自宅などの不動産を売却するにあたって、不明点や不動産会社・買主などとのトラブルを抱えている方もいるのではないでしょうか。不動産取引では宅地建物取引業、法務・税務の専門的な知識も必要なため、経験のない方ではなかなか理解が難しい部分もあるでしょう。
この記事では、不動産売却の基本的な流れに沿って、各段階での相談先を紹介します。解決したい疑問やトラブルを抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
記事の目次
不動産売却の基本的な流れと相談先
まず不動産売却を進める基本的な流れと、各段階での主要な相談先を一覧で紹介します。
不動産売却の段階 | 相談先 | 相談内容 |
---|---|---|
(1)不動産売却の事前相談・査定 | 不動産会社 | 売却全般に関すること、査定依頼 |
不動産鑑定士 | 査定に関すること | |
(2)不動産媒介契約の締結・売却活動 | 不動産会社 | 売却全般に関すること |
(3)不動産売買契約の締結 | 司法書士 | 登記に関すること |
弁護士 | 売却トラブルに関すること | |
(4)決済・引き渡し | 土地家屋調査士 | 境界確定・確定測量図に関すること |
(5)確定申告 (売却の翌年2月16日〜3月15日) |
国税庁 確定申告電話 相談センター |
確定申告全般に関すること |
税理士 | 不動産売却にかかる税金、節税に関すること | |
空き家を売却したい場合 | お住まいの区市町村役所 | 通常の不動産売却が難しいと考えられる空き家の処分に関すること |
どこに相談すれば良いかわからない場合 | 不動産 無料相談会 |
不動産取引全般に関すること |
売却にあたって不動産会社と媒介契約を締結しているのであれば、まずは不動産会社に相談するとよいでしょう。不動産会社で対応できる内容なら任せることができ、ほかの専門家や窓口への相談が必要な場合でも、該当する相談先を紹介してくれる可能性があります。
なお、通常の売却が難しい空き家については、自治体に相談するのが一般的です。自治体によっては「空き家バンク」を設置しており、空き家を借りたい方とのマッチングを支援してもらえます。
不動産売却の詳細な流れとポイントは、こちらの記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
(1)不動産売却の事前相談・査定に際しての相談先は「不動産会社」「不動産鑑定士」
不動産売却の第一段階は、事前相談と物件を売却したときの相場観を確認する売却査定です。この段階での相談先には「不動産会社」と「不動産鑑定士」があります。それぞれ相談できる内容を詳しく見ていきましょう。
不動産売却全般や査定に関する相談は「不動産会社」へ
自宅などの売却を検討する際は、不動産会社と媒介契約を締結して仲介業務を依頼するのが一般的です。不動産売却時には、まず不動産会社へ事前相談や物件の査定依頼をしましょう。
売却することを固めたら、まず不動産会社に売却査定を依頼します。査定には、物件情報や取引に関するデータをもとに行う「簡易査定(机上査定)」と、実際に不動産会社の担当者が現地調査して査定する「訪問査定」があります。
不動産会社ごとに査定に用いるデータが異なるため、査定価格も当然異なります。売却を希望する物件の相場観をつかみ、適正な価格で売却するには査定を複数社に依頼するとよいでしょう。各社から提示された査定額を比較するとともに、その根拠も確認します。査定価格の高さだけで選ぶのではなく、適切な根拠があるかどうか、担当者の対応に問題がないかどうかといったことも含めた判断が必要です。
査定を依頼したなかから信頼できる不動産会社を選び、媒介契約を締結します。契約締結後は売却が成約するまで、基本的に無料で相談ができます。売却が成約したときは、不動産会社に成功報酬として売却価格に応じた仲介手数料を支払います。
なお、複数社に査定を依頼するとき連絡を直接取り合って調整するのは大変です。その場合は不動産一括査定サイトを活用すれば、複数の不動産会社へ一括で依頼ができます。
SUUMOでは、無料で複数社への査定依頼が可能です。自宅の売却を検討されている方は、まずSUUMO不動産売却【一括査定】で無料査定依頼をしましょう。
相続などの事情で公式な価値を知りたいなら「不動産鑑定士」へ
前述したように、通常の不動産売却であれば不動産会社への査定依頼で十分に事足ります。しかし、相続による財産分与や親族間での売買など、裁判所や税務署へ正式に評価された価格提示が求められる場合には、不動産会社による査定価格では対応できません。
