不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

不動産の譲渡所得に50万円の特別控除は適用できる? 節税に役立つ控除や注意点を解説

不動産の譲渡所得に50万円の特別控除は適用できる? 節税に役立つ控除や注意点を解説

不動産の売却で譲渡所得が発生した場合は、所得税や住民税が課されます。総合課税の対象となる譲渡所得は、50万円の特別控除が適用になりますが、不動産の譲渡所得は分離課税にあたるため適用外です。その代わり、数百万円、数千万円が控除される特例が複数設けられています。

記事の目次

譲渡所得とは?

「譲渡所得」とは、一般的に土地や建物、株式、ゴルフ会員権など保有している資産を譲渡(売却)することによって生じる所得を指します。

資産には、船舶や車両、貴金属、書画骨董など売買できる経済的な価値があるものすべてが含まれますが、事業用の商品などの棚卸資材や生活用動産、貸付信託の受益権などの譲渡による所得は含まれません。譲渡所得は、売却によって得た金額とイコールではなく、以下の計算式で求めます。

譲渡所得=収入金額 − ( 取得費 + 譲渡費用) − 特別控除額

収入金額とは、売却によって得た対価です。取得費は取得にかかった費用、譲渡費用は譲渡にかかった費用を指します。特別控除額は、売却した資産や状況によって変わってきます。

譲渡所得税の概要と計算方法

譲渡所得には、所得税・復興特別所得税・住民税が課されます。これらの税金を総称して「譲渡所得税」と呼ぶこともあります。税額の計算方法は、土地や建物などの不動産を譲渡したときと不動産以外の資産を譲渡したときとで異なります。

まず、不動産を売却したときの譲渡所得は、給与などその他の所得と分離して計算する分離課税となり、不動産を売却した年の1月1日時点の所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の2つに区分されます。それぞれの区分の税率は、以下のとおりです。

  所得税 住民税 復興特別所得税
長期譲渡所得(所有期間5年超) 15% 5% 0.315%
短期譲渡所得(所有期間5年以下) 30% 9% 0.63%

一方、不動産や株式など以外の資産を売却したときの譲渡所得も、長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分されるのは同様ですが、短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象となり、長期譲渡所得は金額の2分の1が総合課税の対象となります。ただし、次の場合は所有期間が5年以下であっても長期譲渡所得に区分されます。

  • 自分が研究して取得した特許権や実用新案権などの工業所有権
  • 自分の育成による育成者権
  • 自分が著作した著作権
  • 自分で発見した鉱山などの採掘権
  • 配偶者居住権を取得した日からの所有期間は5年以内であるが、被相続人がその配偶者居住権の目的となっている建物を取得した日からの所有期間が5年を超える場合
  • 配偶者敷地利用権を取得した日からの所有期間は5年以内であるが、被相続人が配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地等を取得した日からの所有期間が5年を超える場合

また、総合課税となる場合の譲渡所得は、最大50万円の特別控除が適用されます。譲渡益が50万円より少ない場合は、全額控除されます。

譲渡所得の50万円の控除は土地・建物には使えない

50万円控除は、総合課税となる譲渡所得に適用される特別控除です。土地や建物の売却で出た譲渡所得は総合課税ではなく分離課税となるため、50万円の特別控除は適用されません。

しかし、不動産の売却で出た譲渡所得の特別控除がないわけではありません。適用要件さえ満たせば、数百万円、数千万円が控除される特例が適用できます。

不動産 分離課税

(写真/PIXTA)

土地・建物を売却したときに活用できる譲渡所得の特別控除

不動産の売却では50万円の特別控除が適用されることはありませんが、不動産の譲渡所得を控除できる制度は複数あります。

マイホームを売却した時の3,000万円の特別控除

自分が住んでいたマイホームの売却による譲渡所得は「マイホーム特例」とも呼ばれる3,000万円特別控除が適用となります。譲渡所得が3,000万円に満たない場合は、全額控除されます。適用要件は、以下のとおりです。

適用要件
  • 住んでいる自宅を売却するか、住まなくなった日から3年目の年末までに自宅だった住宅を売却すること
  • 家屋を取り壊した場合は、取り壊した日から1年以内にその敷地の売買契約を締結し、住まなくなった日から3年目の年末までに売却すること。かつ、売買契約を締結した日までその敷地を貸駐車場などに利用していないこと
  • 売却した年の前年または前々年に同じ3,000万円特別控除、または譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例を利用していないこと
  • 売却した年と前年または前々年にマイホーム買換え特例や交換の特例を利用していないこと
  • 売却した家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
  • 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年目の年末までに売却すること
  • 売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係でないこと

