実家は思い出の詰まった場所である一方で、住む人がいなくなり処分を考えるようになった方も多いでしょう。しかし、いざ実家を処分しようとしても、さまざまな問題が生じて手続きがスムーズに進まないこともあります。そのため、実家を処分するときは、早めに準備を始めることが大切です。
本記事では、実家を処分する理由や、相続・売却の流れ、処分するときの注意点などを解説します。今はまだ考えていない方も、将来的に実家の処分が必要になる可能性があるため、本記事の内容をしっかりチェックしてみてください。
記事の目次
実家の処分は早くから始めたほうが良い理由
誰も住んでいない実家を所有し続けると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。ここでは、実家を長期間所有するデメリットから、実家の処分を早くから始めるべき理由を解説します。
維持費や税金がかかる
実家は、誰も住んでいなくても、所有しているだけで固定資産税や都市計画税などが課税されます。火災保険や水道光熱費などの維持費も必要になり、その費用は合計で年間数十万円にもなることがあります。
また、定期的に実家を訪れる際には交通費もかかるうえ、庭や外装・内装の修繕費や管理費なども必要です。誰も住んでいないのにこうした費用を支払うのは経済的な負担も大きいため、早めに処分したほうがよいでしょう。
「特定空家」に指定されるリスクがある
誰も住んでおらず、適切な管理が行なわれていない実家は、自治体から「特定空家」に指定されるリスクがあります。特定空家に指定されると、自治体から空き家の管理に対する指導が行なわれます。指導にしたがわず勧告を受けると「住宅用地特例」(固定資産税等の軽減措置)が受けられなくなり、固定資産税が最大6倍に上がり維持コストが大幅に増加してしまうのです。
さらに、2023年の法改正により、特定空家に加えて「管理不全空家」が新設され、従来の基準では特定空家に指定されなかった空き家であっても、管理不十分として指導・勧告の対象となる可能性が増えました。緊急性の高い空き家については、命令の手続きを省略した行政代執行や、解体費用の強制徴収が可能となる改正も行なわれています。そのため、空き家となった実家を所有するリスクが以前よりも高くなりました。
近隣住民へ被害が拡大する
所有している実家を放置すると、庭の草木が生い茂って害虫が発生したり、景観を損なったりして近隣住民に被害がおよびます。特に、柱の老朽化により住宅の耐久性が低下していると、地震や台風で倒壊する可能性もあります。
もし、空き家の倒壊によって近隣住民にケガの被害や損害を負わせてしまうと、損害賠償を請求される恐れもあるでしょう。死亡事故の場合は損害賠償金額も大幅に上がるため、賠償リスクを負わないためにも、空き家となった実家は早めに処分を検討しましょう。
子どもや孫に迷惑がかかる
所有している実家を処分しなかった場合、ゆくゆくは自分の子どもや孫が相続することになります。その結果、税金や維持費などの負担に加えて、処分の手間・費用や倒壊による損害賠償などのリスクも背負わせてしまうことになります。
また、2024年4月からは、相続した不動産の相続登記の義務化が決まりました。被相続人・相続人全員の戸籍謄本集めや、登録免許税の支払いなど、相続登記の手間や費用も子どもや孫にかかってきます。自分が実家を処分しない選択は、問題の先延ばしになるだけです。所有する必要のない実家は自分の代で処分することが大切です。
実家のおもな処分方法
実家を処分する方法には、売却以外にもさまざまな選択肢があります。実家の状態や家族の状況に合わせて最適な選択をするためにも、処分方法の種類や特徴を把握しておきましょう。
売却する
実家の処分方法として一般的なのは、実家を売却して現金化する方法です。実家を売却して得た現金で新たな生活を始めたり、老後の資金を準備したりできるメリットがあります。 実家の売却方法には、そのままの状態で売却する方法のほか、リフォーム後に売却、または解体後に土地を売却する方法があります。売却できるかどうかは買い手のニーズによるため、そのままの状態で売却できなければ、リフォームや解体を検討するなど、仲介会社と相談しながら決めることが大切です。
