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“実家じまい”相続してからでは遅い! “遺品整理のプロ”に聞く実家の片付けのポイント

マンション購入の後悔ポイントは何?買う前の対策と買った後の対処法まとめ

親と離れて住んでいる場合、いずれ相続する実家をどうするかは頭の痛い問題です。誰かが実家に住む可能性はあるのか、売却するのか、賃貸にするのかなどを何も決めずに相続して、遺品整理をせずそのまま空き家として放置していると、家が傷んでしまったり、後から思わぬ費用がかかってしまうリスクもあります。

「実家じまい」は親が元気なうちから相談しておきたいものです。親が高齢になるにつれ、親自身での家の管理は難しくなっていきます。実家が散らかっていても見て見ぬふりをしていると、ご近所トラブルになったり、相続後に問題が巨大化することも。後で慌てないように、あらかじめ対処法を考えておいたほうが良さそうです。

そこで今回は、鹿児島県で数多くのお宅の片付け・遺品整理を手掛けてきた「整理のゴダイ」代表・松本周作さんにお話を伺いました。

鹿児島県は空き家率が九州トップで、全都道府県でも上位の6位(「平成30年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)による)です。松本さんはそんな鹿児島の空き家を何軒も片付けてきた「遺品整理・実家整理のプロ」です。

プロの視点から、実家の危険な兆候、実家の片付けの心構え、スムーズな実家片付けのポイント、業者に頼む場合の注意点など、たくさんのアドバイスをいただきました。

将来的に実家じまい・片付けを考えなくてはいけない人にとって参考になるはずです。

※取材はリモートで行いました

高齢の親の住む実家、泊まれない状態になっていたら要注意

――「空き家問題」の芽は親が元気なうちから存在すると聞きました。実家がどのような状態になっていたら注意すべきでしょうか?

松本周作さん(以下、松本):「実家が泊まれる状態か」というのが一つの目安です。数年間帰っていない方が久しぶりに帰省したら、家の中が散らかっていたり、ゴミがたまっていたり、布団がほこりっぽくなっていたりして、もう泊まれなかったという話を聞きます。

この「泊まれない状態」から、「親が家を管理できない状態」になっているとわかるので要注意ポイントになります。

――具体的にどんな問題が起こるのでしょうか。

松本:70代を過ぎて80代、90代と年齢を重ねると、知覚・聴覚・嗅覚がだんだん弱くなる傾向にあります。日頃からまめに片付けをする几帳面だった方でも、掃除が行き届かなくなったり、汚れに気付きづらくなったりするようです。気力や体力の衰えもあって片付けやゴミ捨てもうまく進められません。

また、2階建て・3階建て住宅の場合、足腰が弱って階段を上れなくなったり、上るのがおっくうになったりします。そうすると、上階の管理が行き届かなくなり、雨漏りなどの異常に気付けません。シミやカビが発生するケースも見かけます。

日々の片付けや掃除ができなくなることで、不用品を大量にため込んでしまったり、家の傷みが進んでしまったりします。親の生活の質を維持するためにも、そうなる前に早期に手助けできるのが理想的ですね。

――おそらくこれは実家の片付けの問題だけでなく、介護の問題も関わってきますね。早めに気付くために何ができるでしょうか?

松本:可能であれば、まめに実家に通って様子を見てほしいですね。遠方に住んでいて難しいときは、Web会議ツールやスマホのビデオ通話を活用するといいでしょう。

お孫さんがいれば顔を見せたりしながら、映像越しに何かいつもと変わった様子がないか、背景などをさりげなくチェックするのがいいと思います。「この部分がこれぐらい汚れているのなら、ほかの部分はどうなっているのかな」と、思いを巡らせていくのがスマートな方法ですね。

勝手に処分しないで。使っていない布団にも「思い出」が詰まっている

――片付けられなくなったとき、親をどうサポートしたらいいでしょうか? 手伝うときに気を付けるべきことを教えてください。

松本:まず大前提として、親のやり方や意思を尊重することが大事です。勝手に物を処分したり、無理に押し切ったりすると感情面での行き違いを生みます。

使っている・使っていないに関係なく、「所有している物への思い」が強く存在します。何個もあるお茶碗や湯のみ、日用品にも思いが詰まっています。また、散らかっている状況に見えても本人は困っていないケースもあります。理屈ではなく相手の感情を尊重したほうがいいと思います。

――子どもの立場から見れば「もう使っていないから処分すればいいのに」と思う家財道具がたくさんあります。例えば客用布団は「最小限だけ残して処分しては?」と思うのですが、いかがでしょうか?

