
両親からアパートを相続し、15年近く賃貸経営をしてきたTさんは、シロアリの被害から古家付き土地として売り出すことを決意。半年かけて入居者に退去の交渉をし、大手不動産会社と媒介契約を結んだ後、3カ月で売却しました。
| 不動産区分 | 古家付き土地 |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県川口市 |
| 築年数 | 37年 |
| 間取り・面積 | 土地面積…約166m2(延床面積…約120m2) |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 4300万円 |
| 売り出し価格 | 4300万円 |
| 成約価格 | 4100万円 |
両親から相続したアパート。シロアリの被害で賃貸経営を退くことに
神奈川県で夫と2人で暮らすTさん(60代)は、2004年に両親からアパートを相続し、15年近く賃貸経営をしてきました。
物件は事業を営む両親が、1982年に老後の資金づくりのために建てたもの。
当時、両親が住んでいた街からほど近い川口市にあり、周囲は閑静な住宅街であるものの、最寄り駅まで徒歩約5分。駅周辺には複数のスーパーがあり、比較的、人気の高いエリアでした。
全4戸で、各部屋は2DK・約30m2。166m2の土地は南側が開けており、日当たりがよいのがメリットだったと言います。
入居者は途絶えることがなく、アパート経営は順調に見えましたが、あるとき問題が浮上しました。
「入居者の1人から、シロアリが出たと苦情があったのです。業者に調べてもらったところ、柱の中まで被害が及んでいて、このままだと倒壊の恐れがあると言われました」
アパートは、両親から譲り受けた3つの不動産のうちのひとつ。ほかの2つは早々に売却していました。
「もし私に万一のことがあったら、物件は子どもたちに相続されるわけですが、そうなると売却するにしても、賃貸経営を続けるにしても、面倒をかけるのが目に見えていました。3つの不動産の中でも、このアパートは条件がよかったので残していましたが、こうなると建て直すよりは売却して現金化するのが得策だと思ったのです」
売却を決意するも、入居者に立ち退きの了承を得られず、半年間、足踏み
売却を決めたTさんですが、その前に、まず入居者に立ち退きに了承してもらう必要がありました。一連の行動のなかで、ここが最も壁だったと話します。
「もともとは入居者との間に管理会社を入れていなかったのですが、『そう長く賃貸経営はできないだろう』と考えはじめたころからトラブル防止のために管理会社を入れました。4戸のうち2世帯は数年前の契約更新のタイミングで管理会社を挟んで、定期借家契約を交わしていたのです。
そのため満了日が来れば、2世帯は退去が約束されていたのですが、残りは管理会社を間に入れることも、定期借家契約にすることも拒まれていて。私たちが直接、退去を依頼しなければなりませんでした」
Tさんは毎月、入居者の部屋を訪ねて説明をしたり、電話をかけて様子を窺ったり、あの手この手でアプローチ。しかし断固として拒まれたと言います。
「最終的に入居者からOKが出たのは、半年後の2018年10月のこと。引越しなどにかかる費用をほぼ全額、こちらで負担すると交渉したからでした。
建物の損傷は刻々と進行していたので、本当にホッとしましたね」

大手4社と個別にコンタクトを取り、経験豊富なA社と専属専任媒介契約
2018年10月、Tさんはようやく売却活動をスタート。一番に取った行動は、大手不動産会社のA社・B社・C社・D社に簡易査定の依頼をすることでした。
「一括査定サービスを利用する手もありましたが、見知らぬ会社と接触するよりは、扱う物件数が多く、対応に慣れているであろう大手とやりとりした方がいいと思ったのです」
4社に簡易査定をしてもらったところ、A社とB社は4000万円、C社とD社は3500万円でした。
Tさんは査定額の高いA社とB社に絞ります。
「C社とD社は地元に営業所がないためか、近隣の相場を踏まえた値段ではないようでした。
その点、A社は川口市、B社は越谷市に拠点があり、地場に精通していて信頼感があったのです」
次にA社とB社では訪問査定。その結果は、どちらも4300万円でした。
「査定額は同じでしたが、このとき、A社の営業担当の方が、質問にすぐ答えてくれて、熱心さを感じたのです。さらに土地売買の経験が豊富で、期待が持てると思いました」