賃貸物件として活用する
住む人がいないけれど実家を残しておきたいという方は、賃貸物件として活用する方法もあります。賃貸収入が得られるため、建物を管理する維持費の負担を抑えながら実家を残しておけます。賃貸物件として利用する場合は、定期的に建物の修繕や管理が必要になるため、将来的に売却する際にも有利になるメリットもあるでしょう。
ただし、借り手が見つからなければ賃貸収入は得られず、維持コストを抑えることもできません。賃貸のためのリフォームや、管理会社への委託料などもかかるため、必ずしもメリットばかりではないことに注意が必要です。
他の親族に受け継いでもらう
実家を残す方法として、親族に実家を受け継いでもらう方法もあります。余分な費用がかからず、買い手や貸し手を探す責任もなくなるため、子どもや孫に負担をかけることもないでしょう。
また、実家を受け継いでもらうことで、生活できる環境を維持したまま実家を残せます。将来的に住んだり事業に活用したりと、実家を有効活用する機会が得られることもメリットです。
一方で、受け継いだ人が同じように処分の問題を抱え、結果的に問題の先送りにつながりやすいデメリットもあります。また、相続が発生した際に、ほかの遺産と合わせてどのように平等に分配するか、遺産分割についてトラブルになる可能性があることにも注意しましょう。
相続放棄する
相続が発生した時点で実家を所有する意思がない場合は、相続放棄をすることで実家の相続を避けられます。実家をめぐる将来的なトラブルを避けることができるほか、相続税を支払う必要もありません。しかし、相続放棄をする場合、実家のみ相続を放棄することはできません。自動車や現金などのほかの遺産も相続できなくなるため、リスクの高い方法です。
また、自分の相続放棄によって実家を管理する者が不在となる状況を生まないよう、次の相続人が管理を始めるまでは管理責任が残ります。相続放棄をしても、すぐに管理責任がなくなるわけではないため注意しましょう。
実家を相続した時の対応
親の死後、実家を含めた相続が開始したときには、正しい順序で相続を進めなくてはいけません。亡くなった方の意思を尊重し、スムーズに相続を進めるためにも、相続の対応方法について確認しておきましょう。
遺言書の有無を確認する
相続が開始したら、まず遺言書の有無を確かめましょう。遺言書には、遺産分割の仕方や実家の処分方法が記載されている場合があります。相続は、原則として遺言書の内容に基づいて行なわなくてはいけないため、必ず遺言書が残されているかどうかを確認しましょう。
また、遺言書は自宅に保管されている場合もありますが、公正証書として公証役場に保管されていることもあります。あとから遺言書が見つかることがないよう、実家を探すだけでなく、公証役場にも行って遺言書の有無を調べましょう。
1.遺言書がある場合
遺言書が見つかった場合は、遺言書の内容にしたがって遺産を分割します。その際、すぐ実家を処分したい気持ちがあっても、まずは相続手続きを完了させなければなりません。ただし、遺留分(相続できる遺産の最低保障額)の請求がある場合は、遺言書に記載されていない方法で相続することも可能です。
また、自宅に保管されていた遺言書は、開封前に家庭裁判所で「検認」を受けて初めて有効になります。たとえ家族でも、検認を受ける前に遺言書を開封すると罰金を科される可能性があるため、必ず家庭裁判所へ持ち込みましょう。
2.遺言書がない場合
遺言書がない場合は、すべての法定相続人が集まって遺産分割協議を行ない、相続する遺産の内容や分割割合などを話し合います。分割内容に全員の合意が得られれば、その内容で遺産を分割し、相続登記などの具体的な手続きへと進みます。
相続後すぐに実家を処分したい場合は、実家の相続人は一人に確定するほうがよいでしょう。複数人で実家を所有していると、売却時の手続きが難しくなる可能性があります。また、処分に反対する相続人がいた場合はトラブルに発展する恐れもあるため、相続人の決定は慎重に行ないましょう。
