
2020年、東京都江東区の投資用ワンルームマンションを売り出したSさん。コロナ禍で個人の購入希望者を見つけるのは難しいと、法人をターゲットに売却活動を進めることに。目標の年内売却は果たせませんでしたが、売り出しから6カ月目に買い手が現れます。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都江東区 |
| 築年数 | 12年 |
| 間取り・面積 | ワンルーム・約23m2 |
| ローン残高 | 約1450万円 |
| 査定価格 | -- |
| 売り出し価格 | 1800万円 |
| 成約価格 | 1750万円 |
目的だった節税効果が薄れ、手間を減らすため売却へ
2021年に所有していた不動産を売却したSさん。物件は、東京都江東区にある築12年のマンションです。
「区分所有のワンルームマンションを新築で購入し、サブリースしていました。今は独立して仕事をしていますが、当時は会社員でそれなりに収入があり、税金があまりにも高かったので、節税を目的に不動産投資を始めたというわけです。しかしマンション購入による節税効果は年々減少。築10年を過ぎた頃から、そろそろ売却時期ではないかなと考えていました」
Sさんの物件は最寄駅から徒歩5分に立地。購入時にインターネット上の地図で場所を確認したものの、現地には一度も足を運んだことがなかったといいます。
「いよいよ売却しようと決めたのは2020年です。その頃、私はとにかく仕事が忙しく、税金の控除を受けるための確定申告が面倒になっていました。節税のメリットが減り、負担のほうが大きくなってきたので、もう所有していてもあまり意味がありません。早く売って負債を減らすほうにシフトすることにしました」
物件を購入する際にSさんは返済期間30年のローンを利用し、残債が1450万円あったそうです。
「周辺相場は上がってきていたので、売るタイミングとしては悪くない。残債以上の価格で、大きな損も得もなく売却できるだろうと考えていました」
査定は取らず、物件をよく知る会社に仲介業務を依頼
具体的に売却を考え始めたSさんは、ある日、一本の電話を受けます。聞いたことのない不動産仲介会社からだったといいます。
「普段は知らない電話番号には出ないのですが、たまたま出たら、あなたの物件を購入したい人がいますが売る気はないですかという内容でした。なかなか礼儀正しく好感の持てる相手だったこともあり、一度会って話を聞くことにしました。会社の内容や購入希望者について詳しく話を聞いて、一度はその会社に売却を任せてみようと思ったのですが……。結局、購入希望者が資金を調達できなかったため、その話は流れてしまいました」
Sさんは、売却をどこに依頼するか、もう一度考え直したそうです。
「購入時にその物件を私に紹介してくれた会社に依頼することにしました。投資用の物件を専門に扱う不動産仲介会社です。営業担当者とは購入依頼ずっと付き合いが続いていて、そろそろ売却を考えていい時期ですよと少し前にアプローチがあったところでした。長い付き合いで、信頼関係ができていたことが決め手ですね。
他にもいろいろ売却に関する案内をいただいて、なかには2000万円以上で売りますなど具体的な数字を出してくる会社もありましたが、話を聞いてみようという気にはなれませんでした。それほど多忙でなければ不動産情報サイトの一括査定を試したかったのですが、後から複数の会社から電話がかかってきても対応しきれないので、利用しませんでした」
2020年7月、Sさんは不動産仲介会社と専任媒介契約を結びました。
「営業担当者には年内を目標に、できるだけ早くに売ってほしいと伝えました。少しでも早く物件を手放して、投資物件に関わる手間と時間を省きたかったからです。とはいえ、コロナ禍という先行きが見えない状況で売却活動がうまくいくだろうかという不安もありました」
価格を変更して2カ月後に購入を希望する法人が現れる
売り出し価格をいくらにするかは、不動産仲介会社のコンサルタントと営業担当者の3者ですり合わせて決めたそうです。
「私としてはインターネット等で周辺相場を調べ、1800万円なら買い手が見つかるだろうと思ったので、それを不動産仲介会社にぶつけてみました。希望は1800万円以上、できるだけそれに近い金額で売りたいと伝え、まずは1800万円で売り出すことになりました」
2020年7月、Sさんの物件は1800万円で売り出されました。
「営業担当者によると、個人はローン審査が通らないケースが多いので、法人向けに売り込むということでした。おそらく関連会社の営業所の店頭にも私の物件の情報が掲示されたと思います。売り出し後は営業担当者から電話やメールでこまめに報告をもらい、1カ月に1度は対面で状況確認がありました」

しかし、売り出しから3カ月たっても購入希望者は現れなかったといいます。
「営業担当者からは、買い手を見つけるのが難しい状況だと報告がありました。そして、売り出し価格を1750万円に変更しませんかという提案が。大幅な値下げは考えていませんでしたが、50万円ぐらいなら下げてもいいだろうと同意しました」
2020年11月、Sさんは売り出し価格を1750万円に変更しました。
「その後も反響はなく、目標にしていた年内の売却は叶いませんでした。ああ、また確定申告をしなければならないのかと、うんざりしたのを覚えています。とはいえ、特にあせりはありませんでした。築10年を超えた物件はメンテナンスの費用がかさみ、賃貸していても収益はさほど望めないので、もし売れなければ自分で仕事場として使うか、子どもに使わせればいい。残債は残るけれど、他の資金を回して何とかやりくりできるだろうと考えていました」
そして2021年1月、価格を下げた2カ月後についに購入希望者が現れました。
「買い手は投資用不動産を幅広く扱う法人です。値引き交渉はなく、1750万円で購入を決めてくれました。その後の流れはスムーズで、2月に売買契約を結び、4月に物件を引き渡しました。やっと確定申告から解放されると、スッキリしましたね」
節税は達成、ほぼ希望の価格でタイミングよく売却できた
売却活動全体を振り返って、Sさんは「まあ満足しています」と答えてくれました。
「時間はかかりましたが、価格は予想通り。節税の目的は達成できたし、まずまずのタイミングで売れたと思います。コロナ禍で個人の買い手を見つけるのは厳しい状況だったことを思えば、上出来かもしれませんね。
不動産仲介会社はよくやってくれたと思います。こまめに報告をくれたのはもちろんのこと、売り出し価格のアドバイスや物件を売却した場合の収支計算、確定申告のサポートも買って出てくれました。ただ、もう少し時間に余裕があれば、一括査定を利用してどんな価格が提示されるのか見てみたかったし、不動産会社を比較検討するべきだったと思います」
Sさんは同時期に、もう1物件、所有していたマンションを売却。やはり個人の買い手は見つからず、不動産会社の買取になったそうです。
| 2020年7月 | ・不動産仲介会社と専任媒介契約を結ぶ ・1800万円で売り出し |
|---|---|
| 2020年11月 | ・1750万円に価格を変更 ・購入希望者が現れるが、銀行の融資が下りず契約に至らない |
| 2021年1月 | ・購入希望の法人が現れる |
| 2021年2月 | ・売買契約を結ぶ |
まとめ
- 信頼できるパートナーを選ぶには比較検討が大事。時間が許せば複数社から査定を取ろう。
- 反響がなければ値下げを検討。価格はいくらまで譲れるか事前に考えておきたい。
- 買い手が法人であればローン審査はなく、契約までがスムーズ。前向きに検討しよう。
取材・文/小宮山悦子 イラスト/松尾達


