
住んでいたマンションの建て替えに伴い、所有するタワーマンションに転居したOさん。しかし、コロナ禍で安心して暮らすために広い家に住み替える決意をします。価格にこだわった売却活動は予想以上の長期戦になったといいます。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都豊島区 |
| 築年数 | 17年 |
| 間取り・面積 | 約50m2(1LDK+DEN) |
| ローン残高 | ― |
| 査定価格 | 約5000万円 |
| 売り出し価格 | 5180万円 |
| 成約価格 | 5110万円 |
自宅マンションの建て替えとコロナ禍が売却のきっかけ
2020年に東京都豊島区のマンションを売却したOさん。売ろうと決めたのは、同年4月のことでした。
「売却した物件は築17年のタワーマンションです。中層階の住戸で、広さは約50m2、間取りは1LDK+DEN。新築で購入してから夫婦2人で10年ほど住みましたが、手狭になったので同じ豊島区内に70m2ほどの中古マンションを買って移転し、その物件は賃貸に出していました。
ところが、住んでいたマンションの建て替えが決まり、転居を余儀なくされたんです。そこで、賃借人に退去してもらいタワーマンションに戻ったんですが、住んでみるとやっぱり狭い。しかもコロナ禍で、もし夫婦どちらかが感染したら部屋数がないので家庭内で隔離は不可能です。安心して暮らすためにも、もう少し広い家に住み替えることにしました」
Oさんの物件は、ターミナル駅を含む4路線4駅利用できるロケーションだったといいます。
「都心立地で交通アクセスが良く、どこに行くにも便利。向きの関係で眺望はさほど良くありませんでしたが、設備や内装のクオリティーは高かったし、免震構造なので、東日本大震災のときも比較的揺れが少なく安心感がありました」
購入時の価格は3510万円。夫婦共有名義で、住宅ローンを組まずに購入したそうです。
「都心のマンション価格が安定していた、いわゆる底値の時期に分譲された物件です。その後の高騰を考えると、いい時期に購入したと思います。できるだけ高く売って、売却代金をそのまま新居の購入資金にあてる計画でした」
一括査定を利用し、豊島区内の実績重視でパートナーを選択
住み替えを決意したOさんは、すぐに売却活動をスタートしました。まずは不動産情報サイトの一括査定を利用し、数社から机上査定を取ったそうです。
「ネットの一括査定はレスポンスが早くて便利。6社から返事があり、査定価格は4760万円~5000万円とけっこう幅がありました。エリアでの実績を重視して、大手2社に訪問査定を依頼し、比較検討したうえでそのうちの1社に仲介業務を任せることに。豊島区内のタワーマンションの仲介実績が多いことに加えて、担当者の熱意と誠実な人柄が決め手になりました」
2020年5月、Oさんは大手の不動産仲介会社と専属専任媒介契約を結びました。
「訪問査定の結果は5000万円前後。私としては仲介手数料を差し引いた手取り5000万円を目標に、5180万円で売り出すことにしました。希望価格で売れなければそのまま住み続ければいいので、こだわったのは早さより価格です」
コロナ禍で売り出すことについて、あまり不安はなかったといいます。
「私がタワーマンションを売ろうか売るまいかと考え始めたが底の時期で、不動産は全然動かないと聞いていました。しかし、緊急事態宣言が終わると、その反動で家探しをする人が急増。ちょうど市場が動き始めた時期の売り出しになり、タイミングは悪くなかったと思います」

■仲介手数料の目安
不動産を売却するときには、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的。買主が見つかり売買契約が成立すると、不動産会社に成功報酬として仲介手数料を支払います。仲介手数料には上限額が決められており、一般的には次の計算式で求められます。【売却価格×3%+6万円+消費税(物件価格400万円超の場合)】。例えば、売却価格が5000万円のケースでは、5000万円×3%+6万円+消費税10%=171万6000円が仲介手数料の上限額となります。あくまでも上限額で、不動産会社との取り決めによっては、これより低い額となる場合もあります。仲介手数料は売却の際にかかる大きな費用なので、事前に目安を知っておきましょう。
