
埼玉県内に住むSさんは、自宅とは別に、都内にいくつかの投資用マンションを持っています。今回は、マンション価格が上がっているというトレンドをとらえ、収支がマイナスになりがちだった部屋を売却することに。自宅用マンションとは少し進め方が異なる、投資用マンションの売却についてお話を伺いました。
| 不動産区分 | 投資用マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区 |
| 築年数 | 18年 |
| 間取り・面積 | 1K(約20m2) |
| ローン残高 | 1078万円 |
| 査定価格 | 1750万~1850万円 |
| 売り出し価格 | 1850万円 |
| 成約価格 | 1850万円 |
収支がマイナスの投資用マンション。「今なら売れるかも」と不動産会社勤務の知り合いから助言
今回Sさんが売却したのは、2002年に新築で分譲された際に購入した投資用マンション。東京都新宿区にある、築18年、約20m2・1Kの単身者向けの物件です。たまたま20年ほど前、まとまった余裕資金があったときに投資会社から営業があり、投資用マンションを購入したそう。今回売却したマンションの他にも、タイプはさまざまですが都内にいくつか投資用マンションを持っているといいます。
「都心で働く単身者が通勤しやすいこと、最寄駅からは徒歩10分以内で選ばれやすいこと、そういった賃貸需要がありそうな物件ということで紹介された物件です。資料で条件面を確認し、1990万円で購入しました。借入額は1800万円。自分が住む家ではない投資用マンションを購入の場合、金利が低く有利な住宅ローンは利用できませんから、金利3%程度の『不動産投資ローン』を使っての購入です。」
物件は山手線の内側にあり、もともと便利なエリア。物件を所有しているうちに地下鉄が整備され、今では徒歩5分程度で3駅使えるようになったそうです。
「ただ、投資用マンションの持ち方の理想は『家賃>住宅ローン返済額+管理費・修繕積立金』なんでしょうけど、なかなかそこまでうまくはいかなくて。家賃の手取り収入が8万4000円で、住宅ローンの返済が月々約6万9000円でしたけど、その他もろもろの経費を入れたら、実際は入居者がいる状態でも少し持ち出しがありました。空き家になっている時期は完全に持ち出しです。だから、ローンを完済した後、ようやく家賃収入が老後の収入源になるかな、という感じで。それまでの間は、節税効果に期待する程度でしょうか。まあ、いざお金が必要となれば、物件を売却すればある程度まとまった資金をつくれるので、資産を不動産で持っている、というふうに考えていました。」
Sさんの投資用マンションの運用は、少しマイナスがありつつも、他の投資物件と合わせてやりくりすることで、トータルではプラスかなという状況だったそうです。いつかは処分したいな、という気持ちはあったものの、忙しくてそのままになっていました。
そんな中、Sさんの耳にも不動産価格が高止まりしているという市況は届いていましたが、売却については特に検討していなかったそうです。転機は2020年春ごろに訪れました。不動産仲介会社に勤める知人から、「今ならマンションが売れるかもしれない」という話を聞いたのです。それなら赤字になっている物件を手放そうかな、と売却を思い立ちました。
プロの知人と物件の管理会社に査定を依頼して売却活動スタート
売却を思い立ってすぐの2020年3月ごろ、そのまま不動産仲介会社に勤める知人に物件の情報を伝え、簡易査定してもらいました。同時に、マンションの家賃徴収代行や賃貸している住人の対応といった管理業務を依頼している不動産仲介会社にも、売却の意向を伝えて査定してもらいました。
「査定額は1750万円と1850万円で、2社で100万円の違いでした。新築購入時の価格からは200万円前後下がってはいますが、築18年でその程度の下落ならいい方なのかなといった感想です。マンションの管理業務をしている会社は、査定額や仲介手数料の面でより有利な条件を提示してきました。自分の手を離れた売却となれば、新オーナーが別の管理会社を選ぶこともあり、月々の管理手数料収入がなくなってしまうこともあるからだと思います。新オーナーを自分たちで探して、引き続き管理会社として契約を結びたいということでしょうね。私にとっても有利な条件の提示なので、結局管理業務を依頼している会社に仲介を頼むことにしました。」
Sさんとしては、仲介を依頼した会社は不動産投資のコンサルティングや物件の販売なども扱っているので、「もしかしたら買取の提案をされるかな?」と思ったそうですが、今回は仲介の提案だったそうです。
