不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

知らない街の不動産5つを相続。手探りで挑んだ「借地権土地」の売却活動/東京都清瀬市Hさん

埼玉県に住むHさんが売買したのは、父から相続した東京都清瀬市の借地権付き土地(底地)と駐車場の併せて五つの土地。実は、この土地は父も相続で得たもので、Hさん自身は清瀬市に地縁はなかったといいます。突然の相続に借地権という特殊な土地。Hさんは不安がいっぱいだったといいます。

東京都清瀬市Hさん(60代)/借地権付き土地5つを相続。3年以内にすべて売却して相続税を軽減したい

不動産区分 借地権付き土地(底地)、月極駐車場
所在地 東京都清瀬市
築年数
間取り・面積 土地A:179m2(借地権付き土地)
土地B:168m2(借地権付き土地)
土地C:209m2(借地権付き土地)
土地D:189m2(月極駐車場(土地))
土地E:87m2(借地権付き土地)
査定価格
売り出し価格 ※1件ずつ先方の希望に合わせた価格で売却
成約価格 土地A:1370万円で借地権買戻し
土地B:900万円で売却
土地C:2200万円で売却
土地ADE:合わせて5900万円で売却

借地権付き土地の相続をきっかけに、ずっと管理を依頼していた不動産会社とコンタクト

2018年12月、父の逝去に伴いHさんが相続したのは、東京都清瀬市の借地権付き土地。父も相続で得た土地で、Hさん自身は清瀬市に地縁はありませんでした。父の生前から借地権付き土地を相続するのは大変だと思っていたので、何度か生前の売却をお願いしてみたことはあったそうですが、父にとっては思い出深い土地。地代(借地料)収入も見込めるので、結局手放すことはありませんでした。

「父にとっては地代の管理を依頼していた不動産会社の方も長年の友人でしたし、地元との縁を大切にしたかったんだと思います。でも、私は『借地権付き土地って売るのが難しそう』と相続時は不安でいっぱいでした」

実は、相続する少し前に、借地権付き土地の一つで暮らしていた高齢者が亡くなり、遺族から「住む人がいないし、地代も払えないから、借地権を買い取ってほしい」と言われていたといいます。ただし、そのころには父の意識がなく、売買契約ができない状態だったため、自分が相続するまで待ってもらい、2019年3月に179m2の土地の借地権を1370万円で買い取りました。借地権付きの土地は、借地人は借地権を相続することも可能ですし、土地から離れたいとなれば、借地権を第三者に売却したり、土地の所有者に買取を要請したりできるものです。Hさんは、所有する土地ではあるものの、自分の意思と関係ないタイミングで借地権を大金で買うことになり、いきなり大変なことに巻き込まれた感じだったそうです。

相続した土地は、最寄駅から徒歩10分以内の場所にある三つの借地権付き土地(約179m2、約209m2、約87m2)と月極駐車場(約189m2)一つ、駅からバスで10分くらいの場所にある借地権付き土地(約168m2)一つの五つ。まずは長年地代の管理をお願いしていた不動産会社と連絡を取るところからスタートしました。

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お付き合いのあった不動産会社のつてで信頼のおける不動産会社に巡り合う

相続した土地のことを相談しようと、父が懇意にしていた地代を管理している不動産会社に連絡しました。ところが、こちらも高齢で体調を崩し、店をたたむという話に。この不動産会社のつてで、Hさんは借地権付き土地にも慣れた、信頼のおける地場の不動産会社を紹介してもらうことになりました。

「不動産売買のことが何もわからない中で、とりあえず信頼のおけるパートナーに出合えたことは安心材料になりました。不動産会社も私も、相続した土地に特別な思い入れはありませんから、心機一転、シンプルに3年以内に売却を終了する目標に向かっていけました。まずは借地権を持つ人に登記の名義人変更を知らせてもらい、同時に売却の意思があることを告知してもらいました」

借地権付き土地の売却は難しく、一番良い売却先は借地権をもっている住人(借地人)です。売却の意思に対して、最初に所有権を取得したいと意思表示をしてくれたのは、最寄駅から離れたバス便エリアの土地に長年住んでいる人でした。家を建て直すのを機に土地を所有したいということでした。約168m2の土地の底地権に900万円の提示があったので、2020年5月に売却しました。
次に購入の意思を伝えてくれたのは、ちょうど更新の時期を迎えた、駅から徒歩10分くらいの土地に長年住んでいた人です。自分たちも高齢になり、将来の相続の煩雑さなどを考えて、今回は更新ではなく土地を所有したいという意思表示がありました。こちらは約209m2の土地の底地権に2200万円の提示があり、2020年8月に売却しました。

あとは、月極駐車場にしている土地と、借地人が亡くなり借地権を買い戻した土地、それから高齢女性が借地人の土地の計三つです。この三つは、駅から徒歩10分程に位置し、つながった土地です。

