高齢の母親が老人ホームに入り、実家がしばらく空き家になっていたSさん。銀行に相談したところ、譲渡所得税の特別控除を受けられる期限が迫っていることがわかり、急遽、年内に売却することを決めました。
母親名義の古い一戸建て、しかも期限を区切られた売却と、何かと不安要素を抱えていましたが、信頼できる不動産仲介会社に任せたところ約1カ月でスムーズに売却することができました。
不動産区分 | 一戸建て |
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所在地 | 福岡県北九州市 |
築年数 | 約43年 |
間取り・面積 | 4LDK(延床面積…約89.52m2、敷地面積…201.94㎡ |
ローン残高 | なし |
査定価格 | なし |
売り出し価格 | 1000万円 |
成約価格 | 1000万円 |
銀行で実家の空き家について相談。譲渡税の控除について知る
福岡県福岡市に暮らすSさん。2016年、北九州市で独り暮らしをしていたSさんの母親が、Sさんが住む福岡市内の老人ホームに入居。その後、実家は空き家状態になっていました。
2018年7月のある日、Sさんは銀行に所用で行った際、担当者から「何か他にお困りごとはありませんか」と尋ねられたので、気になっていた実家のことを相談してみました。
「母は私の住まいの近くにある施設に入ったため、もう北九州市の実家に帰る機会はありませんでした。いつか売却しなくてはと何となく考えていたのですが、具体的な売却方法などは何も分からないので、とにかく聞いてみようと思ったんです」
銀行の担当者に「実家が空き家になっていて売却したいと考えているけれど、どうしたらいいかわからない」と相談したところ、銀行の不動産部に引き継ぎ、不動産部が現地調査をしてくれました。その後、銀行系列の不動産仲介会社を紹介されたそうです。
そこでSさんは、これまで知らなかった税金の話を聞きました。
「空き家を売却するとき、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すれば、マイホーム売却の控除の対象になり、譲渡所得から最大3000万円の控除が受けられる、ということを説明して下さいました。つまり、その年の年末までに売れなければ、売却益に対して課税されてしまうわけです。全く知らないことだったので驚きましたが、それならすぐにでも売りたいと伝えました」
取引のある銀行系列の不動産仲介会社に一任
不動産仲介会社から、11月末を目指して売却する旨の提案がありました。
売却の意思を固めたSさんは、早速、母親に実家の売却を相談しました。
「母名義の不動産ですから、少し勇気はいりましたが、話してみました。ずっと売れ残って負の遺産になるのも避けたいし、今、頼んでいる警備会社の費用もかさむ一方なので、そろそろ売り時かもしれないねと。子どもは私しかいないので、母の財産は私がすべて把握していました。今後の介護費用には十分な貯金があったので、いくらでもいいから年内に売りたいという気持ちでした。母も私の話を聞いて、快く承諾してくれました」
Sさんの実家は駅徒歩15分程度の築43年の一戸建て。近くに幹線道路が走り、車の騒音が気になっていたそうです。Sさんが高校生の頃まで住んでいた家ですが、特に住み続けたいとは思わなかったと言います。
「とにかく年末までに売れるかどうかが心配でした」
母の代理で売却活動を進めることになったSさんは、不動産仲介会社と専属専任媒介契約を結びました。
取引のある銀行からの紹介の不動産仲介会社なので信頼できたため、他社と相見積もりをとることはせず、一任しました。
「年内に売りたい気持ちが強く、他の不動産仲介会社と相見積もりをとって時間をロスすることは避けました。特に査定額もお聞きしませんでした。相場で売り出すと年内に売れないかも知れない、というお話だったので、売り出し価格もお任せしました」
1000万円で売却成立。不動産仲介業者のフォローで境界線測定や荷物の撤去などもスムーズに
8月の終わりになって、実家の隣の土地を売り出している不動産会社が購入を希望しているという連絡が不動産仲介業者から入りました。
希望購入価格は1000万円。Sさんはすぐに1000万円で売却を決めました。
その後の引き渡しに至るまでのさまざまな手続きや交渉事は、不動産仲介会社が適切にフォローしてくれました。
まず、43年前に購入した土地は、隣接する土地と境界線が確定しない部分があるため、売却するには測量と境界線の確定が必要でした。
「正直、とても面倒に感じていましたが、不動産仲介業者が紹介してくれた土地家屋調査士が全て行ってくれました。隣接する土地は実家の買い手である不動産会社の所有なので、交渉の必要がなかったのも幸運でした」
さらに、家の中にある母親の荷物の撤去作業も、不動産仲介会社から紹介された業者に依頼しました。
「母の荷物の必要なものと廃棄するものを仕分けするのは私しかできないので、何回か足を運んで行いました。それと、仏壇じまいは自分でお寺にお願いしました。私がやったのはそれだけで、ほとんど業者がやってくれました。当時、母は歩けないけれど認知症などはなく、母自身が判断して署名捺印できる状態でしたので、施設に司法書士がきて売買契約を行いました。今は少し認知症の症状が出てきているので、もう少し遅ければ契約も面倒だったかもしれません。まだしっかりしている時期に売却できたのは、タイミング的に良かったと思います」
親の資産を把握していたことがスピーディーな売却に繋がった
売り出し開始からわずか1カ月で売却に成功したSさん。
譲渡税の控除も無事受けることができ、本当に安心したといいます。
「銀行の方にたまたま『お困りごとは』と声をかけていただいたのにも縁を感じます。今考えると、譲渡税控除の件も、期限後に知ったのでは遅いですよね。親に財産の話をするのは少し躊躇しますが、そこは割り切って冷静に話し合ったので、親のためにも自分のためにも良かったと思っています。私の場合、きょうだいがなかったのも問題なく進んだ理由かもしれません。先祖代々の土地を売るのは申し訳ないという思いも少しありましたが、持っていても利用しないのでは経費がかかるのみ。予定通りに売れて、今は心からほっとしています」
2018年7月 | ・実家が空き家になり、売却を考え始めた ・銀行から紹介された不動産仲介会社と専属専任媒介契約を結ぶ |
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2018年8月 | ・売り出し開始 ・購入検討者が現れる |
2018年9月 | ・1000万円で売買契約を結ぶ |
2018年11月 | ・引き渡し |
まとめ
- 親が実家に住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すれば譲渡所得から最高3000万円の控除が受けられる
- 親名義の不動産や預貯金などについて、親が健在なうちから親子で話し合っておくことがおすすめ
- 古い一戸建ての場合、隣家との境界線が確定していないケースもあるので注意が必要
- 空き家、遠隔地、古い家など売却に不安要素が多い場合、信頼して任せられる不動産仲介会社との出会いが成功の決め手になることが多い
取材・文/浅野真由美 イラスト/村林タカノブ