所有権移転登記は文字どおり、不動産の所有者が移転した(変更された)ときに行う登記手続きです。
本記事では、実際に不動産を購入したり、相続したりして、新たな所有者になった場合、所有権移転登記をどのタイミングで行うのか、どのような流れで行うのか、必要な費用や書類には何があるのか、といったことをわかりやすく解説します。
所有権移転登記に関して、よくある質問についても最後に紹介しておりますので、所有権移転登記を考えている人は参考にしてください。

記事の目次
所有権移転登記とは
所有権移転登記とは文字どおり、土地や建物である不動産の所有者が移転した(変更された)ときに行う登記のことです。登記簿に登録することによって、不動産の所有権が誰にあるのかを明らかにします。
登記簿は大きく分けて「表題部」と「権利部」から構成され、権利部はさらに、所有権に関する内容が記載される「権利部(甲区)」と、所有権以外の権利に関する内容が記載される「権利部(乙区)」とに分かれています。所有権移転登記では「権利部(甲区)」に、新たな所有者の氏名・住所・所有権を取得した目的・取得した年月日などを記載します。

所有権移転登記が必要なタイミング
所有権移転登記が必要になるのは、以下のケースです。
不動産の相続に関しては、所有者を明確化することを目的に2023年4月に不動産登記法が改正され、2024年4月1日から所有権移転登記(相続登記)が義務化されました。
不動産を相続した場合には、次のいずれかの期間内に所有権移転登記を行わなければなりません。
- 相続によって所有権を取得したと認識した日から3年以内
- 遺産分割が成立した日から3年以内
正当な理由なく相続登記を行わなかった場合には、過料として10万円以下が科される可能性があります。2024年3月31日以前に相続した場合でも、不動産を取得したことを知った日が同年4月1日以降の場合には、施行日から3年が経過する2027年3月31日までに相続登記を行わなければなりません(3年間の猶予期間が設けられている)。
所有権移転登記は、相続登記以外の場合には義務ではありませんが、所有権移転登記を行っておけば、トラブルが起きても不動産の所有権を公的に証明できます。以下では、所有権移転登記が必要なケースと、考えられるトラブルの例にも触れていきます。
【売買】所有不動産を売却した場合や、不動産を購入した場合
不動産が売買された場合には、所有権が売主から買主に移ります。ほとんどの売買取引においては、売主と買主との間に不動産仲介会社が入るため、相手が信用に足るかどうかは最後の売買契約段階までわかりません。
売主の不安要素は、代金が未払いの状態で所有権が買主に移ってしまうことです。未払い状態のまま買主が所有権移転登記を行ってしまえば、高い確率で係争に発展してしまいます。係争になれば、解決するまでに時間も手間もかかり、大きな負担になります。一方、買主の不安要素は、代金を支払っても所有権が自身に移らないことです。買主に所有権が移らなければ、売主が買主から代金を受け取ったあとでも、別の購入希望者に売却をもちかけることが可能です。万が一、その購入希望者が代金を支払って、移転登記をしてしまえば、先に代金を支払った本来の買主は、所有権を主張できなくなります。
こうしたトラブルを防止するために、不動産の引き渡し時には、司法書士が所有権移転登記を代理で行うのが一般的です。司法書士は、売主・買主の引き渡しの場に立ち会い、当事者間での取引が成立したことを確認します。
引き渡し手続きは、買主が住宅ローンを借りる銀行に売主と買主、売主側・買主側それぞれの不動産仲介会社、司法書士が集まって行われます。買主側の金融機関が買主にローンを実行し、買主の口座から売主(の口座)に購入代金が振り込まれたことを確認し、司法書士が所有権移転登記を行います。