松本:布団が片付けば一気に場所が空くのですごくいい着眼点です。声掛けしてみるのはありですね。

ただし、客観的に見たらもう客用布団を使うことがない場合でも、親御さんにとっては、たくさんの人が家に泊まりに来て楽しかった思い出がその布団にあって、「またみんなを迎えたい」という気持ちがあるんですね。

お客さんに出せるような状態でなかったとしても、捨ててしまうと身を削られるような思いをされてしまうかもしれません。そういった気持ちも尊重してあげたらいいと思います。

遺品整理中の様子

▲遺品整理中の様子。布団類は袋に詰めて搬出。昔の家では、客用布団も含め10~15組くらいあるケースが多いそう(画像提供:整理のゴダイ)

 

――なるほど……。布団一つとっても、親にとっては過去の思い出であり、希望であり、人とのつながりであり……いろんな気持ちが詰まっているんですね。あらためて「勝手に処分するのはよくない」の意味が響きました。

松本:布団は捨てやすいはずなのに、遺品整理の現場でも残っていますね。

高齢になると友人や知人が亡くなったり、社会とのつながりが薄れてきたりと寂しい思いをすることが増えます。せめて身の回りは何か思い出のある物を残しておきたいのでしょうか、「がらんどうな部屋」になる不安がすごく強いようです。

ですので、生前に身の回りの物をきれいさっぱり整理すると、虚無感にあふれて、その後の生活の張り合いをなくしてしまう危険もあります。

――感じているもの・見えているものが、子ども世代と親の世代では全然違うんだなと思いました。何かと「物を捨ててすっきり暮らすほうがいい」と考えがちですが、親の立場に立つと「思い出の物に囲まれていることの安心感」はすごく大事な視点ですね。

松本:実家の片付けは合理的な考えでは進めることではないんだなと、いろんなお宅でお手伝いしてきて感じますね。

親との最低限のコミュニケーションに「エンディングノート」を

――親が元気なのに、親が亡くなった後の話は切り出しにくいという声もあります。でも、貴重品の場所などあらかじめ知っておいたほうがいいこともありますよね? 親の気持ちに配慮しつつ、最低限どのようなコミュニケーションをとるのがいいとお考えでしょうか。

松本:親子の関係性次第という部分が大きいので、正直なところ一概にはいえません。普段からコミュニケーションがうまくできているご家庭には何もアドバイスすることはないと感じています。

親子間のコミュニケーションが難しい状況では、そもそも生前に対面でデリケートな話をするのは難しいのではないかと想像します。そんなときはライトな方法として市販のエンディングノートをおすすめします。

ポイントは、
  • 複数のエンディングノートを比較して、自分が知っておきたいことと感覚が合うノートを選ぶ
  • エンディングノートを親に渡すときには、伝えておきたいことだけ優先して書いてもらうように伝える

この2点です。

――エンディングノートは「死」を想像させ、親に書いてもらうのはハードルが高いと感じている方もいます。松本さんだったらどんなふうに伝えますか。

松本:「エンディング」や「終活」という言葉に抵抗感を覚える方もいらっしゃるので、「緊急時に伝えたいことがあったらここに書いておいて」と伝えます。そうすることで気持ちのハードルが下がるかもしれません。

全ての項目を埋めてもらおうとするのではなく、「書けるところだけで大丈夫」というスタンスで勧めていただけたらと思います。

――特に確認しておいたほうがいい情報は何ですか?

