
前妻と買った共有名義のマンションを、離婚から10年後に売却すると決めていたAさん。実際に売却活動をスタートしてみると、前妻との意見調整に手間取り、不動産仲介会社選びや税金の問題など、戸惑うことも多かったと言います。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区 |
| 築年数 | 16年 |
| 間取り・面積 | 1LDK(約57m2) |
| ローン残高 | 約1400万円 |
| 査定価格 | 5500万円 |
| 売り出し価格 | 5980万円 |
| 成約価格 | 5680万円 |
離婚から10年、前妻と共有名義のマンションを売却
2020年4月、所有する不動産の売却に取りかかったAさん。対象の物件は、16年前に当時の妻と購入した新宿区のマンションだと言います。
「共有名義で持ち分は私が4分の3、当時の妻が4分の1です。その後離婚し、私は家を出て、マンションには前妻が住んでいました。離婚の際、10年後にマンションを売却することを約束し公正証書に記載していたので、その取り決めを実行に移したというわけです」

Aさんの物件は最寄駅へ徒歩2分の近さ。8分ほど歩けば別路線の駅も利用できる便利な立地だったそうです。
「総戸数40戸ほどの、いわゆるDINKS向けデザイナーズマンションです。外観はもちろん、住戸内もダウンライトを多用した照明やビルトインの洗濯機など凝ったデザインでした。2LDKで分譲されていたものを1LDKに間取り変更したので、リビングはかなり広かったですね」
Aさん名義で組んだ住宅ローンは、残債が約1400万円あったと言います。
「離婚後も住宅ローンの返済は滞りなく続けていました。ただ、数年前に今の家族のためにマンションを購入し、しばらくダブルローンの状態になっていたので、早く売却して最初のローンを完済したいというのが正直な気持ちでした」
■離婚時の住宅ローン
ペアローンを組んでいて離婚する場合、次の選択肢があります。1. 不動産を売却する/売却代金でローンを完済し、余りが出れば財産分与が可能。ただし、ローンの残債が売却価格を上回る場合は、売却が難しくなります。どちらかが住み続ける場合は、2. ローンを1本化する/一方が相手のローンを買い取る、あるいは銀行に相談して単独名義に変更する方法も。しかしペアローン一本化の条件は厳しくなります。3. 二人でローン返済を続ける/住み続ける側には、相手の返済が滞るかもしれないというリスクがあります。また出ていく側は、ローンが残っていると新たな住宅ローンが組めない点に注意が必要です。
両者が納得できる不動産仲介会社を慎重に選択
取り決めどおりマンションの売却活動をスタートしたAさん。共有名義の物件のため、売却活動も前妻との共同作業だったと言います。
「まず、仲介を依頼する不動産仲介会社選びから始めました。私は不動産情報サイトの一括査定を利用し、机上査定を取った数社から3社をセレクト。前妻が探してきた2社と合わせて5社の資料を検討し、そのうちの3社に現地査定を依頼しました。査定価格はどこも同じで、5500万円なら確実に売れるだろうとのこと。私が現地査定に立ち会ったのは1社だけですが、ほかの2社もオフィスに出向いて担当者から話を聞きました。各社とも得意分野や売り方が異なり、どこを選ぶべきか悩みましたね」
最終的にAさんが選んだのは、ネットのプロモーション力を強みとする不動産仲介会社だったそうです。
「私としては税金関係のアドバイスが充実していそうな銀行系の不動産仲介会社を選びたい気持ちもあったのですが、前妻の意向を尊重。この会社なら幅広く私の物件の情報が届き、早く売却できるのではないかと期待しての選択です。また、仲介手数料が安くなったのもポイントですね。実は他社から、仲介手数料を割り引くという申し出があったので、私のマンションは売りやすい物件なのだろうと判断。交渉してみて正解でした」
2020年6月、Aさんは不動産仲介会社と専属専任媒介契約を結びました。