【贈与】親などから不動産を贈与された場合
親などの親族の存命中に、不動産を生前贈与されることがあります。
不動産の生前贈与で、所有権移転登記を行わなかった場合に起こり得るトラブルのひとつが、贈与者(譲った人)が亡くなるケースです。例えば受贈者(贈与を受けた人)にきょうだいがいる場合には、きょうだいにも相続の権利が発生するため、不動産を自分の一存で処分することはできません。また、贈与された不動産を売却しようと思っても、名義が贈与者(親)のままでは、すぐに処分することは不可能です。贈与者(親)が亡くなったあと不動産を自分の名義に換えるには、すべての相続人の同意が必要になります。きょうだいが「自分にも所有権がある」と主張すれば、話は複雑にならざるを得ません。

【相続】親などから不動産を相続した場合
例えば父親が死亡して、父親名義の不動産を相続した場合には、所有権移転登記を行う必要があります。
相続以外の場合(贈与など)で所有権移転登記を行わないと、所有権を争った際に不利になりますが、相続では、移転登記をしていなくても、法定相続分(法廷相続人が2人以上いるとき、民法によって定められた各人の相続割合)は所有権を主張できます。ただし、相続後に所有権移転登記をしないまま相続人が死亡した場合には、自動的にその子どもなどが相続権を引き継ぐため、権利関係は複雑になります。例えば、ひとつの土地の所有権を複数の相続人が持っている場合、この土地を売却する場合には相続人全員の同意が必要です。相続人の中に、付き合いがなくなって連絡先がわからない人がいれば、手続きを進められなくなるおそれもあります。
また、空き家を残された場合には、所有権を明らかにしておかなければ、万が一火災が起きて隣家に延焼した際の責任の所在がはっきりせず、トラブルになる可能性があります。 なお、相続の手続きは1種類ではありません。遺言書の有無や相続人の数、相続人同士の関係などによって、必要な書類や対処法が変わってきます。くわしくは後述する必要書類のパートで触れます。
不動産相続の手続きと相続税を徹底解説!土地や家の名義変更、かかる費用、節税方法、トラブル防止のコツも

【財産分与】離婚などで不動産を分与する場合
結婚してからためたお金や、購入した不動産・自動車などは、名義に関係なく、夫婦で築いた資産とみなされます。離婚する際には、結婚後に夫婦で築いた共有資産は等分するのが財産分与の基本的な考え方です。ただし、建物や自動車などは半分にできないため、2人のどちらが何をもらうか、話し合って決めることになります。
例えば、夫名義の住宅を元妻が分与され、定期預金や自動車は元夫が分与されるという形で話がついた場合で考えてみます。所有権移転登記を行わないままでいると、元妻は住宅を売却したくてもできません。もし、元夫が第三者に住宅を売却し、購入者が所有者移転登記を行ってしまえば、元妻が所有権を主張しても認められません。
多くの場合離婚は感情のもつれが伴うため、離婚が成立してから所有権移転手続きの協力を求めても、相手が対応してくれるとは限りません。この点を念頭に置き、離婚にともなう財産分与で不動産が含まれる場合には、なるべく早く所有権移転手続きを済ませることが重要です。
離婚時の財産分与で家はどうする? 自宅を売る、住みつづける、共有名義の注意点などを解説

