
土地の売却や相続で「分筆」が必要になるケースも少なくありません。分筆とは、1つの土地を2つ以上に分けることを指します。土地の分筆には多くの場合、境界確定測量を要し、登記が必要なことから、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
この記事では、土地の分筆にかかる費用や分筆の流れ、注意点を解説します。
土地の分筆にかかる費用
土地の分筆にかかる費用の内訳は「登録免許税」と「土地家屋調査士に支払う報酬」です。
登録免許税
登録免許税は、分筆登記に対して課される税金です。税額は、分筆後の土地の筆数×1,000円。例えば、1つの土地を2つに分筆した場合に課される登録免許税は2,000円となります。3つに分筆する場合は3,000円です。
登録免許税は原則として現金で納付しますが、税額が3万円以下の場合は相当額の収入印紙を申請書に貼り付けて登記所に提出することも可能です。また、オンライン申請の場合は電子納付ができます。
土地家屋調査士に支払う報酬
土地家屋調査士に支払う報酬は、依頼する土地家屋調査士や土地の状況などによって大きく変わってきます。分筆登記自体の報酬は数万円程度ですが、境界確定が済んでいない場合は隣地の数や土地の大きさ、地積測量図の有無などによって報酬額の幅はかなり大きくなります。
過去に境界を確定し、確認書が残っていたとしても、確定した時期によっては法務局に境界確定を証明する書類として認められないこともあります。100%というわけではありませんが、土地の分筆と境界確定はほぼセットと考えておきましょう。
あくまで概算ですが、隣接地が4軒かつ道路に面している土地の場合の確定測量を含めた土地分筆の報酬額は80万円〜120万円程度が目安です。ただし、登記の年代が古い土地や隣地の所有者が見つからないようなケースではさらに報酬額が高くなる可能性があります。
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分筆にかかった費用は誰が払うべき?
土地の分筆にかかる費用を負担するのは、基本的に所有者です。しかし、法律による規定はなく、とくに相続時や売却時は誰が分筆費用を負担するかを巡ってもめる可能性があります。
複数の相続人で土地を分ける場合
相続した土地を分筆して複数の相続人で分ける場合は、相続人で分筆にかかった費用を案分するのが一般的ですが、誰が負担するかを巡ってトラブルになるケースも見られます。
相続後に分筆する場合は、相続人で話し合って誰が負担するか決めるしかありませんが、相続前にできる対策もあります。例えば、遺言書で分筆費用の負担する人を指定したり、相続する資産と分筆にかかる費用を分けておいたりすることが有効です。
また、相続前に分筆しておくというのも選択肢の1つでしょう。分筆後の土地を相続すれば、分筆費用の負担を巡るトラブルが避けられることに加え、相続前に一定額の土地の分筆費用を支払うことで相続税の圧縮効果にも期待できます。
分筆した土地を売却する場合
広大な土地を売買し、分譲住宅を建築するために分筆するような場合は、買主にあたるハウスメーカーなどが分筆費用を負担するのが一般的です。ただこのようなケースであっても、多くの場合、境界確定の費用は売主の負担となります。
とはいえ、売主、買主どちらが土地の売買のための分筆や境界確定の費用を負担するかは、取引内容次第です。分筆や境界確定の実施や費用負担が、金額面の交渉材料になるケースもあります。いずれにしても契約後のトラブルを避けるため、契約書にはどちらが費用を負担するか明記しておきましょう。
| 書類 | 概要・取得方法 |
|---|---|
| 本人確認書類 | マイナンバーカード・運転免許証など |
| 筆界確認書 | 境界確認書・境界の同意書・境界の協定書など |
| 土地・建物の図面 | 土地や建物を取得したときの図面 |
| 地積測量図 | 法務局で取得 |