詳しくは以下をチェック
【3000万円特別控除とは】マイホーム売却で知っておきたい要件・必要書類・住宅ローン控除との関係を解説

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

相続した空き家を売った際にも、マイホームの売却と同様に3,000万円の特別控除が適用となる可能性があります。ただし、マイホーム特例以上に要件が細かいため注意が必要です。

適用要件
  • 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された区分所有建物登記がされていない建物
  • 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと(要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていたこと)
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 次のいずれかを満たすこと(いずれの場合も譲渡あるいは取り壊しのときまで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと)
    • 売った人が、相続または遺贈により被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を取得したこと
    • 相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取り壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売ること
    • 相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を売る場合で、譲渡の時から翌年2月15日までの間に一定の耐震基準を満たす、あるいは家屋を全部取り壊すこと

公共事業のために売却した時の5,000万円の特別控除

土地収用法など法律で収用権が認められている公共事業のために土地や建物を売却した場合で、次の要件を満たす場合は5,000万円の特別控除が適用となります。

適用要件
  • 売った土地建物は固定資産であること
  • その年に公共事業のために売った資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けていないこと
  • 最初に買取等の申出があった日から6カ月を経過した日までに土地建物を売っていること
  • 公共事業の施行者から最初に買取等の申し出を受けた者(その者の死亡に伴い相続または遺贈により当該資産を取得した者を含む)が譲渡していること

特定土地区画整理事業などのために売却した時の2,000万円の特別控除

公共団体などが施行した特定土地区画整理事業などのために土地などを売却した場合で次のいずれかに該当する場合は、2,000万円の特別控除が適用となります。

適用要件(いずれかに該当)
  • 国や地方公共団体、独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社が土地区画整理事業、住宅街区整備事業、第一種市街地再開発事業又は防災街区整備事業として行う公共施設の整備改善や宅地の造成、共同住宅の建設、建築物・建築敷地の整備に関する事業のためこれらの者(地方公共団体が設立した特定の団体を含みます。)に土地等が買い取られた場合
  • 都市再開発法による第一種市街地再開発事業の都市計画法第56条第1項に規定する事業予定地内の土地等が、同項の規定に基づいて、その第一種市街地再開発事業を行うその事業計画の決定に先立って設立された市街地再開発組合に買い取られた場合
  • 密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律による防災街区整備事業の都市計画法第56条第1項に規定する事業予定地内の土地等が、同項の規定に基づいて、その防災街区整備事業を行うその事業計画の決定に先立って設立された防災街区整備事業組合に買い取られた場合
  • 古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法、都市緑地法(同法第17条第3項の規定により買い取られる場合には、一定の要件に該当するものに限られます。)、特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法、航空法、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律に基づき土地等が買い取られた場合
  • 文化財保護法により重要文化財・史跡・名勝若しくは天然記念物として指定された土地、自然公園法により特別地域として指定された区域内の土地、自然環境保全法により特別地区として指定された区域内の土地が国や地方公共団体(地方公共団体が設立した特定の団体を含みます。)に買い取られた場合(その重要文化財として指定された土地又は史跡・名勝若しくは天然記念物として指定された土地が、独立行政法人国立文化財機構、独立行政法人国立科学博物館、一定の地方独立行政法人又は一定の文化財保存活用支援団体に買い取られる場合を含みます。)
  • 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地又は保安施設地区内の土地が保安施設事業のため国又は地方公共団体に買い取られた場合
  • 防災のための集団移転促進事業に係る国の財政上の特別措置等に関する法律に規定する集団移転促進事業計画に定められた移転促進区域内の農地等(農地、宅地、その他の土地)が同計画に基づき地方公共団体に買い取られた場合
  • 農業経営基盤強化促進法の農用地利用規程の特例の規定により定められた農用地利用規程に係る農用地利用改善事業の実施区域内にある農用地が、その農用地の所有者等の申出に基づき、農地中間管理機構(一定のものに限ります。)に買い取られる場合

特定住宅地造成事業などのために売却した時の1,500万円の特別控除

特定住宅地造成事業のために土地や土地の権利が買い取られた場合は、1,500万円の所得控除が受けられます。「特定住宅地造成事業のために土地や土地の権利が買い取られた場合」に該当するかどうかは、最寄りの税務署に聞いてみましょう。

平成21年、22年に取得した国内の土地を譲渡した時の1,000万円の特別控除

2009年(平成21年)または2010年(平成22年)に取得した国内にある土地等を譲渡した場合で以下の適用要件を満たす場合は、譲渡所得の金額から最大1,000万円が控除できます。
譲渡所得の金額が1,000万円に満たない場合は、全額控除されます。

