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相続放棄ができない場合とは?対処法や相続放棄に失敗しないためのポイントを紹介

相続放棄ができない場合とは?対処法や相続放棄に失敗しないためのポイントを紹介

財産を相続することになったとき、被相続人に借金があるなどの理由で相続をしたくない場合があります。そのときに選択するのが、相続の権利をなかったことにする「相続放棄」です。しかし、「相続放棄」を家庭裁判所に申し込んでも認められないことがあります。

この記事では、相続放棄を確実にするための流れや注意点について、司法書士・石丸大樹さんにお話を聞きながら、詳しく解説します。
相続放棄が失敗しないように、事前に確認しておきましょう。

記事の目次

相続放棄ができない場合とは?

相続の疑問イメージ

(画像/PIXTA)

「相続」とは、被相続人(亡くなった人)から、資産や借金などの財産を引き継ぐことです。相続は、現預金や不動産などのプラスの財産ばかりではなく、負債や借入金、保証債務などマイナスの財産も引き継ぐことになります。そのため、借金が多いなどの理由からすべての財産を相続したくない場合は、「相続放棄」を選択します。

「相続放棄」とは、被相続人の権利・義務の一切を引き継ぐことの効果を、全面的に拒否する意思表示のことです。「相続放棄」をすると決めたら、家庭裁判所に「相続放棄」を申し込みます。申し込めば基本的に受理されますが、「相続放棄」ができない場合や認められない場合もあるのです。

以下では、どのような場合に「相続放棄」ができないのかを解説します。

単純承認が成立してしまっている

「相続放棄」ができなくなる理由のひとつとして、「単純承認」が成立していることが挙げられます。

相続が発生した時点で、相続人は以下の「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つから、相続方法を選択できます。

  • 「単純承認」は、資産や借金を含めて全財産を相続すること
  • 「限定承認」は、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続すること
  • 「相続放棄」は、相続の権利をなかったことにする手続きのこと

これらのうち、単純承認は申し込みの必要がありません。被相続人の財産の一部を使用・処分したり、一定期間(熟慮期間3カ月)が過ぎたりすると、自動的に単純承認したものとみなされます。単純承認が成立するとすべての財産を相続したことになるため、その状況で相続放棄を申し込んでも認められません。

「単純承認」が成立するおもなケースは、以下のとおりです。

  • 相続財産の譲渡や使用
  • 遺産分割協議書に署名・捺印した
  • 経済的価値のある遺品の持ち帰り
  • 預貯金の解約や払い戻し
  • 遺産の譲渡 など

なお、預貯金の払い戻しにおいて、葬儀費用を被相続人の財産から支払う場合、石丸さんは次のように注意を促しています。

「葬儀費用については、身分相応な葬儀であれば、被相続人の預貯金から支出しても大丈夫です。ただし、香典返しや墓石の購入などは、葬儀費用の支出と認められない場合もあるようです。そのため、相続放棄を検討している場合には、専門家に相談するなど慎重な対応が必要になります」(石丸さん)

そのほか、単純承認に該当するものとしては、貴金属などの経済的価値があるものの遺品の形見分け、被相続人の財産で被相続人の債務を支払う、被相続人名義の自動車に乗り続けたり売却したりするなどがあります。

熟慮期間が過ぎている

「相続放棄を選択するか、しないか」を決めるために設けられた期間を「熟慮期間」といいます。先述のとおり、熟慮期間が過ぎると「単純承認」を選択したとみなされます。

熟慮期間は、被相続人が亡くなったことを知り、自分が相続人であることを知ったときから3カ月間です。3カ月以内に相続放棄の申し込みを行なわないと、「単純承認」が成立し、相続放棄が認められなくなってしまいます。

石丸さんによると、相続放棄ができない理由として、この熟慮期間が過ぎてしまったケースも多いといいます。ただし、「相続財産がまったく存在しないと信じ(相続放棄の動機となる財産・債務の存在を知らなかった)、かつ、そのように信じたことに相当の理由があるときは、熟慮期間が経過していても、例外的に相続放棄が認められる場合もある」(石丸さん)とのことです。

例えば、生前の被相続人と10年以上交わりがなく、何も相続していない人が、被相続人が亡くなってから1年後に被相続人に借金があることを知った場合、借金があることを知った時点から3カ月以内であれば相続放棄が認められる場合もあります。なかには、30年以上経って、相続人として不動産の筆界特定制度(※)などの協力を求められ、それらの手続きに関わりたくはないため、相続放棄を求めて認められたケースもあるといいます。

※筆界特定とは、新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上、もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにすること。(法務省「筆界特定制度」より引用) いずれの場合も、ポイントは「相続財産がまったく存在しないと信じ(相続放棄の動機となる財産・債務の存在を知らなかった)、かつ、そのように信じたことに相当な理由があるとき」であり、「相続財産を引き継いでいない(単純承認とならない)」ことです。3カ月を過ぎていても、相続財産を何も受け取っていないなど、相続財産について何も知らなかった場合は、相続放棄が認められるケースもあるため、検討する余地があります。

