
母方の伯母が死去し、自宅だったマンションを遺贈されたAさん。築年数が古く、維持管理の手間などを考えて売却することに。親族からの相続物件の売却ということで、相続手続き自体の大変さだけでなく、家族・親族とのコミュニケーションなど心身に負担がかかることもあったといいます。終活が叫ばれる現在、相続物件を売却するにあたり、わかったこと、大切なことを聞きました。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区 |
| 築年数 | 約50年 |
| 間取り・面積 | 1DK(約35m2) |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 1200万~1300万円、1600万円の2つ |
| 売り出し価格 | 買取 |
| 成約価格 | 1600万円 |
単身住まいの伯母が将来を案じたことから、親族とともに売却を考える
母親と妹と3人暮らしをしているAさん(40代)。今回紹介する売却物件は、母の姉にあたる伯母(おば)が自宅として所有していた都内のマンションです。伯母はAさんから見ての祖母と同居しており、以前からお正月など節目節目で交流を深めていたといいます。
伯母は先々を見据え、所有するマンションの売却を前々から考えていたといいます。きっかけは伯母と同居していた祖母が他界したことでした。「配偶者も子どももいない伯母だったので、単身になったことで、先々のことを考えはじめたようです。それで、親族である私たちもこの後どうするのかと気にするようになったんです」といいます。
伯母が所有していた物件は中古マンション。15年ほど前に中古物件として約1200万円で購入していましたが、すでに住宅ローンは完済しており、残債はありませんでした。さらに7階建てながら60戸前後の小規模なマンションで、複数の路線の駅からいずれも徒歩15分程度の好立地だったといいます。
こうした立地から、多少築年数が経っていても「売却物件としてニーズはあるのでは」と伯母は言っていたといいます。
伯母の生前から相続について相談し、遺言状も作成していた
高齢である伯母は先々を考えて、2014年ごろから、伯母から見て妹であるAさんの母、弟である叔父などにタイミングを見て話し合いをしていたといいます。というのも「伯母は配偶者も子どももいませんでした。年齢も高齢だったため、母と叔父がいずれ相続することになるのが明白でしたから。終活の一環として進めていたんです。とはいえ母も叔父も高齢のため、私も一緒に話し合いに参加していました」とAさん。
そうして過ごしてきた中、2016年の6月ごろに「母が1/2、叔父が1/2とする相続割合を遺言状で残すことになりました。そして母、叔父ともに高齢のため、その後、マンション所有権は私と妹に遺贈されることも決まりました。さらに遺言状は公証役場で正当なものとして扱われるよう手続き。母や叔父以外にも法定相続人はいたのですが、なかなか連絡が取れない、近くに住んでいないということもあってこのように決めました」とAさん。法律上の手続きや親族との連絡調整など「初めてのことばかりで、手続きや相談にはかなり負担がありましたね」と振り返ります。

そして2019年2月にAさん伯母が逝去。伯母の財産は事前に相談していた通り母と叔父が相続しますが、伯母の自宅マンションの所有権はAさんとAさん妹に遺贈されました。それ以外の法定相続人には相続放棄してもらう手続きを行いました。
■法定相続人とは
Aさんの伯母のように単身で子どものいない人が亡くなった場合、財産を誰が相続するのかを決めなくてはいけません。これが民法で定められている法定相続人の制度です。法定相続人になれるのは亡くなった方の配偶者や子ども、直系尊属や直系卑属に限られ、この内でも相続の優先順位が定められています。そこで、まずは相続する権利があるのは誰なのかを明確にする相続人の確定を行います。手順としては、法務局に亡くなった方の戸籍謄本や相続人の住民票などを提出し、法定相続情報一覧図を作成。その写しをもらうことです。また遺言書の有無を確認しましょう。公正証書で作成している場合は公証人役場で調べてくれます。自筆で書かれた遺言の場合は開封せず、家庭裁判所に持参し検認してもらわなければなりません。こうして相続人を確定し、相続する財産の内容を確認します。
ちなみに財産を相続した人は被相続人が亡くなって10カ月以内(死亡を知らなかった場合には知った日の翌日から10カ月以内)に相続手続きを完了し、さらに相続税を納める必要があります。葬儀や生命保険の請求手続き、携帯電話や公共料金などの解約や名義変更など、さまざまなことと並行して上記の手続き、確認を行いつつ、10カ月以内に相続税を納付しなければなりません。財産に不動産がある場合や、相続人が複数いる場合などは相続税納付までに話し合いが必要なことが多くあり、時間がなくなることもしばしばあります。Aさんのように生前から相続について相談したり、法定相続人に誰がいるかなどを調べておくとスムーズです。
