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相続した実家。空き家特例を使うため更地にして、スケジュール優先で売却/神奈川県川崎市川崎区Aさん(50代)

神奈川県川崎市川崎区Aさん(50代)/相続した思い出の残る実家。空き家特例を使うため更地にして、スケジュール優先で売却

両親が暮らしていた古家つき土地(約83m2)を相続したAさん。当初は売らずに賃貸住宅など土地活用も検討しましたが、ある特例を使えば譲渡所得税の控除を受けられることを知り、売却することにしました。

不動産区分 古家付き土地
所在地 神奈川県川崎市川崎区
築年数 不明
間取り・面積 敷地面積…約83m2
ローン残高 なし
査定価格 3000万円〜3300万円
売り出し価格 3000万円
成約価格 3000万円

相続した土地と家を、3000万円の特別控除の特例を使い売却することに

父親が亡くなった約3年後に母親も亡くなり、Aさんが相続することになった神奈川県川崎市の実家。Aさんにとっては思い出のある実家です。父親が営んでいた工場を併設していたこの家は、50代のAさんが生まれたときにはすでにあったので、築年数はわからないそう。「それくらい古い家でしたから、相続したときには住宅ローンの残債もありませんでした」

Aさんは大学入学を機に実家を離れ、結婚後に現在住む東京都北区に家を構えていましたが、母親との最後の1年間は介護のために実家へ通っていたそうです。「この辺りは準工業地帯で、幼いころは父親の営んでいたような町工場がたくさんありました。しかし私が家を出てから30年以上たった今では、町工場の代わりにアパートやマンションが増え、随分と雰囲気が変わっています。すぐ近くにある高速道路の料金所は、以前は東京方面だけでしたが、今では横浜方面や千葉県の木更津方面にもすぐ行けるようになりました。大きなショッピングセンターも近くにできて、若いファミリー層に人気のエリアになっています」

最寄駅から徒歩3分という立地条件の良さと、両親が遺してくれた思い出の場所ということもあり、当初は実家を取り壊して賃貸住宅にしようと考えていたAさん。そこで住宅メーカーの1社に費用やプランを提案してもらいましたが、「土地をあまり有効に活用していない間取り」だと思ったため、いまひとつ踏み切れなかったそうです。

どうするか悩んでいたときに「ところで、もしも売ったらどうなるんだろう?」と興味本位で、インターネットの一括査定を利用してみたそうです。すると数社から「とにかく現地を見せてほしい」と連絡があり、現地査定をしてもらうことになりました。「そのときは建物込みの査定だったのですが、一番低い査定額は3000万〜高いの3300万円といったところでした」

その中の1社の営業担当者が「相続空き家の3000万円控除をご存知ですか?」と尋ねてきました。これは空き家の発生を抑制するために設けられた特例措置で、空き家になった被相続人の家と土地を相続した際に利用することができます。相続した空き家を耐震リフォームして家屋と土地を売るか、あるいは家屋を取り壊して敷地を売った場合、その譲渡にかかわる譲渡所得の金額から最大3000万円を特別控除できるというものです。

「もし賃貸住宅を建てたとしても、今の北区の家から実家までは、電車でも車でもあまり交通の便が良くありませんから、通うのは面倒だと思っていました。またこれから借金をして賃貸住宅を建てても、必ずしも利益を上げられるとは言い切れません。その営業担当者と話しているうちに『それなら、売却しても譲渡所得税が控除される特例を使ったほうが良さそうだ』という結論に至りました。」

特例の適用期間に間に合わせるため、売却金額より時期を優先

相続空き家の3000万円控除は平成28年(2016年)度の税制改正により創設されました。Aさんが特例の適用を検討し始めた2018年3月時点では、適用期限が2019年12月31日までとされていたため、売却金額よりも、適用期限に間に合うよう、売却時期にこだわりました。

当初は母親の一周忌を終える2018年11月以降に手放したいと考えていました。「しかし特例の適用を一緒に考えてくれた営業担当者に対し、そこまで仲介契約を先延ばしするのは忍びないと思い、仲介契約だけは5月に済ませました」

仲介契約を結ぶ際に、売り出し価格は3000万円と決めました。2019年12月31日までという特例の適用時期がありましたから、期限内に売れるようにと、数社による現地査定額の下限額としたのです。また建物を残して特例を受ける場合は、耐震リフォームなどある程度の規定をクリアする必要がありましたが、更地にしても特例を利用できます。Aさんはリフォームより安く済むため、更地にして販売することにしました。ただし、先述の通り一周忌を終えてから手放したいと考えていましたから、せめて売却活動の開始は初盆明けにしてほしいと依頼しました。

