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財産は「実家」のみ。相続対策はどうする?遺言書の書き方と遺産分割の方法

相続税がかかりそうな場合、相続財産が不動産か金融資産かで対策は変わってくる。
一般家庭に多い相続財産の大半が持ち家の「実家」で、預貯金などの金融資産はわずかのケース。
この場合、相続人が複数いれば、どのように分けるのかが遺産分割における大きな問題だ。この分け方によってもめるケースも少なくない。
配偶者がいれば、実家はそのまま配偶者が引き継ぐのが自然だが、遺された親も亡くなる二次相続で、子どもが2人以上いる場合の分け方についてどういう方法が考えられるかを紹介しよう。

【相続税対策の基礎知識1】財産は「実家」のみ相続対策はどうする?

記事の目次

親の希望がはっきりしていれば、遺言書で分け方を指定してもらう

実家はできるだけそのまま残し、誰かに引き継いでほしいと親が考えているなら、元気なうちに家族に伝え、親子で話し合っておこう。そのうえで、実家を引き継ぐ意思のある子どもを決め、それ以外の子どもには預貯金などを相続させることで、みんなに納得してもらうのが現実的。さらに、その旨を遺言書にして残しておくことも大切だ。

とくに親と同居している子どもがいれば、その子どもが実家を相続して住み続けられるように、遺言書で指定しておくことは重要だろう。生前の話し合いで全員が納得していても、実際に相続が起こったときには気持ちが変わり、もらえる財産が少ない子どもが、遺留分(民法で定められた最低限相続できる割合)を主張する場合もあるからだ(2019年の法改正により、遺留分を侵害された場合は、金銭での請求となる)。親が亡くなった後、残された配偶者が実家に住み続けたいと望む場合、配偶者居住権の設定を検討しよう。これは、建物の所有権が他の相続人に移っても、配偶者が終身または一定期間、その建物に無償で住み続けられる権利だ。遺言書で配偶者居住権を設定すれば、残された配偶者の住居を安定させられる。ただし、登記が必要となるため、専門家への相談したほうがよい。

自分が万一の時は実家を売却し、その資金を合わせて子どもたちで分ければよいと親が考えているなら、そのこととともに、分け方を遺言書に書いてもらうといい。子どもが誰も実家に住まない場合でも、親が長年住み続け、思い出の詰まった実家を処分するのは心苦しいこともある。しかし、遺言書で親の意思がはっきりしていれば、子どもは売却がしやすくなる。

遺言書は主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のどちらかになる

  自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 本人が全文・日付・氏名を自筆で書いて捺印(財産目録についてはパソコンなどで作成し、添付することが可能。ただし、その場合は各ページに署名・捺印が必要) 証人2人以上の立ち会いの下、遺言の趣旨を公証人に口授する
家庭裁判所での検認 必要 不要
メリット ・費用がかからない
・遺言書の存在、内容を秘密にできる
・無効な遺言書になりにくい
・紛失や改ざんの危険がない
デメリット ・内容に不備があると無効になる可能性がある
・意図的に隠されたり、偽造や紛失の恐れがある
※法務局での保管制度を利用すれば、紛失や改ざんの危険がなく、検認も不要になる
・遺言書そのものが発見されない可能性がある
・費用がかかる
 

本人が自筆で全文を書き残す自筆証書遺言は、手軽に作成できる半面、法的なルールにのっとった書き方にすることが求められる。記載内容に漏れや不備があると無効になったり、もめたりすることもあるので注意が必要だ。また、相続時には開封前に家庭裁判所による検認手続きが必要なことも知っておこう。

遺言書を自分で書く際に注意すべきこと

遺言書を自分で書く際に注意すべきこと

自筆証書遺言書の例(「親と実家」を考える本 by SUUMO)

一方、公正証書遺言は本人が公証役場で自分の意向を口述し公証人が作成するため、書き方で迷う心配はない。正本は本人が持ち帰るが原本は公証役場に保管されるため、万一紛失したり見つからなくても、公証役場で調べてもらい入手することができる。
ただし、遺産総額や相続人の人数に応じた費用がかかり、立ち会ってもらう証人2人にも謝礼を払うのが一般的なので、事前にその点を確認しておこう。

