港区の築浅マンション(1K)を投資目的で購入したKさんは、3年後の2019年、インバウンド需要による好機を感じて売却活動をスタート。二度の媒介契約と個人的な販売活動から学びを得て、購入時より約350万円アップでの売却を実
現しました。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区 |
| 築年数 | 約4年 |
| 間取り・面積 | 1K(24m2) |
| ローン残高 | 約2800万円 |
| 査定価格 | 3500万~4000万円 |
| 売り出し価格 | 3900万円 |
| 成約価格 | 3650万円 |
東京オリンピック開催による市場価格の上昇傾向をキャッチ
2016年、以前から投資に関心を寄せていたKさん(60代)は、大手デベロッパーの社員が投資目的で自社マンションを買っていると聞き、自分でも購入を検討し始めました。「業界人が購入するということは、それだけ価値のある手堅い物件」だと感じたと言います。
「大手デベロッパーが手掛けたマンションだと後々、売りやすいと考え、その中でも利回りの良い、都心のシングル向け物件を選びました」
東京都港区の24m2・1K・駅から徒歩約7分の新築マンション(2016年当時)を、20年ローンを組み約3300万円で入手します。
家賃収入を得ながら着々とローンを返済。すぐに売るつもりはなく、たびたび不動産価格相場を気にかける程度でしたが、購入から3年がたったころ、複数の不動産会社から売却を促すアプローチの電話が入るように。
「『売り時なので査定してみましょう』との声が頻繁に掛かるようになったので話を聞くと、思いのほか高値で売れそうなことがわかって。 まだコロナが騒がれる前で、東京オリンピック開催によるインバウンド需要が高まっていたころ。『シングル向け物件が市場で減ってきているから、とくに高値で売れますよ』と何社かから言われ、『得が出る価格で売れるならば』と乗り出しました」
好条件の会社と媒介契約するも、2カ月で解除し乗り換えを決める
2019年4月、Kさんは中でも一番、条件が良かったA社と「一般媒介契約」を結びます。
「A社が簡易査定で出してきたのは、『約4000万円』という願ってもない数字。しかし実際にこの価格で売れるのかは半信半疑だったため、ほかの会社にいつでもスイッチできるよう契約は『一般媒介契約』にして逃げ道を残しました」
その後、A社ですぐに販売活動をスタート。見込み客に声を掛けるなど2カ月ほど営業のアクションが取られましたが、良い反応はありません。Kさんも不動産売却のウェブサイトを使い、ほかに良い不動産仲介会社がないか探したものの、思うように見つけられませんでした。
「そのうちA社が『値段を下げないと売れません』と頼りないことを言ってきて。売却できても価格が低いとメリットがないので、契約を解除し、仕切り直してほかの会社を見つけることにしました」
仲介手数料の値引きと営業の熱心さが決め手となり二度目の媒介契約
「その会社は結局のところ『物件が高値で売れなくても、自分たちに仲介手数料が入ればそれでよし』で、売主の少しでも高額で売りたい気持ちを考慮してくれないものだと思いました」
そこでKさんは、今度はできる限り、売主の視点に立って動いてくれる不動産仲介会社と契約しようと、たくさんの中からベストな一社を選ぶことに。一括査定サービスを利用し、さらにダイレクトメールを送ってきた会社とも個別にコンタクトを取り、10社以上に改めて簡易査定を依頼します。
「実は仲介手数料を半額にしてくれるという会社もあったんです。それでもB社にしたのは、具体的な売却事例を教えてくれたり、設定する手数料と売却価格によって利益がどのくらい違うかをシミュレーションしてくれたり、対応が熱心だったからでした。
『無理に売らせることはしません』という言葉にも説得力がありました」
2019年8月、KさんはB社と二度目の媒介契約を「専任媒介契約」で結びます。
「全面的に託すつもりではありましたが、万一、自分で買主を見つけられる可能性もあるため今度の契約タイプは『専任媒介契約』にしました」
■専任媒介契約とは