松本:銀行関係は大事だと思いますね。子どもであってもお金を引き出すのはすごく大変なので、通帳や印鑑の確認は事前にした方がいいかと。

また、プラスの資産があればマイナスの負債があるケースもあります。しかし負債に関してはなかなか口を開きたがらないと思いますので、そこに関してはもうふたを開けてみないと……という感じです。

私が個人的に大切にしている感覚としては、親子であっても「言いたがらないときは口をこじ開けない」です。沈黙も尊重したい。負債が大きい場合は、プラスの財産も含めてですが、相続放棄など後から対処できる方法もありますので。

帰省のタイミングで一緒に大掃除をする機会をつくる

――松本さんのお話を伺って、親の気持ちに沿う大切さを痛感しました。それでも、できる範囲の片付けはしておきたいと考えています。親の気持ちを尊重しつつ、ある程度片付けを進めるにはどうしたらいいでしょうか?

松本:もし自分の物が実家に残っているのであれば、そこから着手するのがやりやすいです。ご両親にとっては、子どもの物だから触れないと「聖域」にしている部分があるので、そこから片付けていくのがいいのではないでしょうか。

――確かにそうですね! 自分の部屋を空にするだけでも掃除が楽になりそうです。

松本:それと数年に一度でもいいので、帰省のタイミングなどで協力して大掃除をする機会をつくってみるといいです。

台所やお風呂、トイレなどの水回りを優先したくなりますが、人によっては日常使う場所は触られたくないという心理があります。なので、普段の掃除や片付けの仕方を根本から変えるのは難しいです。

でも、大掃除という非日常的なイベントがあれば、「片付けてみたら意外と良かった」「もっと片付けたい」と一気に気持ちが傾くきっかけにもなるかと思います。実家の状況も把握できるのでおすすめです。

――老後に備えて自分たちで少しずつ物を処分している方もいらっしゃいますよね。

松本:生前整理と呼ぶには少し早いのですが、すごく印象的だったご依頼があります。50代のご夫婦で、お子さん2人が大学に出たタイミングで2階を空にしてほしいとの依頼を受けました。

片付けた後は掃除をしやすいですし、異常があれば見つけやすく、管理もしやすいです。家具がないので湿気が特定の場所にたまり続けることも避けられる。そういった準備はすごく賢いなと思いました。

子ども部屋の整理ビフォー

子ども部屋の整理アフター

▲子ども部屋のビフォーアフター例。家財道具がなくなると、掃除も手入れもしやすい(画像提供:整理のゴダイ)

 

――確かに、親が若いうちにまとまった片付けをしたほうがその後の掃除などの管理も楽ですね。将来的に実家を売る場合、きれいに片付けをしていないと査定額などに支障はあるのでしょうか?

松本:今は、物件の売却を仲介という形で依頼するだけではなく、不動産会社に買い取ってもらう方法も一般的になってきています。その際、家財道具の処理を合わせて頼むこともできますが、当然その費用もかかってきます。

たまに、「次に住む人が活用できるから価値が上がるんじゃないか」と考える方もいらっしゃいますが、自分で好んで選んだのではない家具は敬遠する傾向にあります。不用品を処分するにはお金もかかるので、片付いている家のほうが購入候補として選ばれやすいのではないでしょうか。

ピアノ、スプレー缶、鉢植えの土……片付けで苦労する物

――たくさんのお宅を見てきたなかで、片付けに苦労する物の例を教えてください。

松本:いろいろありますが、代表的な物を3つ紹介します。

1. ピアノなど重量のある家財道具

家財道具の量に比例して片付けは大変になります。特に重量のある家財道具は処分に注意が必要です。

例えばピアノは200~250kgくらいあるので一般の方ではまず持ち上げられません。何人かで持ち上げてもバランスを崩して下敷きになる危険もあります。専門の業者などに任せるのがいいでしょう。

ピアノの運搬作業

▲ピアノの運搬作業。下手に動かすとけがをする危険性もあるため慎重に運ぶ(画像提供:整理のゴダイ)

 

2. スプレー缶や電池など処分費用が高いゴミ

スプレー缶や電池、蛍光灯など、処分費用が高いゴミが多いと片付けが大変です。

スプレー缶に関しては、一見10本ぐらいしかないと思っていても、実際に片付けてみると100本くらい出てくることがよくあります。まとめて処分しようと考える人が多いんでしょうね。日頃からため込まずに、こまめにゴミ出しの日をチェックしておくのがいいです。

たまってしまったスプレー缶

▲消臭スプレー、虫よけスプレー、防水スプレー……スプレー缶がたまってしまっている家が多い(画像提供:整理のゴダイ)

