
東京都千代田区にある築20年のマンションで1人暮らしをするDさんは、騒音問題に悩まされるようになり、住み替えを決意。近隣物件の売り出し状況を踏まえた値付けが功を奏し、想定した価格での売却を実現。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都千代田区 |
| 築年数 | 20年 |
| 間取り・面積 | 2LDK(約55m2) |
| ローン残高 | 1480万円 |
| 査定価格 | 約5000万円 |
| 売り出し価格 | 5480万円 |
| 成約価格 | 5300万円 |
思いがけない”音問題”で、20年住んだマンションを手放すことに
20年前に購入した千代田区のマンションで、1人暮らしをしてきたDさん(50代男性)。部屋は2LDK・約55m2。徒歩約7分圏内に複数の路線が利用できる駅が2つあり、スーパーも近く、生活するのに不便はありませんでした。
「購入のきっかけは1枚のチラシ。当時、住んでいた賃貸住宅の近くに今のマンションが建つことになったのですが、千代田区内でも自分が生まれ育ったエリアで、とくに親しみを感じたのです。不動産を所有する予定はなかったものの、手が届く価格だったのもあり、突き動かされるように買うことにしました」
住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)融資で35年ローンを組み、着々と返済して残金は1480万円。完済まであと11年のところでしたが、あるトラブルが浮上します。
「建物が大きな道路に面し、かつ自分の部屋が低層階でゴミ置き場に近く、度々ふたの開閉音が聞こえたため、住みはじめたころから音が悩みの種でした。やり過ごしていたものの、1年ほど前から今度は真上の部屋の人が、蛇口を急に止めたときの圧力差で起きる“ウォーターハンマー音”を出すようになって。人によっては平気なのでしょうが、私にとっては騒音です。住人に交渉したのですが改善されず、やむなく住み替えを考えはじめました」
ただ、理由はそれだけではありません。
「ある日、届いたダイレクトメールに『このマンションであれば5000万円で売れます』と書かれていて。『本当かな』と思い、不動産ポータルサイトで同じような条件のマンションを調べたところ、確かにどれも近い価格帯で売られていました。『この値段なら申し分ない』と、売却することにしたのです」

■マンションの騒音問題について
騒音には空気から伝わってくる「空気伝播音」と床や壁を振動させて伝わる「固体伝播音」があり、とくに後者は壁厚・床厚・角住戸だからといって予防はできません。前者であっても寝室と隣家のリビングが隣り合わせだと、就寝中に話し声やテレビ音が聞こえる可能性があります。一般的に分譲住宅は賃貸住宅より防音対策がされていますが「隣家の間取りを聞く」「竣工図面を持ってマンションの専門家に相談する」「理事会の資料を閲覧する」「前の住人の退去理由を尋ねる」など、購入前に不動産仲介会社に確認するのが良いでしょう。
不動産仲介会社の割引の話に乗り、初見で売り出し価格までを決定
Dさんは新しい部屋を見つけ、2020年11月に引っ越し、完全にマンションを空けてから売却活動をスタート。依頼する不動産仲介会社は、迷うことなく定めたといいます。
「不動産仲介会社(A社)に勤める知り合いがいて、仲介手数料を半額にしてくれる話になりました。取引する金額が大きいだけに、これはとても魅力的。もちろん割引額を上回る値段で売ることができれば、別会社に頼んでも良いわけですが、複数の会社と接触すると面倒が出てきそうですし、A社は全国に支社を持つ、ある程度、規模の大きな会社。現時点で一番、信頼できる1社に頼もうと思いました」
早速、現地を訪れたA社は、「5000万円くらいでは売れる」と判断します。
「20年住んで壁紙や設備が古くなっていたため、事前にリフォームすべきか相談したところ、修繕に時間をかけるより、最も不動産の動きがある2・3月に向けて、少しでも早く売り出すのが得策と聞きました。