所有権移転登記にかかる費用や計算方法
所有権移転登記を行う際、以下の費用が発生します。
それぞれの費用について、いくらくらいかかるのかを解説します。
登録免許税
所有権の移転に限らず、不動産の登記手続きを行う際には、登録免許税がかかります。登録免許税の金額は、対象となる不動産の固定資産評価証明書に記載された評価額や登記の種類・理由によって異なります。以下の数式を参考にしてください。
●売買による所有権移転登記の場合
・土地:固定資産税評価額(当該年度の価格)× 1.5%(※1)
・建物:固定資産税評価額(当該年度の価格)× 2%(※2)
※1:2026年3月31日まで軽減税率が適用。2026年4月以降は2.0%
※2:自身の居住用家屋を2024年3月31日までに売買により取得した場合は0.3%
●相続による所有権移転登記の場合
・土地:固定資産税評価額(当該年度の価格)× 0.4%
・建物:固定資産税評価額(当該年度の価格)× 0.4%
※相続の場合、2025年3月31日までは特例によって登録免許税が免税になる場合があります。くわしくは法務局のサイト「相続登記の登録免許税の免税措置について」でご確認ください。
●贈与・財産分与による所有権移転登記の場合
・土地:固定資産税評価額(当該年度の価格)× 2%
・建物:固定資産税評価額(当該年度の価格)× 2%
司法書士報酬
登記手続きを司法書士に依頼する場合には、報酬を支払う必要があります。
報酬額は司法書士が自由に設定できるだけでなく、登記理由(内容)によって必要な手続きが異なるため、一概にはいえませんが、以下に土地1筆・建物1棟の場合のおおまかな目安を示しておきます。
| 所有権移転の理由 | 報酬額目安 |
|---|---|
| 売買(融資なし) | 6万円~ |
| 贈与 | |
| 売買(融資あり※1) | 10万円~ |
| 相続・財産分与※2 |
※2:遺産分割協議書や離婚協議書の作成も含む
必要書類手配時の手数料
印鑑証明書、住民票の写し、戸籍謄本などの交付を受けるにはそれぞれ手数料がかかります。自治体によって金額は異なりますが、おおむね1通につき300円から750円程度です。複数通の戸籍謄本が必要になる場合などには費用を多めに用意する必要がありますが、通常はトータルで5000円程度を用意しておけば十分です。
所有権移転登記に必要な書類
所有権移転登記を行うには、登記申請書を作成して法務局に提出する必要があります。
登記申請書には、さまざまな書類を添付しなければなりません。
司法書士に依頼せずに自分で手続きを行う場合には、添付書類もすべて自分で用意しなければなりません。司法書士に代理を依頼する場合でも、本人でなければ用意できない書類もあります。
必要書類の内訳は、所有権移転理由によって変わる点には注意が必要です。ここでは、どのような用途でどの書類が必要なのか、手配の方法なども交えて解説します。なお、どのようなケースで誰が用意するべきなのかについては、一覧表を参考にしてください。
所有権移転登記に必要な書類一覧
所有権移転登記に必要な書類の一覧は以下のとおりです。
| 必要となる書類 | 売買 | 相続 | 贈与 | 財産分与 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 売主 | 買主 | 相続人 | 贈与者 | 受贈者 | 与える人 | 受ける人 | |
| 司法書士への委任状(注1) | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
| 運転免許証など(注2) | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
| 印鑑証明書および実印 | ● | ●(注3) | ● | ● | ● | ||
| 従前の登記済証(または登記識別情報通知書) | ● | ●(注4) | ● | ● | |||
| 固定資産評価証明書 | ● | ● | ● | ● | |||
| 住民票の写し | ●(注5) | ● | ● | ●(注5) | ● | ●(注5) | ●(注5) |
| 売買契約書など | ●(いずれか・注4) | ||||||
| 贈与契約書 | ●(いずれか・注4) | ||||||
| 被相続人(故人)の戸籍謄本(または故人の除籍謄本) | ● | ||||||
| 相続人の戸籍謄抄本 | ● | ||||||
| 相続関係説明図 | ● | ||||||
| 遺言書や検認調書 | ●(注6) | ||||||
| 遺産分割協議書 | |||||||
| 調停調書や審判書(確定証明書付き)の謄本 | ●(いずれか・注7) | ||||||
| 離婚協議書など | |||||||
| 離婚日が記載された戸籍謄本 | ●(いずれか・注7) | ||||||
(注2)司法書士に依頼する場合。本人確認のために提示を求められる
(注3)買主が購入のためにローンを使い、抵当権設定登記も必要になる場合
(注4)司法書士に依頼する場合、資料として求められることがある
(注5)現住所が、現状の登記簿の記載と異なる場合
(注6)遺言書の有無など、相続の形式によって異なる
(注7)夫婦間でどのように合意形成したかによって異なる
司法書士への委任状
売買や相続などの理由にかかわらず、司法書士に所有権移転登記を依頼する場合に必要です。委任状の書式は司法書士が用意してくれます。委任状には、売買においては売主・買主の、また相続においてはすべての相続人の、といった関係者が署名・捺印を行います。