「私も前妻も仕事が忙しいので、全面的に任せられそうな契約形態を選びました。私自身は、どちらかというと価格より早さを重視。納税の関係で、2020年中に売買契約にこぎつけたいと考えていました。売り出し価格は不動産仲介会社のアドバイスに従って5980万円に。担当者によれば、この価格では売れないだろうが、当初の価格を高めに設定し、次にドンと下げるときっと反響があるとのこと。プロである担当者を信頼して、その作戦に乗ることにしました」
予想どおり、値下げ後2週間で購入希望者が登場
2020年7月、Aさんは5980万円でマンションを売り出しました。予想していたとおり、反響は少なかったと言います。
「内見は3組ほどありましたが、購入希望者は現れませんでした。不動産会社からは毎週レポートの報告がありました。しかし、WEBサイトのページビューや閲覧時間はどのぐらいだった、前週比はどうだったといった事実報告のみで、現状分析や新たな提案はないのが不満でした。だんだん焦りを感じ、このまま同じ不動産仲介会社に任せていいものかと迷いが出てきました」
売り出しから3カ月後、Aさんは不動産仲介会社との媒介契約を更新。価格を5680万円に下げました。
「媒介契約を更新するかどうか悩みましたが、あと3カ月様子を見ることにしました。当初のシナリオに従って、売り出し価格を300万円ダウン。すると途端にWEBサイトのページビューが上がり、2週間のうちに内見が5組もありました。内見の立ち合いは居住中の前妻に任せましたが、1日に数組という日もあったようです」
2020年10月、内見した5組のうちの1組から購入の意思表示がありました。
「ようやく購入希望者が現れてホッとしました。1LDKの間取りなので内見者はシングルの方が多く、購入したのは50代のシングル女性です。値下げ交渉はなく、5680万円で購入を決めてくれました。前妻が12月まで住みたいと希望したので、12月引き渡しを条件に交渉。その後の段取りはスムーズに進み、12月に売買契約を結び、引き渡しました」
ところで、今回の売却でAさんには譲渡所得が生じ、税金がかかったそうです。
「成約価格は16年前の購入価格を上回り、売却益が出ました。自宅として住んでいた前妻には控除が適用され税金はかかりませんが、居住していなかった私は控除の適用外。税金がかかることは覚悟していたものの、税額についてなど不安な点がいろいろありました。残念ながら私たちの選んだ不動産仲介会社は税金面に弱く、適切なアドバイスやサポートは得られませんでした」
ストレスも多かったが成約価格には満足
売却活動全体を振り返って、「価格的には満足。でも、いろいろと面倒でした」とAさん。
「売り出しから3カ月は進展がなくイライラしましたが、それ以外はほぼ想定どおりです。ただ、不動産仲介会社選びにしても税金の問題にしても、初めてのことなので自分で勉強する必要がありました。説明をうのみにするわけにはいきませんから。また、前妻と共有名義だったため、それぞれの弁護士を介してやり取りをして妥協点を見つけていくという感じで、意見の調整はスムーズではありませんでした。ともあれ、目標の12月までに売却を完了し、今はすっきりした気分です」
残っていたローンを完済し、現在の住まいとのダブルローンが解消。10年越しの課題をクリアしたAさんの晴れ晴れとした笑顔が印象的でした。
| 2020年5月 | ・マンションの売却価格査定 |
|---|---|
| 2020年6月 | ・不動産仲介会社と専属専任媒介契約を結ぶ |
| 2020年7月 | ・5980万円で売り出し |
| 2020年10月 | ・売却価格を5680万円に変更 ・購入検討者が現れる |
| 2020年12月 | ・5680万円で売買契約を結ぶ ・物件引き渡し |
まとめ
- 不動産仲介会社にはそれぞれ得意分野がある。話をよく聞いて比較検討することが大事。
- 共有名義の物件を売却するには、共有者全員の同意が必要。意見統一が難しい場合もある。
- 仲介手数料は上限額が決まっているが固定ではない。安くなるケースもあるので確認しよう。
取材・文/小宮山悦子 イラスト/松尾達


