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空き家バンク制度とは? 登録メリットや仕組み、自治体の事例や利用方法を簡単に解説

空き家バンク制度とは? 登録メリットや仕組み、自治体の事例を簡単に解説

空き家バンク制度とは、空き家の有効活用を目的として自治体が管理するデータベースに空き家情報を登録する制度です。登録された空き家情報は自治体のWebサイトなどで公開されるため、誰でもアクセスすることができ、買主と借主のスムーズなマッチングに役立ちます。

ただし、空き家バンクにはメリットばかりでなく、覚えておくべき注意点もいくつかあります。本記事では、空き家バンクの仕組みやメリット・デメリット、自治体の事例などを解説します。

記事の目次

空き家バンク制度とは?

空き家バンクとは、自治体が運営している空き家の情報提供システムです。平成27年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、空き家対策の一環として各自治体で空き家バンクの運営がスタートしました。

空き家バンクには、「不要なので売りたい」「家賃収入を得るため誰かに貸したい」といった人々が所有している空き家情報が掲載されています。インターネット接続できる環境さえあれば、それぞれの自治体の空き家バンクに容易にアクセスでき、登録されている物件情報の閲覧が可能です。

空き家のイメージ

(画像/PIXTA)

空き家バンクの仕組み

空き家バンクの特徴として、自治体が空き家物件情報をインターネット上で発信している点が挙げられます。さまざまな不動産物件情報を提供している「SUUMO」のようなサイトをイメージするとわかりやすいでしょう。

所有している空き家を売りたい、もしくは貸したい人が登録し、空き家を探している人とのマッチングを狙います。ただし、民間の不動産会社のように、買い手を積極的に探すなどの手厚いサポートはありません。自治体が担うのは不動産情報の掲載までであり、売買や契約の実務はユーザー同士が直接行うか、自治体と提携している不動産会社が担当します。

空き家バンクの仕組みイラスト

<画像作成/かくたま>

空き家バンクが注目されている背景や目的

増え続ける空き家は、日本国内で大きな問題となっています。総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査結果」によると、2023年度の空き家は約900万戸と過去最多であり、空き家率も13.8%と過去最多を記録しています。

老朽化が進んだ空き家は、倒壊や強風による外壁材、屋根材の飛散などのほか、害獣の住み家になるおそれもあります。また、所有者が知らぬうちに、不審者がすみつくケースも考えられるため、適切な対処が必要です。

本来、空き家は所有者が管理すべき不動産です。しかし、少子高齢化や人口減少などで空き家が増加し、自治体にまでクレームが寄せられるようになりました。このような状況を回避し、空き家問題の解決に自治体として関わるために誕生したのが空き家バンクです。

空き家バンクに登録するメリット

空き家バンクが注目されている理由として、利用するメリットの多さも挙げられます。以下では空き家所有者視点でのメリットを解説します。

無料で掲載できる

空き家バンクは、営利目的で開設されたサービスではありません。あくまで、空き家問題の解決に寄与するために開設されたWebサイトであるため、物件情報を無料で掲載できます。地元の人はもちろん、移住希望者などにも幅広くアピールできるのが魅力です。

ただし、情報の掲載に関するルールが定められているため、それにのっとって手続きをしなくてはなりません。例えば、複数の所有者がいる場合には全員の同意を得ること、登録申請は所定の書類に必要事項を記入し、指定の窓口まで提出することなどのルールがあります。

資産価値などが考慮されない

自治体が定めている条件さえクリアしていれば、資産価値が低い物件でも掲載可能です。一般の仲介による売却では、市場価格が低すぎる物件は売れない可能性が高いため、掲載してもらえないおそれがあります。

条件については、各自治体で細かく決められているため、事前に漏れなく確認しておきましょう。例えば、個人所有の物件であること、建築基準法の是正指導を受けていないなどの条件があります。

運営は自治体が担当している

空き家バンクの運営は自治体が行っています。運営元が明確であるため、安心してサービスを利用できる点が大きな魅力です。営利目的でないため、悪質な業者に騙される心配もありません。

補助金や助成金が用意されている場合がある

自治体によっては、空き家所有者の管理や改修の負担軽減につながる、補助金や助成金を用意しています。例えば、空き家を生活困窮者向けに改修した所有者へ支給する補助金や、リフォーム工事に要する資金を援助する制度などがあります。こうした制度を活用して物件の価値を上げれば売却できる可能性を高め、売却額の向上にも期待できます。

空き家のイラスト

(画像/PIXTA)