「まずは売れそうな価格と売却までの期間について説明がありました。査定額の1850万円で売り出したら、大体半年くらいで売却が完了するという目安の提示があり、それを目指して売却活動を進めようということになりました。」
Sさんは、売却期間に制約があったわけではないので、売却活動は「1850万円で買ってくれる人を探す」という価格優先の方針をとったそうです。
売却活動は不動産仲介会社にお任せ。ちょうど半年で購入者が見つかる
Sさんの売却活動は、自宅マンションの売却ではなく、賃貸で住んでいる人がいる状態での売却(オーナーチェンジ)です。一般的な売却のように、WEB広告やチラシ、購入希望者があれば内見への対応、といった活動ではありませんでした。Sさんは、最初に銀行への残債確認を指示された程度で、後の一切合切は不動産仲介会社におまかせ状態で進んだといいます。

「実は、どんな売却活動をしていたか、具体的には知りません。一般的な自宅の売却活動のように、不動産仲介会社から反響の件数など、定期連絡が入るというわけでもありませんでした。おそらく、不動産仲介会社の顧客リストへの声掛けなど、独自の販売網で、売り出し価格で買ってくれる購入者を探して来てくれたのかなと思います。一般的な中古売買のように、購入希望者からの値下げ交渉などもありませんでしたよ。8月ごろに購入希望者が現れたと連絡がありました。実際の手取り家賃の価格など、少し確認のやり取りがあった後、先方のローン審査を経て、9月に売買契約を交わしました。」
売却価格は、売り出し価格と同じ1850万円で成約。賃貸で住んでいる人へのオーナーチェンジの説明、登記関係の手続きなど、一連の事務作業も、全て不動産仲介会社が進めてくれていたそうです。
Sさんは、「購入から売却まで、一度もマンションの実物を見たことはないまま手が離れました」と笑っていました。
■オーナーチェンジでの売却
貸主(オーナー)が、入居者が居住している状態で不動産を売買することを「オーナーチェンジ」といいます。
オーナーチェンジ物件の売却は、不動産仲介会社に依頼して購入者(オーナー)を探す「仲介」と、不動産会社による「買取」というのが主な方法です。なお、投資用物件を売却する場合、購入者は物件の収益力を見ます。賃料を上げるのは難しいため、投資用物件は、自宅用住居用マンションの売却価格よりも低めの価格になることが多くなります。
購入者は、物件の購入後、借主から家賃を受け取る権利を得ると同時に、売主である前の所有者が借主に対して負っていた敷金の返還義務や修繕する責任なども引継ぎます。なお、入居者へは、売買が終わった後にオーナー変更を説明することが多いようです。
売却の物件は赤字だったが、スムーズに手放せて安心している
今回の売却活動を振り返り、「今はホッとしている」というSさん。ローンの返済があるうちは不採算な投資用マンションを持つメリットがなく、老後の暮らしが視野に入る年齢に差し掛かり、ちょっとお荷物と感じていたそう。「自分が生きているうちに不採算な投資用マンションに決着がつけられて良かったです。」と語ります。
「ただ、投資用マンションを持つこと自体は、老後に現金をつくる方法の一つとしてありだと思っています。仮に購入時から値下がりしていたとしても、売却すればまとまった現金になりますしね。
さらに、相続を考えたときには、ローンの完済前に相続が発生したとしても団信で精算されるので、子どもたちに借金を負わせることなく資産を残してあげられます。家賃収入を安定した収入源としてもいいし、売却して現金に換えてもいいし、子どもたちが自分で選択できますから、結構いい手だと思うんです」
今回売却した物件以外にも、いくつか投資用マンションを運用しているというSさん。今回の売却で得たお金を他の投資用マンションのローン返済に充て、家賃が収入となるよう、資産を整理できたそうです。
| 2020年3月 | ・不動産仲介会社勤務の知人に話を聞き、売却を思い立つ ・知人と投資用マンションの管理を委託している不動産仲介会社の2件に査定依頼 ・マンションの管理を委託している会社に仲介依頼 ・1850万円で売り出し |
|---|---|
| 2020年8月 | ・購入希望者が現れる |
| 2020年9月 | ・売買契約を結び、売却活動完了 |
まとめ
- 投資用マンションの場合は、一般に向けて広く売却活動を行うわけではない
- 物件の管理を依頼している会社に仲介を頼むと、賃貸の住人への説明などもスムーズ
取材・文/竹入はるな イラスト/沼田光太郎


