
家の解体費用は、所有者が負担するのが基本です。相続放棄した場合、相続分は他の相続人に引き継がれます。すべての相続人が相続放棄した場合、相続資産は最終的に国庫に帰属しますが、相続放棄したとしても「保存義務」が課されるケースがあります。
この記事では、相続放棄した家の解体についての考察に加え、相続した家の解体にかかる費用や解体しないで済む方法などを解説します。
記事の目次
相続放棄しても家の解体費用を負担しなければならない可能性がある
相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の権利や義務を一切受け継がないことを指します。しかし、たとえ相続放棄したとしても、他の相続人が決まるまでは相続資産の保存義務があるため、家の解体費用を負担しなければならない可能性があります。
相続人が全員相続放棄をした場合は?
相続放棄すると、被相続人(亡くなった人)が金融機関や知人・友人から借りていたお金を返済しなくて済むようになる一方で、家だけでなく現金預貯金や株式などその他すべての相続資産を引き継ぐ権利を失います。相続放棄が認められると相続開始の日(被相続人の死亡日)にさかのぼってその相続についてはじめから相続人にならなかったものとみなされる結果、相続放棄した人の相続分は他の相続人に引き継がれます。
配偶者は、常に相続人となります。その他の相続人の範囲と順位は、次のとおりです。
被相続人の子
- 子が死亡している場合はこの直系卑属(子や孫)が相続人となる
- 子も孫もいる場合は死亡した人により近い世代である子を優先する
被相続人の直系尊属(父母や祖父母)
- 父母も祖父母もいる場合は、死亡した人により近い世代である父母を優先する
- 第2順位は第1順位の人がいないときに相続人となる
被相続人の兄弟姉妹
- 兄弟姉妹が死亡している場合は、その人の子が相続人となる
- 第3順位は第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人となる
例えば、相続人が妻と子の場合に妻が相続放棄すると、妻の相続分は子に引き継がれます。子も相続放棄した場合は、第2順位へ相続権が移行します。同様に、第2順位の人が相続放棄したら、第3順位の人へと相続権が移行します。すべての相続人が相続放棄すると、財産は最終的に国庫に帰属します。
相続人が決まるまで「保存義務」がある
民法では、相続を放棄したとしても相続財産を「現に占有」している場合は、相続人または相続清算人に財産を引き渡すまでの間、その財産を保存しなければならないと定められています(民法940条)。
例えば、相続放棄した家に住んでいる場合は、相続放棄後も相続人または相続財産管理人に引き渡すまで家を保存する必要があります。ただし、保存義務の発想から「剥落などのリスクを防止するためブルーシートで囲う」などは想定できますが「解体」まで想定することは難しいといえます。相続財産清算人が選定される前に解体すると「単純承認」となり、借金まで相続する結果となる可能性もあります。

相続した家の解体にはどれくらいの費用がかかる?
相続放棄した家の「保存義務」は、2023年4月の民法改正によって明確化されました。ただ、相続放棄後の「保存義務」の具体的範囲・内容について明確に判断した判例は確認できていません。そのため、現時点では相続放棄後の家の解体までが保存義務に含まれるかどうかについてまで言及することはできません。
ここでは、相続やその後の利活用などの判断にもかかわる「相続した家の解体費用」について解説します。
家の解体費用の決まり方
解体費用の見積もりには、専門業者による現地調査を要します。解体費用は業者によって異なりますが、次のような要素によって費用が決まります。
| 構造 | 強固な構造であるほど坪単価は高くなる |
|---|---|
| 広さ | 広ければ広いほど費用が高くなる |
| 立地 | 前面道路が狭い・近隣住居が近いといった場合は、小型重機や手作業による解体が必要になることから費用が高くなる傾向にある |
| 廃材の量 | 解体工事で出る廃材が多いほど高くなる |
| 建物の状態 | 老朽化が進んでいる場合、重機を使って一度に解体することが難しいため費用が高くなりやすい |
| 付帯工事の有無と量 | 外構やブロック塀、草木など建物以外に取り壊すものが多いほど費用が高くなる |
| 残置物の有無と量 | 家屋や敷地内に残置物があると撤去費用がかかるため費用が高くなる |
| アスベストの量 | 家屋に有害物質のアスベストが使用されていた場合、除去費用が追加で発生。除去費用は飛散性と除去面積により異なり、飛散性が高いほど費用も高くなる |
| 地中埋設物の量 |
|
| 養生シートのグレード | 住宅密集地や騒音トラブルがあった場合は、防音効果の高い養生シートを利用しなければならないため費用が高くなる可能性がある |
家の解体費用の目安
解体費用は解体する業者によって異なりますが、木造3〜5万円/坪ほど、鉄骨造4〜6万円/坪ほど、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造は6〜8万円/坪ほどが目安です。たとえば、30坪の木造家屋を解体する場合の費用相場は90〜150万円ほどとなります。
| 建物の構造 | 坪単価 | 解体費用の目安 |
|---|---|---|
| 木造 | 3万~5万円/坪 | 30坪:90万~150万円 50坪:150万~250万円 |
| 鉄骨造 | 4万~6万円/坪 | 30坪:120万~180万円 50坪:200万~300万円 |
| RC造 | 6万~8万円/坪 | 30坪:180万~240万円 50坪:300万~400万円 |
相続した家の解体費用の資金調達方法
家の解体には、100万円以上の費用がかかることも少なくありません。相続で取得した家の解体に、このような大金をかけるのもなかなか難しいものです。そこでここでは、解体費用の調達方法を紹介します。