【共通】運転免許証やマイナンバーカード
司法書士に代理登記を依頼する場合には、本人確認のために提示を求められます。運転免許証やマイナンバーカードが代表的ですが、所有していない場合は何を用意すればいいのかをあらかじめ確認しておきます。
【共通】印鑑証明書および実印
売買・贈与・財産分与の場合、不動産の元の所有者である登記義務者が、所有権の移転に同意していることを示すために必要です。申請書類に実印で捺印し、印鑑証明書を添付します(司法書士に代理登記を依頼する場合には、申請書類ではなく、司法書士への委任状に実印で捺印します)。
一方、相続の場合は、不動産を相続する相続人だけでなく、(不動産を相続しない)きょうだいなどの相続人全員の印鑑証明が必要になることがあるため、注意しましょう。
印鑑証明書は役所で交付を受けられますが、マイナンバーカードがあれば、コンビニでも入手することが可能です。印鑑証明書の発行日は、申請日の3カ月前以内が条件とされる場合もあるので、事前に確認してください。
【共通】従前の登記済権利証または登記識別情報
所有権移転登記前の不動産の所有者を法務局に示すために必要な書類で、元の登記名義人が所有しているはずです。対象の不動産に関する詳細な情報が記載された書類で、以前は「登記済権利証」と呼ばれることが一般的でした。
しかし、2005年3月7日以降は、登記済権利証に代わって12桁の符号からなる登記識別情報が順次導入されています。元の所有者が、登記識別情報導入後の法務局で登記した場合は、12桁の符号が記載された「登記識別情報通知書」が手元に届いているはずです。
売買や贈与、財産分与の場合は、不動産の元の所有者が用意します。紛失などの理由で用意できない場合は、司法書士や公証人に「本人確認情報」を作成してもらうことなどで補完できます。
なお、相続の場合、提出は必須ではありません。しかし、司法書士に依頼する場合は資料として求められることがあるため、相続の場合も念のため用意しておくことをおすすめします。

【共通】固定資産評価証明書
所有権移転登記を行うには登録免許税が必要です。登録免許税の金額は不動産の固定資産税評価額によって変わってきますが、この算出根拠となるのが固定資産評価証明書です。
基本的に、対象となる不動産の所在地を管轄する役所で入手できますが、自治体によっては申請先が異なる場合もあります。また、郵送により取得する方法もありますので、事前に確認しておきましょう。

【共通】住民票の写し
元の所有者、新たな所有者のいずれも、現住所を示すために必要です。ただし、元の所有者の現住所が、所有権が移転される前の登記記録に記載されている住所と同じ場合には、元の所有者の住民票は不要です。
なお、住民票の写しには、現住所と現住所に転居する直前の住所が記載されています。元の所有者が複数回の転居を行っている場合には、すべての履歴が記載された戸籍の附表が必要になることがあります。
住民票は、現住所を管轄する役所で交付を受けられますが、印鑑証明書同様、マイナンバーカードがあればコンビニなどでも入手できます。
一方、戸籍の附表は本籍が置いてある市区町村の役所で申請する必要があります。本籍がある市区町村まで出向くのが大変な場合は、郵送による請求・取得も可能です。
【売買】売買契約書
所有権の移転に限らず、不動産の登記申請を行うには「登記原因証明情報」という書類を作成して、提出する必要があります。登記原因証明情報には、登記の申請理由を記載します。売買の場合には、売主と買主との間で交わされた売買契約書をもとに、依頼した司法書士が作成します。
売買契約書自体は、売主と買主の間に立つ不動産仲介会社が双方の要望に沿って用意します。基本的に当事者が作成する必要はありません。