 

3. 趣味の園芸用品、鉢植えの土

趣味で園芸をされている方がいらっしゃいますが、鉢植えが多いと土の処理が必要になります。

鉢に入った土を庭にひっくり返すこともできますが、家を売りたいときに、庭の一角に土が山盛りだと価値を落としてしまう可能性もあります。

家の周囲の鉢植え

▲趣味の園芸、盆栽、ガーデニングなど家の周囲の鉢植えはチェックポイント(画像提供:整理のゴダイ)

 

――多くの家にありそうな物ばかりです。

松本:帰省したときに、実家の状況と合わせて確認していただきたいです。

なかなか進まない・時間がない場合には、プロに頼むことも選択肢に

――将来的に処分しなければならない物があるとわかっているのに、そのまま放置しておくのはやはり心配です。

松本:相続する可能性がある方は、散らかったままの実家を引き継ぐ不安もあると思います。そんなときは業者に頼んだときに必要な費用感を把握して、選択肢をいくつかもったうえで臨んでいただけたらと思っています。

例えば、水回りだけだったら、一般的なゴミの量なら1万~5万円で依頼可能です。

――相場を知らないから頼みづらいという声も聞きます。

松本:立地条件や家財道具の量はそれぞれの家で異なるので、相場を出すのは難しいという側面はあります。しかし、作業の実例や料金目安を公開している業者は増えているので、自力で片付けたときの手間や費用と比較検討するといいかと思います。

最近は、無料の事前見積もりをしている業者が多いので、利用されるといいでしょう。

――見積もりで気を付けるポイントはありますか?

松本:ちょっと強引な営業をかける業者もいるかもしれないので、まずは電話で簡単に相談してみるのをおすすめします。話をして、印象を見極めてもらえたら。そのうえで、何社か見積もりを取って比較してみる。

口頭だとトラブルにつながりやすいので、書面で確約してもらうというのが一番です。例えば、「家財道具処分一式」という形で見積もりが出たとしても、「一式」に何が含まれるのかはっきりしない。後から追加料金を請求されたというトラブルが多いです。

――業者によって金額に幅は出ますか?

松本:実際に私が直面した例ですが、敷地内に平屋が2棟あるお宅の遺品整理で、弊社が100万円を切る見積もりだったのに対し、なかにはそれよりも300万円以上も高い見積もりの会社もあったそうです。弊社が安過ぎて不安をもたれたくらいです。

これは極端な例ですが、見積もりが業者によって2~3倍違うというのは結構あります。

高い見積もりを出される業者が、必ずしも悪徳というわけではなく、設備や人員がいない悪循環のなかでそういった費用請求をしないと成り立たない状況になっているケースが多いです。

――アドバイスありがとうございます。超高齢化が進み、これからますます実家の片付けに悩む人は増えていきそうですね。

松本:弊社では、鹿児島県外に在住のお子さんからの依頼が70%を占めています。首都圏や都市部で生活しながら、田舎の実家じまいを考えないといけない人が今後増えるのでは……と想像します。

残念なことに、片付けられないまま長年放置してしまい、家が朽ち果てて資産価値が落ちてしまうようなケースも結構あります

一方で、実家の整理や遺品整理のお手伝いをして、「ずっと悩んでいたんだけど、片付けてくださって本当に助かりました」と涙される方もいらっしゃいます。そのときに、本当に困ったときに相談できるところがあることをもっと伝えなくてはと思いました。

実家の整理、遺品整理は時間と体力、運搬手段があれば自分たちで全部できますし、貴重品や思い出の品を整理してからプロに依頼する選択肢もあります。難しければ全部をプロにお願いしてもいい。

そのときになって急に悩まなくてすむように、年に一度でも「実家の将来」のことを考えていただければと思います。

【お話を聞いた人】松本周作さん

松本周作さん

鹿児島県で遺品整理サービスを提供する「整理のゴダイ」代表。年間80件以上の実家片付け・遺品整理を手掛けており、会社HPやブログで遺品整理にまつわる悩み・対処法を発信している。

整理のゴダイ:https://s-godai.net/
知らないと損をする! 遺品整理の話:http://s-godai.net/ihin/column/

取材・文/横田ちえ
編集/はてな編集部

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