不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

きょうだい3人で相続した港区の駅前ビル。あっという間に買い手がつく/東京都港区Sさん(60代)

東京都港区Sさん(60代)/きょうだい3人で相続した都心のビルを売却。あっという間に買い手がつく

母親が亡くなり、東京都心に立つビルの1、2階部分をきょうだい3人で相続したSさん。2019年、都内の不動産が高騰してきたことから売却を決意しました。港区の駅近、オリンピック前と、場所と時期に恵まれ、短期間かつ希望の価格で売却することができました。

不動産区分 ビル1階(店舗)、2階(事務所)
所在地 東京都港区赤坂
築年数 約35年
間取り・面積 1階…約28m2、2階…約28m2
ローン残高 なし
査定価格

1階…約4400万円、2階…約2800万円

売り出し価格 1階…約4400万円、2階…約2800万円
成約価格 1階…約4400万円、2階…約2800万円

母の墓参りで集まったとき「そろそろ売ろう」ときょうだいで話し合い

7年前に母親が亡くなり、東京都港区のビルの1、2階部分を、姉、弟と3人で相続したSさん。1階は店舗、2階は事務所として賃貸に出し、3人で家賃収入を分割していました。
しかし、2019年に3人で母親の墓参りをした際、そろそろ売ってはどうかという話になったそうです。

「もともと祖母が持っていた土地にビルを建て、1階で母が喫茶店をやっていました。きょうだいが顔を合わせないとなかなかそういう話題にはならないのですが、年1回のお墓参りで3人揃ったときに誰からともなく言い出しました。都内の不動産が少し高騰してきたこともあり、3人とも異論なく売却に合意しました」

当時、Sさんの家賃収入は1階が28万円、2階が12万3000円。両方で30万円以上になります。
家賃収入と売却を天秤にかけ、売却を選んだと言います。

「賃貸に出していると、管理費の徴収や税金の申告など何かと手間がかかります。相続してからずっと借り手がついていたのでコンスタントに収入がありましたが、今後はどうかわかりません。姉は三重県、弟は神奈川県、私は愛知県に住んでいました。ビルのある東京都港区は住まいから遠く、所有しているのも何かと大変だと感じるようになっていたんです」

相続人3人で売却を相談

東京の不動産市場に詳しくないため、一社に任せず複数の会社に依頼する「一般媒介契約」を選択

2019年8月にSさんは売却活動をスタートしました。
不動産仲介会社とのやりとりを一手に引き受けたのはお姉さんです。

「姉は建築士で不動産のことはきょうだいの中では一番よく知っています。ビルを建てるときも母の相談に乗っていましたし、その後、母を引き取って面倒もみました。長女なのでしっかりして、すっかり姉にお任せでした。弟は全く動きませんでしたが、口出しも一切しませんでした(笑)」

3人3様の関わり方で売却活動を進めたSさんきょうだい。東京の事情に詳しい不動産仲介会社に査定を依頼したそうです。
査定額は1階が約4400万円、2階が約2800万円。

「とにかく3人とも不動産の売却は初めてのことなので不動産仲介会社にお任せしようということになりました。ただ、東京の不動産市場が分からないので、1社に任せる専属専任媒介契約ではなく、複数の不動産会社に依頼できる一般媒介契約にすることを決めたと姉から聞きました」

売り出し開始後、即、買い手が現れ、希望の価格で売却

8月に売り出しを開始しましたが、1階、2階ともにあっというまに買い手が見つかり、9月には売買契約を結ぶことができたそうです。

「1階の店舗と2階の事務所は違う不動産会社のお客さんが購入されました。ふたつとも売り出し価格通りの金額ですんなり売れたそうです。特に下げて欲しいといった価格交渉もなかったですね。一般媒介契約にしたので、複数の不動産会社が内見希望者をつれてきてくれたので早く売れたのかもしれません。当時住んでいた愛知県の近所の不動産に聞いてみると、『相場からみても、いい値段じゃないですか』と言われたので、私も異論はありませんでした」

もちろん立地、売り出しのタイミングの良さもスピーディーな売却の要因であったことは間違いありません。
「『虎ノ門ヒルズ』の新たなタワーの完成が予定されていたり、地下鉄の駅の入口が近くにできることになったりと、タイミングが良かったと思います。オリンピックで東京都内の整備がどんどん進み、需要も大きかったのでしょう」

■共有名義の不動産売却

親の遺産をきょうだいで相続したり、夫婦が共有名義で不動産を購入するなど、不動産が共有名義になっているケースがあります。
共有名義の不動産は名義人の中で1人でも反対している人がいると売却できないため、売却の際は十分な意思疎通が必要です。
もし共有名義の不動産を売却したいと考えたなら、まず売却について共有名義人と相談することから始めます。
全員の承諾を得て売却可能になった場合は、名義人数分の意思確認と書類が必要になります。
売却によって得た利益は持ち分割合に応じて分配します。
また、不動産を各名義人から持ち分を購入し、所有者一人の名義にしてから売却する方法もあります。
さらに、共有名義の土地の場合は共有持ち分に応じて土地を分筆することで、分けられた土地を単独名義にし、持ち分の土地を売却する方法があります。

恵まれた立地とタイミングが、スピーディーな売却の決め手に。売却資金で都内のマンションを購入!

売却活動を振り返ってSさんは「時期的に恵まれていた」と言います。
「交通網もどんどん良くなり不動産価格がどんどん上がっていく時期でした。もし母が亡くなった直後だったらもっと安い価格だったかもしれません」
さらに、きょうだい3人が仲良く連携が取れ、誰からも売却価格などに異論が出なかったことも大きな要素だったでしょう。
Sさんは売却で得た資金で2021年、東京都多摩市にマンションを購入したそうです。

「遺産を売却して資金もできたので、娘や孫のいる都内に新居を買って引っ越しました。昨年はコロナ禍の真っ只中だったため実際に内見ができず、リモートで部屋の様子を確認してマンションを買ったんですよ。生まれ育った東京は友達も多く、孫もそばにいて、今が一番楽しいですね」と心からの笑顔で話してくれました。

2019年8月 ・不動産(ビルの1、2階部分)売却を決意
・売却価格査定/1階…約4400万円、2階…約2800万円
・不動産会社と一般媒介契約を結ぶ
・査定額と同額で売り出し
2019年9月 ・購入検討者が現れる
2019年11月 ・売り出し価格と同額で売買契約を結ぶ

まとめ

  • 不動産仲介会社と結ぶ契約には一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類がある。それぞれのメリット、デメリットを知り契約を結ぼう。
  • 遠方からでも不動産売却は可能。信頼できる不動産会社を見つけることが大事。
  • 大型商業施設の誕生や新駅の開業などが予定されていると、不動産価格が上昇することもある。売り出し時期の見極めが大切。

取材・文/浅野真由美 イラスト/杉崎アチャ

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