補助金を活用する
家屋の解体に対して、補助金を交付している自治体も少なくありません。ただし、補助金を交付する自治体の多くは、すべての家屋を対象としているわけではなく、空き家や老朽化した家屋が中心です。補助上限額は、30〜50万円程度の自治体が多いようです。
| 自治体 | 主な要件(他適用要件あり) | 補助額 |
|---|---|---|
| 福井県勝山市 |
|
老朽空き家の解体工事に要する費用の3分の1(上限50万円)・準老朽空き家の解体工事に要する費用の3分の1(上限30万円) |
| 茨城県結城市 |
|
建物の解体および撤去費用の2分の1の額(1000円未満の端数切捨て)または30万円のいずれか低い額 |
| 山梨県都留市 |
|
補助対象経費に要した費用の2分の1の額(1,000円未満の端数切捨て)または市内施工業者が工事を行う場合は60万円、市外施工業者の場合は30万円のいずれか低い額 |
| 静岡県浜松市 |
|
解体費用の3分の1(最大50万円) |
| 福岡県嘉麻市 | 次の(1)から(4)の要件をすべて満たす特定空家等
|
補助対象経費の2分の1以内とし、50万円を限度 |
空き家解体ローン
家の解体後、住居を新築する場合は、解体費用を含めて住宅ローンを組める可能性があります。しかし、家屋の解体のみの場合は住宅ローンを利用することができません。一方、「空き家解体ローン」なら、建て替えを前提としていない解体の費用を借り入れられます。住宅ローンのように、担保や保証人が求められることはありません。
相続した家の解体費用を支払えない場合
相続した家の解体費用が支払えない場合は、活用や売却を検討しましょう。
相続して貸し出しもしくは売却する
家の状態が良ければ、貸し出して収益を得ることも可能です。状態が悪くても、リフォームやリノベーションによって改善する余地があるのであれば、解体することだけが選択肢ではありません。
また、活用のみならず、売却も視野に入れてみましょう。家屋に価値がつかなかったとしても「古家付き土地」として売却することも可能です。一般の人の需要が見込めない場合も、不動産業者に買い取ってもらえる可能性があります。
更地にして活用もしくは売却する
解体費用が必要になりますが、解体後に活用・売却すれば解体にかけた費用を回収できる可能性があります。更地にすれば、駐車場経営やトランクルーム経営、ソーラーパネルの設置……など活用の幅が広がるため、土地の立地や広さ、形状に合わせた活用が可能です。
売却する場合においても、家屋を解体して更地にしたほうが需要が上がる傾向にあります。売買契約後に解体して引き渡す「更地渡し」というフローを取れば、売却対価を解体費用の支払いに充てることも可能です。

相続財産清算人の申し立てをする
相続放棄したとしても、相続人が決まるまでは相続財産の保存義務があります。すべての相続人が相続放棄した場合は「相続財産清算人」が決まるまで相続人が相続した家を保存しなければなりません。相続財産管理人は、被相続人の債権者などに対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させることになります。
相続財産清算人は、申し立てによって家庭裁判所が選任します。申し立てには、清算人の活動費や報酬相当額などに充てる予納金を含め、数十万円から100万円程度、ケースによっては200〜300万円の費用が必要です。
相続放棄した家を放置するとどうなる?
前述のとおり、相続放棄した家に住んでいる場合は、相続放棄後も相続人または相続財産管理人に引き渡すまで家を保存する必要があります。この間に家を放置してしまうと、次のようなトラブルを誘発してしまうことも危惧されます。
近隣住人とのトラブルに発展する可能性がある
保存義務がある間は法的な責任はさておき、事実上、次のようなトラブルが起こってしまい、対応に苦慮する可能性もあるため注意が必要です。
- ごみが不法投棄される
- 放火される
- 犯罪の温床になる
- 害虫が発生する
- 破損・倒壊してしまう
- 草木が越境してしまう
破損した窓ガラスや建材によって近隣の方やその資産を傷つけてしまえば、損害賠償請求に発展するおそれもあります。また、ごみの不法投棄や防犯・防災性の低下、越境などが引き金となって近隣トラブルにまで発展する可能性もあります。