不動産の売却には不動産会社と「媒介契約」を交わす必要があり、契約の種類に「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の三つがあります。「一般媒介契約」が複数の不動産会社に販売活動を依頼できるのに対し、「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」は1社に任せるというもの。不動産会社としては他社に売却される可能性がないため、積極的な販売活動を期待できると言えるでしょう。「専任媒介契約」は、売主が買主を見つけて直接、取引ができるのが特徴です。
相手に任せきりにはせず、自らも動くことで納得の価格を割り出す
簡易査定で各社から出された価格は3500万~4000万円。4000万円で売れるという会社が少なくなかったため、Kさんは一番高値で売り出したいと営業に伝えますが
「『4000万円だと印象としてハードルが高くなる』と担当者からアドバイスをもらい、売り出し価格は3900万円にしました」
その後、B社では、複数のサイトに広告を打つ、投資セミナーの参加者に物件を案内するなどの営業が行われ、約1週間で1件、1カ月のうちに4件ほどの反響が見られます。しかし、Kさんは納得のいく価格でない限り、簡単にはうなずきませんでした。
「A社でしつこく値下げを求められた経験から、ボーダーラインは3700万円として、『この金額以下では売らない』と心に決めていました。『売り出し価格』との間にある200万円の価格差は、値引き交渉に対応するための余地です」
しっかり線引きして作戦を練っていたKさん。その甲斐あって、何があっても動じずに断ることができたと言います。
「営業の方から『買いたい人が現れました。でも3500万円でと言っています』などと連絡がくると、『私は絶対に3700万円以上でしか売りません。』と強気で答えるようにしていました(笑)」
状況を報告してもらうのは10日に一度くらい。電話で詳しく聞くようにしていました。しかし、上値をつけてくれる買主はなかなか現れません。ならば個人で見つけようと、個人間売買も試みますが、良い反応は得られなかったと言います。
「状況を聞くうち、購入を検討する方の希望価格は、3500万円前後だとわかるようになってきました。このまま待っても同じことだろう――そう思い、中でも比較的、高値をつけてくれた方の『もう少しだけ譲ってもらいたい』の言葉に応え、3650万円で売却することにしました。2019年9月のことです」
ブレない姿勢を見せることが、かえって営業との良好な関係をつくる
「結局、3700万円を少し切りましたが、自分でも動いてみて、営業の方にも最大限、努力をしてもらい、『3700万円だと難しく、まして4000万円だと誰も目を向けないのだ』と理解したうえで決められたので、満足しています」
買主は投資目的の個人客。営業がうまく交渉してくれたため、さらなる条件を求められることなく、その後はスムーズに売買契約・引き渡しへと進みました。 全体を振り返り、Kさんはこう話します。
「『この条件は譲れない』という姿勢を見せていくことは、信頼できる不動産仲介会社を見極めるうえでも、相手のモチベーションを上げる意味でも、大切だと実感しました。次に機会があったら学びを活かしたいです」
そう笑顔を見せるKさんでした。
| 2019年3月 | ・マンションの売却を考え始める ・売却価格査定を依頼する |
|---|---|
| 2019年4月 | ・1社目の不動産仲介会社と一般媒介契約を結ぶ |
| 2019年6月 | ・一括査定を依頼する |
| 2019年7月 | ・訪問査定を依頼する |
| 2019年8月 | ・2社目の不動産仲介会社と専任媒介契約を結ぶ |
| 2019年9月 | ・マンション購入者が決まる |
| 2019年10月 | ・買主と売買契約を結ぶ |
| 2019年12月 | ・売却したマンションを買主に引き渡す |
まとめ
- 「一般媒介契約」のメリットは、不動産仲介会社と合わないと感じたら迷わずスイッチできること
- 最低限の希望価格がある場合は、不動産仲介会社に事前に伝えておくことが大切
- 相手に任せきりにせず自分でも情報収集をして、判断材料を得よう
取材・文/星野 真希子 イラスト/キットデザイン