ただし、相続人が複数いて、そのなかの誰かに被相続人の財産の調査を任せていた場合、次のようなポイントに気を付けましょう。例えば、調査を仕切る人に任せっきりにして、報告された資産や借金を鵜呑みにして話し合いを進めてしまうと、のちに知らなかった借金が発覚しても相続放棄が認められないケースがあります。

これは、熟慮期間を過ぎても相続放棄が認められる条件である「借金がなかったことを信じるに相当な理由があるとき」に該当しないためです。相続放棄をする場合でも、ほかの相続人に任せきりにせず、不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)や預貯金の通帳、郵便物といったものを一緒にチェックするなど、自ら調べておくことが大切です。

これまでお伝えしたとおり、例外はあるものの、熟慮期間は通常3ヵ月間です。相続放棄にかかわる手続きやその準備を考えると、3カ月は決して長くありません。相続放棄を決めるまでには、被相続人の財産の把握や相続人の確認などが必要ですが、それらがわかりやすく生前に整理されているとは限りません。そのため、相続放棄するかどうかを決定するまでに時間がかかることが考えられます。できるだけ早く財産内容や遺言書を確認し、熟慮期間が過ぎてしまわないように注意しましょう。

なお、相続財産調査に時間がかかるなど、3カ月以内にどうするか判断することが難しい場合には、家庭裁判所に申し立てをすることで、相続放棄の期限を延長(1カ月~3カ月程度)することができます。 ただ、この期限延長は必ずしも認められるものではないため、注意が必要です。

書類に不備がある

「相続放棄」は申述書と呼ばれる書類を家庭裁判所に提出しますが、申述書以外にも必要な書類があります。これらがすべてそろっていなければ受理されません。ここでは、相続放棄に必要な書類を紹介します。

  • 相続放棄申述書(書類は裁判所のホームページからダウンロードできます)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 被相続人の死亡時の戸籍謄本
  • 相続放棄する人の戸籍謄本

また、相続放棄の手続きでは以下の費用を納めなくてはなりません。

  • 収入印紙800円分(相続放棄する人1人につき)
  • 連絡用の郵便切手(提出先の家庭裁判所に確認)

なお、書類の提出先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。これらの書類をそろえて、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に手続きを行ないます。

相続放棄の流れとは?

故人の財産内訳を調べるイメージ

(画像/PIXTA)

被相続人が亡くなったことを知り、自分が相続人であることを知った時点から、相続放棄をどのような流れで行なうのか、簡単に解説します。

詳細は以下のページにてご確認ください。

suumo.jp

1.遺言書の有無を調べる

まず、被相続人が遺言書を残していないかを調べます。遺言は、被相続人の最終意思を尊重する制度のため、まずは遺言書の有無を確認する必要があります。

2.役所で被相続人の戸籍謄本を入手し、相続人を確認する

遺言書の有無を確認するのと並行して、役所で被相続人の戸籍謄本を入手して、法定相続人について確認します。何らかの事情があって家族の知らない相続人がいる可能性もあります。遺産分割協議は、相続人全員で行なわなければ無効になってしまうため、必ず被相続人の戸籍謄本で確認しましょう。

3.被相続人の財産の内訳を調べる

「相続放棄をしてからプラスの財産があることがわかった」ということがないよう、被相続人の財産をすべて調べましょう。現金や預貯金のほか、不動産や有価証券などのプラスの財産と、ローンや買掛金、保証債務などのマイナスの財産もすべて調べましょう。被相続人の郵便物や資料のほか、電子化されているものもあるため、パソコンなども調べます。

4.相続財産の評価額を算出する

現金や預貯金以外の、価値が変動する不動産や有価証券、自動車などの財産は、評価額を算出します。換金するタイミングによって価値が変動するものは、被相続人の死亡日を基準にする、不動産は路線価や固定資産税の評価額をもとにするなど、財産の種類によって評価額の算出方法が決まっています。

5.相続財産の分け方を考える

前の項目まで調べたうえで、財産の分け方を考えます。

ただし、石丸さんは「遺産分割協議書に合意(署名や押印)することも、単純承認とみなされてしまう可能性があります」と指摘します。「財産を取得しない場合でも、相続放棄を検討しているなら、遺産分割協議書に合意(署名や押印)しないほうがよいでしょう」(石丸さん)

なお、遺産分割協議書に遺産を相続しない旨が書かれていても、法的な相続放棄とは認められないため、相続放棄は家庭裁判所に申し込む必要があります。

相続放棄できない場合の対処法はある?

