
大阪府八尾市のタワーマンションの高層階に住んでいたYさんは、転勤に伴い物件を手放すことに。相場よりやや高めで売り出し、幾度となく値下げ交渉をされますが、一貫した姿勢で最終的に理想に近い価格で売却しました。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府八尾市 |
| 築年数 | 築8年 |
| 間取り・面積 | 3LDK(約66m2) |
| ローン残高 | 約3800万円 |
| 査定価格 | 4180万円 |
| 売り出し価格 | 4180万円 |
| 成約価格 | 3950万円 |
駅直結の便利なタワーマンション。転勤に伴い、売却の判断を迫られる
Yさん(30代)の夫は転勤族。結婚して一緒に暮らし始めるにあたり、数年のうちに異動になることを想定して賃貸住宅を検討しますが、「資産性の高い物件を購入した方が、メリットになる」と分譲マンションに目を向けます。
そこで選んだのは、大阪府八尾市のタワーマンションです。
間取りは3LDK、広さは約66m2。築6年(購入当時)の中古物件でしたが、新築さながらに内装がきれいで、高層階のため眺望が良く、駅直結で交通アクセスも抜群でした。
「タワーマンション自体にステータスがあります。資産として魅力的だと思いました」
2017年に3850万円で購入。そして2年後の2019年の春に、夫の関東地方への転勤が決まります。
同年の夏に無事、社宅に引っ越したYさんご夫妻。物件を売却するか、賃貸にするか、いよいよ判断を迫られました。
「駅直結なので雨でも気軽に外出ができましたし、宅配ボックスや、同じフロアにゴミ置場があり、忙しい共働き夫婦にはとても便利。いつか大阪に戻ったときのために残しておこうかとも考え、実際、不動産会社に家賃の見積もりを出してもらうなどして2カ月ほど、真剣に悩みました。
しかしこの先、物件が老朽化したり、人に貸すことで汚れてしまったりすれば、どんどん価値は下がるでしょう。管理費や固定資産税などがかかってくるのも心配でした」
そのころちょうど、大型台風が上陸し全棟停電になったマンションが出たとニュースで見たYさん。「もろもろのリスクを思えば手放すのが得策」と、売却することにします。
分譲を手がけた企業のグループ会社で、売却実績もあるB社と媒介契約
物件はYさんご夫妻が入居する前に、約300万円をかけてリフォームしていました。
それもあって購入価格の3850万円に施工分や諸費用分を足した4180万円で売り出しても、高望みではないだろうと踏みます。
「ローンはリフォーム代を含めて4150万円で組んでいて、残額がまだ約3800万円ありました。そのため『売却した分ですべて返済できたら』というのが私たちの率直な気持ち。
ただ、やみくもにそう考えたわけではありません。水まわりの設備を最新のものに取り替えましたし、資産価値があると重々、確かめて購入した物件です。
ネットで調べたところ、同じマンションでほぼ条件の変わらない部屋が、5000万円で売り出されていて。
『安易に妥協するのはやめよう』と、夫と決めました」
物件は大手デベロッパーのA社が分譲したもの。それもあってYさんがこのマンションを中古で買ったときもグループ会社であるB社が仲介していました。
「買ったときもB社が仲介していましたし、グループ会社であれば一番、物件のことを理解しているでしょう。大手である程度、信頼できたのもあり、真っ先に査定をしてもらうことにしました」
B社に電話すると、すぐに2人の営業担当者と現地で会うことになります。
「4180万円の希望価格を伝えたら、過去にあった同じマンションの売却事例を細かく見せてくれて。そこで『ここは高層階ですし、うちは実績もあるので大丈夫です。少し強気の値段ですが、それで売りますから、ぜひやらせてください』と言われ、お願いすることにしました」
2019年11月、YさんはB社と専属専任媒介契約を結びます。
反響が少なくなっても、最初に打ち出した4180万円を譲らずに待つ
その後、B社では不動産ポータルサイトに物件情報をアップしたり、市内の住宅にポスティングをしたりと販売活動をスタート。
Yさんは週に1度、郵送で「営業活動報告書」を受け取ります。しかし、内容は思わしいものではありませんでした。
「不動産売却を経験した知人から『初めが最も反響があるから、初動が大事だよ』と聞いていたため、早ければ1カ月で勝負がつくのではと思っていました。
しかし売り出した当初は週2、3組の内見者がいたものの、売却にはつながらず。
1カ月を過ぎると、内見の数が週1回のペースに落ちてしまいました」
