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家を出たのに部屋はそのままになってない? 実家じまい「自室整理」のすすめ

家を出たのに部屋はそのままになってない? 実家じまい「自室整理」のすすめ


将来やってくる「実家じまい」。早めに何かしておきたいと思っていても、「どこから手を付ければよいか分からない」という人の方が多いのではないでしょうか。

2022年9月に公開した「『遺品整理のプロ』に聞く実家の片付けのポイント」では、「自分の物が実家に残っているのであれば、そこから着手するのがやりやすい」とアドバイスを紹介しています。

そこで今回は、実際に実家の「自室整理」をしたことがあるライターの青柳美帆子さんに、その経験を振り返ってもらいつつ、片付けをスムーズに進めるポイントについて寄稿していただきました。

自室整理は実家のスペースの有効活用につながるのはもちろん、親や実家の「これから」について考えるきっかけにもなるそう。皆さんも今度帰省したときにチャレンジしてみませんか。

ある日、実家が解散。自室整理に揺れ動いた心

実家を出たけど、まだ実家に”自分の部屋”が残っている皆さん。今、そのスペースはどうなっていますか?

ライターの青柳美帆子です。東京・多摩で生まれ育ち、約20年間実家で暮らしていました。現在は家を出て、夫と二人で都内の賃貸に住んでいます。

多摩の実家は3LDKの分譲マンション。母・姉・私の三人暮らしで、6帖の洋室が私の部屋でした。もともと片付けは得意ではなかったため、学生時代はだいぶ“汚部屋”状態。突然思い出したようにガムシャラに片付けることは何度かあったのですが、健闘むなしく、家を出た後は物置と化していました。ちょっと恥ずかしいですが、当時の状況を写真でお伝えします。

物置状態だった実家の部屋 ▲物置状態だった実家の部屋

自分自身でさえ何があるのか把握できていない実家の自室を、数年にわたって見て見ぬふりをしていたところ、2019年、突然大きな変化が起きました。

定年退職を迎えた母が生活拠点を海外に移すことを決め、「……というわけで、実家を売却することになったから!」と、急ピッチで実家売却のための整理が始まったのです。

売却のリミットが決まっており、母と姉は海外に移るため、ほとんどの物は持っていけません。私が現在住む賃貸の自宅も十分なスペースがあるわけではなかったので、多くの物に対して「捨てる」選択をしました。

それでも片付けの間は、やってもやっても終わらない作業に疲れ果てたり、残したい物を判断できなくて困ったり、子どものころを思い出して「もっとこの部屋で素敵な暮らしができたのではないか」と後悔したりと、気持ちがジェットコースターに乗ったように揺れ動きました。

実家の整理を経て「部屋の片付けは人の気持ちをめちゃくちゃ動かすな」と感じた私は、2022年に「整理収納アドバイザー」の資格を取得。それほど実家の整理は人生において大きなイベントだったと思っています。

私が経験したような実家の“急解散”はそうそうなくても、いずれ実家じまいをする未来は見えているけれど、どう取り組めばいいのか図りかねている……という人は、とても多いのではないでしょうか?

実家の部屋がそのまま放置されてしまう理由

私が経験した自室整理の大変さについて、夫の父と雑談していたら、「分かる。施設に移ったじじばば(※夫の父の両親)の家の片付けに今現在困り果てている」という共感が返ってきました。

夫の父が「じじばばハウス」の片付けに困っている大きな理由の一つは、家にある物が誰の物か分からず、判断ができないことにあるようでした。

家のメインの居住者であった夫の父の両親は、今は離れた場所で暮らしています。さらにその家には、子どもたちが少~しずつ残していった物、所有者不明の物が点在しているのです。こうなるともうお手上げで、夫の父は「お盆かお正月に親戚一同集まってやるしかないかも……」とボヤいていました。

実は、この「自分の物ではないから手を出しにくい状況」は、夫の実家でも発生していたのです。

夫の実家は一戸建て。2階に子ども部屋がある一般的な間取りなのですが、15年ほど前に夫が家を出て以降、その子ども部屋は物置に進化(退化?)。しかも夫が賃貸の自宅に収まり切らない物を都度都度実家に運んでくるため、年々物置レベルが上がり、もはや倉庫状態に!