【贈与】贈与契約書など
親から子どもなどに財産を贈与する場合、贈与者と受贈者との間で締結される契約書です。不動産の贈与にともなう所有権移転登記の際には、この契約書を登記原因証明情報にすることもできます。
贈与契約書には決まった書式がありません。「誰が」「誰に」「いつ」「何を」贈与したのかが明記されていることが要件で、自分で作成することも可能です。「親子なので堅苦しいことはしなくていい」と思うかもしれませんが、税務署から脱税の疑いをかけられることもあります。きちんと明文化しておくことをおすすめします。

【相続】被相続人(故人)の戸籍謄本または被相続人(故人)の除籍謄本
被相続人の誕生から死去までの経過が記された書類です。いずれも故人の本籍地を管轄する役所で手配します。
【相続】相続人の戸籍謄抄本
新たな所有者となる人が間違いなく相続人であることや、新たな所有者にはならないものの、ほかにも相続の権利がある人がいることを示すための書類です。
相続人の本籍地を管轄する役所で入手できますが、上に記載した被相続人の戸籍謄本と内容が重複する場合は省略できます。
【相続】相続関係説明図
文字どおり被相続人(故人)と相続人との関係を示す図です。特に決まった書式はありませんが、以下に挿入する法務局の記載例を参考にしてください。作成時のおもな注意点を挙げておきます。
- タイトルに被相続人の氏名と「相続関係説明図」の文言を明記
- 被相続人は、住所・死亡年月日・氏名を記載
- 相続人は、住所・出生年月日・氏名を記載。また、全相続人の情報を記載
- 被相続人・相続人の住所は住民票(除票)の記載とそろえる
- 被相続人の配偶者は二重線、子どもは1本線で表記

【相続(遺言)】公正証書遺言または自筆証書遺言
故人が生前に遺言を文書化しており、遺産となる不動産を誰に相続させたいかが記載されていた場合、この遺言書を登記原因証明情報として添付することになります。遺言書は「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」とに大別できます。
公正証書遺言は、被相続人が生前に公証人に作成・保管を依頼した遺言書のことです。第三者である専門家が内容を吟味して作成し、作成後は改ざんされないように保管されるため、そのまま登記原因証明情報になります。
一方、自筆証書遺言とは、被相続人が生前に自身で執筆・署名・捺印した遺言書のことを指します。この場合、被相続人の死後、すみやかに家庭裁判所に開封・内容確認を申し立てて、検認調書の発行を依頼する必要があります。遺言書と検認調書が、登記原因証明情報になります。
【相続(遺族間の協議)】遺産分割協議書
故人が生前に遺言を遺さず、法定相続人となる遺族が複数いる場合には、遺産をどのように分け合うのかを、すべての相続人が集まって話し合う必要があります。この話し合いの結果を記載したものが遺産分割協議書です。
特に決まった書式はありませんが、弁護士事務所などがインターネット上で公開しているひな形を参考にして差し支えありません。 所有権移転登記をする際、遺産分割協議書は登記原因証明情報になります。
遺産分割協議書には、記載内容に異存がないことを示すため、すべての相続人が実印で捺印する必要がありますが、これにともなって、すべての相続人の印鑑証明書も添付する必要があります。

【相続・財産分与(調停または審判)】調停や審判の調書
遺産の分割について相続人同士で話がまとまらない場合や、財産分与について離婚する夫婦同士で折り合いがつかない場合には、家庭裁判所で手続きを取ることになります。手続きには、裁判官や調停員立ち会いのもとで協議する「調停」と、それでも話がまとまらなかった場合に裁判官が財産の分け方を決める「審判」の2種類があります。
調停で話がまとまった場合、もしくは審判によって判決が下された場合、家庭裁判所はその内容を記載した調書を作成します。調停調書や審判書(確定証明書付き)が、所有権移転登記時の登記原因証明情報になります。