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、すべての相続人が集まって、遺産をどのように分割するかを話し合うものです。誰が実家を所有するか、誰が預貯金を取得するかなど、相続財産を平等に分割する方法などを決定します。
また、遺産分割協議は、相続人全員が合意すれば、どのような内容であっても有効です。ただし、相続人が複数いる場合は、合意に至るまで時間がかかることもあります。話し合いが難航した場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
相続トラブルを防ぐためにも、親の生前から分割方法や実家の処分について話し合っておくことも大切です。
遺産分割の種類と特徴
遺産分割には、「現物分割」「換価分割」「代償分割」といった方法があります。各分割方法の特徴について把握しておきましょう。
現物分割
現物分割とは、遺産をそのままの状態で相続人それぞれに分割する方法です。現金は長男、実家は長女など、遺産ごとに相続人を決めます。現物資産は基本的に単独名義となるため、実家を相続した場合もスムーズに処分できるでしょう。
しかし、現物分割は細かな分割に対応できないため、全員が平等に相続できない可能性があります。自分は実家を相続できても、ほかの相続人は実家と同じ価値の遺産を相続できない場合があり、不公平な相続になるかもしれません。そのため、現物分割では全相続人の同意が得られないこともあります。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却して得た現金を相続人へ分割する方法です。実家が相続財産に含まれている場合は、実家を売却してからの分割・相続となります。そのため、売却をすぐに進めることができ、実家の処分を前提としている場合にはメリットの多い方法です。
ただし、相続人の一人でも反対すると売却できなくなり、換価分割は実現できません。話し合いが難航した場合は意見が一致するまで売却を進められず、その間に発生した税金を支払う必要があります。
また、換価分割では、売却の前に実家の名義を変更しておかなければなりません。共有名義にした場合は、単独名義より手続きが煩雑になるため、すぐに売却できないことに注意しましょう。
代償分割
代償分割とは、代表相続人が遺産を現物で相続し、ほかの相続人へ代償金を支払う方法です。実家の名義は代償分割で相続した人の単独名義となるため、現物分割と同様に売却の手続きもスムーズに進みます。
ただし、ほかの相続人への支払いは、代表相続人の個人の資産から行なうことになります。支払いに対応できる資力がなければ、代償分割は実現できません。実家を資産として遺しておける点では、ほかの分割方法よりもメリットがある一方、常に選択できる方法ではないことに注意しましょう。
実家の売却を進める準備
実家の売却には準備することが多く、不備があると売却手続きが止まってしまいます。スムーズに実家の売却を進めるためにも、準備しておくべきことを確かめておきましょう。
実家の名義変更(相続登記)
不動産の売却は、登記名義人しかできません。そのため、相続した物件を売却する場合は、事前に相続登記を行ない、相続人の名義へ変更しておかなければいけません。また、2024年4月1日からは相続登記が義務化され、相続後3年以内に相続登記を行なわないと罰金が科される可能性があります。
複数人で実家を相続した場合にも、相続登記が必要です。遺産分割協議書を作成し、相続人全員の印鑑登録証明書を用意する必要があります。登記に時間がかかる場合があるため、早めに登記に向けた準備を始めましょう。
遺品整理
実家を売却する際には、空き家の状態にする必要があります。事前に遺品整理を行ない、不用品の選別や処分をしておきましょう。思い出の残る遺品は整理にも時間がかかってしまうため、早めに遺品整理に取り組むことが大切です。
家財が多い場合は業者に依頼したり、生前から整理を始めたりして、遺品整理にかかる手間や時間を削減しましょう。
土地の境界を確認する
実家を売却する際に重要な事柄が、隣地との境界の確定です。隣地との境界とは、自分の土地と隣地との境目を表すもので、境界が確定していないと実家の土地の範囲がわからなくなります。
