がることもありますが、何らかの理由でそのエリアが不人気になったり、隣に大きなマンションが建つなど立地条件に影響する変化が起きたりして、実勢価格が下がることがある点も意識しておく必要があります。
計算以外で実勢価格の目安を知る方法は?
「レインズ」で似た物件の実勢価格を調べる
「レインズ(REINS)」は国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムで、現在売りに出されている不動産や、過去の成約事例などがほぼ網羅されています。
レインズは同機構の会員となっている不動産会社のみが閲覧できるようになっていますので、一般の売り手の場合は不動産会社にレインズの情報を提供してもらえるよう相談する必要がありますが、「レインズマーケットインフォメーション」という情報サイトは一般の方も閲覧できます。実勢価格を知りたい物件と似た条件の物件に関する成約事例をチェックしていけば、大まかな実勢価格が見えてくるでしょう。
国土交通省「不動産情報ライブラリ」で調べる
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」は、不動産の取引価格、地価公示・都道府県地価調査の価格を検索できるWebサイトです。実際に行われた不動産の取引価格を検索できる「不動産取引価格情報検索」で、実勢価格を知りたい物件と近い条件を設定して検索すれば実際の取引価格がわかり、実勢価格の目安になるでしょう。
不動産会社による査定を受ける
「レインズ」を利用する方法も「土地情報総合システム」を利用する方法も、過去の事例から実勢価格を類推することになります。つまり、その取引以降に起こった景気変動や都市開発などといった要素は反映されていません。こうしたギャップがない、現在のリアルな実勢価格を知りたいのであれば、やはり不動産のプロによる査定を受けて実勢価格を算出してもらうのがよいでしょう。査定だけであれば、基本的には料金もかかりません。
ただし、実勢価格は他の四価と違い、査定する人・会社の目利きや意向などによっても変わってきます。複数の不動産仲介会社に査定を依頼した場合、価格が高いところに目がいきます。しかし、媒介契約を得るために明らかに相場よりも高くしていると考えられる場合、また、買取保証を付ける場合に買取保証価格が他よりも低い査定になっていないか、信頼できる不動産会社であるかどうかは、よく吟味したいところです。
確実な土地の価格を知りたければ、査定がオススメ
普段何気なく「地価」などと総称してしまう「土地の価格」ですが、その評価額には5種類あり、それぞれ用途が異なります。例えば相続税や贈与税を算出するには「路線価」、固定資産税を算出するには「固定資産税評価額」、そして不動産の取引には「実勢価格」といった具合です。いずれの評価額も目安を知ることはできても、実際の取引価格とは乖離(かいり)してしまうことも。確実な実勢価格を知るためには、やはりプロの手による不動産査定を受けるのがおすすめです。
まとめ
- 路線価から「相続税評価額」を算定し、相続税額を計算することができる
- 土地の評価額は5種類あるが、不動産売買で重要なのは「実勢価格」
- 路線価から実勢価格を求めることができるが、個別条件による変動に注意
構成・文/ライトアップ
資産税コンサルティングの草分けとして、長年にわたり、個人の相続・譲渡や贈与など、法人の事業承継、組織再編、M&Aなど、個人・法人の資産税に関わるコンサルティングを手がけている。
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う