「管理不全空き家」や「特定空き家等」に指定される可能性がある
次のような状態に当てはまる空き家は、自治体から「特定空き家等」に指定されます。
- そのまま放置すれば倒壊など著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
自治体は、特定空き家等の所有者に適切な管理を求めるため、助言・指導、勧告、命令、行政代執行の順で措置を進めていきます。勧告の段階で固定資産税・都市計画税の減税効果のある「住宅用地の特例」の対象から除外され、命令に違反すると50万円以下の過料に科されます。最終的には行政代執行により強制的に空き家が解体され、後日、解体にかかった費用が保存義務者に請求されることとなります。
| 固定資産税課税標準額 | 都市計画税課税標準額 | |
|---|---|---|
| 小規模住宅用地(200m2以下の部分) | 1/6 | 1/3 |
| 一般住宅用地(200m2超の部分) | 1/3 | 2/3 |
放置すれば特定空き家等になるおそれのある空き家も「管理不全空き家」に指定され、指導、勧告の対象となります。管理不全空き家も、勧告のタイミングで同様に住宅用地の特例の対象から除外されるため、固定資産税・都市計画税の負担が大幅に増えてしまいます。
【解体】相続した家の売却体験談
相続した家に対して、解体などを含めて売却まで行った事例を紹介する。
体験談1.解体費用を差し引いた額で買取が決まったケース
神奈川県三浦郡の土地と築45年の一戸建てを、妹とともに相続したSさん。しばらくは空き家のまま放置していましたが、固定資産税が年間20万円ほどと高かったことから売却を決意します。
親が高齢者施設に入っていた時期を含め5年以上が経過していたこともあって、家はそのままでは住めない状態でした。売り出してみたものの売れない期間が続き、気づけば1年が経過。値下げしても不動産会社を変えても売れる見込みがなかったことから「買取」で売る方向にシフトし、最終的に解体費用を差し引いた金額で不動産会社に買い取ってもらうことができました。
東日本不動産流通機構の首都圏不動産流通市場の動向(2023年)によれば、不動産の売却期間は平均して3〜4カ月程度ですが、Sさんのように半年、1年……と売れない可能性もあります。売れない間も固定資産税はかかり続け、適切に維持・管理し続けなければなりません。不動産業者による買取価格は相場より2〜3割安くなるのが一般的ですが、売るための労力や売れない間の維持・管理費などを考えれば悪い選択ではないでしょう。

体験談2.築50年の実家を400万円で買い取ってもらったケース
母が亡くなり千葉県佐倉市の実家を相続したNさんは、相続から7年後に実家を売却しました。空き家だった7年間は、年に1度程度、車で1時間かけて点検や草むしりをするため実家に通っていましたが、常に空き巣や火事が心配だったと言います。
老朽化も進んでいたことから、そろそろ売ったほうがいいだろうと考え売却を決意。不動産会社を経営していた友人に相談したところ、家財の廃棄などの一切を含め400万円で買い取ってもらえました。
思い入れのある実家は、なかなか売却を決意できるものではありません。しかし、自分や親族が住む予定がなく、活用することもないのであれば、維持・管理の負担がかかり続けてしまいます。「常に空き巣や火事が心配だった」とNさんが振り返っているとおり、相続した家を所有し続けるには、金銭的な負担のみならず精神的な負担もかかる可能性があります。
体験談3.一括査定を利用して遠方の実家の売却に成功したケース
東京に住むTさんは、広島の実家を相続後程なくして売却しました。売却を決めた理由は、今後も広島に帰る予定はなく、維持・管理や固定資産税などの支払いにリスクを感じていたためです。
遠方に住んでいることもあり、Tさんは不動産会社選びに一括査定を活用。返事をくれたのは地元の不動産会社1社だけだったといいますが、この不動産会社の助言もあって、販売開始からわずか2週間で想定価格の上限に近い金額で売却することができました。
遠方の実家を相続。地元不動産会社と媒介契約を結び、2週間後にはほぼ希望価格での売却が成功!/広島県広島市西区Tさん(60代)
遠方の不動産の売却には手間がかかるという見方もありますが、一括査定サイトを活用することで不動産会社を見つけやすくなります。不動産会社に売却を依頼して以降、現地に行かなければならないのは、1度か2度のケースが多いです。信頼できる不動産会社さえ見つかれば、遠方の不動産の売却も可能かもしれません。
相続放棄した家に住んでいる場合は、相続放棄後も相続人または相続財産管理人に引き渡すまで家を保存する必要があります。解体費用の負担についてはいまだ判例がないため言及することはできませんが、保存義務がある間は適切に家を維持・管理しなければなりません。
●監修
BACeLL法律会計事務所
弁護士 横山宗祐さん
●監修
髙野雅代/有限会社髙野興業
有限会社髙野興業の専務取締役。解体工事施工技師および一級土木施工管理技士の資格を持ち、解体業界で23年の経験を積む。また、有限会社髙野興業は創業35年以上で茨城県筑西市に会社を構える解体工事業者。納屋や木造、RC造、鉄骨造一般住宅などの解体工事や改修リフォーム工事に伴う内装解体を行う他、ダンボール・古紙回収などの資源リサイクルを行う古紙回収業も展開している。筑西市を中心に約200社と取引があり、茨城県内の現地調査は無料で行っている。
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