TさんはA社と「専属専任媒介契約」を結んで販売活動を託すことにします。
「しかし、最後の入居者がアパートから退去するのは半年先。その前に売り出すと入居者が気を悪くすると思ったので、時期を待ってから媒介契約を結びました」
欲張らず、査定と同価格で売り出しをスタート。3カ月後に買主が現れる
Tさんにとっての最大の山場は、入居者から立ち退きの了承を得ること。ここを乗り越えたからには、取り立ててこだわりはなかったと言います。
「A社には見込み客がいて、『最低でも4000万円で買ってくれます』と言っていたので、その価格なら十分だと納得。建物の解体について聞くと『買主側の判断で取り壊した方がいい』とのことだったので、まずは古家付きのまま、査定価格通り4300万円で売り出すことにしました」
A社では自社のホームページのほか、不動産ポータルサイトに物件情報をアップ。
すると1週間のうちに2件、「現地を見たい」と問い合わせが入ります。
しかし値段の折り合いがつかず、売却には至りません。
「こちらとしては時間がかかるものだと思っていたので、1週間で反響があったのが意外だったほど。A社にすべて任せていましたし、焦ることはありませんでした」
その後も1週間に数件のペースで問い合わせが入りますが、状況は変わらないまま。
しかし、売り出しから3カ月が経った2019年7月、A社からある提案をされます。
「『4100万円なら購入すると言っている人がいますが、どうしますか?』と。
建物は相手に解体してもらえるわけですし、そのうえでこの金額なら願ってもないこと。すぐに了解しました。
実は購入者はかつてA社が話にあげていた見込み客。当初から4000万円くらいで買ってくれることが分かっていただけに、もっと高い条件で購入してくれる買主を、営業担当がこの3カ月、粘って探してくれていたようです」
2019年8月、Tさんは買主と売買契約を結びます。
立ち退きの交渉は苦労したものの、その後はスムーズにことが進んで満足
2019年8月、Tさんは無事に物件を引き渡します。
「売り出しから3カ月かかりましたが、1週間に1度、A社からメールや電話で報告を受けていたので安心して待っていられました。
値下げを交渉され、どんどん価格を下げることになると予想していたのですが、スムーズにことを運べて幸運だったと思います」
満足そうに話すTさんは、こう続けます。
「買主は埼玉県の不動産会社。売却した土地は路地に入り込んだ騒音のない場所で、以前から欲しいと思っていた一帯だったようです。
しばらく経って現地を見に行ったところ、アパートは取り壊され、早くも戸建てが2つ建っていて驚きました。
ともあれ、入居者の方に立ち退いてもらうのが最大の難関でした。契約の重要性を痛感しましたし、立ち退きの交渉を誰かに頼めたらよかったのに、などとしみじみ感じています」
苦労を振り返りながらも、晴れやかな笑顔を見せてくれたTさんです。
■古家付き土地を解体するかどうか
築20年以上の木造住宅は経済的価値がないとみなされるのが一般的ですが、売却するときに建物を取り壊して「更地」にするか、「古家付き土地」として売り出すかがポイントになってきます。後者であれば売主は解体の費用を抑えられますが、買主には負担になるため、販売価格を低めに設定する必要があるでしょう。一方で200m2以下の小規模住宅用地であれば、古家を残しておけば固定資産税が6分の1になります。
| 2018年4月 | ・古家付き土地の売却を考えはじめる ・アパートの入居者に立ち退きの交渉をする |
|---|---|
| 2018年10月 | ・A社・B社・C社・D社に簡易査定を依頼する ・A社・B社で訪問査定をする |
| 2019年3月 | ・入居者が退去する |
| 2019年4月 | ・A社と専属専任媒介契約を結ぶ ・物件を4300万円で売り出す |
| 2019年7月 | ・購入者が現れる |
| 2019年8月 | ・買主と4100万円で売買契約をする ・古家付き土地を買主に引き渡す |
まとめ
- 地元に拠点のある不動産会社の方は、近隣の相場を踏まえた査定価格を出してくれる。
- 複数の不動産会社に同じ査定価格を出された場合は、より熱心で経験豊富な営業担当者がいる会社を選ぶ。
- 不動産会社に見込み客がいるときでも、より高値で買う人を探してもらうこともできる。
取材・文/星野 真希子 イラスト/村林タカノブ