夫の自室にある物は、夫の両親は手を出しにくい。放っておけば「倉庫状態」はずっと継続してしまいます。でも、当たり前かもしれませんが、逆に言えば本人(夫)であれば整理しやすいんですよね。

その状況を見た私は、夫に「実家の部屋、片付けてみない?」と提案。夫はお正月に実家に帰るタイミングで片付けを進めることを決め、私はアドバイザー兼応援隊として参加することになりました。

自室整理に着手する際の心構え

最初に大事な点をお伝えしておくと、片付けってめちゃくちゃ疲れます! 体力的にはもちろんですが、何より精神的に疲れ果てます。

どうしてかというと、とにかく「選択」の繰り返しだから。スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着て「服を選ぶ」という意思決定コストをなくしていたのは有名な話ですが、「残す」「捨てる」「しまう」「売る」など複数の選択肢から対応策を選んでいくのは精神的なパワーをガンガン消費します。

だから、基本的には気長に取り組んでほしいですし、好きな音楽などをかけて少しでも楽しくやってみてほしいですし、疲れてしまったら一休みしてほしいです。

もう一つ、大前提の心構えを。自室整理のポイントは「自分の物」だけ片付けることです。不思議なもので、片付けをしていると「他人の物」ばかり目に付いちゃうんですよね。

“あるある”なのが、自室整理に帰ったはずなのに、実家の両親がため込んでいる食器や調理器具が気になって「お父さん・お母さんも片付けてよ」と小言を言ってしまったり、別の部屋のきょうだいの物を処分したくなったりしてしまうこと。そこはグッとこらえて、自室だけに集中しましょう!

先ほど「気長に」と書きましたが、ガッと集中してやって成果が大きいと気分も上がります。ですので、短期間でも取り組みやすいポイントから紹介していきます(夫の片付けもこの順番で行いました)。

自室整理をスムーズに進めるポイント

【1】まず服から始めよ!

物置状態だった実家の部屋

1つ目のポイントは「服」です。部屋のタンスやクローゼットにかかっている自分の服は、ほとんどが数年来着ておらず、おそらく今後も着る予定のない服です。そういった服は、ほぼ全て一気に処分することが可能です。

片付けはビフォーアフターが分かるとモチベーションアップにつながるので、手を付ける前にスマホでビフォーを撮影しておくとグッド。

服は燃えるごみや資源ごみで処分(地域により分別が異なるので注意)、あるいは重さでまとめて買い取ってくれる中古店に持ち込んでもよさそうです。タンスやクローゼットにスペースができると達成感が湧いてくるはず。

注意してほしいのは、「高く売りたい」とか「欲しい人にあげたい」という気持ちをもち過ぎないこと。例えばメルカリなどのフリマアプリはうまく活用すればちょっとした臨時収入を得られますが、出品すれば売れるまで物を保管する必要があり、売れたら売れたで発送などの作業が必要です。これを実家でやるのは結構大変で、片付けのネックになる場合があります。どうしてもやりたい場合は今住んでいる家に持ち帰ってから出品しましょう。

またブランド品や価値が高そうな服は「きょうだいや親戚で、欲しいと思う人がいるかも」と思うかもしれません。その場合もフリマアプリと同様、片付けの停滞の原因になり得ます。例えばLINEグループで「欲しい人がいたら明日までに伝えて」と期限を設定し、過ぎたら処分する。あるいは今住んでいる家に持ち帰って気長に引き渡すなど、ルールを決めて扱うのがいいと思います。

原則は全て処分。処分したくない物は今住んでいる家に持ち帰ってきましょう。実家を出た人は、実家の自室を「2軍置き場」にしがち。「今住んでいる家に持ち帰ってくるぐらい、これは必要だろうか?」という自問自答をしてみてくださいね。

【2】学習机を攻めろ!

2つ目のポイントは、子ども部屋の定番家具「学習机」。机の上だけでなく、引き出しの中がカオスになっていることが多いです。

学習机の中にある物は、大きく「勉強に関する物」と「趣味&思い出の物」の二つに分けられます。このうち、まずは前者から手を付けていきましょう。ここでもビフォー写真の撮影を忘れずに。

処分しやすいのは、教科書、参考書、文房具。教科書類は久しぶりに読むと意外と面白くて「取っておこうかな……」と思ってしまうこともありますが、多くは情報が古くなっているので処分してしまいましょう。夫の自室片付けの際はブックオフにまとめて持ち込みましたが、宅配買取(最短で翌日集荷してくれるところがおすすめ)や古紙回収という手もアリです。

一方で扱いづらいのは「趣味&思い出の物」。例えば、もらった手紙だったり、表彰状だったり、お守りだったり、写真だったり、謎の置き物だったり……。今の自分には必要はないけれど、なんとなく捨てがたい物が、学習机には入っていがちです。

