不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

夫の失踪からの離婚で、自宅を売却。心機一転で新居購入&自分の店を開くまで/福岡県Sさん

Sさんは、夫の失踪後に家族で暮らしていた福岡市の一戸建てを売却し、生活をリセットしたいといまは別の市に暮らしています。そんな家の売却・購入劇は、最初から波乱含み。途中、コロナ禍で売却活動が滞るうちに新居が完成し、一時はダブルローンになり負担が大きかったといいます。

福岡県福岡市東区Sさん(60代)/夫の失踪からの離婚。難航した自宅売却・コロナ禍をも乗り越えて、新生活へ

不動産区分 一戸建て
所在地 福岡県福岡市東区
築年数 約9年
間取り・面積 5LDKK
(延床面積…132m2、敷地面積…約228m2
ローン残高 約2500万円
査定価格 3200万円~4500万円
売り出し価格 4380万円
成約価格 3480万円

突然の夫の失踪。生活のリセットを希望するものの、名義人不在で売却活動は進められない状態に

Sさんが売却した一戸建ては、福岡市東区に建てた築9年の注文住宅です。地盤がしっかりした斜面に立ち並ぶ住宅街にありました。見晴らしが良く、日当たりが抜群だったといいます。

「軽量鉄骨の5LDKKの家で、延床面積は約132m2ありました。メインのキッチンのほかに、生活時間帯の違う娘のリクエストで、小さなキッチンをつけた部屋が一つありました。二世帯住宅としても対応できる家だと思います。縦列駐車なら、敷地には車が6台ほど入れられるので、全体的にゆったりしたつくりの家でしたよ」

駅までは徒歩20分くらいかかる立地でしたが、近くに大きなバイパスができたことで、都心へのアクセスがグッと良くなりました。
そんな、特に問題ない暮らしの中で、2017年に起きた夫の失踪は、Sさんにとって青天のへきれきでした。

「何の予兆もなく、訳がわからないというのが正直なところで。夫と連絡が取れないので、ただ待つことしかできません。もともと住宅ローンは、実質的に私が返済していたので、その点は現状維持という感じでしたが、広すぎる家を売却して一度暮らしをリセットしたいと思っても、名義人が夫である以上、売却活動ができない状態でした」

2019年の春、ようやく夫と連絡が取れたことで離婚が成立し、売却活動がスタートしました。

すぐ売れるというアドバイスから、売却額は強気に設定。新居の準備も急いで進める

いよいよ売却を進めるに当たり、Sさんは、WEBの一括査定サービスを利用してパートナーとなる不動産仲介会社を探しました。返事のあった5~6社すべてが家に訪問して査定と説明をしていった中、契約形態は一般媒介にして、大手や地場の不動産会社など3社に依頼することにしました。なんとなく、話しやすかった会社を選んだそうです。
査定は3200万円~4500万円と会社によりずいぶん差がありました。不動産仲介会社と話した際、「きっとすぐ、3カ月もすれば売れますよ」というアドバイスがあり、Sさんは売却にかかる期間については、どんなに長くても1年以内に終わるだろうと楽観的にとらえたそうです。それならなるべく高く売ることを重視した活動をしようと考え、売り出し価格は4380万円に設定しました。

「売却額については、住宅ローンの残債が約2500万円あったので、これを完済した上で、数百万円~1000万円くらい、手元にお金が残るといいなと思っていました。中古の場合は価格交渉がつきものだと思っていましたし、最初は少し高めに出しておいて、最終的には譲歩ラインとして3500万円くらいかなと考えていました」

もともとは、家が売れるころに新居づくりを始めればいいかな、とダブルローンを避けられる時期を考慮していたSさんですが、すぐ売れると聞いて、急いで新居の準備をしなければ、と思ったそう。新居については、仲介をお願いしている不動産会社ではなく、土地探しから依頼できる工務店に相談に行きました。

「ちょうど、6月までに契約すれば太陽光パネルプレゼントの特典があると言われたので、とりあえず契約だけはすぐにしたんです。土地探しは、最初に本気の購入検討者が現れてから、あわてて動いてもらったんです。売却活動が完了するころには新居がないと困りますから」

新居については、約半年後の2019年12月に土地が見つかり、本格的に家づくりがスタートしたそうです。

コロナ禍で売却活動が停滞。新居が完成後はダブルローンに。売却活動は値下げで対応

売却活動は、チラシや不動産ポータルサイトなどWEBサイトへの掲載で進めました。最初のころの反響はまずまずといった感じで、毎週のように各社から書類やメールで報告があったといいます。

「内見は10件くらい対応したと思います。売り出して3カ月くらいから、かなり本気で検討してくださった方が出てきました。検討が進んだ方は3件あったのですが、住宅ローンの審査に通らなかったり、家族で意見がまとめきれなかったりで、結局契約には至りませんでした」

その後、パラパラと反響はあったものの、2020年に入ってからは反響が少なくなってきました。すぐに売却できると思っていたのに、春先くらいからはコロナ禍で内見もできない状況で、売却活動自体がピタッと止まってしまったといいます。