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維持管理費や売却活動の手間を考えて、不動産会社による買取を選択
相続手続きは無事に済んだものの、物件自体をどうするかを考えていたAさん。伯母の死去後3カ月くらいにわたって遺品整理に通っている間に、不動産会社にどのように管理していけばいいのか、賃貸にするか、売却するかなどを含めて相談していたといいます。
「当初賃貸も考えていたのですが、貸し出すにあたり必要なリフォームなどを見積もったところ、とても負担が大きく、それで借り手が見つからなかった際のリスクが大きいなと除外しました。また、一般の方々向けに売却活動を行えば、売値は期待できるかもしれないけど、売買契約成立まで時間がかかる。さらに価格交渉される可能性もあるということが分かって。税金や管理の手間などのランニングコストや、築年数がたった物件であるということ、中古マンション売却のニーズの高さなどを教えてもらい、すぐに売却ができる買取で売却することに決めたんです」とAさん。
そうして伯母の死去当時から相談に乗ってくれていた該当物件の管理と売買仲介を行っている不動産会社含めて、3社に査定を依頼しました。
「査定をしっかりしてもらいたくて、部屋がきれいな状態で見てもらえるよう遺品整理が一段落ついたタイミングで同時期に査定をお願いしました」
査定価格は1社が1200万~1300万円、1社はその場で決めるなら査定価格を出すという話だったので断り、そして管理会社系列の不動産会社が1600万円という結果に。
Aさんは管理会社系列の不動産会社に売却することを決めました。「価格が最も高かったということだけでなく、伯母の生前から相続についてのアドバイスを受けて、もろもろの手続きで尽力してもらいました。さらに物件を知っている私たちに任せてくださいと熱心だったことから、安心して売却できました」
そうして、2019年6月売買契約を結んで売却を成立させました。
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不動産会社の対応で、築古かつ遠方、コロナ禍での売却でも不安感はなし
売却活動全体を振り返って、Aさんは「大変でした」といいます。
「売却成立が大変というよりも、伯母の生前から相続前後の手続きや親族への連絡が大変でしたね。戸籍謄本集めや遺言状の作成など初めてのことが多いし、親族とも丁寧に丁寧に話し合って。また、売却活動にしても、母や叔父にとっては家族が住んでいた住まいということで思い入れがあります。なにも口を出さないといってもそうはいかないじゃないですか。逐一情報を共有しつつ、丁寧に進めていきました」といいます。
なかでも伯母の遺言状作成については「遺言書を無理やり書かせるなんてもちろんあってはいけないので、伯母の体調を考慮しつつ、丁寧に説明したり、法律の専門家などにアドバイスを聞いて。また、法定相続人の把握とそれぞれの方々へ理解してもらう。最終的に遺言書を作成して公証役場に提出するまでが大変でした」
こうした手続きや説明などを少しずつ行いながらの大変な数年を振り返るAさん。
「これから相続する方々へは、全体像をスケジューリングする、そしてその際に必要な手間や費用はどのくらいなのかを把握する。これがとても大切だと思います」といいます。
親や親族が残してくれる不動産は財産です。その人たちの気持ちに応えるためにも、「早め早めに準備をしたり、相続財産についての話題をタブー視せずに、常日頃から話し合っておくことが大事だと今強く感じています」
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| 2019年3月 | ・2月に伯母が死去し、自宅だったマンションが、AさんとAさんの妹に遺贈される ・マンションを売却することを決める ・買取を依頼するため、複数の不動産会社に連絡をとる |
|---|---|
| 2019年5月 | ・現地査定をしてもらう |
| 2019年6月 | ・最も高値を付けた会社と売買契約を結ぶ |
まとめ
- 築古物件=リフォームがマストではない。リフォームするかは費用や周辺のニーズを考えてよく検討を
- 相続物件の売却には相続発生以前からの準備が必要
- 売却対象の物件の管理を行っている不動産会社に、売却部門があれば大きな力になることも
イラスト/村林タカノブ


