
東京都港区のAさんが以前住んでいた築40年のマンションは、メゾネットで150m2・4LDKという広い住戸。住環境は気に入っていたので変えたくないものの、建物の老朽化が目立っていたので、この10年ほどはずっと近隣の物件情報を気にかけながら暮らしていたといいます。そんなとき、近所で新築マンションの「建築計画のお知らせ看板」を見つけたことで、いよいよ本腰を入れて買い替えを進めることになりました。しかし、古くて広すぎるマンションに買い手がつくか不安だったといいます。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区 |
| 築年数 | 約40年 |
| 間取り・面積 | 4LDK・メゾネット(約150m2) |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 6200万円~7200万円 |
| 売り出し価格 | 7000万円 |
| 成約価格 | 7000万円 |
近所にマンションの「建築計画のお知らせ看板」を発見。長年の課題となっていた買い替えに本腰
Aさん(60代)は、子どもが生まれたのを機に初めてマンションを購入した1978年から、ずっと東京都港区で暮らしています。最初に新築で購入したマンションは、約62m2のメゾネット・2LDKでした。2000年ごろ、同じマンションに住むオーナーから、1階の自宅兼事務所として使っていたオーナーズルームを買わないかと声がかかり、マンション内で買い替えました。かなり細かく仕切られた間取りだったので、ゆったりとした4LDKにリノベーションしたそうです。このころの買い替えは、主に夫が担当していたので、Aさんの経験値にはなりませんでした。
「このマンションは、立地はとても気に入っていました。都心にありながらも、緑が多く、大通りから1本奥に入った静かな環境です。最初にマンションを買った当時は、近くに駅がなく、交通手段はバスだったのですが、40年も暮らすうちに、都営三田線や都営浅草線、南北線の開通など、どんどん電車が使いやすくなっていきました。今では最寄駅まで徒歩10分です。ただ、リノベーションして暮らしていた家も、セキュリティ面などマンション自体のスペックやネズミ被害など、古さや不便さが目立つようになりました。この10年くらいはずっと買い替えを意識していましたが、やはり住むならこのエリアでと思っていたので、チラシを見たり、空き地があれば何が建つのか確認したり、インターネットで近隣の情報収集をしたりしていました」

そんな折、家から徒歩5分程度の空き地にマンションの「建築計画のお知らせ看板」を見つけました。最寄駅は隣の駅になりますが、駅からは徒歩4分。住んでいるマンションと同じような、緑のある落ち着いた環境で、総戸数は30戸ほどのこぢんまりとした物件です。8階以上は1フロアに1邸というプライベート感のあるつくりで、住戸の広さは約120m2あります。Aさんと同居している長女はとても気に入り、それまで買い替えを意識していなかった夫に買い替えの提案をしたそうです。そのため、今回の買い替えは、主にAさんが担当することに。ちょうどAさんの実家を整理して遺産を相続したり、売却できる長女名義のマンションがあったりでまとまった資金の調達も可能でした。今回売却の長年住んでいたマンション(夫名義)の売却価格と併せて、3人の共有名義でキャッシュ購入することになったといいます。
古くて広すぎる物件は、価格よりも条件を優先した売却活動に
買い替え先の売買契約を締結したころ、売却活動を開始したAさん。まずはインターネットの一括査定サービスを利用し、数社の訪問査定を受けました。並行して、実家の売却時に相談したことがある不動産仲介会社にも訪問査定を依頼しました。査定価格は6200万円~7200万円と1000万円の開きがありましたが、話した感じはどこも似た感じの印象だったので、実家の売却で知り合ったときに好印象だった大手仲介会社に頼むことになったといいます。
売り出し価格は、値引き交渉に備えて数百万円程度上乗せするよう不動産仲介会社からアドバイスされることが多いもの。しかし、Aさんのマンションは、古く、かなり広い間取りだったので、需要が見込みにくく、査定に応じてくれたどの不動産仲介会社からも、状況は厳し目だと聞いていました。そこで、売却は価格よりも条件を重視することにしたといいます。契約した新居は、竣工までに1年半近くあったので、それまでは住み続けられるよう、引き渡し時期を待ってくれることを絶対条件としました。Aさんは「静かな住環境を気に入ってくれる人は必ずいる」と信じて、周囲の相場に溶け込むような値付けを意識した7000万円で売り出しました。
