公図とは、土地の形状や区画などが示された公の地図のことで、法務局が管理しています。売買時などに土地の位置関係や隣接地の状況を把握するための最も基本的な資料として位置づけられます。
「地積測量図」と混同されることも多いですが、両者は作成の経緯や方法が異なります。いずれも実際の地積や境界と異なる可能性があるため注意が必要です。
この記事では、公図の役割や取得方法から歴史まで、土地家屋調査士の矢嶋宏大さんの解説を交えながら紹介します。

記事の目次
公図とは
公図とは、その名のとおり「公の地図」です。土地や一戸建ての売買時には、土地の基礎的な情報などの把握に役立ちます。
公図は法務局が管理する地図

公図は、土地の形状や区画、地番、道路や水路などが示された公的な地図です。法務局が管理しており、不動産の登記手続きや売買の際に必要な書類の一つです。
ただし、地積や形状が正確とは限らないため、おおまかな土地の位置関係や隣接地の状況を把握するための基礎的な資料という位置づけです。公図上の地積や形状が現況とズレている可能性がある理由や経緯は、後ほど詳しく解説します。
公図は不動産売却時にどのように役立つ?
土地や戸建ては、登記簿(登記情報)上の土地面積で売買することも可能です。しかし、登記簿に記載されているのは土地の地番や面積のみで、形状や境界がどのようになっているかはわかりません。
「登記簿上と実際の面積には乖離がある場合もあり、売買後に境界などを巡るトラブルになってしまうおそれもあることから、境界が確定していない土地は確定測量をしたうえで売買するのが一般的です。公図は測量時においても、位置関係などを把握するための基礎的な資料となります。私たち土地家屋調査士が土地の登記をする際は、公図を調べたという報告書を法務局に提出します」(矢嶋さん、以下同)

公図の種類
公図には「不動産登記法第14条1項地図」と「地図に準ずる図面」の2種類があります。
不動産登記法第14条1項地図
不動産登記法第14条1項地図は、土地の面積や距離、形状、位置の正確性が高く、境界を一定の誤差の範囲内で復元可能な図面とされています。不動産登記法では、登記所にこの不動産登記法第14条1項地図を備えることを定めていますが、備付率は5割程度にとどまっています。
「とくに首都圏は地価が高く、緻密な測量が必要で、境界に対してシビアな土地所有者も多いことから、整備はあまり進んでいないのが現状です。一方、北海道や沖縄など、その土地の成り立ちや歴史的な背景から地図整備が進んでいる地域も一部あります」
地図に準ずる図面
一般的に公図と呼ばれるのが「地図に準ずる図面」で、不動産登記法第14条1項地図が備え付けられるまでの間、これに代わるものとして法務局に備え付けられています。
ただ、地図に準ずる図面は主に明治時代に租税徴収の目的で作成された図面を基にしているため、土地の面積や距離については正確性が低く、示されているのは土地の配列や形状の概略です。不動産登記法第14条1項地図と比べると精度は劣るものの、作成の目的や時期によっては、土地の筆界の判断資料として一定の評価ができるとされています。
公図と地積測量図の違いは?
「地積測量図」とは、土地の境界などを測量して作成される図面を指します。公図とよく混同されますが、地積測量図は「地図に準ずる図面」より精度が高い図面です。

地積測量図との違い
地積測量図とは、土地家屋調査士が公図などの基礎的な資料を基に実際の測量を行ったうえで作成されます。
「地積測量図は、簡単に言えば土地一つのみについて作成した『14条地図』のようなものです。作成された順序としては、地図に準ずる図面より後。地積測量図は、正しい面積や境界を定めた成果として法務局に納められたものですので、地図に準ずる図面より精度は高いです」
公図の見方
公図には、地図と請求部分の地番や縮尺、作成日などの概要が表記されています。主な見方は、次のとおりです。

公図の下の表には何が書かれている?