一方で担当者が持ってきたデータから、同じマンションのほぼ同等の広さの部屋が前月に5100万円で売れたこと、9階の部屋が6280万円で売り出し中であることが判明。
その場で専任媒介契約することを決め、売り出し価格までを詰めていきました」
Dさんは、A社に5480万円で売り出したいと申し出ます。
「少し強気だと言われましたが、直近の事例からして5000万円は手堅いでしょうし、9階の部屋と比べれば割安感があるため、このくらいは上げられる。もし売れなければ、徐々に値段を下げれば良いと思ったのです。
仲介手数料を割り引いてもらうには、指定された契約タイプにすることが条件だったので、言われた通り『専任媒介契約』を結びました」
180万円の値下げは想定内。売り出しから3週間で難なく売却
A社ではレインズ(不動産流通機構)に登録するとともに大手不動産ポータルサイトに物件情報をアップし、販売活動をはじめます。
「住み替え先の私の部屋は、賃貸マンション。大がかりな資金計画の必要がなく、すでに引っ越し済みだったことからタイミングを計る焦りもありません。漠然とですが知人から『すぐに売れるのでは』と聞いていたので『まあ大丈夫かな』とゆとりをもっていられました」
A社の担当者に物件のカギを預け、すべてを任せていたDさん。2週間後、メールで「営業活動報告書」を受け取ると、問い合わせは複数件きていて、反響はまずます。早速、内見を2組、受け入れることになりました。
「しかし値段の折り合いがつかなかったのか、購入には至りませんでした。
そこまで気落ちはしなかったものの、『価格を相場より高く設定したな』と自覚していたので、どの段階で下げれば良いかが気がかりでした」
もし動きが見られなくなったら100万~200万円値下げしようと考えていたDさんですが、翌週、A社から電話が入ります。
「『3組目に内見した人が5300万円で買うと言っているのですが、どうですか』と言われ、即『それでお願いします』と返事をしました。もともと、数百万円の値下げは想定内。迷うことはなかったです」
2020年12月、Dさんは売買契約を交わします。
「ほかに条件を求められることはなく、購入者とはスムーズに売買契約を進められました。ただ、相手のローン審査が通るまでに時間がかかり、結局、引き渡しまで約2カ月かかりました」
住まいを賃貸住宅に変えることで生まれた余裕が、何よりの成功の秘訣
約3カ月の売却活動をDさんはこう振り返ります。
「引き渡しに時間がかかったのは予想外でしたが、それでも『普通より多少、長くなった』程度に受けとめています。こうして余裕をもてたのは、ひとえに新たな不動産購入を控え、資金面で負担をなくせたからこそ。ローンの残債も売却金額で賄えました。
賃貸住宅のメリットはほかにもあって、それは何より身軽でいられること。今の部屋も、実は隣から子どもの走る音が聞こえることがあるのですが、以前と比べると良い方。何かあれば引っ越せる、そう思うと気持ちもラクでいられます」
同じ千代田区内で住み替えた新しい住まいは、大きな道路から離れており、南向きの上層階で日当たりが良く、今までのなかで最も快適なのだとか。
さまざまな経験を重ね、Dさんはより自分に合った住まいに住み替えることができたようです。
| 2020年7月 | ・マンションの売却を考えはじめる |
|---|---|
| 2020年9月 | ・住み替え先の賃貸マンションが決定 |
| 2020年11月 | ・住み替え先に引っ越し ・A社で訪問査定をする ・A社と専任媒介契約を結ぶ |
| 2020年12月 | ・購入者が現れる ・買主と売買契約を結ぶ |
| 2021年3月 | ・売却したマンションを買主に引き渡す |
まとめ
- 不動産売買の動きが見られるシーズンは、リフォームに時間を割かず、少しでも早く売り出すのがベター
- 同じマンションで同等の物件が売り出し中の場合、それより少し低めの価格にするとお得感を出せる
- 住み替え先を賃貸住宅にする場合、資金計画の負担が減る分、ゆとりをもって売却活動に取り組める
取材・文/星野 真希子 イラスト/石山好宏


