不動産売却においては、残念ながら「詐欺」に巻き込まれてしまうケースがあります。また、詐欺にまでは至らずとも、悪質な営業によって不利益をこうむることもあります。
本記事では、らくだ不動産マネージャーの村田洋一氏の解説を交えながら、不動産売却に関連する詐欺の具体例とその対策、不動産会社の選び方、被害に遭った際の相談先までを詳しく解説します。

記事の目次
不動産売却で起こる代表的な詐欺
不動産売却時には、巧妙な手口による詐欺や、業者による悪質な営業行為に巻き込まれるリスクがあります。以下に、不動産売却で起こり得る代表的な詐欺・トラブル事例を7つ紹介します。
1.地面師詐欺
書籍およびNetflixオリジナルドラマ『地面師たち』でも話題になった「地面師」は、土地の所有者になりすまし、勝手に売買する詐欺師を指します。作品のモデルとなった地面師詐欺事件では、大手ハウスメーカーが55億円以上もの取得費用をだまし取られました。実際にあるケースのように、地面師詐欺では、本人確認書類や謄本などを巧妙に偽装し、売買契約を成立させようとします。
2.換金できない小切手での支払い
不動産の売買代金を支払う手段は、現金・銀行振り込み・小切手の3つに大別されます。現代において小切手で売買代金を支払うことは少なくなってきましたが、小切手の種類によっては不渡りとなり、現金化できないおそれがあるため注意が必要です。また、どのような小切手であっても偽造や盗難のリスクがあります。
なお小切手は、2021年に閣議決定された政府の「成長戦略実行計画」に基づき、電子化に向かっています。全国銀行協会は、2026年度末までに紙の手形・小切手の全面的な電子化へとシフトすることを目指しています。
3.勝手に登記される
売主から買主への所有権移転登記は本来、売主が売買代金を受領した後に行われるのが一般的です。しかし、法的に売買代金の授受は所有権移転登記の条件になっておらず、必要なものさえあれば登記手続きができてしまいます。結果として、売買代金を受領する前に所有権移転登記をされてしまうリスクもゼロではありません。
4.囲い込み
不動産会社による詐欺まがいの行為にも十分注意する必要があります。少なからず見られるのが「囲い込み」です。
囲い込みとは、売り物件情報を他社に開示しなかったり、他社からの問い合わせにうそを並べたりすることで売買を阻む行為を指します。不動産会社が囲い込みをする理由は、自社の買主と売主間で売買を成立させ、仲介手数料を2倍受領するためです。2024年6月に改正した宅建業法施行規則が、2025年1月から施行され、囲い込みに対して是正指示や業務停止処分などが設けられています。しかし、それでも囲い込みをする不動産会社の撲滅には至っていません。

5.高預かり
不動産会社による詐欺まがいの行為として「高預かり」も少なからず見られます。高預かりとは、わざと売れるはずもない高額な査定額を提示し、物件を預かろうとする行為です。
高額な査定額を提示されると、売主は「こんな金額で売れるの?」と喜んで不動産会社と媒介契約を交わしてしまいがちですが、不動産会社が提示する査定額は、その金額で売れると保証されたものではなく、あくまで不動産会社が一定期間で売れると考える売却金額にすぎません。
高預かりされた物件は、買主の不信感を招くことで売却に時間を要し、結果として相場を下回る金額でしか売れなくなってしまうおそれもあります。

6.関連業者や士業の強引な斡旋
不動産を売却する際には、解体や測量、リフォームが必要になることもあります。また、登記については、司法書士に委託するケースがほとんどです。そのため、必要に応じて不動産会社が解体業者や土地家屋調査士、司法書士などを紹介してくれますが、紹介してくれる関連業者や士業が売主にとって適切な相手とは限りません。
紹介された関連業者や士業と不動産会社に癒着があり、自社の利益から売主に紹介している可能性もあります。
7.仲介手数料の不正請求
仲介手数料の上限額は「売却金額×3%+6万円+消費税」と宅建業法で定められています。
(売却金額800万円以下の場合は、仲介手数料上限が30万円(税別)となります)
基本的に、仲介手数料には物件の販促費や担当者の人件費、物件の調査にかかった費用など、不動産を売るために必要なすべての諸経費が含まれています。
一部例外的に、売主が特別な広告などを依頼した場合には、別途、不動産会社は費用を請求できます。しかし、一般的な営業活動しかしていないにもかかわらず、広告費などを名目に不正に仲介手数料が請求される可能性があります。