境界がわからない状態では、売却時に隣人とトラブルになったり、そもそも売却できなかったりする場合があります。そのため「確定測量図」「境界標」「筆界確認書」などから、必ず隣地との境界を確認しましょう。
また、古くから建っている実家の場合や、筆界確認書などがない場合は、境界が確定できない可能性があります。確定していない場合は、売却前に測量士に依頼して確定測量を行ない、土地の境界を確定させてから売却手続きを始めましょう。
実家売却のおもな手順
実家の売却には複数の手順があります。ここでは、各手順にしたがって解説していきます。前もって何をすべきか把握しておきましょう。
※売却手順画像 挿入予定※
1.実家売却のための前準備
実家売却をスムーズに進めるためには、売却の前準備をしっかりと行なうことが大切です。例えば、実家の名義人の変更(相続登記)や境界線の確認・確定などが、実家売却の前準備に含まれます。
実家を売却するには多くの手続きが必要です。売却に必要な書類を集めたり、売却にかかる手数料を確認したりしておくと、その後の手順が円滑に進むため、余裕があれば取り組んでおきましょう。
2.売却仲介のための不動産会社を選ぶ
実家を売却する場合は、不動産会社に仲介を依頼し買い手を探してもらうのが一般的です。不動産会社によって査定額や売出し価格が異なるため、複数の不動産会社に査定を依頼して、比較しながら仲介を依頼する会社を選びましょう。
また、査定を依頼するときには、可能な限り訪問査定を活用することが大切です。訪問査定は対応の手間がかかるものの、物件の状態をふまえた査定額を出してもらえます。現地に行かずに基本情報だけ行なう査定よりも精度が高く、契約後の査定額との差が生じにくいため、のちのトラブルを避けることにもつながるでしょう。
3.実家売却のために行動する
売却のための集客は、基本的に契約した不動産会社が行なうため、売り主は売出し価格の確定や内覧などの対応をします。その際、つてがあれば自身で購入希望者を探しても問題はありません。むしろ、不動産会社と協力しながら、より多くの購入希望者に実家を知ってもらうための集客活動を行なうことが効果的です。ただし、媒介契約の種類によっては、不動産会社の仲介が必須となるため注意しましょう。
また、内覧時の実家の状況や売り主の接客は、購入希望者の意思決定に大きな影響を与えます。そのため、内覧前に実家の掃除や整理整頓をしっかりと行ない、購入希望者に不快な思いを与えないよう、丁寧な接客を心がけましょう。
4.買い主・不動産会社と売買契約を締結する
購入希望者と売り主の意思が合致したら、不動産会社を交えて売買契約を締結します。売買契約は一度締結すると簡単に解除することはできません。契約前に重要事項説明書や契約書などを細部まで読み合わせ、買い主と売り主が契約内容に相違がないことを確認してから契約を締結します。
また、売買契約を結ぶときには、買い主から売り主への手付金(売却金額の5~10%)、売り主から不動産会社への仲介手数料などの支払いが必要です。ただし、仲介手数料は売買契約時と引き渡し完了時に半額ずつ支払うのが一般的です。
5.物件などを買主へ引き渡す
売買契約の締結後は、契約時に取り決めた日程で物件の引き渡しを行ないます。引き渡し当日には残りの代金を買い主から受け取り、買い主へカギや所有権を引き渡すことでやり取りは終了です。売り主は、不動産会社や司法書士への手数料の支払いを済ませ、実家の売却は完了します。
引き渡しが終わると実家では生活できません。新居の決定や引越しは引き渡し日までに終わらせておく必要があるため、早めに取りかかりましょう。
6.売却額に応じて確定申告をする
実家の売却益は、譲渡所得税(所得税と住民税)の対象となります。売却益がある場合は、実家を売却した年の翌年3月15日までに、忘れずに確定申告を行ないましょう。
実家の売却によって損失が出た場合は、損益通算を行なうことでほかの所得と損益を通算できるため、節税対策になります。さらに、売却にかかる税金には、たとえ損失を出した場合でも利用できる控除特例があるため、実家の売却後は損益にかかわらず確定申告を行なうようにしましょう。
実家の買い取りとは