裁判などでも使える公式な評価として、国家資格の不動産鑑定士が算出する「不動産鑑定額」があります。不動産鑑定額を証明する公式な書類である「不動産鑑定評価書」を作成してもらうことで、公的な手続きでも証拠として効果を発揮します。
不動産会社による査定よりも信頼性の高い不動産鑑定ですが、別途費用がかかる点に注意しましょう。不動産鑑定士への依頼は、戸建て(土地+建物)の場合、1戸あたり25万円〜30万円程度が相場です。
正式依頼するとまとまったコストがかかるため、まずは各都道府県の不動産鑑定士協会が定例で開催している、無料相談会で相談してみるのもよいでしょう。
(2)不動産媒介契約の締結・売却活動に際しての相談先は「不動産会社」
不動産売却の第二段階は、不動産会社との不動産媒介契約の締結および売却活動の実施です。前段階で査定を依頼した不動産会社のなかから、査定価格や査定依頼時の対応などを総合的に判断し、信頼できる不動産会社を選定しましょう。不動産会社と媒介契約を結ぶと、売却活動が正式に開始します。
不動産会社は売却時の広告活動・売却活動のほか、売買契約書の作成、引き渡しの段取り検討など、不動産売却のあらゆる手続きをサポートしてくれる存在です。不動産売却に関するプロのため、媒介契約締結後に何かあった場合には、不動産会社に相談するとよいでしょう。
不動産会社は売却におけるパートナーとなるため、売却を成功させるうえでは信頼できる不動産会社選びが何よりも重要です。
(3)不動産売買契約の締結に際しての相談先は「司法書士」「弁護士」
不動産売却の第三段階は不動産売買契約の締結です。問題発生時や疑問があった際には、まず不動産会社に相談するのが基本ですが、不動産売買契約の締結段階になると「司法書士」や「弁護士」に相談すべきシーンも出てきます。
不動産売買で発生する登記に関する相談は「司法書士」へ
不動産売却にあたっては、買主へ所有権を移す必要があるため「所有権移転登記」を行います。所有権移転登記は買主側で手配するのが一般的です。
また、住宅ローン残債がある場合、金融機関による抵当権が付いているため、売却時は住宅ローンを完済するとともに「抵当権抹消登記」を行わなければなりません。なお、抵当権抹消登記は売主側が実施します。
登記手続きは個人でも可能ですが、手続きが複雑なため、通常は司法書士へ依頼します。第三者の専門家である司法書士に手続きを進めてもらうことで、買主とのトラブル予防につながるでしょう。
登記手続き自体は代金決済および引き渡しの際に行いますが、司法書士へは事前に依頼しておく必要があります。売却にあたって媒介契約を締結しているケースでは、依頼している不動産会社側で手配してくれることがほとんどです。
司法書士に抵当権抹消登記の依頼をする場合には、1件あたり1万円〜2万円程度の費用がかかります。
不動産売買で生じたトラブルに関する相談は「弁護士」へ
不動産売買契約を締結するにあたっては、買主との間で契約内容などをめぐってトラブルに発展するケースもあります。この場合も事前に不動産会社へは相談しておきたいところですが、法律問題になるため弁護士へ相談するのがよいでしょう。
不動産売却で起こりやすいトラブルとしては、権利関係が複雑な物件の売却や遺産分割に関するトラブル、借地権所有者とのトラブルなどが挙げられます。ただし、弁護士は相談料の名目で、相談するだけでも費用が発生するケースが多い点に注意しましょう。
(4)決済・引き渡し時の境界確定等に関する相談先は「土地家屋調査士」
決済・引き渡し時には、売買する土地の正確な面積や隣地との境界線を確定している必要があります。
境界が未確定でも買主が同意すれば売買に支障はありませんが、将来のトラブル要因になることも多く、基本的に買主の同意は得られないものと考えたほうがよいでしょう。境界が確定していることを買主へ示すため、引き渡しまでに「確定測量図」や「境界確認書」を準備して渡します。
なかには確定測量図がなく、境界が未確定の土地もあるため、そういった土地を売却する場合は土地家屋調査士に相談しましょう。土地家屋調査士には、地積測量・境界線の確定・確定測量図の作成依頼が可能です。確定測量を行う場合の費用相場は、30万円〜60万円程度ですが、100万円を超えるケースもあるため、あらかじめ見積もりを取得しておくのがおすすめです。
確定測量図や境界確認書は引き渡しまでに準備しなければならないため、確定測量図の作成や測量が必要とわかった時点で、不動産会社へ早めに相談しましょう。媒介契約を締結していれば、通常は必要に応じて不動産会社側から案内があります。
(5)確定申告に際しての相談先は「国税庁確定申告電話相談センター」「税理士」