公図の下にある表には、次のようなことが記載されています。
- 所在・地番:公図の場所
- 出力縮尺:地図の縮尺。1/600が多く、山林原野地域などでは1/1000、1/2500の縮尺で作成されることもあるが、取得者が縮尺を指定することはできない
- 精度区分:誤差の限度の区分。甲乙それぞれ一から三まであり、甲一が最も精度が高く、乙三が最も精度が低い。地図に準ずる図面には表記がない
| 精度区分 | 平均二乗誤差 | 筆界点間距離の公差 |
|---|---|---|
| 甲一 | 2cm | 6cm |
| 甲二 | 7cm | 20cm |
| 甲三 | 15cm | 45cm |
| 乙一 | 25cm | 75cm |
| 乙二 | 50cm | 150cm |
| 乙三 | 100cm | 300cm |
- 座標系番号又は記号:取得した公図の示す地域が、国土地理院で決められた座標系(土地の数学的な位置のまとまり)のどの区分に属するかを記号で表したもの。地図に準ずる図面には表記がない
- 分類:不動産登記法第14条1項地図か地図に準ずる図面かを示す
- 種類:作成方法などの種類
- 作成年月日・備付年月日:作成・備付された年月日
地図部分はどう見る?

まず、地図の上にある数字は座標値を示しており、不動産登記法第14条1項地図のみに記載されます。地図の部分からは、土地の形状や道路、水路の位置、隣接地などがわかりますが、地図に準ずる図面の場合は先述のとおり実態と乖離している可能性があります。
「たとえば『道』という表記がされていない部分も、実際には過去に国が土地を買い取り、現在は道路になっていることもあります。また、土地の一部を私道として利用している場合などはその位置を判断することはできません。土地家屋調査士であれば、公図上の境界線や土地の形状から『おそらく国に買収された土地だろう』などといった予測がつきますが、一般の方には難しいかもしれません。とはいえ、地図に準ずる図面であっても、ざっくりとした位置関係などはわかります」
公図の3つの取得方法と取得費用
公図は、法務局を通じて「窓口」「オンライン」「郵送」の3つの方法で取得できます。いずれも取得には手数料が必要で、方法によって必要な準備や手続きが異なります。用途に応じて最適な取得方法を選びましょう。
1.法務局の窓口で請求する
一つ目の取得方法は、最寄りの登記所(法務局・支局・出張所)に赴いて公図を請求する方法です。窓口で「地図等の証明書交付請求書」を提出すれば交付してもらえます。営業時間は原則平日の午前9時から午後5時まで(窓口対応時間)、手数料は500円ですが、念のため管轄の法務局にご確認ください。手数料は、請求書に収入印紙を貼付する形で支払います。
請求書の書き方

請求書には、窓口に来た人の氏名・住所に加え、公図を取得する地番を記載します。地番は、住居表示番号とは異なるためご注意ください。登記識別情報や固定資産税通知書などで地番を確認することができますが、手元にない場合は役所などで確認する必要があります。
証明書を取得する場合は「証明書」にチェックを入れ、閲覧だけであれば「閲覧」にチェックを入れます。公図を取得したい場合は「地図・地図に準ずる図面(公図)」にチェックを入れて請求します。
2.オンラインで取得する
法務局の「かんたん証明書請求」を利用すれば、オンラインで公図の交付を請求することができます。事前準備として初回のみ申請者情報の登録が必要になりますが、請求書の作成から請求までWeb上で完結し、手数料も送付による交付は470円、窓口交付なら440円と、窓口で請求するより抑えられます。手数料は電子納付が可能なため、収入印紙を用意する必要はなく、平日午前8時半から午後9時まで利用可能です。
3.郵送で取り寄せる
郵送で公図の交付を請求することもできます。請求書を記載のうえ収入印紙を貼付し、返信用の切手を貼った封筒を同封し、管轄の登記所あてに郵送します。郵送で請求する場合の手数料は500円です。
公図と現況がズレていることがあるのはなぜ?
先述のとおり、地積整備が進んでいるのは国土の半数程度にとどまります。残りの半数近くの土地の多くは、明治時代の地租改正のデータを基に「地図に準ずる図面」が作られていることから、現況と大きく異なる場合があります。
「公図は、徴税の参考資料として土地の位置を示す図面として作成されました。公図と現況がズレているケースが多い理由としては、当時の測量技術が未熟だったことも大きいですが、『縄伸び・縄縮み』という意図的に土地を大きく見せたり小さく見せたりする行為が横行していたことにも起因します。
当時、測量に使われていたのは『間縄(けんなわ)』という縄などです。地権者自身が測量することも多く、税額を抑えようと縄を伸ばして測量し、土地を小さく見せることも少なくなかったといいます。実際、現在も地図に準ずる図面しかない土地は、公図より実際の土地面積のほうが大きいことが多いです。逆に売買時には土地を大きく見せようと縄を縮ませる行為もあったことから、公図より実際の地積が小さい土地も一部見られます」