適用要件
  • 2009年1月1日から2010年12月31日までの間に土地等を取得していること
  • 2009年に取得した土地等は2015年以降に譲渡すること、また、2010年に取得した土地等は2016年以降に譲渡すること
  • 親子や夫婦など特別な間柄にある者から取得した土地等ではないこと。特別な間柄には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれる
  • 相続、遺贈、贈与、交換、代物弁済および所有権移転外リース取引により取得した土地等ではないこと
  • 譲渡した土地等について、収用等の場合の特別控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど他の譲渡所得の特例の適用を受けないこと

農地の保有化などのために売却した時の800万円の特別控除

農用地区域内の農地を農地中間管理事業の推進に関する法律に基づく農用地利用集積等促進計画等により譲渡した場合は、800万円の特別控除が適用になります。

適用要件
  • 農地中間管理事業の推進に関する法律に基づく農用地利用集積等促進計画により農用地を譲渡した場合
  • 農業委員会のあっせん等により農用地区域内の農用地を譲渡した場合
  • 農地中間管理機構に譲渡した場合

低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除

都市計画区域内の一定の低未利用土地を500万円以下で売却した場合は、譲渡所得から100万円が控除されます。低未利用土地とは、居住や事業などの用途に利用されておらず、その利用の程度が周辺地域や同様の土地と比べて著しく劣っている土地やその土地の権利を指します。

適用要件
  • 売った土地等が、都市計画区域内にある低未利用土地等であること
  • 売った年の1月1日において、所有期間が5年を超えること
  • 売手と買手が、親子や夫婦など「特別な関係」でないこと。「特別な関係」には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます
  • 売った金額が、低未利用土地等の上にある建物等の対価を含めて500万円以下(低未利用土地等が次に掲げる区域内にある場合には800万円以下。以下同じです。)であること
    •  市街化区域
    •  区域区分に関する都市計画が定められていない都市計画区域のうち用途地域が定められている区域
    •  所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法に規定する所有者不明土地対策計画を作成した市町村の区域(イおよびロに掲げる区域を除きます。)
  • 売った後に、その低未利用土地等の利用がされること
  • この特例の適用を受けようとする低未利用土地等と一筆であった土地から前年または前々年に分筆された土地またはその土地の上に存する権利について、前年または前々年にこの特例の適用を受けていないこと
  • 売った土地等について、収用等の場合の特別控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど、他の譲渡所得の課税の特例の適用を受けていないこと

不動産 控除特例

(写真/PIXTA)

譲渡所得の特別控除を使う際の注意点

特別控除を適用することで、譲渡所得税を節税できます。ただし、次の点には注意が必要です。

適用要件に注意

各種特別控除は、それぞれ細かに適用要件が定められています。適用要件は国税庁のサイトに記載されているので、まずはしっかりチェックすることが大切です。とはいえ、法律や税制について、文字だけでその内容を把握するのは難しいものです。また、譲渡所得の計算も容易ではありません。

自分で調べたり、計算したりすることが難しい場合は、地域の税務署や税理士などに相談するようにしましょう。不動産会社が、無料の税務相談会を開催していることもありますので、一般的な方針を聞きたい場合などは活用するのもいいでしょう。

適用を受けるには確定申告が必要

特別控除の適用を受けるには、確定申告が必須です。特例を適用したことにより税額がゼロになったとしても、適用自体に確定申告が求められます。

確定申告の方法も国税庁のサイトなどに細かく記載されていますが、基本的には適用要件を確認して必要な書類を揃え、確定申告書に記入して税務署に提出します。確定申告書の作成および提出はe-Taxでも可能です。税金の納付も、自宅からキャッシュレスでできます。

確定申告の期間は、売却した年の翌年2月16日〜3月15日。確定申告書を提出するのは、納税地の税務署です。

※2025年の確定申告の期間は2月17日~3月17日まで

まとめ

不動産の譲渡所得は分離課税の対象となるため、総合課税が対象となる50万円の特別控除は適用になりません。その代わり、3,000万円特別控除など、控除上限額が50万円よりはるかに大きい特例が適用になる可能性があります。控除特例は複数あり、それぞれ細かく適用要件が定められています。自分でも確認できますが、不明点がある場合は税務署や不動産会社、税理士などに相談することをおすすめします。

●監修/大森広司さん
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
●取材・文/亀梨奈美(real wave)
構成/サクラサクマーケティング株式会社
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