不動産売却で詐欺に遭わないための方法
家の買い替えを成功させるためには、売却と購入のより良いタイミングを見極めることが重要です。市場の状況や季節的な要因も考慮に入れることで、有利な条件で取引を進めることができます。
不動産の管理を怠らない
所有者に成り代わって不動産を売却されてしまう地面師詐欺を避けるには、定期的に登記情報を確認し、印鑑証明書・実印・登記識別情報通知(権利証)などを厳重管理することが大切です。
「地面師詐欺に遭いやすいのは、放置されている不動産です。例えば2024年4月に相続登記が義務化されましたが、相続しても登記せず、所有者が亡くなった方のままになっている不動産や空き家・空き地のまま放置されている不動産などは対象になりやすくなります。所有者や住所、氏名の変更があれば速やかに登記し、管理下に置いておくことは、地面師詐欺の対策になることに加え、活用や売却をしやすくするためにも大切なことです」(村田さん、以下同)
現金・振り込みで売買代金を支払ってもらう
小切手で売買代金などを受領する場合は、金融機関に照会するなどして有効性を確認することが大切です。
「金融機関が発行し、自らが支払人となる『預金小切手』であれば不渡りのリスクは低いですが、個人や事業者が振り出す『パーソナルチェック小切手』はリスクが高いといえます。いずれも偽装や紛失のリスクがあるため、初めから小切手での支払いを断り、現金か振り込みで売買代金などを受領するのが確実でしょう」

登記に必要な書類は決済後に渡す
所有権移転登記は、印鑑証明書・実印・登記識別情報通知(権利証)などがあればできてしまいます。これらの書類を司法書士などに渡してしまえば、売買代金を受領する前に勝手に登記されてしまうリスクがあります。
「まず『登記手続きは売買代金の受領後』ということを売主が認識し、登記識別情報通知や印鑑証明書などを事前に渡さないようにしましょう。また、信頼できる司法書士に登記手続きを依頼するのも大切です」
売買時ではなく、地面師詐欺などで勝手に本人以外の者が売買手続きしたことを知った場合などには「不正登記防止申出」が有効です。警察などに告訴などをした後に法務局に申し出ることで、3カ月以内に登記申請があった際に本人に通知が行きます。また、登記官が不正登記を疑う場合は、本人確認調査が行われます。
信頼できる不動産会社に依頼する
2025年1月から囲い込みが規制の対象になったとはいえ、その内容は、レインズという不動産会社が閲覧する物件情報システムのステータス(取引状況)が実態と合っていない場合に処分の対象となるというものです。しかし、例えば「公開中」というステータスが実態と合っていたとしても、電話で問い合わせてきた他社に対し「担当者不在です」などの理由で他社からの買い手の紹介を拒むことはできてしまいます。
「売主はまず、囲い込みという詐欺まがいの行為が少なからず見られるという事実を知ることが大切です。囲い込み規制は抑止力の一つに過ぎないため、これで囲い込みを完全に防げるわけではありません。売主は、レインズの登録情報を見ることができますが、レインズ上のステータスが実態と合っていても囲い込みはできてしまうため、それを確認するだけでは足りません。不安があれば『常に見ています』などと伝えることで、不動産会社にプレッシャーをかけてみるのも良いでしょう。とはいえ、プレッシャーをかけるまでもなく、他社からの問い合わせまで逐一報告してくれる不動産会社やエージェントを選ぶというのが一番です」

査定額の高さで不動産会社を選ばない
「査定額=売れる金額」ではない以上、不動産を売却する際に複数の不動産会社の査定額や見解を聞き、比較することは非常に重要です。しかし、選ぶ基準は「査定額の高さ」ではなく、その根拠や提案してもらった売却戦略、担当者の人柄、実績などとするべきでしょう。
「複数社に査定依頼して1社だけ著しく高い査定額を提示してくればわかりやすいですが、最近はどこの不動産会社も高額査定を出す傾向にあるので、高すぎる査定額を出してくる不動産会社を避ければ良いというものでもありません。不動産会社の本音を聞くには『下限』を聞くのが有効だと思います。また、査定額だけでなく『売却戦略』を聞くことも大切です。例えば3カ月以内に売りたいのであれば、いくらで売り出し、いつ値下げの判断をするのかといった戦略を聞くことで、担当者の本気度やマーケットの理解などが見極められます」