不動産売却によって利益が発生したときや、所得税控除などの優遇措置を受けたいときは、確定申告を行う必要があります。確定申告を行う期間は、不動産売却をした翌年2月16日~3月15日の間です。確定申告に関する相談は「国税庁確定申告電話相談センター」または「税理士」へと問い合わせましょう。
確定申告全般に関する相談は「国税庁確定申告電話相談センター」へ
不動産売却により利益が発生したときや、譲渡所得税に関する特例の適用を希望するときには、確定申告を行う必要があります。
しかし、自営業者や高所得者など確定申告の経験がある方であれば問題ありませんが、給与所得者にとっては確定申告になじみがなく、やり方がよくわからない方も多いでしょう。
確定申告のやり方や各種特例の要件、納税方法に関する疑問、税理士への相談の要否といった確定申告の基本に関しては、国税庁が設置する「確定申告電話相談センター」への相談がおすすめです。ただし、電話代の負担が必要なほか、確定申告の時期には電話が混み合うこともある点に注意しましょう。
国税庁では、チャットボットや確定申告特集ページも設けているため、電話相談センターと併せて活用してみてください。
税金や節税に関する相談は「税理士」へ
確定申告に際して、税率を用いて計算すれば自身でもざっくりとした税額は求められます。しかし、不動産売却時には適用できる特例が複数あり、特例ごとに異なる適用要件が設けられているため、専門知識がなければ自身が要件を満たすかどうかの判断ができないでしょう。
確定申告前に税務のプロである税理士へ相談すれば、正確な納税額を事前に把握することができます。税理士への相談の費用相場は、30分〜1時間程度で5,000円〜1万円程度です。税理士会や自治体が主催する無料相談を活用するのもよいでしょう。
不動産売却にかかる「譲渡所得税」の基本
確定申告にあたっては「譲渡所得税」の基本を理解しておく必要があります。譲渡所得税とは、不動産売却時に生じた譲渡所得に対して課せられる、所得税・住民税・復興特別所得税の総称です。
課税対象となる譲渡所得は単なる売却益ではなく、売却時にかかった仲介手数料などの諸費用を差し引いたもので、具体的には次の式で求められます。
譲渡所得 = 収入金額 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得は、所有期間によって以下のように「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられ、税率も異なります。なお、税率は所得税(復興特別所得税含む)・住民税の合計値です。
短期譲渡所得 | 売却年の1月1日時点で所有期間5年以下の場合 | 39.63% |
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長期譲渡所得 | 売却年の1月1日時点で所有期間5年超の場合 | 20.315% |
また、マイホームを売却する場合には、特例によって譲渡所得税の軽減を受けられます。自宅売却時にかかる税金や譲渡所得税に関する特例の詳細については、以下の記事をご覧ください。
空き家の売却はお住まいの区市町村役場へ相談
相続した実家など空き家の売却を検討している場合には、区市町村役所へ相談するのが基本です。昨今の空き家問題の深刻化を受けて「空き家バンク」を設ける自治体も増えています。一般市場では売却が難しいような築古物件でも登録できる場合があるため、不安な方は相談してみるとよいでしょう。
自治体によって空き家バンクの相談窓口である担当課は異なるので、調べたうえで問い合わせましょう。
どこに相談すべきかわからないなら「不動産無料相談サービス」を活用
不動産売却に関して悩みや疑問点はあるものの、ここまで紹介したどの相談先に問い合わせれば良いかわからない場合もあるでしょう。
その場合には、各地の宅建協会が提供する「不動産無料相談サービス」を活用するのもおすすめです。電話もしくは窓口への直接訪問により、専門相談員に不動産関連のあらゆる相談ができます。
「不動産税務に関する電話無料相談」も月1回開催しており、税金に関する相談もでるので、税理士事務所に行く前に電話無料相談を利用してみるとよいでしょう。
まとめ
- 不動産売却は段階ごとに相談先が異なるものの、媒介契約締結後はまず不動産会社に相談
- 売却で譲渡所得が発生した場合や税の特例を利用する場合、確定申告が必要
- トラブル発生時なども不動産会社が一次窓口となるため、一括査定などを利用して信頼できる不動産会社を選ぶことが重要
不動産・建設会社で土地有効活用のコンサルティング営業経験(6年)。賃貸住宅の建築提案営業を中心に従事。宅地建物取引士、FP技能士2級、日商簿記2級。不動産・金融系のライターとして不動産系メディアでの執筆実績多数。