ちなみにAさんの実家周辺のお盆は、一般的な8月ではなく、7月中旬なのだそう。そのため7月中旬以降から販売活動を行うことになりました。

■相続空き家の3000万円控除とは

相続空き家の3000万円控除(空き家の発生を抑制するための特例措置)とは、空き家の発生を防ぐために、「空き家となった被相続人の家屋付き土地を相続した相続人が、耐震リフォームまたは取り壊しをした後に、その家屋または敷地を譲渡した場合には、その譲渡で得る譲渡所得の金額から3000万円を特別控除する」というもの。対象となる家屋は1981年5月31日以前に建築された家屋に限ります。また特例の適用を受けるためには、空き家・敷地の譲渡日が次の2要件をともに満たすことが必要になります。①相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までであること。②特例の適用期限である2027年12月31日までであること。この特例の利用を検討されている人は、これらの期限があるので早めの行動が肝心です。

売却よりも、空き家特例の申請に手間暇がかかった

Aさんが契約した不動産仲介会社は首都圏にいくつも営業所を構える大手企業。「おそらく契約した5月の時点で情報を全社で共有していたのでしょう」売り出し当日には「購入希望者が現れました」と連絡があったそうです。購入希望者はこの辺りに家を建てたいと探していた、30代の夫妻だそうです。

実はそれからのほうが大変だったとAさんは振り返ります。「何しろ出来たばかりの特例で、税務署のほうも扱うのが初めてということもあり、電話での相談ではなく直接税務署にきてほしいと言われました。また市役所にも更地になった土地の評価をしてもらったりするために、何度か足を運びました」

仕事を半休して幾度も税務署や市役所に足を運び、必要な書類を手に入れたりと、しなければならないことがとても多かったといいます。「その際には不動産会社の担当者が同行してくれたり、代わりに入手できる書類は取ってくれたりと、とても助けてもらいました」

また更地化する際には、この営業担当者が解体業者を2社紹介してくれたそうです。「現地を見てもらい見積もりを取って比較しました。依頼した会社は見積額としてはもう1社より少し高かったのですが、この日は交通整理に何人必要で、工場跡のコンクリート床を取り除くためにプラスいくら必要になるなど、とても見積もりが丁寧でしたのでここに決めました」

こうして更地にして空き家特例を申請し、土地の引き渡しを無事2018年8月に終えることができました。「更地化の費用はさほどかかりませんでした。仲介手数料を払っても2700万円ほど残りました」

空き家特例の控除は最大3000万円なので、この売却益に税金はかかりません。当初の希望であった母親の一周忌の前で手放すことになりましたが、それでも購入者の喜びようを見て、売却して良かったと思っているそうです。

不動産会社の対応で、築古かつ遠方、コロナ禍での売却でも不安感はなし

「空き家特例がなかったら、売却せずに賃貸住宅を建てていたかもしれません」とAさんは振り返ります。亡くなる最後の1年間、ずっと母親の面倒を見てきたAさんは、病名や母親の様子から「なんとなく最期は近いのかなと思っていたので、もしも母親が亡くなったら実家をどうしようかと」そのころからぼんやりと考えてはいたそうです。
「そのころはやはり思い出のある実家ですし、両親が遺してくれた土地でしたから、そう簡単には手放したくはなかったんです」
しかし最終的には、賃貸住宅を建てるよりも空き家特例を使って、新しい人に土地を使ってもらったほうが良いだろうと決断したAさん。「幸い、担当してくれた営業の方が本当に親身になって空き家特例の申請を手伝ってくれました。とても感謝しています」
この担当者のサポートもあり、「売却活動に点数をつけるなら10点満点です」

2018年3月 ・現地査定を受ける
2018年5月 ・不動産会社と専属専任媒介契約を結ぶ
2018年7月 ・売却価格を3000万円とし販売開始
・購入検討者が現れる
・空き家特例の申請のための活動を開始する
2018年8月 ・更地化の工事を行う
・空き家特例の申請を行う
・売買契約を結ぶ

まとめ

  • 相続した家や土地は「空き家特例」を使うと、譲渡所得税の控除を受けることができる
  • 「空き家特例」は税務署や市役所とのやりとりが頻繁で手間暇がかかることに留意が必要
  • 「空き家特例」の適用を受けるには期限があるので、早めの売却行動が重要になる
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イラスト/キットデザイン

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●構成・取材・文/籠島康弘
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