不動産一括査定サイトとは?利用のメリットやサイトの選び方を解説
斡旋された業者・士業を安易に利用しない
不動産会社に紹介された関連業者や士業を利用することで、スムーズに売却手続きが進められることもありますが、費用が高額だったり、他にもっと良い業者・士業が見つかったりする可能性も十分にあります。
「信頼できる不動産会社やエージェントであれば売主の状況や意向にあった業者や士業を紹介してくれるはずですが、中立的かつ合理的な選択をするために、複数の業者や士業に見積もりを取ってみるのも良いでしょう。また、売買に不可欠な登記や測量は別として、解体業者やリフォーム業者を紹介された場合は、そもそも解体やリフォームが必要なのかについても検討することが大切です。現状有姿のまま売れる物件もたくさんありますし、『このままでは売れません』『だからリフォームや解体が必要です』という話や見解自体が誤っている可能性もあります。これは売り方の話になってきますので、やはり不動産会社と媒介契約を結ぶ前に、売り方を含めて複数社の見解を聞くことが大事になってくるでしょう」
媒介契約書をよく確認する
仲介手数料などを不正に請求されてしまうことを避けるには、事前の確認が不可欠です。媒介契約書には、仲介手数料の料率が明記されているのが一般的です。追加費用の発生条件なども、媒介契約前にしっかり確認しておきましょう。
「売主の依頼により『特別な広告』を実施した場合、仲介手数料の上限を超える報酬を受け取ることができるとされていますが『特別な広告』の定義は曖昧です。基本的には売主が求めた特別な広告と解釈されますが、特別な広告の範囲は媒介契約の違約金にも関わってくる可能性があるため、気になる場合は確認しておくと良いでしょう。とくに、不動産流通経営協会(FRK)・全日本不動産協会・全国宅地建物取引業協会連合会という3つの業界団体の標準書式に準拠していない媒介契約書には注意が必要です」

詐欺に遭ってしまった場合の相談先
万が一、不動産売却において詐欺や悪質な取引被害に遭ってしまった場合は、できるだけ早く専門機関に相談することが重要です。被害の内容や状況に応じて相談先を選ぶことで、適切なアドバイスや解決策を得られる可能性が高まります。以下に、主な相談先とその概要をまとめました。
| 相談先 | 概要 |
|---|---|
| 消費生活センター・国民生活センター | 消費者トラブル全般の相談に対応。解決のアドバイスや事業者との間に入って被害回復を図る。全国共通ダイヤル「188」 |
| 公益社団法人 宅地建物取引業協会 | 仲介した不動産会社に疑問がある場合に相談。不動産取引に関する相談に対応 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 法的な問題に関する情報提供、弁護士や司法書士の紹介。一定条件で無料法律相談も可能 |
| 公益財団法人 不動産流通推進センター | 不動産取引に関する相談に対応 |
| 公益社団法人 全日本不動産協会 | 不動産取引に関する相談に対応 |
| 公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル) | 住まいに関するトラブル相談 |
| 不動産適正取引推進機構 | 不動産取引に関するトラブル相談 |
| 都道府県の不動産業課 | 不動産会社の監督官庁。不適切な取引や業者に関する相談・通報が可能 |
| 弁護士・司法書士 | より専門的な法的対応が必要な場合の相談先。被害の程度に応じて法的措置の検討も |
「不動産会社が最も恐れるのは、都道府県の不動産業課への通報です。不動産会社の多くは、都道府県の免許を得て営業しています。不動産会社の免許権者にあたるため、免許停止などの処分が下せます。相談先に悩んだ場合は、都道府県の不動産業課(課の名称は都道府県ごとに異なる場合もある)に相談すると良いでしょう」
不動産売却で詐欺に遭わないために重要なのは不動産会社選び
多くの詐欺やそれに類する行為は、不動産会社がしっかり本人確認したり、顧客をだまそうとしたりしなければ避けられる可能性があります。したがって、不動産売却で詐欺に遭わないために重要なのは不動産会社選びといえるでしょう。不動産会社選びは、不動産を好条件で売るためにも非常に重要な工程です。
良い不動産会社の条件とは?