どちらの遺言書も、財産の種類や額が変わったり、内容を変更したくなったら、書き換えが可能。遺言書が複数ある時は、日付の一番新しいものが有効となるので、定期的に見直し、状況に合わせて書き直してもらうことも重要だ。

遺言書では、遺言の内容を滞りなく実現するための遺言執行者を指定しておくことも有効。専門家を遺言執行者にすることも可能だ。

話し合いで分けるときは、法定相続分にこだわらない

遺言書がない場合は、相続人全員が集まって話し合う遺産分割協議で分け方を決める。
その際に大事なのは「法定相続分にこだわりすぎない」ということだ。
相続財産が少ない家庭のほうが遺産分割でもめ、家庭裁判所の調停などに進むケースも多いが、そこまでの争いは誰も望んでいないだろう。わずかな違いでもめて、その後、きょうだいの付き合いや親戚付き合いが途絶えてしまうこともある。そうならないように、みんなが少しずつ譲歩し、後々、禍根が残らないように話し合うことが大切だろう。

具体的に、実家と少しの預貯金を子どもたちで分けるには、次のような方法がある。

1.実家の土地・建物は売却し、すべて現金にして均等に分ける

残された実家に誰も住まない場合は、この方法が最も簡単だ。ただし、相続財産からは故人にかかわる未払いの病院代や税金、葬式代などを差し引けるので、それらを立て替えて支払った人がいれば、その分は先に精算する。残った預貯金と実家の売却で手元に残るお金(売却時の経費や税金を除いた分)をもとに、分け方を決めるといい。ただし、不動産はいったん誰かが相続して名義の書き換えをしないと売却できない。共有名義で相続してから、すぐに売却手続きをすることが必要だ。

2.実家を子どもの1人が相続し、ほかの子どもに一定の代償金を支払う

子どもの1人が実家を相続し、ほかの子どもが預貯金などを相続すると金額面の差が大きくなる場合、実家を相続した子どもが、ほかの子どもに対して差額に相当する金額を支払うことで均等に近くなる。これを代償分割という。

この場合、実家の価格をどう決めるかが問題になる。遺産分割では不動産は土地と建物に分けて、それぞれ時価で評価するのが一般的だが、時価の判断は難しい。相続税がかかる場合は、申告を依頼する税理士に相談して、相続税評価額にプラスαで時価を出してもらうのも一つの方法だ。
相続税がかからない場合は、不動産会社数社に査定を依頼し、一番高い価格と一番低い価格の真ん中あたりを目安に決めるといい。

また、代償金はきっちり均等になる金額でなくてもいい。例えば、相続財産は実家が3000万円、預貯金が1000万円で合計4000万円、相続人は子ども2人の場合、2人で均等に分けると1人2000万円になるため、実家を相続する子どもは、預貯金を相続する子どもに代償金として1000万円を支払うと、それぞれ2000万円になる。
しかし、実家を相続する子どもは、通常、その後の法事を執り行ったり、お墓を守ったりする役割も果たさなければならず、そのための費用も負担することになる。それらも考慮して代償金は2~3割少なくしてもらい、ほかの子どもも理解することが大切だ。
こうした配慮が相続を円満に、気持ちよく進めるポイントになるだろう。

生命保険を活用した代償分割の例

生命保険を活用した代償分割の例

3.親が生前に実家を活用し、相続時には金融資産だけ残してもらう

子どもにはすでに持ち家があり、将来も実家には誰も住まないという場合は、親が元気なうちに売却し、その資金をもとに親は高齢者用の賃貸住宅や施設に入居するという方法もある。親の一方が亡くなり、残された親が1人暮らしになるときに売却し、親は子どもの家に同居するのもいい。こうしておくと、親は生前に売却で得る資金を使うことができる。相続時に残るのは金融資産だけで、子どもは分けやすくなる。
親が最期まで自宅に住み続けたい場合は、実家を担保に金融機関のリバースモーゲージを利用する手もある。これを利用して得られる資金で、親は自宅をリフォームしたり、生活費に充てたりすることができる。相続時には、実家を売却して利用した資金を返済し、残りがあれば、それを相続人で均等に分けることができる。

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構成・取材・文/インタープレス

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