【財産分与(夫婦間の協議)】離婚協議書など
家庭裁判所に頼らず、夫婦間で話の折り合いがついた場合に、離婚にともなう約束事を文書化したものです。財産分与にともなう所有権移転登記では、この内容をもとに登記原因証明情報を作成します。
特に決まった書式はありませんが、財産分与に関しては「誰が」「誰に」「いつ」「何を」分与したのかを明記してある必要があります。離婚や不動産の所有権移転登記に必須というわけではありませんが、後々のトラブルを防げるので、作成しておくことをおすすめします。
【財産分与】離婚日が記載された戸籍謄本
離婚届けが提出された日が記されている戸籍謄本が、財産分与にともなう所有権移転登記の登記原因証明情報を作成するために必要となる書類です。
夫婦で話し合い、いずれかの本籍地の役所で入手します。

自分で所有権移転登記する場合の手続きの流れと注意点
所有権移転登記は一般の人でも手続きすることが可能です。自分で手続きする場合の大まかな流れは以下となります。
1. 法務局の相談窓口でやることを確認する
2.申請書の様式を入手して作成を始める
3. 必要書類を入手して作成を始める
4. 申請書類をそろえて法務局に提出する
5. 登記完了証と登記識別情報通知書を受け取る
ただし、所有権を移転する理由によっては、元の所有者と新たな所有者との間に利害が生じる可能性や、自分が手続きすることに同意してもらえない可能性もあります。
自分で手続きできるのは、関係者間でしっかり信頼関係が構築できている場合に限られると覚えておきましょう。
1. 法務局の相談窓口でやることを確認する
各法務局には、登記の相談窓口が設置されています。まずは窓口に電話して登記の理由を説明し、必要な書類の種類や、法務局に出向いて相談する場合の日時などを確認します。
2. 申請書の様式を入手して作成を始める
不動産登記の申請書の様式と記載例は、登記の種類や理由ごとに法務局のサイトからダウンロードできるようになっています。「不動産登記の申請書様式について」にアクセスしてみてください。
3. 必要書類を入手して作成を始める
必要書類をそろえます。ほかの関係者の印鑑証明書や住民票の写しなど、自分では手配できない書類や、代理で手配するのに委任状が必要な書類もあるので注意しましょう。
4. 申請書類をそろえて法務局に提出する
必要な添付書類も含め、用意した申請書類を法務局に提出します。受理されると、法務局で内容が審査されます。修正点や書類の不足などがある場合には、後日申請者に連絡があるので、指摘に応じて不備を解消します。
5. 登記完了証と登記識別情報通知書を受け取る
登記が完了すると、その旨を記した登記完了証と、所有権移転後の登記識別情報通知書が交付されます。窓口で直接受け取る場合には、申請書に押印したものと同じ印鑑と運転免許証などの身分証明書を持参します。この場合、窓口に電話して、登記が完了しているかを事前に確認することをおすすめします。
申請時に返信料金分の切手を貼った返信用封筒を同封しておけば、完了後に登記完了証と登記識別情報通知書を郵送してもらえます。
交付申請はオンラインでも行うことが可能で、完了証・通知書は郵送またはお近くの登記所・法務局証明サービスセンターで受け取れます。
窓口で受け取る場合はその場で、郵送の場合は後日「全部事項証明書」の交付を受けることをおすすめします。「全部事項証明書」には、すべての登記記録が記載されています。
手数料は、登記所の窓口で交付請求する場合には600円、オンラインで交付申請を行い、郵送の場合には500円、近くの登記所・法務局証明サービスセンターで受け取る場合には480円です。また手数料はインターネットバンキングなどで納付することができます。
「全部事項証明書」があれば所有権移転登記が間違いなく実施されたか確認できるため、持っておくと安心です。
【Q&A】所有権移転登記に関するよくある質問
所有権移転登記に関して、代表的な質問とその答えとをまとめました。
所有権移転登記は誰がするのですか?
所有権移転登記をはじめとした権利に関する登記の申請は、(法令で別に定められている場合を除いて)登記権利者(新たな所有者)と登記義務者(元の所有者)とが共同して行わなければならないと、不動産登記法第60条で定められています。偽申請されることを防ぐためです。