専門家に相談するイメージ

(画像/PIXTA)

家庭裁判所に申し込んだ「相続放棄」が認められなかった場合は、どうすればよいのでしょうか。

相続放棄不受理の通知があった場合、通常なら先述の「単純承認」が成立していたり、3ヵ月を過ぎていたりするなど、認められない理由があるはずです。しかし、その理由が妥当ではないことを明らかにする書類がそろえば、「不服(即時抗告)の申し立て」を行なえます。

不服の申し立てをする場合は、相続放棄不受理の通知が届いた翌日から2週間以内に行なう必要があります。また、個人で不受理の決定を覆すだけの書類をそろえることは難しいため、弁護士に相談するのが一般的です。

相続放棄に失敗しないためには

相続放棄のイメージ

(画像/PIXTA)

ここまで相続放棄ができない場合と、相続放棄の流れ、相続放棄の申し込みが認められなかった場合の対処法を整理しました。ここからは相続放棄で失敗しないために気を付けるポイントを解説します。

相続財産調査を行なうようにする

相続放棄を行なうためには、被相続人の財産をできるだけ漏れなく調べる必要があります。その理由について、石丸さんは次のように説明します。

「相続放棄は、家庭裁判所への申述書が受理されてしまうと撤回ができません。相続放棄後に財産があると発覚したとしても相続できなくなってしまいます。そのため、積極財産と消極財産(※)をしっかりと把握してから、相続放棄を行なう必要があります」(石丸さん)

※積極財産:現預金や債券、固定資産など、金銭的価値のあるプラスの財産のこと
 消極財産:借入金や買掛金などの負債で、マイナスの財産のこと

相続財産調査の一般的な方法として、被相続人が保管している資料のほか、郵便物や電子メールの内容、銀行口座のお金の動きなどから調査します。いきなり専門家に依頼するのではなく、まずはそういった資料や情報を集めましょう。

相続財産調査が不十分だと、あとから資産や借金が見つかってしまうことがあります。そのときに相続放棄をしておけば良かった(または、相続放棄をしなければ良かった)ということにならないよう、財産の内訳を生前に被相続人に聞いておくなどのコミュニケーションをとっておくことも大切です。

石丸さんは「被相続人が自営業・会社経営をされていたような場合は、個人で借金をしていたり保証人になっていたりするケースも考えられるため、より慎重に調べたほうがよいでしょう」といいます。借金がどの程度あるか被相続人や担当税理士に聞いておくなど、事前に話ができていれば、相続財産調査が進めやすくなります。

このように、相続財産調査は基本的に相続人が行ないます。しかし、石丸さんは「相続争いが考えられるケースなどでは、それを見越して弁護士に相談したり、書類作成が面倒な場合なども相続手続きに詳しい司法書士に依頼したりするのがよいでしょう」とアドバイスしています。

相続人の資産や借金などには手をつけないようにする

先述のとおり、被相続人の資産や借金などに手をつけてしまうと、単純承認が成立したことになり、相続放棄ができなくなる可能性が高くなります。そのため、相続放棄を検討されているなら、被相続人の資産や借金には手をつけないようにしましょう。

仮に負債が多くある場合、債権者からすると、相続人の相続放棄を認められないようにして、負債の返済を相続人にしてもらいたいと考えます。相続人が相続放棄を行なったあとでも、すでに単純承認が成立して相続放棄はできないはずだ、と債権者が主張してくることも考えられるでしょう。

「単純承認に該当する行為ではないかと疑われないように、相続放棄をするか否かを検討している場合には、被相続人の資産や借金には手をつけないほうが良いです」(石丸さん)。

相続が発生する前から対策をしておく

もし、被相続人に負債があることがわかっている場合、相続が発生する前に被相続人・相続人が行なえる対策としては、例えば、被相続人が生命保険に加入して、相続させたい人を受取人にすることや、被相続人が相続させたい人に生前贈与をすることなどが考えられます。

ただし、「すでに被相続人に負債があることを、相続人もある程度わかっている場合などは、生命保険金や生前贈与について、債権者から詐害行為取消権(※)を行使されてしまうこともありうるのかな、と思います。贈与税や相続税も絡んでくるので、慎重に検討することが大事だと思います」(石丸さん)。

※詐害行為取消権:債務者が債権者を害することを知って行なった行為について、債権者が取り消しを請求できる権利のこと

相続人ができる対策としては、被相続人の財産内訳について聞いておくこと、誰が相続予定者なのか把握しておくことなどが挙げられます。

まとめスーモくん

  • 相続放棄は、受理されたあとは撤回できないため、相続財産調査をしっかりと行なう
  • 相続を知った日からできるだけ早く行動を起こし、熟慮期間の3カ月が過ぎてしまわないようにする
  • 単純承認が成立してしまわないように、被相続人の資産や借金には手をつけない

取材・文/おおたひろこ

●取材協力・監修/石丸大樹さん
2004年司法書士試験合格。2005年より上條司法書士事務所にて司法書士として活躍中。
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