残りの三つの土地は、不動産会社がまとめて買い取りを希望

残りの土地の一つ、月極の駐車場は、売却を見越して新規の募集は止め、更新は不可と伝えていました。もう一つは借地権を買い取った土地なので、どちらもいつでも売却が可能な状態です。2021年になり、売却のパートナーであった不動産会社から、建売住宅をつくる土地を探しているので、残りの3つの土地をまとめて買い取りたいという提案がありました。3つをまとめると、土地の広さは約455m2。5900万円の提示でした。

「3つのうち一つに、長年おばあさんが住んでいる土地があります。不動産会社は、当初は地上げを考えていたようですが、おばあさんの意向を確認したところ、このままずっと住み続けたいという返事があったそうです。私たちも長年住んでくれている人の気持ちは尊重したいと思っていたところ、不動産会社から「おばあさんが暮らすうちは周りの土地だけ先に建売の開発を進める」という回答がありました。おばあさんが住む土地については、底地権の所有者が変わるだけという形で決着しました。すべての人にとってWIN-WINだったと思います。後で聞いたところによると、建売はあっという間に売れたようですよ」

借地権付き土地の売却イメージ

2021年5月、不動産会社と売買契約を結び、7月に引き渡し。相続した五つの土地の売却は完了しました。

■借地権付き土地とは

土地の所有者(地主)から土地を借り、その上に借地人が所有する建物を建築することができる権利「借地権」が設定されている土地のことを、借地権付き土地といいます。同じ土地を表す言葉ですが、土地の所有者の立場で見たこの土地は「底地(そこち)」、家を建てた借地人の立場から見た土地は「借地」といいます。借地権付き土地は所有権の土地よりも安く設定されていますが、借地人は地主に月々の地代を払います。土地についての固定資産税や都市計画税は地主、建物についての税は借地人が負担します。
借地権は、更新ができれば長期的な賃借が可能です(普通借地権の場合、最低期間が30年以上で、初回更新時は20年)。地主が更新を断るためには「正当な事由」を示す必要がありますので、借地人が一方的に立ち退きを迫られるような事態は考えにくく、借地人は守られた立場です。
借地権付き土地は、所有権、借地権のどちらも相続や売買も可能ですが、所有権の土地より制約が多く、手続きが複雑です。そのため、売却の場合は、地主が土地を手放したいときは、まずは賃借人に、賃借人が借地権を売却したい場合は地主に、買取を持ちかけるのが一般的です。その他の売却先としては、不動産会社などの法人が多いでしょう。いずれの場合も、所有権の土地よりも安い価格での取引となります。

積極的に売却先を見つけにくい借地権付き土地。3年以内に完了して一安心

とにかく不安でいっぱいの中スタートした、Hさんの相続地の売却活動。借地権付きという特殊な土地で、一般的な売却活動のように広く買い手を求められるものではありません。積極的な打ち手が見つけにくい中、目標の3年以内に売却が完了して、ホッとしているといいます。

「借地人への告知や交渉などは、不動産会社の方がスムーズに進めてくれて助かりました。借地権付き土地の売却は、金額的には不利になることがわかっていたので、提示された金額に対して交渉するような気持ちのゆとりもありませんでした。でも、とにかく今は肩の荷が下りてうれしい、という気持ちです」

スムーズな交渉の上、まとまった金額で買い取りまでしてくれたので、パートナーとなった不動産会社には感謝しかありませんと語るHさん。

「3年以内に売却すると税金の優遇があると聞いたので、期間内の売却を目指しました。まあ、実際に申請してみたら、大した額ではなかったんですけどね」

Hさんはそう言って笑っていましたが、それ以上に、見据えた期限内で不安から解放されたことがうれしかった、と晴れやかに語る姿が印象的でした。

2018年12月 ・五つの土地を相続
2019年1月 ・不動産会社を紹介される
・借地権所有者に登記人名義変更の告知、売却の意思を伝える
2019年3月 ・借地権所有者死去に伴い借地権を1370万円で買い戻し
2020年5月 ・約168m2の土地の借地人に900万円で底地権を売却
2020年8月 ・約209m2の土地の借地人に2200万円で底地権を売却
2021年1月 ・不動産会社が残り三つの土地をまとめて購入したいと提案
(提示額5900万円)
2021年5月 ・5900万円で不動産会社と売買契約締結
2021年7月

・3つの土地を引き渡し。

・売却活動終了

まとめ

  • 借地権付き土地の売却は、扱いに慣れた信頼のおける不動産会社をパートナーに選ぶ
  • 借地権付き土地の売却先は、借地人か法人が一般的。一般的な土地に比べ低い価格設定になる
  • 相続した土地を3年以内に売却した場合は、支払った相続税の一部を売却時の利益にかかる所得税から控除できる特例がある

取材・文/竹入はるな イラスト/めんたまんた

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