「売却が進まない中、家はすぐに売れるだろうからと急いで準備した新居の方が先に完成してしまいました。こちらもコロナ禍で建材の流通が滞り、計画よりも1カ月遅れての完成だったんですけどね。2020年6月に、新居に引っ越しました。売却活動中の家と新居、思いがけずダブルローンの状態になり、苦しい期間を過ごしました。新居は、心機一転して飲食店をやろうと思って店舗併設でつくったんです。でも、コロナ禍でお店をオープンすることができず、一時的に別の仕事をするなど、収入面でも厳しい時期でした」

売却活動が進まない中、一般媒介で依頼している仲介会社の1社から、専任媒介契約への切り替え提案がありました。

「2020年の11月くらいだったと思います。一般媒介だと、どうしても不動産仲介会社側が力を入れる優先順位が下がってしまうので、専任媒介契約に切り替えてスピードアップをしませんかという申し出がありました。かなり熱心に説得されたので、その方に賭けてみようかなと思って専任媒介契約に切り替えました」

契約を切り替えたタイミングで、不動産仲介会社より価格設定見直しのアドバイスがありました。4000万円以内で家探しをする人の検索にも引っかかるよう、3980万円に値下げしたそうです。すると、また反響が戻り、内見も増えました。ただ、不動産売買の動きが活発な年明けから年度末にかけて、具体的に話が進むような購入希望者には出会えませんでした。そこで、2021年3月、さらに価格を見直したそうです。

「今度は、3500万円以内で家探しをしている人の検索に引っかかるよう、3480万円まで値下げしました。すると、すぐに2件、本気の購入検討者が現れ、あっという間に売買契約まで進みました」

こうして、2021年の5月に物件を引き渡し、Sさんの売却活動は完了しました。

■一般媒介と専任媒介

住宅を売却する際、不動産仲介会社と結ぶ契約には「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」の3種類があります。大きく分けると、複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことができるのが「一般媒介」、1社のみと契約を結ぶのが「専任媒介」です。(1社のみと契約した場合で、自分で買い手を見つけることはできない契約を「専属専任媒介」といいます)。
仲介手数料は、売買契約成立時に成功報酬として支払うものなので、どの契約を選んでも売主が支払う仲介手数料は同じです。そのため、一般媒介契約は、不動産仲介会社同士の競争心をあおることができるメリットがある一方で、せっかく広告費をかけて宣伝しても他社で決まれば仲介手数料は得られないため、積極的に活動してもらえない可能性があるというデメリットがあります。
専任媒介は、売買契約が成立すれば仲介手数料を得られると約束されているので、広告費をかけた熱心な売却活動が期待できます。なお、専任媒介の場合は、担当する会社の力量に左右されるというリスクが強調されますので、より慎重に会社選びをするよう心がけましょう。

不動産売買の媒介契約とは?一般媒介契約と専任媒介契約、専属専任媒不動産売買契約の違いと選び方、メリットデメリットを解説 

活動期間と価格設定のバランスを考えて、早めに価格を見直せば良かったかも

売却が想定よりも長期間になったSさんの売却活動。売却する家の評価が高く、きっとすぐに売れると言われてのスタートだっただけに、「本当に大変だった」と振り返ります。

「売り出し価格はチャレンジ価格ではありましたけど、不動産仲介会社からは高いと反対されたわけでもなく、反響もありましたからね。本当にすぐ決まると思っていて、新居も慌てて土地探しを進めたくらいなんです。でも、コロナ禍で状況が一変してしまいました」

価格を下げることで、反響がグッと増えたことから、「もう少し早く値下げに踏み切れば良かったのかな」と口にするSさん。娘夫婦と一緒に暮らす新居は、親子ローンではあるものの、現在負担しているのはSさん自身で、娘が引き継ぐのは将来の話。ダブルローン期間は10カ月にもおよび、家計への打撃はかなりのインパクトだったと語ります。

「結局、売却した家の住宅ローンを完済し、手数料など諸経費を引いて数百万円が手元に残りました。でも、新居の頭金とか、すでにそういうタイミングではなかったので、まだ手をつけられていなかった外構を整えるのに使おうかなと思っています」

波乱含みでスタートした売却活動が一段落したSさん。新しいお店もオープンし、すでに未来に向かって進んでいる姿は、晴れ晴れとした印象をうけました。

2017年冬 ・夫が失踪
2019年春 ・夫と連絡が取れて離婚が成立、売却活動スタート
2019年6月 ・不動産仲介会社3社と一般媒介契約を結ぶ
・4380万円で売り出し
・建築会社と新居づくりの請負契約を結ぶ
2019年9月 ・購入希望者が現れるがローンの審査が通らず
・新居のための土地探しを本格的に進める
2020年春 ・コロナ禍で売却活動が滞る
・新居着工
2020年6月

・新居完成

・引っ越し

2020年11月 ・専任媒介契約に変更
・3980万円に値下げ
2021年3月 ・3480万円に値下げ
2021年4月 ・売買契約締結
2021年5月

・引き渡し

・売却活動終了

まとめ

  • 不動産仲介会社にとっては、一般媒介契約よりも専任媒介契約の方がメリットが大きい
  • 買い先行になるとダブルローンで家計負担が重くなることも
  • 反響が少なくなってきたら、検索に引っかかりやすい価格設定への見直しを検討する

取材・文/竹入はるな イラスト/めんたまんた

ページトップへ戻る