正確な境界・面積を算出する方法
境界が確定しておらず、現況と公図が異なる場合であっても、登記簿上の面積で売買することは可能です。しかし、売買後にトラブルになってしまう可能性があるため、境界確定後に売買されるのが一般的です。
境界未確定で売買することで想定されるトラブル
境界が確定していない状態で売買をすると、次のようなトラブルや失敗が起こりかねません。
- 登記簿上より実際の地積のほうが大きかったため、売値で損してしまった
- 境界が未確定であることで需要が下がり、売値が大きく落ちてしまった
- 売買後に隣地所有者と買主が揉め、売主の責任問題に発展した
「こうしたトラブルを避けるには、売買前の確定測量が求められます。測量だけであれば測量士に依頼することができますが、測量士は境界の『裏付け』を調べる職責を有していないため、境界の位置を取り違えて測量してしまう事例もあります。また、宅建士は土地の仲介の専門家ですが土地境界のプロではないため、その道の国家資格者である土地家屋調査士に境界確定を依頼する必要があります。
土地基本法第6条2項には『土地の所有者は、前項の責務を遂行するに当たっては、その所有する土地に関する登記手続その他の権利関係の明確化のための措置及び当該土地の所有権の境界の明確化のための措置を適切に講ずるように努めなければならない』と明記されていることからも、売却前の土地の境界確定は不可欠といえるでしょう」
地積測量図や現況測量図は正確?
地積測量図は「地図に準ずる図面」と比べて精度が高いものの、作成時期によって精度は異なります。一方、現況測量図は基本的に土地所有者個人が現況を測量した図面にすぎないため、いずれも「あれば安心」とは言い切れません。
「地積測量図を法務局に提出することが義務づけられたのは、昭和40年頃のことです。『地図に準ずる図面』と比べれば精度は高いとはいえ、測量された年代によっては実態との乖離が見られる可能性があります。『三斜図面』といって、土地を三角形に切り分け、その三角系の面積で土地の面積を算出していた時代もありましたが、誤差が大きいために現在は座標計算で面積を算出するのが一般的です。一概にはいえませんが、昭和の頃に測量された地積測量図は誤差が大きく、参考にならない可能性があります。
現況測量図は測量した数字は正しかったとしても、境界線については隣地所有者の立ち会いや合意がないケースも見られます。つまり、測った場所自体が誤っている可能性があるのです」
境界等が不明瞭な土地は売却前に確定測量を
確定測量とは、隣地の所有者や道路の管理者などに立ち会ってもらって境界を確定したうえで土地を測量することです。売却後のトラブルや所有者、売主としての責務を果たすためにも、境界が未確定な土地は売買前に土地家屋調査士に確定測量してもらうことが大切です。
「まず、地積測量図や現況測量図など手持ちの資料を土地家屋調査士に見せて、これらの図面がどれほど信頼できるものか確認してもらう必要があります。おそらく、仲介する不動産会社ではこの点を判断することは難しいと思います。
確定測量には時間も費用もかかります。近年は役所も土地家屋調査士も人手不足で、境界確定まで時間を要することもあります。少なくとも半年、確実性を取るのであれば1年は見ておいたほうが良いでしょう。測量費用は数十万円から100万円前後と決して安いものではありませんが、確定測量しないことで売値が下がったり、そもそも売ることができなかったりすることもあります。トラブルが起こり、測量にかかる費用以上の損失を被る可能性もあるでしょう。
正確な確定測量を行って図面を登記しておけば、その成果を法務局が管理してくれますので紛失や改ざんのリスクがありません。また、登記情報は誰でも見ることができ、半永久的に保存されますので、確定した土地の境界を公示することになり、子や孫の代まで資産を安全に維持することができます。
確定測量には一定の手間がかかることから、土地や戸建てを売る直前ではなく、相続対策として、あるいは相続登記をする際などに、前もって土地の状況を確認しておくことが大切です。まずは、公図を確認することから始めてみてはいかがでしょうか」

まとめ
公図とは、土地の形状や位置関係を示す公的な地図で、不動産取引や登記において基礎資料として活用されます。ただし、明治時代の測量を基に作成された「地図に準ずる図面」も多く、実際の土地の形状や面積と異なるケースが少なくありません。安全な売買取引をするためには、公図だけでなく、確定測量によって土地の正しい境界や地積が把握できる状態にしておくことが肝要です。
構成・取材・文/亀梨奈美(real wave)