そういう物に出合った場合、無理やり捨てたり、すぐに判断したりする必要はありません(もちろん、すぐできる人はそれでOKです!)。段ボール箱や使われていない箱を用意して、「思い出ボックス」を作って、そこに仮置きしてください。机の中に入っていた「なんとなく捨てづらい物」から「思い出の物」にラベルを張り替えるようなイメージです。

他にも例えば、「このノートは普通は『勉強に関する物』だけど、受験を頑張った証だから処分したくない」という気持ちが浮かんできたら、思い出として扱いましょう。

机に含まれている物を全て、「処分する」「思い出ボックスに入れる」「今の家に持ち帰る」に分類し直し、机の上と引き出しをきれいにできたら完了です。もしかしたら「思い出ボックスがいっぱいになってしまった」という人もいるかもしれませんが、そんなに気にしなくてOK。まずは一歩を踏み出した自分を褒めていいんです!

ちなみに、「本当はいらないんだけど、親がくれたものだから実家では捨てにくい」という気持ちがある場合、持ち帰って捨てるというのもアリです。

きれいに片付いた夫の実家の学習机 ▲きれいに片付いた夫の実家の学習机

【3】「大物」にチャレンジ!

さあ、ここまで来たら、皆さんの目の前には空っぽのタンスや机、何もかかっていないハンガーラック、学習机とセットの椅子などが並んでいるはず。私はこうした家具類を「大物」と呼んでいます。大物は処分するまでがやや煩雑なものの、処分できると一気に進捗ゲージが進みます。

どれも多少時間と手間がかかりますが、地域の粗大ごみへの収集申し込みや持ち込み、リサイクルショップへの連絡などの手段があります。私がよく使っているのは地域交流掲示板サービスの「ジモティー」です(都心部だと価格を0〜100円にすれば、ほとんど中1日で引き取り手が現れます)。

大物を処分すると、部屋の様子がかなり変わってきますし、第三者から「ものすごく物が減ったね!」と驚かれます。アフター写真を撮って、ビフォーと比べて見てみると、かなりテンションが上がりますよ。

物置状態だった実家の部屋にスペースができた! ▲物置状態だった実家の部屋にスペースができた!

さらに、この段階までたどり着くと、片付けに関する“目”のレベルが上がってきているはずです。服や机以外の場所も「これは処分できそう」「これは思い出だな」「今の家に持って帰ろう」と即判断できるようになってきます。あとはその繰り返しで、いつの間にか自室整理が収束に向かいます。

振り返りとして、自室整理のフローを置いておきます。

自室整理のフロー

「思い出ボックス」に移動までは、1〜2日でガッとやれると思います。お盆休みや年末年始などのお休みで、一歩踏み出してみるのはいかがでしょうか。

「物置のような部屋」から「今住んでいる人のための部屋」へ

ちなみに片付いた夫の部屋は、空になったクローゼットに夫の母の服をかけ、スッキリした学習机は夫の父のリモートワーク用のスペースとして使ってもらうことになりました。

このように、自分一人の部屋だったスペースを今住んでいる人のための場所としてどんどん明け渡していくことは、今住んでいる人と家を出た人、両者にとって良いことだと私は思っています。親子仲が良好な人でも、険悪な人でも。

矢野経済研究所の調査(2013年)によると、子どもの独立後に「部屋を活用しきれていない」と回答したシニア層は81.9%に上ります。日本の空き家率は2018年時点で13.6%に達していますが、“活用できていない部屋率”を算出したらもっと大きな数字になりそうです。

活用し切れていない部屋が、もし空っぽになったら、今住んでいる人は何をしたいのか。

例えば「定年まであと数年だけど、リモートワーク用の部屋が欲しい」と親が話していたら、今の仕事への思いや定年後の再雇用についての考えを聞けそうです。

また、もしかしたら「夫婦で住むには広い」という気持ちがあるようなら、今の実家を売却してダウンサイジングした「シン・実家」が誕生するかもしれません。

このように自室整理は、親や実家の「これから」について話す、ちょうどいいきっかけにもなります。片付けを通じて、ぜひ親の人生観や実家の現状に触れてみてください。

空っぽになった自室▲空っぽになった自室


【著者】青柳美帆子(あおやぎ・みほこ)

青柳美帆子さん

1990年生まれ。ライター。女性向けカルチャーを得意領域とし、書籍、雑誌、Webなどで幅広く執筆活動を行う。昔から「汚部屋」に悩み、自己流で解決を図ってきたが、実家の整理をきっかけに整理収納アドバイザーを取得する。

Twitter:@ao8l22
ブログ:アオヤギさんたら読まずに食べた

編集/はてな編集部

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