| 登記簿謄本 | 法務局で取得 |
| 委任状 | 土地家屋調査士が用意 |
| 登記申請書 | 土地家屋調査士が取得・作成 |
土地の分筆に際して所有者が準備しておくべき書類は、そう多くありません。上記のうち、依頼時に必須なものは本人確認書類のみです。筆界確認書や土地・建物の図面は、手元にあれば用意しておきましょう。また、地積測量図や登記簿謄本は土地家屋調査士が取得することもできるため、無理に準備する必要はありません。
土地家屋調査士に分筆登記を委任するにあたっては委任状が必要になりますが、こちらも土地家屋調査士が用意してくれます。登記に必要な申請書や図面も、土地家屋調査士が作成して法務局に提出します。

土地を分筆する期間と流れ
分筆登記の申請から登記完了までの期間は、1〜2週間程度です。しかし、確定測量に時間を要するため、何事もなく進んだとしても、分筆登記を終えるまでには3〜4カ月程度はかかります。隣地に国や都道府県、市区町村の土地が含まれる場合は確認に時間を要するため、+2〜3カ月程度見ておくと良いでしょう。
隣地の所有者が見つからない場合や連絡がつかない場合、連絡が取れても承諾してもらえない場合などは、さらに時間を要する可能性があります。また、近年は官公庁の人材不足もあり、官有地との境界確定業務が長期化する傾向にあります。登記完了までに半年以上かかるケースもありますので、余裕を持って業務を依頼することが望ましいでしょう。
土地を分筆するまでの流れは次のとおりです。
1.土地家屋調査士に分筆を依頼する
土地家屋調査士への依頼は、不動産仲介会社や税理士、司法書士などを通して行うのが一般的です。ただ、近年は自身でサイトを持っていたり、SNSなどで発信していたりする土地家屋調査士も多いため、自分で土地家屋調査士を見つけるのも良いでしょう。日本土地家屋調査士会連合会のサイトでも、土地家屋調査士や土地家屋調査士法人を検索できます。
2.土地家屋調査士が資料を収集する
土地家屋調査士に分筆を依頼すると、所有者に代わって法務局や役所で分筆に必要な書類や資料を収集してくれます。所有者が調査や資料の収集に同行する必要はありません。
3.境界確定測量・境界確認・境界標の打ち込み
先述のとおり、土地の分筆と境界確定測量はほぼセットで行われます。
境界確定には、測量に加えて、隣地所有者の立ち会いや確認書の取り交わしを要します。基本的に、隣地の数が多ければ多いほど時間と費用がかかり、所有者が不明だったり連絡がつかなかったりする場合は半年や1年以上かかることも覚悟しておきましょう。
「どうしても隣地の所有者が見つからない」「相続人の数が多すぎて到底連絡しきれない」という場合は、救済措置として、客観的事実および隣地の管理者や法務局の職員などの確認があれば分筆が認められる可能性があります。具体的には、既存の地積測量図や現地境界標などの客観的な証拠によって筆界の位置が特定し得ると登記官が判断した場合や、隣接地の所有権登記名義人として登記されていない管理者でも固定資産税を負担しているなど実質的な土地管理者として認められる場合には、その管理者の署名をもって確認書と認められるケースがあります。
隣接地の所有者から合意を得られたら、境界標を設置します。
4.法務局に分筆登記を申請
確定測量さえ終われば、後は申請書や地積測量図を作成して法務局に提出するだけです。登記が終わると、分筆によって新たにできた土地に地番が付けられます。

土地の分筆に関する注意点
土地の分筆には一定の費用がかかりますが、費用を抑えるために自分で手続きをしたり、安さだけで土地家屋調査士を選ぶことは避けましょう。
複数の業者から見積もりを取って比較する
先述のとおり、土地家屋調査士は不動産仲介会社や税理士などから紹介されることが多いですが、自分で探すこともできます。費用を抑えたいのであれば、複数の土地家屋調査士に見積もりを依頼して比較・検討するようにしましょう。