良い不動産会社を選ぶ基準としては「過去に行政処分を受けていない」「業界団体に加盟している」などがよく言われることです。しかし、処分歴がないのは当然のことであり、業界団体への加盟の有無で良い不動産会社かどうか見極めることは難しいと村田さんは言います。
「不動産会社の善し悪し、あるいは自分に合っているかを見極めるには、まず不動産会社としての考えが明確に発信されているのか、そしてそれに共感できるかどうかが大事になってくると思います。例えば、囲い込みはまだまだ業界のブラックボックスで、多くの不動産会社は『うやむやにしたい』と考えているため、深く言及していないことも少なくありません。不動産会社は、考えやスタンスを発信すればするほど余白がなくなり、動きにくくなります。それでも情報を多く発信しているとすれば、それだけ『透明性』にこだわっているということ。もちろん発信している内容にはよりますが、そこは一つ重要な判断基準になると思います」
売主の話を聞いてくれるかどうか
不動産会社を選ぶことも大切ですが、基本的に仲介は一人のエージェント(担当者)によるものであることから、エージェント(担当者)を選ぶことも大切です。
「詐欺に遭わないという点でいえば、売主の話をよく聞いてくれるエージェントを選ぶべきだと思います。詐欺をするとなると、やはり言葉たくみに相手を誘導しなければなりません。ろくに話も聞かず『あなたはこう売るべき』『この会社でリフォームすべき』などと言ってくるエージェントは、やはり信用できないでしょう。不動産売却のゴールは、売主自身が決めるべきです。とはいえ、売主は経験も知識も圧倒的に不足しているため、そこを補うのがエージェントの役割です。あくまでエージェントはサポート役。そこまで一緒になって最適なゴールとその道のりを考えてくれるかを見ると良いと思います」
複数の不動産会社・エージェントに会うことが大切
「いくら専門性が高く、実績が豊富だったとしても、最後に大切になってくるのはエージェントと売主の『相性』です。不動産会社の情報発信を見たり、エージェントと話してみたりすることが大切ですが、一社の不動産会社、一人のエージェントとだけでなく、ぜひ複数の不動産会社のエージェントに実際に会ってみてください」
複数の不動産会社のエージェントを比較する手段の一つとして、一括査定の活用も検討してみましょう。
SUUMO副編集長が解説!売却一括査定のメリット・デメリットや不動産会社を比較検討するポイント
まとめ
不動産売却では、金額が大きい分、詐欺やトラブルが起きた際の影響も深刻です。被害を防ぐためには、売主自身が基本的な知識を持ち、冷静に判断すること、そして信頼できる不動産会社やエージェントと取引することが何より重要です。本記事で紹介したような手口や対策を知っておくことで、より安全に、納得のいく不動産売却が実現できるはずです。
●取材協力
らくだ不動産
村田洋一さん
行政書士として不動産トラブルの相談を多数受けていた中で、日本の不動産仲介業界の不透明さを強く実感。消費者にとって一番良い不動産取引を目指すべく、欧米型エージェント制度を導入した不動産会社、AI×リアル(不動産)を促進する大手不動産会社の各創業に参画。以後、全国にエージェント制を広めるために、らくだ不動産に入社。不動産売却のプロとして、今まで3500件を超える相談を受ける。モットーは「正しく、フェアに、透明性を持った仕事を」。
構成・取材・文/亀梨奈美(realwave)