実家を売却する方法には「買い取り」と「仲介」の2つの方法があります。自分の希望に合わせて最適な方法で売却できるよう、買い取りで実家を売却するメリットやデメリットなどを確かめていきましょう。
仲介との違い
仲介とは、不動産会社へ依頼して購入希望者を探してもらう方法です。一方、買い取りとは不動産会社へ物件を売却する方法を指します。仲介と買い取りでは売却の流れも大きく異なるので、売却の目的や期間などに合わせて最適な方法を選びましょう。
また、仲介の場合はおもに個人が購入しますが、買い取りは不動産会社が購入するため、売却先が異なることも大きな違いといえるでしょう。
実家を買い取りに出すメリット
買い取りは不動産会社への売却となるため、売り主が査定額に納得・同意できれば早期に売却が決定します。現金化までの期間が短いことから、換価分割の場合でもほかの相続人を待たせずに現金を配分できる点がメリットです。
また、仲介手数料や内覧などの対応が不要で、仲介よりも手軽に実家を売却できるため、手間や時間をかけずに売却を完了したい方には買い取りのほうが利便性が高いといえるでしょう。
実家を買い取りに出すデメリット
実家を買い取りに出すデメリットに挙げられるのは、仲介よりも売却価格が安くなりやすいことです。不動産会社は、買い取った物件に対してリフォームやリノベーションを施し、価値を高めて再販売します。相場から改修費用などを差し引いた価格での買い取りになるため、売却価格が安くなってしまうのです。
買い取りか仲介の選択は、売却期間と売却価格のどちらを重視するかという点から考えるのがよいでしょう。早期売却を目指すなら買い取り、高値売却を目指すなら仲介と使い分けると、デメリットを気にせずに実家を売却できます。
実家の売却で使える控除制度
実家を売却したときに得られる売却益は、譲渡所得税(所得税と住民税)の対象となります。しかし、一定の要件を満たすことで各種税金の控除制度を利用でき、納める税額を抑えることが可能です。
例えば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」では、相続した空き家を売却した場合に最高3,000万円までの控除を受けられます。ただし、この制度を利用するには、相続開始の直前まで被相続人が一人で住んでいたこと、売却代金が1億円以下であること、などの要件を満たさなければいけません。また、売却益が3,000万円以下の場合でも確定申告が必要です。
実家の売却時に利用できる控除制度は、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例以外にも下記のような制度があります。
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者の相続税額の軽減
これらの控除制度は、下記のページで詳しく解説しています。売却する状況に応じて、最適な控除制度を利用できるよう、本記事と併せて確認してみてください。
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親の生前に実家を処分するメリット
実家の処分は、相続開始後だけでなく、親の生前から行なえます。親がほかの親族と一緒に暮らすことになった、高齢者施設に入所したなど、実家が空き家になってしまう場合は、そのタイミングで処分へ向けた取り組みを始めるのがよいでしょう。ここでは生前に実家を処分するメリットを解説します。
すぐに売却へ向けて行動できる
親の生前に実家を処分する場合は、名義変更をせずに売却できます。処分を決めたら、すぐに家族で売却などに向けた行動を起こせることから、相続後よりも売却までの期間や手間を短縮できます。また、委任状があれば、子どもが親の代理人として売却できるため、親自身による手続きが難しい場合でもスムーズに売却を進められるでしょう。
ただし、認知症や他の病気などによって親の判断能力が下がっている場合は、基本的に実家の売却はできません。このようなときは「成年後見制度」などを利用して、親の代わりに実家の売却を進める必要があります。その分必要な手続きも増えることになるため、親の判断能力が十分あるうちに売却について話し合っておくことが大切です。