補助金や助成金制度の利用条件や、申請の流れなどは自治体によって異なるため、事前の確認が必須です。詳しくは自治体に問い合わせてみましょう。

空き家バンクに登録するデメリット

空き家バンクにはいくつものメリットがある反面、デメリットがあることも覚えておきましょう。空き家所有者視点でのデメリットを解説します。

所有者が希望者とやり取りをする

前述のとおり、空き家バンクはあくまでも空き家の情報を掲載する場でしかないため、希望者とのやり取りは所有者自身が行わなくてはなりません。

売主も買主も不動産取引に関する素人だった場合、話がスムーズに進まず、いつまで経っても貸せない、売れないといった状態が続くおそれがあります。また、ときには些細なことからトラブルにも発展しかねません。このような事態を避けるべく、自治体によっては提携している不動産会社や宅建業者が間に入ることもあります。

トラブルなども自己処理となる

自治体が宅建業者と提携していないケースでは、交渉中や契約成立後に思わぬトラブルが発生した場合も、空き家の所有者が処理しなくてはいけません。個人間のやり取りでは「言った・言わない」の水掛け論に発展することもしばしばです。そのため、契約内容の確認や締結の際には必ず書面を残すなど、やり取りは慎重に行いましょう。

自治体の営業は期待できない

空き家バンクは営利目的のサイトではないため、自治体による営業は期待できません。空き家バンクはあくまで空き家物件の情報発信、および所有者と賃貸・購入希望者とをマッチングさせる場として提供されています。一般的な不動産会社のように、積極的な営業活動は期待できません。

上記の理由から、空き家バンクに物件情報を登録しても、希望者がすぐに見つからない可能性があります。即効性を期待するのなら、空き家バンクではなく不動産会社の利用が適しています。

空き家バンクを利用する際の注意点

空き家の所有者が空き家バンクを利用するにあたり、覚えておくべき注意点がいくつかあります。利用し始めてから後悔しないよう、改めて注意点を押さえておきましょう。

仲介手数料が発生する場合がある

自治体が提携した不動産会社が間に入るケースでは、賃貸借契約や売買契約が成立した時に、仲介手数料が発生するため注意が必要です。

仲介手数料の上限は、売買契約であれば物件価格×3%+6万円、賃貸契約なら家賃1カ月分です。なお、これはあくまで不動産会社に支払う仲介手数料であり、自治体に支払うわけではありません。

所有者に責任が発生する

空き家バンクでは、空き家の所有者がさまざまな責任を負うことになります。例えば、契約にこぎ着けるまでに要した費用や登録物件の維持管理費などは、すべて所有者が負担します。また、契約成立後に発生したトラブルを解決する責任が生じるほか、希望者がまったく現れなかった場合も自己責任です。自治体は単なる情報提供者にすぎないため、これらの責任を負うことはありません。

自治体により支援内容は異なる

空き家バンクの運営方針や支援内容などは、それぞれの自治体によって異なります。魅力的なサイトを構築し、移住者へのアプローチや見学ツアーの開催などを積極的に行っている自治体もあれば、必要最小限の運用しかしていない自治体もあります。

空き家バンクに登録するための条件

空き家バンクには、どのような物件でも登録できるわけではありません。自治体によって登録条件は多少異なるものの、所有権が明確でありなおかつ使用可能な状態であることが大前提です。また、細かいところでは以下のような条件が定められています。

空き家バンクを運営する自治体内に所有物件があること

空き家バンクは、特定エリアにおける空き家の活用を促進するサービスです。そのため、別のエリアにある空き家を登録することはできません。

建築基準法に違反していないこと

現行の建築基準法に違反している物件は、居住するうえでさまざまなリスクを招くおそれがあるため、空き家バンクに登録できません。違法な増改築を繰り返した物件、建築確認を受けることなく完成させた住宅などが該当します。

建築基準法に適合しているかわからない場合は、外部機関にチェックしてもらうのもひとつの方法です。建築事務所や工務店などが、建築基準法違反でないかどうかをチェックするサービスを提供しているケースがあります。

不動産会社に売買・賃貸契約を個別で依頼していないこと

不動産会社と媒介契約を交わしているのなら、空き家バンクの利用はできません。不動産会社に買い手を探してもらいつつ、空き家バンクでも希望者を募るといった利用方法はできないため注意が必要です。