購入に至らなかった理由は、やや高めの価格設定。そこで早々にB社から「300万円~400万円くらい値下げしないか」と打診されます。ただYさんは、それだけは絶対に譲れなかったと言います。
「例えば私たちから住み心地を聞き出してお客さんにアピールするとか、もっとニーズの高そうな客層に声をかけるとか、営業にはいろいろなやり方があると思うんです。でも、ただ事務的に近況を報告してくるだけで、工夫している様子がまったく見られませんでした。『売りますから任せてください』と、あんなに意気込んでいたのに。
安くすれば売れるのは当たり前で、値引きはあらゆる手を尽くした上の最終手段でしょう。毎月、ローン返済などに約15万円がかかるので、早く売りたい気持ちはやまやまでしたが、やるべきことをしてもらっていない限り、受け入れられませんでした」
Yさん夫妻は、そのことをB社に念押しして伝えますが、2月になっても状況は変わりませんでした。
最終的に3950万円で売却。ぎりぎりまで妥協せず最良の買主に出会う
3月になるころ、B社から連絡が入ります。営業担当が別のスタッフに変わることになったのです。
「それからというもの、報告書が中身の濃いものになり、電話も頻繁にかかってくるように。そのタイミングで担当から『引っ越しシーズンで人の動きが変わっているので、一度、値段を見直しませんか』と言われました。一瞬、心が揺らいだものの、やはり値下げはしないことに。というのは、ネットで同じマンションの物件が何件か売り出されていたのですが、長いこと価格が変わらない部屋もあり『粘っている人がいるのだな』と励まされたのです」
そのまま6月になったところで、B社から一報が入ります。
「『あるリタイアしたご夫妻が気に入ってくれていて、ただ、本当に生活がしやすいかを心配している』とのこと。そこでスーパーや病院が近く、セキュリティも万全であるなど、物件のメリットをできる限り伝えました。
すると数日後、担当から『かなり乗り気になってもらえている』と連絡がきて『3900万円だとどうですか』と。正直、下げたくはなかったですが、もともと3850万円で買ったことを思えば、まずまずの値段でしょう。
とはいえ、これだけが決め手ではありません。もう一つの決め手は、先方とのやり取りの中で『ぜひこの人に住んでほしい』と思えるほど、いい方であることが見えたからです。
何度か交渉して折り合いをつけ、最終的に3950万円で買ってもらえることになりました」
2020年6月、Yさんは買主と売買契約を交わします。

予定通りではなかったけれど、一つひとつ納得して進められて後悔はなし
同月に物件を引き渡したYさん。7カ月に及んだ売却活動を、こう振り返ります。
「売却価格は下がってしまいましたが、貯蓄と合わせてローンを全額、返済できましたし、愛着あるマンションをいい方に引き継げて何より。月々の返済や固定資産税がなくなり、今は解放感でいっぱいです。
私たちの場合は安易に値下げしなかったからこそ、納得いくように進められたと思います。ただ時間がかかったので、点数をつけるなら全体として60点くらいでしょうか。
ここで学んだことを、次にマンションを売買するときに活かしていきたいです」
そう言って笑顔を見せるYさん。
今後もぶれない姿勢で、よりよい暮らしを築いていくことでしょう。
■値下げのタイミングについて
不動産の販売中に「値下げ」を行うことは、売却につながる有効な手段。しかしいったん値下げした後に「値上げ」するのは、買主の購買意欲を損なわせる点から、基本的にできないものです。そのため値下げする金額や時期は、慎重に決める必要があります。ポイントは相場との関係性。あまりに相場から乖離(かいり)した値段だと「何か事情があるのでは」と購入者を遠ざける恐れが。相場が上昇傾向であれば、ひとまずは値下げをせずに様子を見た方がよい場合もあります。不動産会社から値下げを提案されたときは根拠を聞き、理由が曖昧であれば、会社を変更するのも手です。
| 2019年7月 | ・マンションの売却を考え始める |
|---|---|
| 2019年11月 |
・B社で訪問査定を受ける ・B社と専属専任媒介契約を結ぶ |
| 2020年6月 | ・購入者が現れる ・買主と売買契約を結ぶ ・マンションを買主に引き渡す |
まとめ
- 不動産会社が熱心に営業してくれないと感じたときは、ほかに策はないか聞くなどして行動を促そう
- 値下げはあくまで最終手段。妥協せず別の営業方法を取ってもらうことで、最良の買主が現れることも
- 買主の候補者が購入を迷っているときは、知る限りの物件のメリットを伝えて判断材料にしてもらう
取材・文/星野 真希子 イラスト/斎藤ひろ子
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