相続時のトラブルを回避できる
実家の相続では、相続人の選定や、解体・売却などで意見が一致せず、トラブルに発展することがあります。親の生前に実家を処分するのであれば、所有者である親名義のままで解体や売却をスムーズに進めやすくなります。特に、相続によって共有名義にした場合、一人でも反対すると処分できなくなるため、生前に処分するほうがメリットは多いといえるでしょう。
また、実家を売却し現金化しておけば、相続時に平等に分割できるため、不平等感がなくなり遺産分割がスムーズに進みます。きょうだい仲が悪いなど、遺産分割時にトラブルになることが予想される場合は、前もって実家を処分しておけばトラブルを未然に防ぐことができます。
贈与の特例を使うことができる
相続後に実家を売却すると、相続税と売却益に所得税がかかります。一方、生前に売却して現金化しておくと、子どもへ現金を贈与する際に贈与税の特例を活用することが可能です。例えば「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」を利用すると、贈与金額の最大1,000万円まで非課税となるため、相続税の節税にもなるでしょう。
さらに「相続時精算課税制度」を利用すると、累計2,500万円までの生前贈与は、贈与税が非課税となります。2024年1月の法改正では、年110万円までの贈与財産への基礎控除も新たに加わりました。これらの制度を最大限活用するためにも、可能であれば生前売却を検討してみましょう。
実家を処分するときの注意点
実家を処分しようと思っても、名義の状況によってはすぐに売却できないことがあります。今は処分する必要はなくても、将来的にトラブルの元にならないよう、スムーズに処分するための注意点を確認していきましょう。
共有名義のまま放置しない
代償分割ができない場合や、相続時などに実家を共有名義にするケースは少なくありません。共有名義でも基本的に問題はありませんが、売却する際には大きなリスクがあることに注意しましょう。例えば、自分は売却したいと思っていても、名義人の一人が反対すれば売却はできません。
売却で意見が一致した場合でも、名義人全員の署名が必要になると、売却手続きに時間がかかるリスクもあるため、将来的に売却する可能性があるなら、共有名義にするのは極力避けるべきです。どうしても共有名義にせざるを得ない場合は、あくまでも一時的な対応とし、共有名義のまま放置しないようにしましょう。
生前に任意後見人制度や家族信託を活用する
実家の処分をスムーズに進めるためには「任意後見制度」や「家族信託」の利用も検討してみましょう。任意後見制度は、認知症やその他の病気などで親の判断能力が低下してしまった場合に、任意後見人が親に代わって諸手続きを行なえる制度です。前もって任意後見人を決定しておくことで、判断能力が低下したあとも任意後見人が実家を処分できるようになります。
家族信託は、不動産などの所有権を「財産権」と「名義」とに分離し、所有権の登記名義だけを受託者に変更する制度です。家族信託を行なうと、受託者が実家の処分に関する権限を取得するため、受託者の意思で実家の処分に関する決定を下せるようになります。
また、家族信託には遺言としての効力があり、家族信託契約のなかに財産権の承継者を定めることも可能です。また、共有名義の場合は、名義人のうち一人でも判断能力がなくなってしまうと不動産ごと凍結される恐れがありますが、家族信託によりそのようなトラブルも防げます。親の生前から任意後見制度や家族信託を利用し、実家の処分をスムーズに進められるよう準備しておきましょう。
まとめ
- 空き家となった実家は所有しているだけでリスクがあるため、なるべく早く処分したほうがよい
- 実家を相続する場合は共有名義にしない
- 境界の確定や家族信託の利用など、生前から準備をしておくと相続後の売却がスムーズに進む
取材・文/サクラサクマーケティング株式会社
不動産・建設会社で土地有効活用のコンサルティング営業経験(6年)。賃貸住宅の建築提案営業を中心に従事。宅地建物取引士、FP技能士2級、日商簿記2級。不動産・金融系のライターとして不動産系メディアでの執筆実績多数。