隣地の境界確定をした土地家屋調査士や過去に測量してもらった土地家屋調査士にあたってみるのも良いでしょう。費用が抑えられる可能性があることに加え、スムーズな測量・登記にできるかもしれません。
報酬額だけで土地家屋調査士を選ばない
費用を抑えるなら比較・検討が大切ですが、報酬額だけで土地家屋調査士を選ぶことは避けましょう。土地家屋調査士の質は千差万別です。例えば、人件費削減のために本来なら土地家屋調査士本人が行わなければならない調査測量、境界立会を無資格の補助者にすべて任せてしまうような事務所も残念ながら少なくありません(土地家屋調査士倫理規定第17条違反)。そのまま登記申請まで行ってしまえば、大切な財産が専門家のチェックを受けないまま登記されてしまい、将来的にトラブルになってしまうおそれもあります。
また、土地家屋調査士の業務は地域性が強いものです。自治体が変われば境界の確認方法も変わります。隣接地の所有者とも対峙してもらうことになるため、土地家屋調査士にはトーク力や清潔感も求められます。
したがって、分筆する土地がある地域に根ざした複数の土地家屋調査士の見積もり、対応力、人間性などを比較できるとベストでしょう。
「見積もり額=請求額」とは限らない
土地の確定測量に必要な手続きや時間については、調査してみなければわかりません。見積もりの段階でどこまで調査できるかにもよりますが、見積もり額と実際に請求される額が大きく異なるケースもあります。
ただ、費用が上がるケースだけでなく、逆に請求額が見積もりより下がるケースもあります。見積もりを提示してもらう際は、見積もり額だけでなく、何にどれくらいの費用がかかり、どのように金額が変動する可能性があるのか確認しておきましょう。
土地の分筆ができないケースがある
- 分筆後の土地の面積が「最低敷地面積」を下回る
- 隣接地の所有者が不明・連絡がつかない
- 隣接地の所有者が境界確定に応じてくれない
こうしたケースでは、土地の分筆ができません。「最低敷地面積」とは、各自治体が定める最低限度の敷地面積を指します。例えば、最低敷地面積が100m2の地域では、200m2未満の土地は等分分筆できないということになります。
後者2つの境界確定ができないケースについては、先述のとおり、救済策として客観的事実および隣接地の管理者や法務局の職人の立ち会いなどによって分筆が認められることもあるため、絶対に分筆できないというわけではありません。「筆界特定制度」を利用することで分筆ができるケースもあります。筆界特定制度とは、法務局の登記官によって筆界を示す制度で、裁判をしなくても公的な判断として筆界を明らかにすることができます。
また、どうしても隣接地の所有者が承諾してくれない場合は訴訟を起こすという手段もあります。ただ、裁判となると時間がかかるうえに弁護費用などもかかってしまうため最終手段といえるでしょう。
分筆登記の手続きを自分でするのは避ける
分筆の費用を少しでも抑えるため「自分で分筆登記をしたい」と考える人もいるかもしれませんが、おすすめはできません。
自分で分筆登記申請すること自体は可能ですが、分筆登記にはほぼ境界確定が必要であり、調査や図面の作成には専門知識も要します。自分で分筆登記するのは現実的ではなく、実際に自分で登記する方もごく少数です。土地には必ず隣接地が存在するため、一歩間違えると他人の権利を侵害してしまったり、逆に自身の財産を損なってしまったりすることになりかねません。
まとめ
分筆費用は土地の状況や依頼する土地家屋調査士によって異なりますが、数十万円〜百数十万円かかるのが一般的です。土地の分筆にどの程度の時間や労力を要するか推測しにくいことから、土地家屋調査士によって見積もり額にも差が出ることが予想されます。費用を抑えるためには見積もり額を比較することが大切ですが、費用だけでなく土地家屋調査士の「質」も見て検討するようにしましょう。
●取材・文/亀梨奈美(realwave)