しかしながら所有権の移転によって登記権利者が登記義務者の申請代理人となって、登記権利者が行うのが通例です。売買では買主、相続では相続人が該当します。
上述したとおり、登記の申請は本人以外に代理人でも行えます。代理人が行う場合は、新たな所有者か元の所有者からの委任状が必要です。
所有権移転登記をしないとどうなるのですか?
例えば不動産を売買する際に、当事者である登記権利者と登記義務者とが売買契約に合意した時点で所有権が移転する(物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる)と、民法第176条には記載されています。しかしながら、所有権移転登記を行わなければ、当該不動産を所有していることを対外的に主張できません。当事者間あるいは登記権利者と外部の第三者との間でトラブルが発生した場合、登記権利者は法的に対抗できなくなります。
さらに所有者移転登記が行われていなければ、金融機関などが不動産に担保権を設定できないため、住宅ローンなどの融資を受けられません。
そのほかにも不動産を賠償の対象とした事故などが発生した場合には、賠償請求が認められないことがあります。
不動産の所有者を明確にするためにも、所有権移転登記は行う必要があります。
費用を安く抑える方法はありますか?
所有権移転登記は司法書士に依頼することも可能ですが、その場合には報酬を支払う必要があります。費用を安く抑えるためには、司法書士事務所から相見積もりを取って費用相場を把握し、一番報酬額の低い司法書士に依頼することが簡単な方法です。
所有権移転登記手続きは、司法書士資格を持たない個人でも行えます。つまり自分ですべての手続きを行えば、費用を最小限に抑えられます。ただし、登記手続きに不慣れな個人が自分ですべてを行うことは、肉体的にも精神的にも時間的にも負担が大きく、さらにミスをして申請がスムーズに進まないこともあります。
そのため、時間がなかったり、申請の仕方がよくわからなかったりする場合には、司法書士に依頼することをおすすめします。登記にかかる作業が多ければその分報酬額も上がります。ある程度のことは自分でできるというのであれば、自分ではできない部分だけを司法書士に依頼すれば、費用を抑えられます。
まとめ
- 所有権移転登記を先延ばしにしていると、思わぬトラブルに遭う可能性がある。所有者が代わる場合は迅速に手続きをすること
- 所有権移転登記の理由によって必要な書類は異なる。自身の場合は何が必要か、よく確認すること。所有権移転登記手続きは司法書士でなくても行える(自分でも可能)。ただし、元の所有者と新たな所有者など、すべての関係者と信頼関係がある場合に限る
- 所有権移転登記の費用を抑えるには、相見積もりを取って一番安い司法書士事務所に依頼する
- 所有権移転登記手続きを自分で行えば、費用は最小限に抑えられる。自分ではできない部分だけを司法書士に依頼することも可能
記事のおさらい
所有権移転登記をするのはどんな場合?
所有権移転登記は、売買や贈与などで不動産の所有者が代わった場合に、法務局が管理している登記記録の情報を変更するために実施します。所有不動産を売却した場合や、不動産を購入した場合、不動産の贈与を受けた場合、相続した場合、離婚で財産分与を行った場合などに所有権移転登記をします。
所有権移転登記に必要な書類は?
所有権移転登記をする際は、登記申請書を作成し必要書類を添付して法務局に提出します。必要な書類とそれぞれの入手方法については「所有権移転登記に必要な書類一覧」を参照してください。
所有権移転登記にかかる費用は?
所有権移転登記には、登録免許税・司法書士報酬・必要書類手配時の手数料がかかります。それぞれの算出法や金額の目安は「所有権移転登記にかかる費用や計算方法」を参照してください。
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イラスト/松尾達
2004年司法書士試験合格。2005年より東京都武蔵野市の上條司法書士事務所にて司法書士として活躍中。