内見のために引っ越し、半年後に待望の購入希望者が登場
2020年5月、Oさんの物件は5180万円で売り出されました。
「不動産仲介会社の自社サイトやSUUMOなどに情報が掲載され、売り出し直後に3組ほど内見者がありました。でも、その後は内見希望が途絶えてしまって……。実は、同じマンション内にライバルがいたんです。別フロアの同じ間取りが私の物件より安く売り出されていたので比較されたのでしょう。しかし、価格を下げる気はありませんでした」
売り出しから3カ月経っても購入希望者は現れず、Oさんはある作戦に出ます。
「狭い部屋に引っ越しの段ボールがほぼそのまま置いてある状態でしたから、内見の印象は良くなかったと思います。空き家にした方が売りやすいと考え、前居マンションに再度引っ越しました。建て替えのスケジュールが延びて、まだしばらく居住が可能だったんです。しかし、翌年の春には完全に立ち退く必要があり、年内にタワーマンション売却が目標になりました」
不動産仲介会社と専属専任媒介を結んだ顧客向けのサービスがあり、Oさんはクリーニングサービスを利用。また、内見の印象をよくするために自力で床のワックスがけをしたそうです。空き家になったOさんの物件には、月に1~2組のペースで内見があったといいます。
「購入検討者は全部で10組ほど、シングルやカップルの方がほとんどでした。コンスタントに内見者は訪れるものの、なかなか購入に至らず、秋ごろにはさすがに焦りを感じはじめました。11月、2回目の媒介契約更新を前に不動産仲介会社の担当者と相談し、12月に入ったタイミングで価格を変更しようということに。その矢先、ついに購入希望者が現れたんです。待ったかいがあったとホッとしました」
当初、購入希望者から価格について交渉はなかったそうです。
「いったんは希望価格で売れると喜んだのですが、後から70万円の値引き交渉があり、最終的な成約価格は5110万円に。それ以外の交渉はスムーズに進み、2020年12月に売買契約を交わし、同月に引き渡しました」
建て替え予定のマンションの退去日が近づき、Oさんは売却活動と並行して新居探しを進めていました。
「建て替えが完了したらまた戻る予定なので、住み替え先はあくまでも仮の住まい。今回の売却代金で手が届く範囲で、いずれ売却するときに困らない物件を探し、翌年1月にさいたま市の新築マンションを購入しました。3月から入居開始の物件で、キャンセル住戸が出たのはラッキーだったと思います」
時間はかかったが、価格を妥協せずに売却できた
売却全体を振り返り、「なかなか決まらず精神衛生上はよくなかったが、それ以外はおおむね満足」とOさん。
「私が売却した後も都心マンションは高騰が続き、半年後には相場がさらに上昇していて驚きました。あと1年売り出しが遅ければ、あっという間に売れたのかもしれません。売却のタイミングが早すぎたかもという思いはありますが、遅ければ今のマンションは買えなかったでしょう。過ぎたことを言っても仕方ないですね。
不動産仲介会社については、どこに頼んでも情報量はさほど変わらなかったと思います。ただ、担当者はこまめに連絡をくれ、とても誠実に仕事をしてくれました。その点でも満足しています」
ちなみに、建て替え予定のマンションはスケジュールがさらに延びたので、Oさん夫妻は退去期限ぎりぎりまでそこに住み、2021年夏に新居に引っ越したそうです。今は新築マンションで快適に暮らしていると話してくれました。
| 2020年4月 | ・マンションの簡易査定 |
|---|---|
| 2020年5月 | ・2社に訪問査定を依頼 ・大手の不動産仲介会社と専属専任媒介契約を結ぶ ・5180万円で売り出す |
| 2020年8月 | ・所有する別物件に引っ越し空き家にする |
| 2020年11月 | ・購入検討者が現れる |
| 2020年12月 | ・売買契約を結ぶ |
まとめ
- 譲れないのは価格か、それとも時期か。目標の価格や期限を考えておくことが大事。
- 内見の印象は大切。印象アップのためにできることは試し、サービスがあれば活用しよう。
- 担当者の人柄や相性も重視して、信頼できる不動産仲介会社を見つけよう。
取材・文/小宮山悦子 イラスト/村林タカノブ