反響は上々。引き渡しを1年半待ってもらうため、手付金の金額は譲歩。
需要がどれほど見込めるか不安がある中でスタートした売却活動でしたが、ふたを開けてみれば反響は悪くなかったそうです。
「買い手がつけばラッキーくらいの気持ちでしたので、しばらく反響がなければ価格を下げることも検討しようと思っていました。不動産仲介会社からは、1週間に1回、売却活動の報告と反響の定例報告があるのですが、ぽつりぽつりと問い合わせが入ったと報告がありました。具体的な売却活動は、WEBサイトへの情報アップとチラシです。内見も5組程度対応しました。生活している場なので、少し片付けをしてお見せする感じで、特別なクリーニングなどはしていません。見に来てくれた方は、周辺環境の魅力を理解している、近隣エリアに住む子育てファミリーが多かったように思います」
一般的に、買い先行の不動産売買の場合、売却額が住宅ローンの借入額に影響したり、売れるまでに時間がかかることによるダブルローンを心配したりと、お金周りが煩雑になります。ですが、Aさんは、長年住んでいた家の住宅ローンは完済し、相続などでまとまった資金を用意できていました。当初、夫からは、住んでいる家を売却せずに賃貸で回し、新居の購入費には住宅ローンも使っては、と提案されましたが、住宅ローンを使うのは手間がかかるし利息がもったいないと考え、売却するよう説得しました。今回は、売る物件・買う物件のどちらにも住宅ローンがかかわらないため、価格についてはシンプルに「新居の引渡しまでに売れる価格」と考えることができました。お金周りの不安は感じていなかったといいます。 幸い、買主からの価格交渉はなかったそうですが、引き渡しまで1年半近く待ってもらうという絶対条件を受け入れてもらうため、手付金1500万円を1000万円にする減額交渉には応じました。
■手付金の定義と金額の目安
手付金とは、土地や建物など不動産売買契約締結の際に買主から売主に渡すお金で、現金で支払うのが一般的です。買主にとっては「買う」という意思表示になります。もしも売買契約締結後に買主都合で契約を破棄する場合には、支払った手付金は戻ってきません(ただし、買主が「住宅ローンの審査落ち」によって契約を解除する場合は、特約があれば返却される)。逆に、売主都合での契約破棄の場合は、買主に手付金の返還&手付金と同額の支払い(つまり手付金の2倍の金額)が発生します。 手付金は、金額に法的なルールはなく、売り主と買い主の合意で設定します。相場は、不動産の売買金額の5%~10%程度です(売主が不動産仲介会社の場合は、価格の2割以内と法律で上限が定められています)。 なお、手付金は、売買代金に充当されますので、引き渡しの際には手付金を除いた分の残金決済となります。
買いたい気持ちが原動力に。信頼できる不動産仲介会社にお任せして、心配事もなし
今まで、不動産売買を主体的に行ったことがなかったAさん。今回は、どうしても手に入れたいマンションが見つかったことが、積極的に売買活動を進める原動力になったといいます。基本的な情報はインターネットで調べ、売却のパートナーは、過去に知り合った自分の伝手から信頼できる相手を選びました。
「おそらく、売り出してからはさまざまなお問い合わせがあったと思います。でも、購入検討者への対応で、私がストレスを感じたことは一切ありませんでした。きっと、不動産仲介会社の担当者がうまく答えてくれていたんじゃないかなと思います。また、買主からは一刻も早く入居したいから、私たちが新居に引っ越した当日にクリーニングを入れてよいかというお話がありました。年末だったので、年内に引っ越しをしておきたかったようです。ずいぶんお待ちいただいたんだな、とありがたく思いました」
不動産仲介会社と買主への感謝を述べるAさん。今回の一連の売買に点数をつけるとしたら、満点以上ですね、と満足そうに振り返っていました。
| 2018年5月 | ・住み替え先の物件決定 ・売却活動開始 ・不動産仲介会社と専任媒介契約を結ぶ ・7000万円で売り出し |
|---|---|
| 2018年8月 | ・購入検討者が現れる |
| 2018年9月 | ・7000万円で売買契約を結ぶ |
| 2019年12月 | ・住み替え先の物件が竣工、新居へ引っ越し ・物件を引き渡し、売却活動終了 |
まとめ
- 新居の入居時期に合わせた売却スケジュールを立てる
- 不動産仲介会社は査定価格だけで評価せず、安心して頼れるパートナーを選ぶ
- 引き渡し時期など譲れない条件と、譲ってもいい条件をしっかり決めてから交渉する
取材・文/竹入はるな イラスト/めんたまんた