不動産会社との媒介契約を解除すれば空き家バンクの利用は可能です。媒介契約は期間が設定されているケースが一般的なので、それを過ぎれば解除できます。

自治体の長が承認した空き家であること

空き家バンク登録には、運営元の自治体の長からの承認が必要です。一戸建てや小屋などの物件であれば、不承認になるケースはあまりありません。一方、事業用不動産や店舗などは空き家として認められず、空き家バンクへの登録も断られるケースがあります。

空き家のイメージ

(画像/PIXTA)

空き家バンクを利用するための手続きの流れ・申請方法

空き家の所有者が空き家バンクを利用してスムーズに物件の貸し出し、売却が実現できるよう、手続きの流れと申請方法をお伝えします。

1. 申し込み書類の提出

まずは必要書類の準備から始めましょう。必要書類には、空き家バンク登録申請書や空き家バンク登録カード、住民票、住民税の滞納がないことを示す証明書、物件の所有権を証明できる文書などが挙げられます。自治体によって異なるため、事前に確認しましょう。

登録申請書には、必要事項を記入のうえ提出します。申請者の住所や氏名を記載し、署名捺印するほかに、物件の状態や位置情報の記載を求められる場合もあります。

2. 自治体の担当部門が現地調査を実施

所有者の自己申告だけでは、現状と大きく異なる物件が登録されるかもしれません。そのようなリスクを避けるべく、自治体の担当部門が現地調査を行い、物件を確認します。

自治体と提携している不動産会社の担当者が現地調査に同行することもあります。不動産を扱うプロとして、問題なく賃貸や売買を行える物件かどうかをチェックします。

3. 空き家バンクへの登録

空き家バンクへ登録する情報に関する意見交換を行います。物件の所有者と自治体の担当者、不動産会社で話しあい、賃料や売却価格の妥当性などについて決めていきます。意見交換が終了し、問題がなければいよいよ空き家バンクへの登録です。

各自治体における空き家バンクへの取り組み事例

空き家バンクに関する取り組みは、自治体によって制度や実績が大きく異なります。多くの自治体で補助金や助成金制度を用意していますが、以下のように金銭的な補助以外のサポートにも力を入れている自治体があります。

富山県朝日町:空き家コンシェルジュ

富山県朝日町は、移住者1人を嘱託職員として採用し、移住者目線での移住・定住施策に取り組んでいます。空き家バンクの運営や移住相談への対応、移住体験ツアーの実施などの業務を担い、移住を検討している方へ、実際に移住した人の目線で意見や感想を伝えています。

また、「空き家コンシェルジュ」という制度を導入している点も特徴です。空き家の情報提供や入居者へのサポートを目的に立ち上げられた制度であり、コンシェルジュの働きかけによって空き家バンクへの登録が実現しているケースもあるとのことです。

朝日町 | 富山県移住・定住促進サイト「くらしたい国 、富山」

愛知県瀬戸市:市内の空き家見学ツアー

愛知県瀬戸市では、空き家見学ツアーの開催によって空き家の有効利用を試みています。自治体の公式サイトによる積極的な情報発信を始め、空き家バンク利用者の口コミ効果もあり、6件の空き家のうち3件が成約にいたりました。

瀬戸市の場合、通常の空き家だけでなく空き工房や空き店舗なども掲載しているのが特徴です。これにより、空き家をアトリエなどとして利用したい創作者が参加し、成約につながっています。

また、空き家バンクの運用を民間業者へ委託しているのも特徴的な取り組みです。民間業者の活用で、さらに効率的な運用効果が期待できます。

せとで住もまい!きっかけサイト

徳島県三好市:集落支援員

徳島県三好市では、市民をサポートする集落支援員が担当地区を巡回する際に、空き家バンクの周知チラシを配布しています。空き家の所有者に対し、支援員が空き家バンク事業を丁寧に説明することで、交渉につなげようと努めているのが特徴です。

ほかにも、東京や大阪などで開催されている移住交流フェアへの参加、空き家バンクを介して移住した人への費用補助、NPO法人へのチラシ配布などさまざまな取り組みに力を入れています。

徳島県三好市|空き家バンク登録物件一覧

田舎暮らしのイメージ

(画像/PIXTA)

空き家バンクは、所有している空き家情報を無料で掲載でき、なおかつ自治体が運営しているため安心して利用できる点がメリットです。一方、自治体の営業には期待できない、トラブル発生時には自身で解決しなければならないなどのデメリットや注意点があることも覚えておきましょう。

●構成/文 かくたま

●監修/髙野 友樹さん (公認 不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士) 株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役 不動産会社にて仲介、収益物件管理を経験した後、国内不動産ファンドでAM事業部のマネージャーとして従事。
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